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防衛施設庁談合事件

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防衛施設庁談合事件(ぼうえいしせつちょうだんごうじけん)とは2006年1月に明らかになった、防衛施設庁発注工事を巡る官製談合事件である[1]

事件の概要

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アメリカ軍横田基地などの受変電設備や電機設置工事の競争入札を巡り、防衛施設庁OBである財団法人「防衛施設技術協会」理事長のほか、同庁技術審議官と前施設調査官の官僚2名が主導し、業者も参加する形で官製談合が行われた[2][3][4][5]

2006年1月30日に発覚[2]。2003年から2004年にかけての岩国飛行場滑走路移設関連工事、佐世保米軍基地関連工事、自衛隊中央病院と市ケ谷庁舎の新設空調工事について、防衛施設技術協会理事長と防衛施設庁官僚2人が競売入札妨害罪で逮捕された[6][7][8]

この事件で明らかになったのは、歴代の防衛施設庁の建設部系官僚は、旧防衛庁OBを有利な条件で天下りを受け入れた発注業者ほど有利な条件で工事などの発注を行っており、その体制を維持するために、防衛施設庁サイドで落札する業者を事前に決定する、いわゆる官製談合を長年にわたり行っていたことであった[9][10][11]。そのため、国民の平和と安全のために費やされているはずの「防衛費」の一部を、業者の利益ばかりでなく、官僚自身の退官後の有利な再就職先の確保のために利用するという、破廉恥な行為であると非難された[12][13]

なお前述の官僚2人は、通常ならば裁判による有罪判決の確定までは失職しない公務員の身分にもかかわらず、起訴後の2006年4月26日に懲戒免職処分になった[14]

その後、(財)防衛施設技術協会理事長に懲役刑の実刑が、防衛施設庁官僚2人に執行猶予付きの懲役刑がそれぞれ確定した。

一方、業者に対しては、24ヶ月の競争入札への指名停止処分のほか、高額の課徴金を請求されるなどの制裁を受けた。

防衛施設庁と防衛庁との関係

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防衛施設庁は、連合国軍の占領政策に必要となる施設や物資を調達・管理する、旧防衛庁よりも長い歴史を持っている旧特別調達庁と、今回談合事件を起こした防衛施設庁建設部の前身である旧防衛庁建設本部が合併してできた組織で、防衛庁(自衛隊)とは厳密には別組織であるが、他の省庁の官僚が防衛施設庁を経て防衛事務次官などの防衛庁の官僚になるケースが多くあり、同一組織と混同されるケースがある。なお、1998年に発生した防衛庁調達実施本部背任事件は防衛庁の事件のため、防衛施設庁と直接の関係はないが、両庁を管轄する国務大臣である当時の防衛庁長官額賀福志郎が辞任に追い込まれ、また今回も国務大臣は同一の人物であった[15][16]

事件の影響

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与党、自由民主党は防衛庁を防衛省へ昇格させる法案を提出する予定であったが、談合体質にまみれた防衛施設庁の機構改革のほうが先決であると批判されたため、防衛庁と防衛施設庁との組織統合を検討[17][18][19]

防衛庁が2007年1月に防衛省に昇格した後の2007年9月に廃止され、同時期に防衛省内には防衛監察本部も新設された[20][21][22]

理事長が逮捕され実刑となった(財)防衛施設技術協会は、2007年3月31日付で、解散した[23]。その業務の一部は、2007年4月1日に公益財団法人 防衛基盤整備協会に引き継がれた[24]

また、この事件を受けて、国土交通省をはじめとする国の発注機関や地方公共団体では関与した企業への指名停止措置を行ったが、対象となった業者が非常に広範であったため大規模事業を競争入札により発注しようとした際に対象業者数の不足が生じ、事業の発注が見送られるなど計画に影響を及ぼした事例も少なくない。広島市では、広島東洋カープ新本拠地建設の為の設計コンペに多数のゼネコンが参加出来ない事態となり、計画の遅れが懸念される状況になった[25][26][27]

