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文部科学省天下り問題

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

文部科学省天下り問題(もんぶかがくしょうあまくだりもんだい)は、2017年平成29年)1月に発覚した国家公務員法に違反した組織的な天下り問題のことである[1]内閣府再就職等監視委員会の指摘により明らかとなったこの問題は、教育行政を司る文部科学省が、その権限を背景に大学や関連団体に対して人事的な影響力を行使していたことを示すものであった。本件では、国公法の規制を潜脱するために構築されたシステムや、発覚を防ぐための組織的な隠蔽工作が行われていたことが調査により判明している[2]

概要

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背景

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2008年末に施行された改正国家公務員法は、現役職員による再就職の斡旋を禁じていた。同法施行後、同省人事課内では民間の人材斡旋機関への不信が募り、OBへの期待が高まった。そこで、現職の人事課職員が直接介入するのではなく、人事課のOBを介在させる「迂回ルート」の構築し、文科省における組織的な天下りを行うようになった。

文部省入省組である清水潔、金森越哉、山中伸一板東久美子などが文部科学事務次官文部科学審議官高等教育局長を務めていたとき、学生数などを基準として配賦される補助金とは異なる大学補助金が、2012年の「グローバル人材育成推進事業(20億円)」を端緒に、2014年の「スーパーグローバル大学創成支援事業(77億円)」、2013年の「トビタテ!留学JAPAN事業」、また、世界からの留学生受け入れに伴う大学への助成予算も強化されるなど[3]、文部科学省の大学に対する決定権限が増していた。(詳細は「高等教育局#特筆事項」を参照)。これらの決定権限が大学への組織的な天下りへの圧力として用いられるようになった。

OBによる再就職あっせん

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2017年2月の調査報告および報道によれば、文科省人事課のOBが再就職あっせんの「ハブ(結節点)」として機能していたことが判明している[4]。この仕組みは、法の適用対象となる現役職員ではなく、法の規制外にあるOBを仲介役とすることで、あっせん行為を「民間人による親切心や個人的ネットワークによる活動」に見せかけ、偽装することを目的としていた。

その中でも元人事課長・嶋貫和男(2009年7月同省人事課退職)が中心となり、再就職あっせんの結節点として機能していた。嶋貫は当初、教職員生涯福祉財団の審議役の傍ら斡旋を行っていたが、これに同財団理事長が難色を示したことから、同省人事課による嶋貫への支援が強まった[5]

2009年7月、嶋貫は、文科省人事課長経験者などを経て退職後、文科省所管の虎ノ門の郵政福祉琴平ビルに一般社団法人「文教フォーラム[6]を設立。表向きは、再就職情報を遮断しているように見せかけつつ、非公式の人事課OBルートで情報共有が行われていた[4]。文科省人事課から退職予定者のリストや詳細な経歴情報(キャリアシート等)を定期的かつ秘密裏に受領し、大学や関連団体からの求人情報を引き受け、退職予定者の希望やランクに合わせて調整を行っていた。その後、あっせんの進捗状況を現役の人事課職員と共有し、省の人事異動に合わせて再就職を実行させるという手口であった。2017年3月18日の報道によれば、新たに約30件の違法事例が判明し、累計で約60件に達する見通しとなった[7]

関与した組織と役割

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この違法行為は、複数の関連団体が物理的・資金的に支えることで成立していた。特に国費が天下り維持コストとして還流していた点が悪質とされている。事件が発覚した、2017年2月6日に文部科学省が公表した調査報告書によると、天下り斡旋は以下のように行われた[5]

  • 一般社団法人「文教フォーラム」 - 仲介役・嶋貫が、虎ノ門の郵政福祉琴平ビルに設立[6]。文教フォーラムを拠点に、嶋貫と同省人事課が求人情報や人材情報を提供をし合っていた。解散直前の役員構成は、総数9名のうち6名が文科省出身者で占められており、事実上、文科省の退職者の待機所として利用されていた[4]。あっせん仲介役である人事課OBも、同協会の参与という肩書きで事務所の一室を使用していた[4]。同協会は名目上は文教行政への寄与を掲げていたが、実態は文科省人事課の別働隊として機能していた。
  • 公益財団法人「文教協会」 - 近藤信司・元文化庁長官が代表理事を務めており、「文教フォーラム」の家賃を負担していた[8]。文科省が書籍購入や補助金支出を行うことで「文教協会」に国費が入り、それが天下りシステムの維持費(家賃や人件費)として使われる構造になっていた[4]
  • 一般財団法人「教職員生涯福祉財団[9] - 元事務次官である清水潔が代表を務めており、文教協会に職員を出向させていた。嶋貫の実質的な秘書を担当させその人件費も負担していた。

