天下り

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天下り(あまくだり)とは、元々神道の用語で、が天界から地上に下ることをいい(天孫降臨など)、「天降る」といった。

現在では退職した高級官僚が、出身官庁が所管する外郭団体、関連する民間企業独立行政法人国立大学法人特殊法人公社公団・団体などに就職斡旋する事を指して批判的に用いられる。民間企業の上位幹部が子会社の要職に就く際にも使われる場合がある。

概要[編集]

官僚の天下りの範囲については、中央省庁の斡旋・仲介がある場合のみを含めるとする意見と、斡旋・仲介などの手法に関係なく、特定企業・団体に一定の地位で迎えられる場合全てを含むとする意見がある。また官民問わず斡旋による再就職を「天下り」と揶揄することもある。

主に原因の一つとして指摘されているのがキャリア官僚を中心に行われている早期勧奨退職慣行である。これは官僚制の歴史の中で形成された慣習で平安時代摂関政治が起源とされ、事実上、法定の制度に組み入れられている。

国家I種試験を経て幹部候補生として採用されたキャリア官僚は、程度の差こそあれ、同期入省者はほぼ横並びに昇進していく。その過程で上位ポストに就くことができなかった者は職が与えられず、退職する以外に選択肢は無くなってしまう。事務方のトップである事務次官は1名であるから、同期入省者か後年入省者から事務次官(または次官級ポスト)が出るまでに、その他の同期キャリア官僚は総て退職することになる。1985年の60歳定年制の導入前後でこの実態に変化はない。この退職者たちは、省庁による斡旋を受け、それぞれ退職時の地位に応じた地位・待遇のポストに再就職する。一般にこの早期勧奨退職慣行が「天下り」と呼ばれている。

天下り先は大臣官房が原則として決定することからわかるように、天下り先のポストは省庁の人事システムに完全に組み込まれており、関連法人の一定のポストは事実上主管省庁の縄張りとみなされている[1]。天下りには後述するように様々な問題が指摘され、国民からの反発も非常に強いものがあるが、天下りの規制は、以前からの官僚のインセンティブを失わせており、今後の中央官庁に優秀な人材を確保する必要があるならば、別のキャリア・パスの用意が必要であり、天下りを批判するだけで終わる問題ではないという意見もある[1]

自衛隊制服組においても幹部自衛官が昇進できるポストには限りがあるため、上級・同列相当ポストの椅子に座れなかった者は定年前に退官するしかない。そのため、個人都合でなく部隊側の都合として退官して貰い、その代わり退職金に勧奨退職手当が加算支給され、さらに再就職先として防衛産業に関係する企業を紹介する慣行が「天下り」と呼ばれている。

地方公共団体においても、幹部職員が退職後に関連団体や出資法人における高位の職に就くことがあり、これも「天下り」と言われる。また、日本の民間企業でも、人事異動や企業買収にともなって似たような人事斡旋が行われることがある。その為、日本企業には必要以上に役職が多く、これが日本企業の生産性を下げていると終身雇用制度と共に批判されることもある。リストラの項も参照。

天下りの問題[編集]

単に退職者が所管団体や関連企業等に再就職する点に問題はないが、以下のようなことが問題として指摘されている。

  • 官民の癒着、利権の温床化
  • 人材の仲介・斡旋について、中央省庁の権限の恣意的な使用
  • 公社・公団の退職・再就職者に対する退職金の重複支払い
  • 幹部になりづらくなることによる生抜き職員のモチベーションの低下
  • 天下りポストを確保することが目的になり、そのことによる税金の無駄遣いの拡大
  • 公益法人の場合、認可の見返りの天下りによって、公益性を損なう[2]

経済学者野口旭田中秀臣は「『天下り』の経済学的本質は、『賄賂』と同じである」と指摘している[3]。一方で民間企業の側からも、官庁の人脈作りや情報収集、退職した官僚の持つ技術や見識など、人材を迎え入れるニーズがあることも指摘されている[4]

隠れ天下り[編集]

