給与

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給与(きゅうよ、: salary、サラリー)は、雇用契約に基づいて雇用主から従業員へ定期的に支払われる、労働の対価報酬

歴史[編集]

古代ローマの言葉 salarium[編集]

古代ローマの言葉 salarium は雇用と関係があり、兵士に支給された(Salt)に由来するとされているが、正確な関連性は解明されていない。 最も有力なのは、兵士(Soldier) という単語はラテン語の sal dare (to give salt)に由来するという説である。 また、ローマ歴史学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスは、プリニウスの博物誌において"[I]n Rome. . .the soldier's pay was originally salt and the word salary derives from it...".[1]と、「海水」に由来すると述べている。

他にも、soldier は兵士への支払いに用いられたソリドゥス金貨(solidus)に由来し、塩を買うための手段 salarium であるという説もある[2]

日本[編集]

封建時代(鎌倉時代から室町時代頃)主君から土地と百姓を与えられていた。戦国時代から江戸時代には米の石高石 (単位))で米を給金代わりに与えており所領を米に換算する方法が一般化した。

日本[編集]

所得税法では第28条において、給与所得とは「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう」と定めており「給料」よりも「給与」のほうが範囲が広い。公務員の勤務の対価も給与という。

それぞれの企業がどのような給与の体系をとるかは、就業規則において給与体系(賃金体系)として決定されている。従業員は給与明細を参照することでも給与体系を知ることが出来る。給与明細は基本給や各種手当といった給与項目によって成り立っている。給与明細を記した書面を給与明細書という。具体的な給与の計算方法(給与計算)は、それぞれの企業の給与規程によって決定される。

給与計算においては労働基準法上、「賃金全額払いの原則」が支配しており、端数処理においてさえその規制は及ぶ。しかし、保険料所得税等の税金はそれぞれの法律の根拠に基づき給与より天引き(控除)されることが許されている(源泉徴収,給与税参照)。また、労働基準法上、従業員との協定により控除が許される場合がある(協定控除)。名目上の給与に対し、実際に従業員に支払われる給与のことを俗に「手取り」と呼ぶ。

給与には、課税の対象となるかどうかで課税給与と非課税給与という分類がある。所得税額を計算するに当たっては重要な区分である。また、毎回決まった額が支給されるかどうかで、「固定的給与」、「変動的給与」という分類が存在する。(固定的給与も昇給などの理由で変動することがある。標準報酬月額随時改定も参照。)給与の総支給額は固定的給与と変動的給与を足し、不就労部分の給与を差し引くことにより決定される(ノーワーク・ノーペイの原則)。つまり、給与の決定にあたっては、労働時間の把握が重要になってくる。

給与支払事務所等の開設届出[編集]

事業所は、給与の支払いを開始した場合は給与支払事務所等の開設届出を提出しなければならない[3]

所得税法 第二百三十条  国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、又はこれらを移転し若しくは廃止した者は、その事実につき前条の届出書を提出すべき場合を除き、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。

法定調書[編集]

昨年の給与支払について、1月31日までに下記を提出する必要がある(例外あり[4])。この2種の書類の様式は、概ね同じである。源泉徴収票は支払いを受けた物にも渡す。

給与明細[編集]

一般に多くの企業では賃金の支払いの都度、労働者に対し、賃金(給与)に関する明細書(いわゆる給与明細(書))を発行している。労働基準法の本則では給与明細を発行する義務は規定されていないが、賃金を金融機関への振り込みによって支払う場合には給与明細を発行するよう行政指導が行われている(平成10年9月10日基発第530号)。

所得税法では給与明細の交付を義務付けていて(所得税法第231条、所得税法施行規則第100条[5])、健康保険厚生年金保険雇用保険の各保険料を控除したときは、使用者は計算書を発行する義務があることから(健康保険法第167条3項、厚生年金保険法第84条3項、労働保険徴収法第31条1項)、実際には給与明細にこれらの支給額・控除額を一括記載することが慣行となっている。もっとも、一般的な給与明細では労働時間数等は記入されていないことが多いため、法定の記載事項が網羅されていない限り、給与明細の発行を以て賃金台帳の作成(労働基準法第109条)に代えることはできない。

