悪魔の寵児

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金田一耕助 > 悪魔の寵児

悪魔の寵児』(あくまのちょうじ)は、横溝正史の長編推理小説。「金田一耕助シリーズ」の一つ。『面白倶楽部』1958年7月号 - 1959年7月号に掲載され、角川文庫『悪魔の寵児』 (ISBN 4-04-130412-1) に収録されている。また、女性漫画家JETによりコミカライズ(漫画化)された。

あらすじ[編集]

名探偵金田一耕助をして「これほどえげつない嗜好を持った犯人を他に知らない」と言わしめた殺人犯が出現する。防水レインコートとゴムの長靴フードをすっぽり頭から被り、黒革の手袋をはめ、大きな黒眼鏡と舌布(タング)で顔を隠した殺人鬼「雨男」が横行し、の降る夜に凶行を繰り広げられた事件は一枚の葉書から始まる。一組のカップル外遊に出る挨拶の文面には不思議は無かったが、禍々しい黒枠が墨で塗られており、夫婦かと思いきや2人の姓が異なっていた。

1958年(昭和33年)、東京。闇行為で巨万の富を得た元職業軍人で「戦後派の傑物」の1人である新興実業家・風間欣吾の妻・美樹子と彼女の肖像画を描いていた画家の青年・石川宏の心中事件が起きる。美樹子は発見時に既に息絶えており、宏は一命を取り留める。事件を嗅ぎつけて記事にしようとした記者・水上三太は行きつけのパブホステスに淡い想いを抱いていたため、彼女の兄を自殺幇助罪で投獄されるのを阻止するのと引き換えに期間限定で思いとどまることを余儀なくされる。ところが、欣吾が密かに自宅に運んだ美樹子の遺体が何者かに盗まれ、彼の愛人が次々に惨殺されるのだった。欣吾は異常なまでの悪意を感じ取り、同姓の土建屋・風間俊六を介して金田一耕助に調査を依頼した。

芝居見物に出かけるも心中に見せかけて殺害された美樹子の帯締めが見当たらなかったため、和装の女性が帯締めをしないまま外出するなどあり得なかったのだが、美樹子の死体が盗まれて以降、最初に殺されて蝋人形の欣吾の「栓」に貫かれたオブジェに仕立て上げられて「渋谷のマダム」保坂君代の遺体がブーケ・ダムール会館で晒されるが、彼女を絞殺した凶器は美樹子の帯締めだった。そこで美樹子が生死も定かではなく、行方不明であることを知った捜査陣は欣吾が犯人ではないかと疑いの目を向ける。しかし、3人のマダムと呼ばれるほどに表立って援助を受けて野心に燃える城ら3人とは異なり、秘密の存在にされている第4の愛人・湯浅朱実には奇妙な因縁があった。その因縁とは、彼女の別居中の夫が嘗て風間が人妻と知りながら美樹子を略奪した際、当時の彼女の夫だった有島忠弘だったのだ。風間の周囲の人物を殺してゆく殺人鬼「雨男」はその残虐性と容疑者の特定すら許さず警察に尻尾を掴ませない頭の回転の良さにより「悪魔の寵児」と称されるようになるが、犯人は欣吾の過去に深く関係していた。

ある日、水上に「及川澄子」という女性のことを尋ねられ、欣吾は首を傾げる。彼にとっては遠い昔に自身の人生をかすめた程度の認識しかなかったが、金田一は彼女こそが一連の事件の発端だと考えていた。それを裏付けるように調査中の金田一が文京区小石川小日向台町で狙撃されて左肩を負傷し、盗撮写真強請りのネタに交渉を持ちかけた有島がホテルで「銀座のマダム」城妙子と共に遺体で発見される。また、電話で告げられる「神託」で操られた種子も武蔵野にあるアトリエ跡の廃墟で「池袋のマダム」宮武益枝の死体を犯していて刺殺された猿丸に次いで青酸加里を盛られ毒殺される。間隙を突くように欣吾の最後の愛人・朱実が襲われるが、欣吾と水上が犯人を捕らえる。その素顔は水上の想い人であり、欣吾の愛人でもある早苗だった。本性を露わにした早苗は服毒自殺を遂げ、兄とされた彼女の情婦である従兄・宏もまた病人を装うために使用した薬物により廃人と化す。悪夢のような惨劇の嵐の夜は明け、金田一は事件の真相を語り始める。