具体的な違法事例と隠蔽工作

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早稲田大学への天下り

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2017年1月、吉田大輔文部科学省高等教育局長が早稲田大学大学総合研究センター教授に天下りした事例に関し[10][11]、文科省が許認可権限等を背景に、大学側へ受け入れを迫った疑いが持たれている。これには、「スーパーグローバル大学創成支援事業」など、文科省が握る大学への巨額補助金や権限の拡大が、大学側が断れない背景にあったとされる。監視委員会の調査を察知し、文科省側は早稲田大学側に「大学が自発的に招聘した」という虚偽のシナリオを作成・依頼。大学側もこれに加担した。

他省庁との「バーター取引」

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2017年3月の報道によれば、外務省や内閣府の退職予定者を大学へ天下りさせる事例が含まれていた[7]。 ここには、文科省が大学ポストを提供し、見返りとして他省庁所管の団体等に文科省OBを受け入れてもらうという省庁間バーターの構造があったと推察されている[7]

処分

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2017年1月、吉田大輔文部科学省高等教育局長の早稲田大学への再就職事例を受け[10][11]内閣府再就職等監視委員会は、文部科学省に対し、国家公務員法に規定する「再就職等規制」に違反する旨の調査結果を通知した。この通知には、平成27年2015年)に当時在職中の文部科学省職員が利害関係のある法人に対し求職活動を行ったこと、及び、それに関して人事課の職員がその法人に職員の情報を提供するなどの行為を行ったこと、これらの問題を隠すために再就職等監視委員会に虚偽の報告を行ったことへの指摘も含まれていた[2]

2017年1月19日、前川喜平元文部科学省事務次官は、文部科学審議官だった2015年12月と2016年3月に、不正なあっせん行為があったことが指摘される[17]。同日付けで、停職相当の処分発表前に依願退職となった[18]

これを受けて、松野博一文部科学大臣は大臣訓示において「法を遵守すべき公務員の組織においてこのような事態が生じたことは誠に遺憾であり、関係した職員について厳正に処分しました。また、このような事態を招いたことについて、事務次官から責任をとって辞職する旨の申し出があり、これを承認しました。さらに、文部科学大臣として、大臣俸給6ヵ月分を返納することとしました。」と発言した[19]また、衆議院予算委員会にて、天下りの有無によって補助金の不公正が生じていないかどうかについても検証する方針を明かした[20]

2017年2月7日の衆議院予算委員会の集中審議で、あっせん拠点となった「文教フォーラム」「文教協会」は年度内に解散[21]。「教職員生涯福祉財団」は、国分正明会長、清水潔理事長、井上孝美評議員会議長、玉井日出夫副理事長、金森越哉専務理事が辞任することを発表した[22]

文部科学省による調査報告

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2017年3月30日、松野文部科学大臣は省内での調査結果の最終報告を行った[23][24]。これにより、新たに判明したものを含めて、62件の国家公務員法違反が確認された。同日付で歴代事務次官8人のOBを含む幹部37人に、以下のような停職や減給などの処分を実施し、退職者に対しては懲戒処分相当の判断がなされたことを公表した[24]

国立大学への現役出向問題

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上述の問題以降、天下りは禁止されたが、現役国家公務員が国立大学法人の理事等に就く現役出向という人事慣行は今なお続いている。

形式上は「大学経営の強化」や「経験の公務への還元」を目的とした人事交流とされるが、その実態は国家公務員法の再就職規制を免れるための実質的な天下りであるとの指摘が絶えない。東洋経済オンライン等の報道によれば、実際には省庁側のポスト確保や高額報酬の維持が目的化しており、大学側も予算獲得や情報収集の便宜を期待してこれを受け入れる「持ちつ持たれつ」の癒着構造が温存されている[31]

特に近年、文科省は大学ファンドを背景とした「国際卓越研究大学制度」を創設し、文科省が評価する大学へ資金を集中的に供給する仕組みを整えた[32]。このように文科省の施策が大学経営に与える影響力が増す中で、選ぶ側と選ばれる側の間に現役出向者が介在する仕組みが出来上がっている。

また、出向解除後すぐに定年を迎えるケースも多く、「経験を公務に生かす」という建前に矛盾している。さらに、国立大学の予算が削減される中で、これら出向者への高額な人件費が若手研究者の雇用枠や研究費を圧迫しており、日本の科学技術力低下を助長しているとの批判もある。