支払方法[編集]

給与の支払い方法は、それぞれの企業において就業規則を労働基準法で作成する義務がある場合には、これを規定する必要がある。支払い形態としては、日払、日給月給、月給、年俸などの種類がある。労働基準法24条の「賃金支払五原則」により、毎月一回以上、一定期日において支払わねばならない。

支払い方法は通貨による手渡しが原則である(通貨払いの原則)。労働基準法24条の「賃金支払五原則」のうちの一つである「賃金の通貨・直接払」の原則により、銀行等金融機関口座への振込(給与振込)は労働者の個別の同意が無い限りは違法であり(労働基準法施行規則第7条の2第1項)、給与振込の導入については、従業員の個別の同意を得ることのみが、労働基準法上の要件である。給与振込に関する通達に基づく条件を企業側が満たすことは法律上の要件ではない。労働者が現金支給を求めるならば、これを拒否することができない。なお、労働者が給与振込を求めても企業側が応じる法律上の義務はない。賃金支払に関する労働協約がその事業場全体に適用される場合であっても個別の労働者の同意が必要である(通達平成10.9.10基発第530号、平成13.2.2基発第54号、平成19.9.30基発第0930001号)。なお、振込手数料について労働基準法の条文では、使用者、労働者のいづれが負担すべきかについて定めはなく、使用者と労働者で交渉して決するものである。また、給与は給与明細書もしくは電子給与明細と一緒に手渡しされることが多いが、労働基準法で義務付けがあるわけではない。労働基準法以外の所得税法、労働保険徴収法で定められている支払明細も所得税や労働保険料に係る明細の義務があるだけで、一般に労働者が求めると思われる各種手当の額や労働時間数、時間外労働時間数、休日労働時間数などを示す義務がある法律は存在しない。

大企業においては給与振込が主流となっている。中小企業やパート・アルバイトへの支払いについては、手渡しで行われている例もある。現在でも労働基準法では現金払いが原則で、あくまで口座振込はその例外として書かれている。

公務員においては、以前は手渡しが主流だったが、その後金融口座への振り込みが主流となった。なお、公務員への給与支払いについて、読売新聞が2005年9月26日の記事で、「特に農林水産省の手渡し率が高い」と報道した。それに対し農林水産省は「手渡し率が高かったのは半年前のデータであって、現在(2005年9月時点)は口座への振り込み率はほぼ100%だ」と反論している[6]。行政機構の効率化を求めることから、マスコミが公務員の給与振込の遅れを指摘するが、現金支給については本来違法ではない。また、公務員の支給に際しては「給与の一部を振込、残りは現金支給」を求める職員も多く、農水省の件はその両方をしている職員がいるためにそのようなデータになる。

給与振込について、使用者は労働者が受け取る金融機関の口座に振り込むのだが、使用者が特定の金融機関を指定することはできない。給与を支給する企業が、その企業と銀行との間に取引があるからとか、複数の金融機関に振り込むのが煩雑だとかの理由で、金融機関を指定することはできないのである。

労働基準法では賃金の支払い場所についての規定はなく、民法の一般原則に従い持参債務になり(民法484条)、賃金の債務者となる使用者は労働者の自宅において支払いを行わなければならない。ただ一般的には特段の事情がない限りは就業場所で支払いを行っていることが多いが、その法的根拠はなにもない。また、明確に特約を設ければ、就業場所以外の場所(例えば、就業場所が大阪で、支払場所が東京にある賃金計算センターなど就業場所から遠く離れていても可能)で賃金の支払いをすることも可能である。また、最後の給料の支払いだけを本社支払いにするなど、支払時期ごとに支払場所を変更することも可能である。