2009年11月17日、厚生労働省所管などの独立行政法人が中央官庁の天下りOBを嘱託職員として高給で雇用していた事実が発覚。マスコミはこれを「隠れ天下り」と表現した。役員雇用でないので、情報公開義務などの天下り規制には引っかからないとしていたが、「天下り隠し」との批判が相次いだ。総務省が公表した、年収1000万円以上の嘱託職員の調査結果によると、厚生労働省関連4独法で計8人と最も多かった。肩書きは「参事」や「参与」などがついていた。

嘱託以外にも天下りの抜け道は様々あると指摘されており、将来の天下りが確定している「出向」や、「非常勤」と言う名の雇用があるとし、今回の隠れに対して規制を掛けても後からまた違う手口が出てくることは必至とされた[5][6]

総務省が同年12月25日に公表したデータに、全独立行政法人98中、5省所管の12法人で、年収1000万円以上の嘱託採用OBが24人存在することが同年12月26日日刊ゲンダイ報道され、さらに「対象者のプライバシー」を理由に伏せられていた氏名も日刊ゲンダイの取材・調査により判明した。肩書きは「有期技術員」や「審議役」、「特別顧問」などがあった[7]

渡り[編集]

天下りの一種であるが、一旦天下った官僚OBが助成金や業務委託などで深いつながりのある民間会社や公益法人各社各団体を渡り歩くこと。再就職と退職の度に退職金が発生する。例として産経新聞2009年2月4日付け記事で報じられた農水省OBは、6団体を渡り、3億2000万円を手に入れたという[8]

天下りの実態と対応[編集]

2004年8月31日の閣議決定によれば、中央省庁の斡旋や仲介で民間企業に再就職した国家公務員は2003年までの5年間で3,027人にのぼっている。省庁別では、国土交通省の911人をトップに法務省629人、総務省313人、文部科学省261人、財務省251人、農林水産省245人、警察庁127人、防衛庁85人、会計検査院64人、経済産業省46人、人事院29人、公正取引委員会23人、厚生労働省19人、宮内庁17人、内閣府3人、外務省2人、内閣官房金融庁0人であった。

2004年12月27日政府は、2003年8月から一年間に退職した中央省庁の課長・企画官以上の国家公務員1268人のうち552人が独立法人・特殊法人・認可法人・公益法人に再就職したと発表した。天下りの温床と批判されることの多いこれらの団体に再就職した比率は43.5%にのぼっていることになる。

天下り構造の解消は国家財政の再建と公正な行政の実現の要になると、国民の関心も高い。天下りを根絶するのに最も単純な方法の一つは、公務員の再就職を一律に禁止することであるが、単純に再就職を禁止することは個人の就業の自由および職業選択の自由を不当に制限し、憲法に違反するもので問題があるという点と、民間企業・特殊法人等からも「官庁を退職した優秀な人材を雇用したい」「官庁に対する必要な情報を得たり、人脈を作りたい」などのニーズがあるので実施は難しい。そのため、特殊法人改革や再就職禁止規定の厳格化、ひいては公務員制度全般の改革など各種政策が検討・実施しているが、名目を変えながら実質的に天下りは存続しているとも指摘されており、また独立行政法人から民間企業へ役員ポストを渡した上で、民間企業へ省庁退職者を受け入れさせるという「天下り隠し」も指摘されている[9]

また、2009年8月衆議院議員選挙で、天下りの廃止を唱える民主党が過半数を取り、民主党が政権交代を勝ち取ったが、これを前にして各省庁で駆け込み的に多数の天下りが行われている。9月には、厚労省所管の独立行政法人が天下り先に対して、同省OBの年収額や、その報酬を事業委託費から支払うよう指示していたことが明らかとなった[10]

2009年に民主党政権は官僚OBの独立行政法人への再就職について9月末に原則禁止を決定した。その一方で、2009年10月に民主党政権は元大蔵次官斎藤次郎を日本郵政社長にする内定人事や2009年11月に人事官に元厚生労働次官の江利川毅を起用したことなどが、「天下り原則禁止に反する」と批判された。民主党政権は「府省庁が退職後の職員を企業、団体などに再就職させること」が天下りであると定義をし、「我々の場合は政治家である大臣による選任であり、天下りに該当しない」と述べ、「元次官の起用が天下りではない」と主張した。しかし、大臣の斡旋は府省庁の斡旋になるので政府見解では法律論は成り立たないという批判や、天下った官僚OBが他の官僚OBを呼び寄せた場合は天下りに該当しないことになるのかという疑問、そして福田康夫首相が元官僚3人を労働保険審査会や運輸審議会と公害健康被害補償不服審査会の各委員3人に選任した際、2007年11月14日に国会同意人事で天下りを理由に民主党など当時の野党が反対して不同意としたことについて「整合性がない」と指摘された[11][12]