嘗て、出世欲に駆られていた頃の欣吾に捨てられた下宿の下女・及川澄子は、欣吾と種子の結婚から半年も経ってから自殺し、姉夫婦の元には夫の種ではあり得ぬ男児が遺された。それが宏だった。伯母・房子を養母として育った宏だったが、2年後に生まれた義妹である従妹・早苗はやがて養母が死に際に実の父だと告げた欣吾の愛人となったこともあり、情婦である彼女を正妻の座に据えることで父親の財産を手に入れようと企む。当時の証人が死んでいて自身が欣吾の息子だと証明する手段がないがゆえの絶望的な状況が彼を凶行に走らせたのだった。

事件解決後、懐妊が明らかになった朱実を後添えに迎えた欣吾の晴れやかな笑顔があった。

登場人物[編集]

主要人物[編集]

金田一耕助(きんだいち こうすけ)
シリーズの主人公。1913年(大正2年)、同姓のアイヌ学者にして言語学者[1]と同じ東北地方の内陸部[2]、岩手県で生を受けた。血液型はO型[3]。言葉にひどい訛りがあり、興奮すると吃り始めて頭を掻きまわす癖がある。
同窓の友人・風間俊六が愛人の節子に女将をさせている大森山の手にある割烹旅館「松月」の四畳半離れに居候していたが、1957年(昭和32年)の1月中旬、「松月」の離れを出て世田谷区緑ヶ丘町の高級アパート「緑ヶ丘荘」の2階3号室で暮らしている。40代まで少々間がある30代だが、30代にも40代にも見えて年齢の見当がつかない。頭髪は雀の巣のようにモジャモジャで、中肉中背というより小柄で貧相な体格と評される。変装で洋装になることもあるが、ほとんどは和装である。形の崩れた帽子(主にお釜帽)を被り、くたびれた単衣の着物と、白や紺の足袋草履下駄書生スタイル。また、寒い時期には羽織や袴の上から防寒着として二重廻しを着用する。
19歳で旧制中学を卒業後、同窓の風間と共に上京して入学した私立大学を1年も立たずにつまらなく感じて渡米し、サンフランシスコの日本人間での殺人事件を解決し、在留日本人会の席上で出会った岡山県の果樹園主・久保銀造に学資を援助して貰ってカレッジに通う。夜間は病院に勤務して看護夫の見習いを務めて医学的経験を積み、戦地で戦友の爆死体や病死体を注意深く観察して死後硬直について生で学び、復員後の探偵業に生かしている。「獄門島」からの帰りに因縁をつけに来訪した岡山県の作家S・Yの家に3日逗留し、探偵小説談義に花を咲かせて以降は「僕の記録係」と呼んで事件の資料を送り作品化を助け、事件の関係者に小説のために手記をつけることを勧めるようになった。凄惨な事件を解決する卓越した推理力を駆使する名探偵ながら普段は猫のように無精で億劫がる性分であり、とりわけ金銭の勘定に至っては凄まじく杜撰である。3人のパトロン、一緒に渡米した亡き・林吉の忘れ形見である・克子を彼女の夫・一柳賢蔵に殺害された果樹園の経営者・久保銀造(『本陣殺人事件』)、夫殺しを起こした愛人の事件を解決して貰った同窓の友人・風間俊六(『黒猫亭事件』)、一族の1人を冤罪事件で救われて絶大な信頼を寄せる神門産業の総帥・神門貫太郎(『貸しボート十三号』)の援助で生活が成り立っている。特に俊六の旅館「松月」の離れが気に入ったのと年下なのに姉のように世話をしてくれる玄人上がりの女将・節子の心配りで根を生やしてしまい、「松月」を出て生活できるようになるまで時間が掛かってしまった。「三角ビル」→「松月(しょうげつ)」→銀座裏の名称不明のビル→「松月」→「緑ヶ丘荘」。