なお、賃金を口座振込にした場合、支払い場所は銀行口座のある銀行の本支店の住所地になるが、海外の銀行を指定した場合には賃金不払いの犯罪の発生地点は海外となり、属地主義である労働基準法の適用はなくなり、実際に海外の銀行を犯罪発生地とした送検事例は過去に1例もない。

給与の動向[編集]

法人企業統計調査によると、全産業(除く金融保険業)・全規模の従業員給与は1960年(3.1兆円)から1995年(146.8兆円)まで35年連続で増加していた。しかし、以降は伸びの鈍化、減少が見られるようになり、2012年現在は128.2兆円に落ち込んでいる。また、1990年代半ばまでは経常利益の動向に関わらず従業員給与は増加していたが、近年は経常利益が増加傾向にある中で従業員給与は減少傾向にある(2003年から2012年の10年間に経常利益は36.2兆円から48.5兆円に増加しているが従業員給与は133.3兆円から128.2兆円に減少している)[7]

民間給与実態統計調査によると、1年勤続者の給与総額は1949年(0.2兆円)から1997年(211.5兆円)まで48年連続で増加していた。しかし、以降は伸びの鈍化、減少が見られるようになり、1998年(211.2兆円)から2006年(195.4兆円)まで8年連続で減少。2012年現在は185.9兆円に落ち込んでいる[8]

給与の指標[編集]

法律上の給料[編集]

給料(きゅうりょう)は、賃金と同義に用いられることが多い(労働基準法第11条)が、法律上は次のような意味がある。

民法における給料
労働者及び芸人賃金に対して、継続的雇用関係に立つ雇人に対する報酬(民法第174条第1項、第2項)。又は、家族的労務者としての雇人に対する報酬(民法第308条)。
地方公務員法における給料
地方公共団体の長及びその補助機関である職員(専門委員を除く)、その他一定の職員に対して支給する給与のうち、諸手当を除いた基本給を給料といい、その額及び支給方法は条例で定めなければならない(地方自治法第204条、地方公務員法第24条)。
船員法における給料
船員に対して支払われる報酬のうち、基本となる固定給(船員法第4条)。

一企業に専属してはいるものの、雇用関係にない者が継続的にサービスを提供することで報酬を得る業種(プロスポーツ選手芸能人など)が受ける報酬ギャランティー)を「給料」と表現されることが多い。ただしこれらは法律上の観点から見れば誤用である。

給与所得となるもの(税法)[編集]

税法上、使用人や役員に支払う下記が給与所得になる。[9]

  • 俸給、給料、賃金、歳費、賞与、これらの性質を有するもの
  • 手当
    • 残業手当、休日出勤手当、職務手当等、地域手当、家族(扶養)手当、住宅手当など
    • 例外として、下記は非課税
      • 通勤手当のうち、一定金額以下のもの。非課税上限額は随時改正されており国税庁のページに記載あり[10]。電車やバスだけの場合は、2018年度は月15万円までが非課税(ただしグリーン席は課税)[11]
      • 転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの
      • 宿直や日直の手当のうち、一定金額以下のもの。宿直は2018年度は4,000円が上限であり、その他、細かいルールあり[12]
  • 現物給与
    • 食事の現物支給
      • 2018年度は、下記2つの条件を、両方とも満たせば非課税[13]
        1. 食事の価額の半分以上を負担している
        2. (食事の価額)-(役員や使用人が負担している金額)が1か月当たり3,500円(税抜き)以下
    • 商品の値引販売
    • 物品その他の資産を無償又は低い価額により譲渡
    • 土地、家屋、金銭その他の資産を無償又は低い対価により貸し付けた。役員の場合[14]と使用人の場合[15]で細かく規定あり。
    • 福利厚生施設の利用などの用役を無償又は低い対価により提供
    • 個人的債務を免除又は負担

アメリカ[編集]

年収1ドルの人々(dollar-a-year men)[編集]