2011年7月22日総務省国家公務員の天下りとして同一の中央省庁出身の元幹部独立行政法人特殊法人認可法人特別民間法人および国所管の公益法人が3代連続した役員として受け入れているのは2010年4月1日時点で1285法人、受け入れ人数は1594人と発表した[13][14]。2009年の公益法人などの5代連続した受け入れは338法人であった[14]

2012年7月31日の総務省の発表によれば、国家公務員出身の常勤理事がいる504の公益法人に国は2010年度計3347億円支出したが、これら法人の事業の契約の約6割は一者応札・一者応募となっている[15][16]

再就職の制限

国家公務員法では、退職者が、退職以前5年間の地位に関係する民間会社へ再就職することを退職後2年間禁止している。この再就職制限は公務員として知りえた機密情報漏洩を防止するための規定である。そのため、人事院により退職者の再就職が機密漏洩につながらないと判断された場合は、退職後2年経過していなくても、再就職をすることができる。また承認が得られなくても、退職後2年経過したら当時知りえた情報に価値がなくなるとみなされるため、民間企業に再就職できる。

この国家公務員法は2007年6月に成立した改正国家公務員法で、退職後2年間は原則として職務に関わる営利企業に再就職することを禁じた現行の規制を廃止する代わりに、再就職後に出身省庁に対して口利きをすることに対し刑事罰を設けた。

日本たばこ産業関係[編集]

財務省認可の社団法人・日本たばこ協会。「未成年の喫煙を防ぐ」目的で作られた成人識別ICカードtaspoにより話題になった。カードの機能を持つタスポを、全国2600万人の喫煙者に普及させ、財務省直轄のタスポ運営会社を作りそこに天下りを送り込んでいることから、週刊ポストなどでは「タスポ導入で財務官僚が天下り1000億円利権の皮算用」との記事も掲載された。

日本たばこ産業。旧・日本専売公社から1985年に民営化され、日本たばこ産業株式会社として設立された。日本たばこ産業株式会社法の下、業務を継承し、国産葉タバコの全量買取契約が義務づけられ、タバコ製造の独占を認められ国内で唯一タバコの製造独占企業として、販売シェアは約60%となっている。株式の50%を国が所有している特殊会社となっていることから準国営企業であるとの批判報道がしんぶん赤旗によって報じられた[17]。前会長の涌井洋治は元大蔵省主計局長であった。

道路公団関係[編集]

高速道路整備計画で、1998~2002年度の5年間に契約された10億円以上の工事361件のうち、予定価格に対する実際の契約金額の割合を落札率とすると、落札率99%は25件、98%は227件、97%は75件、94%以下は4件で、ほとんど95%以上である。この異常に高率な落札率の背景には、落札企業に公団幹部の天下りがあると言われている。工事を受注する企業には、発注する側の公団から天下りした者が多い。受注企業のおよそ200社に約300人が天下りしていると推定されている。

建設企業が国土交通省や道路公団のOPを受け入れて工事を受注し利益を上げる、工事の予定や予算を知るために政治献金をする、献金を受け取った政治家が国交省や道路公団に圧力をかける。このような役所・公団から企業へ、企業から政治家へ、政治家から役所・公団へという関係は「政」「官」「財」の「鉄のトライアングル」と呼ばれ、汚職・談合・贈収賄の温床となりやすい。

2005年には、日本道路公団と天下りOBによる官製談合事件が発覚。談合組織「かずら会」が明るみになり現役の公団副総裁が逮捕され、計12人・26社が起訴された。

道路関係四公団を民営化するための「高速道路株式会社法案」などの概要が決まり、旧公団は六つの新会社に分割され、国の出資率が三分の一以上となるが、一部には天下り先が増えるだけという批判もある[要出典]