等々力大志(とどろき だいし)
東京警視庁捜査一課・第五調べ室所属の警部。綽名は「警視庁の古狸」。金田一とは公私共につき合いのある大親友。民間の私立探偵である金田一にとっては警察を協力を必要とする場面に遭遇することは明白であり、そんな彼の頼もしいパートナーとしての役割を果たす人物の1人。難解な事件の捜査で金田一の推理と洞察力を必要とし、協力し合って解決する関係にあった。1947年(昭和22年)に『暗闇の中の猫』(原題「暗闇の中にひそむ猫」)で金田一と知り合う。
正義感が強い人物だが、早とちりや目先のことに囚われやすく見当違いの推理を披露する。当時、総体的に警察が密告を奨励しているような体質で、『悪魔が来りて笛を吹く』での数え切れない「天銀堂事件」の犯人だという密告状の送り主の意図は問題ではないと確認せずに容疑者を拘束するも逮捕送検に至らず、椿英輔子爵に酷似した宝石店「天銀堂」の店員毒殺・宝石強奪の凶悪犯が飯尾豊三郎(いいお とよさぶろう)だと金田一の指摘で判明するも復讐のために利用した「呪われた血の悪魔」河村治雄に用済みで殺害され、逮捕できなかった。
風間俊六(かざま しゅんろく)
土木建築業を営む「風間組」の社長。金田一とは地元・東北の中学の同窓友人。金田一の生活を支える3人のパトロンの1人。頭を丸刈りにし、まだ書生っぽさが残っている。老成した口調には一種の重みがあり、鋭さを秘める一方でそれを露骨に見せない。お飾りでも妻・美樹子を娶った風間欣吾とは異なり、正妻はいないのに接待のために建てた割烹旅館「松月」の女将・節子を含めて複数の愛人を抱えており、『黒猫亭事件』の犯人・お繁も糸島が現れるまで横浜で囲っていた。女性は自身の持つ新円(新紙幣)が目当てだと半ば本気で金田一に語る。
金田一がふらりと渡米した頃は硬派で鳴らしており、帰国して再会した際にはヤクザ顔役になっていた。しかし、2人の交流は今度は戦争で引き裂かれてしまい、金田一が復員して1946年(昭和21年)の秋の終わりの10月上旬に「僕の記録係」と呼ぶ岡山県の作家と親交を結んだ帰り、横暴で怖いもの知らずのヤミ屋の一団が金田一が乗車する汽車で騒ぎを起こして戦々恐々の有様となるが、決然として立ち上がりヤミ屋の親分に何やら一言二言告げると一気に沈静化して平身低頭、金田一曰く「鞠躬如として礼譲を極めた[4]」と豹変させ、警察ですら手を焼くヤミ屋の一団を「水戸黄門」の如くたった一言で横暴をやめさせた。
風間欣吾(かざま きんご)