文科省は、現役出向の段階的縮小を方針として掲げているものの[33]、実際には出向者数は高止まりしており、是正が進まない現状がある。

関連項目

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外部リンク

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出典

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  1. ^ “文部科学省天下り問題 監査委調査 隠蔽工作 口裏合わせ 文科省職員虚偽説明”. 毎日新聞. (2017年1月20日) 
  2. ^ a b 外部リンク同省HP「文部科学省における再就職等規制違反について」参照。いわく「本事案は、一昨年に、当時の高等教育局長が大学に対し、在職中に求職活動を行い、それに関して人事課の職員がその大学に職員の情報を提供するなどの事実があったものです。また、その他にも9件違法と認められる事実があり、さらに、その事実を隠すために再就職等監視委員会に虚偽の報告を行ったものです」
  3. ^ 国際化拠点整備事業費補助金 参考資料4 - 文部科学省。
  4. ^ a b c d e “「文教協会」解散へ 文科省天下り問題”. J-CASTニュース. (2017年2月2日). https://www.j-cast.com/2017/02/02289615.html 2026年2月5日閲覧。 
  5. ^ a b 2017年2月7日朝日新聞1面および2面
  6. ^ a b 一般社団法人 文教フォーラム
  7. ^ a b c “文科省の違法天下り、新たに30件判明 他省職員もあっせん”. ハフポスト. (2017年3月18日). https://www.huffingtonpost.jp/2017/03/18/monkashou_n_15439830.html 2026年2月5日閲覧。 
  8. ^ 公益財団法人 文教協会
  9. ^ 一般財団法人 教職員生涯福祉財団
  10. ^ a b 「早大総長「違反の認識なかった」 文科省天下りあっせん」朝日新聞デジタル2017年1月21日00時47分
  11. ^ a b 「退職翌日に再就職14人、過去5年間で 在職中の求職活動横行か」産経ニュース2017.1.22 20:19更新
  12. ^ a b 「透ける「裏の人事交流」 人事課長、他省職員との雑談の中で適任と判断」産経ニュース2017.3.30 23:10
  13. ^ a b 「違法62件 幹部ら43人処分 最終報告」毎日新聞2017年3月30日 20時24分(最終更新 3月30日 23時21分)
  14. ^ 「『文部科学省における再就職等問題に係る調査報告(最終まとめ)』 (2017 年 3月30日)の公表を受けての要求 」新潟大学職員組合
  15. ^ 「経営協議会」国立大学法人新潟大学
  16. ^ 「役職員紹介」国立大学法人新潟大学
  17. ^ Inc, Nikkei (2017年1月20日). “前川次官もあっせん関与 文科省天下り別案件”. 日本経済新聞. 2026年2月5日閲覧。
  18. ^ Inc, Nikkei (2017年1月19日). “前川文科次官が辞意 天下りあっせん問題”. 日本経済新聞. 2026年2月5日閲覧。
  19. ^ 平成29年1月20日付け 当問題に関する文科大臣の訓示[リンク切れ]
  20. ^ 毎日新聞2014年2月4日朝刊政治欄「文科省 天下り調査で補助金も検証 文科相」
  21. ^ 「「文教フォーラム」解散へ=仲介役OBが理事長―天下りあっせん」時事通信
  22. ^ 文科出身役員ら全員辞任へ 教職員生涯福祉財団、あっせん問題 2017年2月23日 日本経済新聞。
  23. ^ 文部科学省における再就職等問題に係る調査報告(最終まとめ)概要” (PDF). 文部科学省再就職等問題調査班 (2017年3月30日). 2023年5月27日閲覧。
  24. ^ a b c “文科省天下りで37人処分 最終報告、違法事案62件に”. 日本経済新聞 (日本経済新聞社). (2017年3月31日). https://www.nikkei.com/article/DGXLZO14735960R30C17A3CC1000/ 2017年10月9日閲覧。 
  25. ^ a b 「文科省天下りで37人処分 最終報告、違法事案62件に 」日本経済新聞2017/3/31 1:18
  26. ^ その後、ドワンゴに天下りし、学校法人理事長としてZEN大学の開学に大いに寄与した
  27. ^ a b c d e f g h i j k l m 「追加処分者一覧」毎日新聞2017年3月30日 21時28分(最終更新 3月30日 22時27分)
  28. ^ 「透ける「裏の人事交流」 人事課長、他省職員との雑談の中で適任と判断」産経ニュース2017.3.30 23:10更新
  29. ^ 「透ける「裏の人事交流」 人事課長、他省職員との雑談の中で適任と判断」産経ニュース2017.3.30 23:10更新
  30. ^ 「2017年中日“小大使”欢聚北京再叙友谊」人民网
  31. ^ 文科省から国立大へ「実質天下り」が高止まる実態”. 東洋経済オンライン (2025年2月18日). 2026年2月18日閲覧。
  32. ^ Inc, Nikkei (2023年9月1日). “大学10兆円ファンド、東北大学が支援第1号に 文科省”. 日本経済新聞. 2026年2月18日閲覧。
  33. ^ 国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議(第1回)議事録:文部科学省”. 文部科学省ホームページ. 2026年2月18日閲覧。