高速道路料金上限1000円制度ETC使用の乗用車のみで二年間限定であり、 これを機にETCを国民に購入させ二年間が終わるとETCの料金的メリットはなくなる予定。[要出典] 幹部には元道路交通局天下り職人、カード会社の幹部が名を連ねている。

郵政関係[編集]

郵政関係の天下りは調達関係を通じて行われる場合などが多かった。しかしながら、郵政事業庁の廃止に伴い、日本郵政公社となり、企業会計および連結会計の導入が行われたことから、調達コストの削減、連結対象会社の効率化、職員福祉団体の統合(郵政弘済会、郵政互助会が合併し郵政福祉を設立)などが進み、現在では天下り先は急激に減少しているとされる。また、郵政民営化により、民営化によって発足する日本郵政グループの子会社になる企業が選別され、郵政事業全体の合理化が進んでいる[18]

文部科学省関係[編集]

  • 学校法人への天下り
産経新聞の調査結果によると、2003年平成15年)9月 - 2008年(平成20年)12月に文部科学省から天下った本省課長・企画官級以上の幹部職員計162人のうち、3分の1を超える57人が51の学校法人に天下り、東京聖徳学園佐藤栄学園藍野学院玉川学園聖心女子学院日本体育会の6法人では、各2人を受け入れていた[19]
  • 文教施設関係
文部科学省文教施設企画部のナンバー2である技術参事官は、庁舎内の参事官室で業者と文部科学省OBの双方から希望を聞き、天下り先を調整する慣習があったという[20]

障害者関係[編集]

  • 障害者関連団体への天下り
1994年12月、精神障害者のうち、統合失調症気分障害などの者の家族らでつくる精神障害者家族会のかつてあった全国連合組織、財団法人全国精神障害者家族会連合会(全家連)理事長が厚生省(今の厚生労働省)に呼び出され、天下りの受け入れを強要された。最終的にハートピアきつれ川栃木県さくら市)の所長へ天下った[21]

資源・エネルギー関係[編集]

東京電力副社長の座は経済産業省高官(事務次官や資源エネルギー庁長官・次長)の退官後の指定席(1962年に石原武夫・元通商産業事務次官が就いて以来。石田徹・資源エネルギー庁長官も2011年1月に顧問として移った。3月の福島第一原子力発電所事故に際して問題となり退任)[22]

警察・保安関係[編集]

警備会社警察庁の局長・警察本部の本部長経験者が会長・顧問として移っている。日本道路交通情報センターには警視総監経験者が理事長として代々就任。日本自動車連盟の会長などにも就任している。

このほかパチンコ業界への天下りも慣例化している。

防衛関係[編集]

防衛省納入業者の多くに防衛省事務官など『背広組』だけでなく、幹部や補給関係に従事していた曹クラスの『制服組』が退職後再就職している。

三菱重工や川崎重工など装備品を開発する会社や海外製装備品を仲介する商社が中心であるが、オフィス家具メーカー仲介商社における航空自衛隊の天下りは、天下り貢献度(人数など)に応じて発注配分を決める悪質なもので、航空自衛隊事務用品発注官製談合事件として関係者(航空幕僚長も含む)が処罰された[23]

防衛省では幹部クラスの再就職に関し、離職者就職審査分科会により再就職先のチェックと議事録の公開を実施しているが、豊和工業89式5.56mm小銃を製造)や日油99式自走155mmりゅう弾砲の発射装薬を製造)に1等陸佐が、護衛艦に使われる弁の製造会社に1等海佐の再就職が異論無く承認されている[24]

国内企業だけでなく、タレス・グループの日本法人(航法装置電波高度計を納入)など外資系の日本法人も幹部クラスの退職者を受け入れている[25]

地方公共団体における「天下り」[編集]

中央省庁と同様に、地方公務員にも天下りがある。主に幹部クラスの職員の一部が、関連団体や出資法人等をあっせんされ、「理事」や「取締役」等の役員として再就職する。退職勧奨によって早期退職してから再就職するケースと、定年退職後に再就職するケースがある。