戦時中
第一次世界大戦第二次世界大戦などの戦争時に、アメリカ政府のために働いた政府や企業の幹部が年収1ドル英語版で働いた。これは米国の法律上、政府に雇われた無償のボランティアが認められないことから、名目上1ドル払う必要があったためである[16]。これによって政府に雇われる関係が名目の上だけ成立した[17]。このような関係で従業員となった人間が、第一次世界大戦だけで約1,000人いる[18]
その中で最初に雇用されたことで有名な人間は、セオドア・ルーズベルトの下で働いていた政治家ギフォード・ピンショーで、アメリカ合衆国農務省に務めていた[19]。民間で最初に雇われたのは投資家バーナード・バルーク[20]、戦時産業局の長官となり軍産複合体の実権を握った。
20-21世紀の平時
映画俳優で元カリフォルニア州知事アーノルド・シュワルツェネッガー、元ニューヨーク市長マイケル・ブルームバーグなどは、有権者へテロや財政危機などの切羽詰まった自治体を好転させるためのポーズとして年収1ドルで働いた。
愛社精神を示しヘッドハンティング対策に報酬を上げる必要がないことを示す、別の報酬により租税回避する、給与の代わりに自社株式で得た報酬の方が会社に貢献しているなどの理由がある。一例として、ソフトウェア企業オラクルのCEOで創業者でもあるラリー・エリソンのように、基本給以外で7,700万ドル以上の報酬を得ている場合がある[21]

脚注[編集]

  1. ^ Plinius Naturalis Historia XXXI
  2. ^ http://www.etymonline.com/index.php?search=salary
  3. ^ [手続名]給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出|国税庁
  4. ^ No.7411 「給与所得の源泉徴収票」の提出範囲と提出枚数等|国税庁
  5. ^ それゆえ、給与明細の不発行を労働者が申告する場合は、労働基準監督署ではなく税務署に申告することになる。
  6. ^ “農林水産省職員の給与の全額振込の状況について(速報値)” (プレスリリース), 農林水産省, (2007年9月27日), http://web.archive.org/web/20070424211210/http://www.maff.go.jp/www/press/cont2/20050927press_1.html 
  7. ^ 財務省『法人企業統計調査』
  8. ^ 国税庁『民間給与実態統計調査』
  9. ^ No.2508 給与所得となるもの|国税庁
  10. ^ 通勤手当の非課税限度額の引上げについて|国税庁
  11. ^ No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当|国税庁
  12. ^ 法第28条《給与所得》関係|国税庁
  13. ^ No.2594 食事を支給したとき|国税庁
  14. ^ No.2600 役員に社宅などを貸したとき|国税庁
  15. ^ No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき|国税庁
  16. ^ 31 U.S. Code § 1342 – Limitation on voluntary services”. Legal Information Institute. 2014年3月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年3月19日閲覧。
  17. ^ “How World War I Transformed Washington”. POLITICO Magazine. オリジナルの2018年3月20日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180320105510/https://www.politico.com/magazine/story/2014/08/washington-dc-world-war-one-109822 2018年3月19日閲覧。 
  18. ^ One Dollar a Year Men May Lose Two Months' Pay Because of Tax”. Sacramento Union — California Digital Newspaper Collection (1919年3月14日). 2018年3月19日閲覧。
  19. ^ (英語) The Independent. Independent Publications, incorporated. (1918). オリジナルのApril 22, 2018時点によるアーカイブ。. https://books.google.com/books?id=gYgeAQAAMAAJ&pg=RA1-PA16&dq=%22dollar+a+year%22+men&hl=en&sa=X&ved=0ahUKEwjCpt7ShPzZAhWJzlMKHcMqA80Q6AEIQzAF#v=onepage&q=%22dollar%20a%20year%22%20men&f=false. 
  20. ^ “The Century-Long History of Tapping Wall Street to Run the Government” (英語). Smithsonian. https://www.smithsonianmag.com/history/century-long-history-tapping-wall-street-run-government-180962146/ 2018年3月20日閲覧。 
  21. ^ Brush, Michael (2012年1月17日). “The myth of the $1 CEO – 1 – executive compensation –”. MSN Money. MSN. 2013年6月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年1月2日閲覧。

関連項目[編集]