出典

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  1. ^ 防衛施設庁発注の建設工事に係る入札談合事案に関する取り組み(平成18年1月30日)”. 国立国会図書館. 2024年3月18日閲覧。
  2. ^ a b 防衛施設庁審議官ら3人逮捕 東京地検特捜部」『朝日新聞朝日新聞社、2006年1月30日。オリジナルの2006年2月7日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  3. ^ 防衛施設庁、建設・土木工事も官製談合か」『朝日新聞』朝日新聞社、2006年1月31日。オリジナルの2006年2月7日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  4. ^ 防衛施設庁の談合事件で大林組も捜索」『読売新聞読売新聞社、2006年2月1日。オリジナルの2006年2月3日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  5. ^ 米軍施設も落札率95%…談合で捜索のゼネコン受注」『読売新聞』読売新聞社、2006年2月2日。オリジナルの2006年2月4日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  6. ^ 防衛施設庁入札談合事案について(参考資料)” (PDF). 防衛施設庁 (2006年4月19日). 2019年5月14日閲覧。
  7. ^ 「岩国」移設工事、連絡役は大林組…防衛施設庁談合」『読売新聞』読売新聞社、2006年2月2日。オリジナルの2006年2月4日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  8. ^ 施設庁発注工事、佐世保基地でも談合か」『読売新聞』読売新聞社、2006年2月3日。オリジナルの2006年2月8日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  9. ^ 防衛施設庁の官製談合、天下り実績を基準に発注先」『朝日新聞』朝日新聞社、2006年1月31日。オリジナルの2006年2月7日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  10. ^ 別の審議官OB仲介 岩国の談合疑惑」『朝日新聞』朝日新聞社、2006年2月2日。オリジナルの2006年2月7日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  11. ^ 施設庁OB、鹿島に「年間工事配分表」 電話で各社伝達」『朝日新聞』朝日新聞社、2006年2月4日。オリジナルの2006年2月7日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  12. ^ 防衛施設庁退職の22人、契約9社に再就職」『朝日新聞』朝日新聞社、2006年2月3日。オリジナルの2006年2月7日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  13. ^ 施設庁建設部は「聖域」、事件で揺れる天下りの牙城」『朝日新聞』朝日新聞社、2006年2月6日。オリジナルの2006年2月8日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  14. ^ 競売入札妨害(談合)事案に係る懲戒処分について”. 防衛施設庁 (2006年4月26日). 2019年5月14日閲覧。
  15. ^ 額賀長官、防衛施設庁「解体」を明言」『朝日新聞』朝日新聞社、2006年2月1日。オリジナルの2006年2月5日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  16. ^ 首相、額賀長官の引責辞任を否定 官製談合事件」『朝日新聞』朝日新聞社、2006年2月6日。オリジナルの2006年2月8日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  17. ^ 「防衛省」法案、国会提出 秋の臨時国会へ継続審議方針」『朝日新聞』朝日新聞社、2006年6月9日。オリジナルの2006年6月13日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  18. ^ 防衛庁の「省」昇格関連法案を閣議決定」『読売新聞』読売新聞社、2006年6月9日。オリジナルの2006年6月18日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  19. ^ 防衛庁の省昇格 小沢氏が賛意…法案提出手法は批判」『読売新聞』読売新聞社、2006年6月11日。オリジナルの2006年6月15日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  20. ^ 防衛施設庁、9月に前倒しで廃止へ 久間長官」『朝日新聞』朝日新聞社、2007年1月3日。オリジナルの2007年1月10日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  21. ^ 防衛省が発足 海外活動、本来任務に」『朝日新聞』朝日新聞社、2007年1月9日。オリジナルの2007年1月13日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  22. ^ 存在感強める防衛省 海外活動増へ布石」『朝日新聞』朝日新聞社、2007年1月10日。オリジナルの2007年1月13日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  23. ^ 防衛施設庁施設部長定例記者会見要旨”. 防衛施設庁 (2007年3月30日). 2019年5月14日閲覧。
  24. ^ 防衛基盤整備協会(BSK)の概要”. 防衛基盤整備協会. 2019年5月14日閲覧。 沿革、「2007年4月1日 財団法人 防衛施設技術協会が実施していた事業の一部を実施することとし、新たに防衛施設の建設に関する事業を開始した。」
  25. ^ 観客席と一体感なし/シンプルな「広場」に 松田オーナーに聞く」『中国新聞中国新聞社、2006年4月12日。オリジナルの2008年3月18日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  26. ^ 新球場の設計案を公表 英のコンサル会社 コンペ参加は断念」『中国新聞』中国新聞社、2006年6月20日。オリジナルの2008年3月18日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。
  27. ^ 市民が待望「夢の器」予算や交通 不安の声も」『中国新聞』中国新聞社、2006年9月30日。オリジナルの2008年3月18日時点におけるアーカイブ。2025年3月23日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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