関連団体側にとっては「幹部経験者のノウハウの再利用」や「役所との太いパイプ作り」などのメリットが認められるが、やはり「利権化」や「退職金の重複払い」「生え抜き職員との格差」など、中央省庁と同じ問題点を抱えている。

2014年9月15日朝日新聞報道によると、都府県や政令指定都市から社会福祉法人に対し、239人に及ぶ幹部職員の天下りがあったことが判明している。社会福祉法人が自治体からの補助金の支給対象であることや、福祉事業の委託との絡みが背景にあるとされている[26]

民間企業における「天下り」[編集]

民間企業に対しては普通、天下りという言葉を使用しないが、次のような雇用調整を揶揄して「天下り」と呼ぶ場合がある。

親子関係にあるグループ企業や、元請会社と下請会社の関係にある企業間において、親会社や元請会社の従業員が子会社や下請会社に出向し、子会社や下請が管理職として迎えることがある。このこと自体は以前から行われていることであり、かつては、対象者に子会社・下請で管理職の経験を積ませて、将来親会社に呼び戻すことが行われてきたが、最近ではリストラの一環として行われる場合が多くなっている。この場合、管理職としての資質を持たない人が子会社・下請の要職に配置されることが多くなる。受け入れる子会社にとっては迷惑極まりない事であるが、会社の資本関係や上下関係から親会社の意向に従わざるを得ず、事業への悪影響を避けるため、「部下を持たない管理職」として受け入れざるを得ないなど、業務効率の悪化や無駄な人件費の増大など経営への影響が懸念されている[要出典]

また、場合によっては親会社の意向で「部下を持つ管理職」に就いてしまう場合もある。部下の適切な管理や人心掌握といった管理職にある者として基本的なスキルすら持たぬ者がそのような管理職に就いた場合、パワーハラスメント等の問題を起こしやすく、職場の士気を下げたり、長年勤続した生え抜きの社員との確執から業務の妨げになる等の問題が出る恐れがある。部下の手柄を横取りしたり、不祥事に対して「私はこの会社のことは全く知らない」などと言って、自分だけは責任を逃れたりするケースも多々ある。

新聞社が株主であることを理由だけで、新聞社の社員が放送局の社長や役員に天下るケースもある。 RKB毎日放送の役員等は毎日新聞社からの出向であることがその例である。同局の生え抜き社員が役員になるのはほぼ不可能である。 この他にも民放テレビネットワークのキー局幹部社員が系列局の社長や役員に就任する事例もある。 2016年現在FNS系列仙台放送テレビ静岡テレビ新広島社長はいずれもフジテレビ出身者である。

自民党政権下における天下りの役割[編集]

日本の政官関係の研究においてJ・マーク・ラムザイヤーフランシス・ローゼンブルース政党優位論の代表的な著作である『日本政治の経済学-政権政党の合理的選択-』という本では、日本では天下りが官僚統制手段として極めて有効であったという評価もあり、以下、この本による見解[27]である。なお、この本は、利益誘導型の政治が行われていた1955年から2009年までの自民党政権と官僚の関係における、政党の官僚に対する優位性を分析したものであることに注意を要する[28]