風間産業の社長。元職業軍人。単なる成金ではあり得ぬ「戦後派のモンスター」と評される傑物。浅黒い肌もあってスペイン人を思わせる。背丈は五尺七寸。五十路とは思えぬ程に髪は黒々としており、艶やかな「烏の濡れ羽色」という古風な表現が似合う。会社は既に個人的なスキャンダルで揺らぐことなどないため、犯人の狙いは自身を標的とした個人的な怨恨・復讐だと察し、同姓の風間俊六を介して金田一に調査を依頼する。10年前、既に他の人物に嫁して人妻だった美樹子を略奪して結婚したことは大騒ぎになり、未だに記憶に新しい事件である。種子と夫婦だった頃に彼女の異常な言動に早々に愛想が尽きて夫婦生活は数えるほどしか無かったため、空閨を守れぬ種子が梅毒に犯されてしまったことを薄々は察しており、彼女の検査をして欲しいと種子の担当看護婦に依頼した。
湯浅朱実(ゆあさ あけみ)
本名は「山本ウメ子」。風間欣吾の4人目の愛人だが、その存在は秘密にされている。コケティッシュエロティークを売りにした「ミュージカルの女王」として有名であり、記者の水上三太もファンの1人である。有島の妻を略奪した過去のある欣吾が再び、お互いに知らずして現在の有島の妻を愛人にしたという奇縁がある。欣吾と知り合った当初、人気商売ゆえに既婚者であることを隠していた。更には、事件が起きるまでは10年前の欣吾のスキャンダルは特定の人物の記憶にはまだまだ新しい出来事だが、10代の少女だったので知らなかった。別居中の夫・有島を「ガラガラ蛇」と呼んで嫌悪している。有島が「雨男」により城妙子と共に殺されたため、金銭や裁判で揉めることなく独身となり、欣吾と正式に結婚して風間夫人となり愛人生活に終止符を打った。胎内には欣吾の種の子供が育っている。
水上三太(みずかみ さんた)
東都日報文化部の記者。九州男児。そのため、色黒。背丈は欣吾と同じくらい。私立大学に在学中、郷里の父親が亡くなって三男ながら新憲法のお陰で遺産を受け取ることができたため、北九州でも有名な炭鉱王の息子ゆえに分け前も断じて少なくはなく、贅沢をしなければ一生遊んで暮らせると「カステロ」の馴染みのホステスも羨んでいる。しかし、大学在学中よりジャーナリストを希望しており、1953年(昭和28年)の秋、東都日報の入社試験に合格して5年目になる。人妻と画家の心中偽装事件を発端とする「悪魔の寵児」と恐れられる犯人による連続殺人事件に遭遇するが、望月種子の経営する「望月蠟人形館」で金田一に助けられるも屈辱と感じて敵愾心を抱き、彼を出し抜いて留飲を下げた。当初は欣吾との協定を半ば後悔することもあったが、ブーケ・ダムール会館での君代の事件に加え、欣吾の妻・美樹子と画家の偽装心中事件からの記事を掲載して一大センセーションを巻き起こして最高レコードを叩き出す功績を立てて得意の絶頂となる。しかし、功名心と金田一に対する一方的な競争心に暴走し、時には情報をもみ消して捜査妨害を行うこともあり、警察には疎まれていた。30歳まで独身と決めており、また、早苗の人柄に問題は無くてもホステスという職業は結婚するには母親の反対が確実に予想されるため、口づけを交わしても結婚する意思は無かった。しかし、彼女の本性とその正体を知った時、激しいショックを受けた。
氏名・年齢・職業・家族・住所を暴露し、人命に関わる事件も捜査状況から人質の危険が増える事態の悪化を招く報道を正義だと勘違いしていた時代ゆえに、誘拐事件で新聞記事で追いつめられた誘拐犯が人質の小学生男児を殺害した事件を機に人命最優先で報道を慎むようになるまで当人の迷惑を顧みない報道を行った1人だった。