前提として、日本では官僚が独自性を持ち強大な権力を保持して、行政府が立法府の支配から自由であるという問題が発生していると考えられているが、これは間違いであり、実際にはプリンシパル=エージェント問題[29]en:Principal-agent_problem)の観点において、行政府は主導権や裁量権を行使しても、立法府の下位にあるという力関係は変わらないとする。なぜならば、行政府が自立的に法案を作成しているように外見上見えるのは、結局のところ行政府が立法府の暗黙の要求にしたがって立法府の望む法律を立案するので、立法府の横やりが入らないだけだからである。
立法府が行政府を監視する方法として、与党自民党はその一党支配の前提から4つの方法が効率的として採用してきた
  1. 立法府の権能としての行政府の立案した法案の否決と行政府の行政指導などを覆す立法能力。
  2. 大臣職を立法府が占有することによる、官僚の昇進のコントロール。
  3. 選挙民からの陳情・官僚内部の政治家へ転身したい者への支援・省庁間の対立という3種類のルートからの官僚を監視するための情報入手。
  4. 天下りというシステムによる官僚の生涯賃金のコントロール。
その4つ目のシステムである天下りは、官僚に対する退官後の収入を担保にした行動制約である。与党の考えと一致しない人間が自分を偽って官僚となり、その上で与党の考えに反した行政運営を行いつつ、一般企業と同様の賃金を得られるとすれば、多くの人にとって官僚は魅力的な職業となる。このような「汚職」を避けるため、天下りが効力を発揮する。日本の官僚が在職期間中に得る賃金は他の職業のそれと比べて低い。エリート官僚には最も高学歴な人々がなるため、それを加味すれば他の職業の賃金よりも高くなるはずにも関わらずである。基本的に彼らは、全経歴の半分から2/3を占める官僚時代に低い賃金を、そして天下った後の残りの企業時代に高い賃金を得ている。
官僚は与党の意に添うように行動した場合にのみ退官後に有利な職につくことが出来、与党幹部は気に入らない官僚に対し容易に天下り先をなくすくことができる。そのため、官僚は自身の後の利益のため、与党に逆らわないようになる。そして、行政府は官僚を市場賃金以下で働かせ、ヘマをしなかった者に対し、官僚時代の低賃金を補填する職をあっせんするのである。もしこの約束を反故にすれば、行政府は飛躍的に高い賃金で官僚を雇用しなくてはならないので、約束は履行される。
そして、斡旋によって、官僚に対する褒美としての高い給与を政府の支出から除外し民間に負担させる。民間も、行政府とのパイプを求め、その支出の負担を喜んで受け入れる。しかし、利益誘導がなされるため、政府は市場賃金と天下り後の賃金の差を実質的に(元)官僚に支払っていることとなる。民間は、利益誘導分を(元)官僚に還元し、結局のところ、政府は市場賃金を従順な官僚に支払い、官僚は従順であれば、市場賃金を得、民間の利潤はゼロになるであろう。
つまり、天下り(を含むその他の方法)によって与党は官僚を監視し支配しており、そのために天下りは必要なシステムである。その結果、与党は党の政治的目標の実現のための仕事を官僚に任せることができ、事実そうしているのである。

なお、行政学教科書である『行政学』(真渕勝)も「天下りの功罪」において以下のように述べる[1]

同一条件である同級生の民間企業での賃金と官僚の賃金を比較すると、相対的に官僚の賃金は低いことを読み取ることができる。また、ノンキャリア組とキャリア組の間にも大きな賃金格差があるわけではない。天下りは、このように主観的に低い賃金で、高い忠誠心の確保と激しい労働をこなすことに対する対価という意味を持ち、「遅れて支払われた報酬」(猪木武徳)という性質をもつという主張がある。さらに、高いポストからの天下りが相対的に高い報酬を得ることは、現役官僚にとってのインセンティブになる。一方で特殊法人役員の、知事や市長と比肩する高すぎる退職金に庶民ならずとも反感を持つのはやむを得ず、この主張は次第に説得力を失ってきている。(なお同時に「天下りの功と罪、いずれかが大きいか、即断することは…経験的に検証することも容易でない。」としている。)

世界における「天下り」[編集]

天下りは日本特有の現象と見られがちであるが[30]、東アジアやヨーロッパのでは中途退職した官僚が、関連する民間団体のポストにつくことが多い。

一般的に政党政治が始まると、与党が交代するたびに対立する政党に与する官僚の首切り合戦になり行政が安定しない、自らのポストが本質的に不安定であると自覚する官僚は在任期間中にわずかでも収入を確保しようとするため際限なく汚職を誘発する、という問題が生じた。このため欧州を中心に公務員の身分保障という考えが生まれることとなる。アメリカはは飽く迄官僚人事は政治家の裁量であるとしてこの種の問題が発生することを承知で猟官制をとる。公務員の身分を保証し、行政組織がその性質上ピラミッド構造でなくてはならず、かつ一般に国家組織は永続する前提であるため、毎年新規採用が必用となれば上級公務員が「自主退職」するシステムは必須であり、多くの国で天下り問題は発生する。

アメリカ[編集]

アメリカでは日本的な天下りは無いが、ワシントンD.C.の官僚や退役した軍の高官が関連団体において実権のあるポストにつき、影響力を行使している[30]。アメリカで問題とされているのは、一度退職し業界団体へ転身した官僚が『民間の有識者』として再び政治的決定に関与することてで、業界が望むように規制当局に圧力をかける行為である。さらに『業績』を残した者は恩恵を受ける企業の重役として迎えられ、再び政治に関与している。この官民を行き来する姿は回転ドアを何度もくぐる様子に似ているため『 リボルビングドア』と呼ばれ、アメリカで日本の天下りが説明される際、引き合いに出される[31]

韓国[編集]

韓国では日本的な天下りが慣例化しており、2015年には大手企業の新役員のうち40%は天下りとされる[32]

韓国では官僚が民間に下ることを落下傘での降下に例え「落下傘人事」と呼んでいる[33]

民間が要請する天下り[編集]

防衛省は定年前だが昇進によりデスクワークが増えて操縦時間が減った40代のパイロットを斡旋する『自衛隊操縦士の民間における活用(割愛)』を行っている[34]。これは名目上のポストではなく事業用操縦士の資格と経験が要求される旅客機のパイロットや、高い技能が要求されるテストパイロットを必要とする航空会社や航空機メーカーと自衛隊員の削減による人件費抑制を狙う防衛省の思惑が一致した制度であり、要求しているのはパイロットの育成コストを削減したい民間側である。防衛関係の天下り問題が取りざたされた2009年に天下りとの指摘を受け自粛していた。しかし格安航空会社の登場で世界的にパイロットが不足してきたことや天下り問題の報道が沈静化したことに伴い2015年から制度を復活した[35]

多くの国において、軍のパイロットが航空会社や民間軍事会社に移籍することが問題視されているが、これは税金で養成されたにもかかわらず若いうちに民間へ転身することに対してであり、定年退官し民間へ再就職したパイロットは多数存在する。

「天下り」に当たらない実例[編集]

NHKアナウンサーが、退職してフリーになり、民放で、テレビ番組の仕事をする場合。

これは、NHKが、国営放送ではなく特殊法人(職員は国家公務員ではなく団体職員)だからである。むしろ当人は、身分保障はあっても活動に制約の多い団体職員であるより、より高収入が期待出来、また仕事を選べるタレントになる方を選択して、こうなる場合が多い。

慣用表現[編集]