警察・病院[編集]

坂崎(さかざき)
所轄・成城警察署捜査主任警部補。等々力らと協力して「雨男」を追う。
新井(あらい)
警視庁捜査一課・第五調べ室所属の警察官。等々力警部の腹心。老練の刑事と記される叩き上げの年配刑事で、喫煙者。
上村(うえむら)
上野署の老刑事。蠟人形館のことを三太に話す。
五島(ごとう)
警察医
緒方(おがた)
経堂にある緒方病院の院長。博士。
前田(まえだ)
法医学の博士。金田一とは熟知の中。

犯人[編集]

石川早苗(いしかわ さなえ)
パブ「カステロ」のホステス。1934年(昭和9年)生まれ。小田急線沿線の経堂赤堤脳溢血で倒れて病床にある大会社重役・加藤重吉の自宅とは別棟の、武蔵野原始林を思わせるような木立の中にある離れを借りて住んでいる。欣吾の愛人の1人。1度として声を荒らげたことのない古風で品行方正で清楚可憐な女性だと三太や周囲は思っていたが、それは世を忍び陰謀を成就させるための演技だった。正妻の座にあった美樹子と表だって援助を受けている3人のマダムという他の正妻候補を排除して欣吾の正妻の座を手に入れようと企み、情夫・宏と組んで殺人鬼「雨男」として殺戮を繰り広げた。金田一を狙撃するも彼に正体を看破されて罠に嵌められ、青酸カリによる服毒自殺、女性漫画家JETによる漫画では舌を噛んで自殺した。
石川宏(いしかわ ひろし)
早苗の兄。画家。実は兄妹というのは戸籍上の話であり、欣吾と彼が捨てた及川澄子の間に生を受けた子供。自殺した澄子の姉・房子に引き取られて実子ということにされたが、2人で「雨男」として犯罪に手を染めた表向きの妹・早苗とは従兄妹医師を欺くために使用した強力な麻薬が仇となり、最終的に芝居ではなく真の精神異常者と化して精神病院に収容された。紛れもなく欣吾の財産を受け継ぐ権利を与えられる筈の唯一の息子ではあったが、当時の証人がことごとく死去していて欣吾との親子関係を証明する手段が皆無であるため、悪辣で残忍な犯行に走ってしまった。

犠牲者[編集]

風間美樹子(かざま みきこ)
欣吾の妻。欣吾が中学時代、書生をしていた五藤伯爵家の令嬢であり、有島子爵家の令息・忠弘と結婚したが、五藤家と有島家の双方に手を回した欣吾と再婚した。睡眠薬を盛られて犯された、有島により屋敷を譲るついでに付録にされた、夫を見限って自ら風間に嫁したetcの諸説がある。最初に「雨男」の犠牲になり、風間邸より遺体を盗み出され、蠟人形の中に隠された。歌舞伎座に芝居見物に出かけたが、欣吾の使いを装った犯人に拉致されて殺害された。
城妙子(じょう たえこ)
西銀座の高級酒場(パブ)「カステロ」[5]のマダム。欣吾の愛人の1人。欣吾の正妻・美樹子を含めれば第4、彼女を除いて第3の最後の犠牲者。しかし、妻を奪われた有島が再び妻を寝取られたことで口説いており、有島の秘密の愛人でもあった。死因は、扼殺。
宮武益枝(みやたけ ますえ)
池袋洋裁店「からたち」のマダム。欣吾の愛人の1人。美樹子から数えて第3、彼女を除けば第2の犠牲者。死因は扼殺だが、死後、猿丸に犯された。
保坂君代(ほさか きみよ)
渋谷美容院「ブーケ・ダムール[6]」のマダム。欣吾の愛人の1人。美樹子から数えて第2、彼女を別にすると最初の犠牲者。死因は、美樹子の帯締めによる絞殺。
有島忠弘(ありしま ただひろ)
有島子爵家の当主。斜陽族の1人であり、戦後の苛烈な世の中を渡るだけの力は皆無だった。10年前のスキャンダルでは、妻と当時の自宅を譲った代金を欣吾より受け取ったが、全額使い果たして朱実の稼ぎを食い潰していた。2度も妻を奪われた屈辱から風間の愛人の1人である城妙子を口説き、密かに愛人関係にあった。風間と交渉を持とうと赤坂のQホテルに彼を呼び出すが、後ろに撫でつけた長い白髪・アザラシのような白い口髭・遠視用のレンズが付いて二重になった大きな鼈甲縁の眼鏡で目つきを誤魔化した「白崎信吾(しらさき しんご)」と名乗る殺人鬼「雨男」により青酸加里で毒殺され、妙子と共に全裸オブジェと化した。身につけているものは、鼻眼鏡カメラだけだった。
望月種子(もちづき たねこ)
欣吾の元妻。巣鴨A級戦犯ゆえに処刑された元大将・望月厳太郎(もちづき がんたろう)と女中との間に生を受けた娘で、醜男で有名だった父親に似すぎる醜女。上野鶯谷にある「望月蠟人形館」を経営していた。梅毒を患っていた。異常性愛と復讐により精神のバランスを失って廃人寸前だったため、猿丸(黒亀)を殺されたショックで一気に精神が崩壊して入院するが、青酸加里を混入したオートミールを食べさせられて毒殺された。
猿丸猿太夫(さるまる さるだゆう)
本名は「黒田亀吉」。人形師。サドの種子とマゾの自身とで彼女を「ばあさん」と呼びつつ至福の日々である。夜毎鞭打たれて快楽の叫びを上げていただけでなく、扼殺された益枝の遺体を犯している最中に刺殺された。盗んだ美樹子の遺体も犯しており、種子に仕込まれて死姦の虜となっていた。

犯人の親族[編集]

及川澄子(おいかわ すみこ)
石川宏の実母。欣吾が少尉時代、下宿の下女をしていた女性。種子と結婚するために風間が捨てたが、4月下旬に欣吾と種子が結婚した時、すぐには自殺はせずに半年以上経った1932年(昭和7年)12月7日に自殺した。自殺するのが遅すぎることに金田一は疑念を抱く。何故、風間の結婚直後ではなかったのか? 宏を胎内に宿しており、息子を道連れには出来なかった。我が子が姉夫婦の実子として入籍されるのを待って自殺したのだった。
石川房子(いしかわ ふさこ)
澄子の姉。旧姓は「及川」。宏の養母となった伯母で、早苗の実母。夫・亘の死後、横浜港水先案内をしていた妻子ある男性のになり、彼の麻薬密輸の手伝いをさせられた。1948年(昭和23年)に亡くなるが、死にぎわに宏に彼の出自を打ち明けた。
石川亘(いしかわ わたる)
房子の夫。悪質な詐欺横領の罪で1931年(昭和6年)12月から翌年の1932年(昭和7年)11月まで投獄されていたため、宏の実父ではなかった。犯罪に手を染めて投獄されたりしたが、夫婦仲は良好だった。1942年(昭和17年)に戦死。

犠牲者の親族・関係者[編集]

南貞子(みなみ さだこ)
保坂君代の伯母であり、彼女の後見人みたいな立場にある女性。カクテル・パーティーの筈が、姪のあられもない姿での遺体を目の当たりにして半狂乱に陥る。
上田敏子(うえだ としこ)
君代の助手。

漫画[編集]

JETによりコミカライズされて『名探偵・金田一耕助シリーズ 悪魔の寵児』として「ミステリーDX」(角川書店)に掲載された。あすかコミックスDXより刊行されたコミックスには、同じくJETが漫画化した短編『花園の悪魔』も一緒に収録されている。

脚注[編集]

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  1. ^ 本陣殺人事件』で「同姓の有名なアイヌ学者と同じ地方の出らしい。」とあり、『悪魔が来りて笛を吹く』の第25章「アクセントの問題」で言及されている「僕と同姓の言語学者」のモデルで「金田一」という苗字を著者が借用した人物でもあるが、その日本のアイヌ語研究の本格的創始者である言語学者にして民俗学者金田一京助岩手県盛岡市四ツ家町で生まれた。
  2. ^ 『悪霊島 上』より。
  3. ^ 『黒猫亭事件』と同様に犯人より銃撃を受けた本作で、著者・横溝正史と同じ血液型のO型である。
  4. ^ 「身を屈めて慎み畏まり、礼儀正しく遜った態度を取る」の意。
  5. ^ イタリア語で「城」の意。
  6. ^ フランス語で「愛の花束」の意。