「神(学術的事実)が地上(科学者)に降り立つ」「権威(科学者)が民間(学習者)に一方的に授ける」というイメージの類推から、数学や物理学の議論で、一見すると議論とは無関係な数式や概念・結論を説明なしで突然に導入することを、「天下り的」「天下り式」と呼ぶことがある[36]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 真渕勝『行政学』、2009年、有斐閣
  2. ^ 『続・反社会学講座』パオロマッツァリーノ、筑摩書店、2009年、ISBN: 9784480425874、107頁 尚、公益性を重んじ天下りが存在しない『日本自然保護協会』のような公益法人も存在する。
  3. ^ 野口旭・田中秀臣 『構造改革論の誤解』 東洋経済新報社、2001年、96頁。
  4. ^ 解りやすい例が防衛産業である。武器輸出が事実上禁止されているため、防衛産業の顧客は自衛隊以外に事実上存在せず、その商品の善し悪しが解るのも自衛官だけである。また官僚でなくても元々自衛官は慣習上の「定年」が若く、その人材を防衛産業が長年受け入れてきた実情がある。
  5. ^ asahi.com(朝日新聞社):隠れ天下り「本省から押しつけられた」独法職員ら証言 - 2009政権交代
  6. ^ 妙な「隠れ天下り」発覚 嘱託で入り年収1千万円 : J-CASTニュース
  7. ^ 年収1000万円以上 隠れ天下りが24人もいた!!(ゲンダイネット)namiyui いまだ逍遥途上にて
  8. ^ 農水省OB、6団体を渡り、天下り所得3億2000万円 - ABC税理士法人
  9. ^ 天下り隠し:省庁→独法 民間とポスト「交換」 毎日新聞2009年8月9日
  10. ^ 厚労省所管の独法、天下りOBの年収指示 事業委託先に 朝日新聞2009年9月13日
  11. ^ 毎日新聞2007年11月14日[出典無効]
  12. ^ 産経新聞2009年11月21日[出典無効]
  13. ^ 同一府省退職者が3代以上連続して再就職している独立行政法人等におけるポストに関する調査結果等の公表”. 総務省 (2011年7月22日). 2011年7月29日閲覧。
  14. ^ a b 読売新聞2011年7月23日13版4面天下り受け入れ、3代以上連続は1285団体
  15. ^ 読売新聞2012年8月1日13版4面
  16. ^ 平成24年7月31日、 国から補助・委託等を受けている公益法人に関する調査、2/8ページ、「背景等」、3/8ページ「契約に基づく支出の状況」、上位リンク:総務省平成24年7月31日発表
  17. ^ ギョーザ中毒 JT株、財務相が50% 天下りも3人「準国営企業」しんぶん赤旗2008年2月6日
  18. ^ 日本郵政、ファミリー企業105社と人的関係解消・日本経済新聞2007年6月16日[出典無効]
  19. ^ 文科省天下り 3分の1が私学に再就職 産経新聞2009年8月29日[リンク切れ]
  20. ^ 文科省汚職:倉重被告、中身見ず現金受領…業者幹部証言 毎日新聞[リンク切れ]
  21. ^ 霞ヶ関の犯罪「お上社会」腐蝕の構造 本澤二郎 リベルタ出版 2002年 ISBN 9784947637772 p168-169
  22. ^ 東電天下り「調査し報告」官房長官 エネルギー政策歪めた疑義 塩川議員に答弁 しんぶん赤旗2011年4月14日
  23. ^ 本事件内容を最初に告発したのは元部隊補給担当による「自衛隊2500日失望記」(須賀雅則著・光文社)である。
  24. ^ 離職者就職審査分科会議事録平成13年11月21日
  25. ^ 離職者就職審査分科会議事録 平成21年2月18日
  26. ^ 社会福祉法人に天下り239人 昨年度、都府県幹部ら 朝日新聞 2014年9月15日
  27. ^ 『日本政治の経済学-政権政党の合理的選択-』、加藤寛監訳、弘文堂、1995年、pp.98-120(Chapter7 "Bureaucratic Manipulation",Japan's Political Marketplace by J. Mark Ramseyer, Frances M. Rosenbluth、邦訳『日本政治の経済学-政権政党の合理的選択-』第7章「官僚の操作」)
  28. ^ 『日本政治の経済学-政権政党の合理的選択-』日本語版への序文「議会多数党と官僚とのプリシンパル-エージェント関係でいえば、官僚は政治家に対する忠誠心と処理能力を維持し続けるであろう。しかし、将来の問題は、官僚がどの政治家に対して忠誠を誓うか、である。自民党が必ずしも多数党でない限り、官僚は従来よりももっと困難な仕事を受け持つことになる。」
  29. ^ 政治家と官僚の間に関しては「プリンシパル=エージェント問題」として扱われ、多くの研究がある。英語版のen:Principal-agent_problemを参照。
  30. ^ a b ピーター・F・ドラッカー、1998年
  31. ^ ウィキペディアの英語版において『Amakudari』は『Revolving door (politics)』に転送される。
  32. ^ 韓国10大企業の新役員、40%が天下り―中国メディア:レコードチャイナ
  33. ^ 官僚共和国 中央日報2013年6月5日
  34. ^ 離職者就職審査分科会議事録 平成20年9月16日 - MRJが初飛行を行った際に副操縦士を勤めた戸田和男(当時3等海佐)が三菱重工業から斡旋を受けた事例。会社からは2名を要求されたが就職日の都合で1名のみ斡旋された(2008年)。
  35. ^ 自衛隊パイロット、民間に 今春にも 人材活用、若返りへ(1/2ページ) - 産経ニュース
  36. ^ 図解入門よくわかる相対性理論の基本: 図と数式で読み解く理論の基礎 水崎拓 秀和システム 2005年 ISBN 9784798011141 p44
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参考文献[編集]

  • ピーター・F・ドラッカー「日本の官僚制を擁護する」、『フォーリン・アフェアーズ日本語版』10月号、フォーリン・アフェアーズ、1998年

関連項目[編集]

外部リンク[編集]