非正規雇用

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非正規雇用(ひせいきこよう)は、いわゆる「正規雇用」以外の有期雇用をいう。狭義には、正規雇用、中間的な雇用、非正規雇用の3つに区分けした際の用語として使われることもある[1]。対義語は「正規雇用」。

概要[編集]

内容面から定義しようとすれば、一般的に、いわゆる「正社員」「正職員」と呼ばれる従業員の雇用と比較したときに総合的に見て、

  1. 給与が少ない(例:単位時間当たりの給与が低い、退職金がない、ボーナスがない)
  2. 雇用が不安定(例:有期雇用)
  3. キャリア形成の仕組みが整備されていない(例:幹部までの昇進・昇級の人事系統に乗っていない、能力開発の機会に乏しい、就労を重ねても知識・技能・技術の蓄積されるような業務でない)

といった要素が色濃い雇用形態を総称する用語である[2]

法的な雇用形態の分類から定義すれば、 有期契約労働者[3]派遣労働者(登録型派遣)[4]パートタイム労働者[5]のいずれか1つ以上に該当するような労働者の雇用を指すことが一般的である。

ヨーロッパやアメリカには、日本や大韓民国(韓国)のような正規、非正規という明確な区分はない[6]。 日本では、「パートタイマー」「アルバイト」「契約社員」(期間社員)「契約職員」(臨時職員)「派遣社員」(登録型派遣)と呼ばれるような職員の雇用が非正規雇用になる。

世界的な観点[編集]

産業革命以降、産業の中心が工業となり、フルタイムの労働者労働力の中核となった。また、この過程で男性は仕事、女性は家庭という性的な役割モデルが確立されていく。

ところが、第二次世界大戦以降、サービス産業が成長していくことにより変化が起こる。サービス産業は労働需要の変化が激しく、1日の中でも需要が一定しない特色を持つ(例えば、スーパーレジでは時間帯によって必要な労働力が変わる)。そのため、サービス産業はフルタイム労働者よりも、パートタイム労働者の方が都合が良かった。また、女性の社会進出が進んでいったが、一方で女性は家事も担っていたためにフルタイムで働くのが難しく、パートタイムは都合が良かった。

こうして、パートタイム労働者は労働市場の中で規模を拡大していったが、一方で待遇格差など様々な問題も生じることになる[6]

解雇規制が緩い英国においては非正規雇用の比率は米国に次ぐ低水準にあるが[7]、属性調整後の有期雇用者(非正規)と常用雇用者に格差は見られないものの、派遣社員は正社員より1割ほど低い賃金とされる[8]

社会学者の河合薫はイタリア、デンマーク、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、フランスでは非正規労働者の賃金の方が正社員よりも高いことを指摘している[9]

国際労働機関[編集]

1994年に、国際労働機関(ILO)は非正規雇用者の権利の保障のため、『パートタイム労働に関する条約(第175号)』を採択した。これはパートタイム労働者の労働条件が比較可能なフルタイム労働者と少なくとも同等になるよう保護すると同時に、団結権団体交渉権、労働者が代表とともに行動する権利、労働安全の待遇、雇用及び職業における差別、社会保障制度、母性保護、雇用の終了、年次有給休暇、有給な休日、疾病休暇に関してフルタイム労働者と同じ条件を、フルタイム、パートタイム間の自発的な相互転換の促進を定めている。2011年現在日本は批准していない。2011年9月現在の批准国は欧州を中心に14カ国である[10]

ヨーロッパ[編集]

早い段階から、フルタイム社員とパートタイム社員の均等待遇(同一労働同一賃金)の動きがある。フランス1981年ドイツ1985年に差別的取り扱いを禁止している。欧州連合 (EU) では、1997年にパートタイム労働指令が発令された。これにより、パートタイムを理由とした差別の禁止と、時間比例の原則を適用することとなっている。背景として、産業別の労働協約と賃金体系があり、フルタイムとパートタイムとで賃金が違うということがあまりなかったことが挙げられている[6]

企業の側は、賃金に対しては抵抗をせず、年金については一部抵抗した。これは、年金にかかるコストがパートタイムの方がかかるためである(例えば一人のフルタイムを30年雇った場合と、30人のパートタイムを1年ごとに雇った場合とでは、同じ労働量に対して後者「30人のパートタイムを1年ごとに雇った場合」の方が事務コストが高くなる)[6]

労働組合の側は、フルタイム社員の取り分が減るとして抵抗した[6]

フランスでは非正規労働者の在職が短期なため、報酬の10%に相当する不安定手当を受けることができ、同一業務をする正社員の1割増しの賃金を受けることができる[11]また、派遣労働者は作業に関連した手当(危険、食事手当等)を受けることができ、有期労働者が契約期間あるいは派遣期間の間に有給休暇を取得できなかった場合は補償手当を受けることができる。

アメリカ[編集]

雇用に対する規制が緩く、レイオフも容易であるため、非正規雇用比率は主要国の中で一番低い(また失業期間も短い)[7]

均等待遇という原則は法制化されていない。これは、「それぞれの雇用形態は企業と労働者の間の契約で取り決められたものだから、政府が法律で介入することはしない」という考え方による。ただし、多くの産業別労働組合内でペイ・エクイティ原則が整備されている。よって、同じ仕事をしながら賃金に大きな差が出るということはありえない[12]

また、アメリカでの不平等とは人種や性、年齢といった自分で選択できないものであり、フルタイム、パートタイムといった雇用は選択の結果という考え方がある(そのため、人種、性等での雇用差別への法律での対応はなされている)。[要出典]

そのため、労働者が広域な労働組合を組織し、企業や地方自治体に待遇改善を図る方向で動いている[6]

韓国[編集]

2006年11月30日に国会を通過・成立した「非正規職保護法」がある。

  1. 雇用期間が2年を超えた有期雇用者は無期雇用とし、派遣労働者は直接雇用とすること
  2. 賃金・勤務条件で正社員と不当に差別してはならない

といった内容となっている。

1997年経済危機をきっかけに非正規化が一気に進み、韓国の非正規社員率は55パーセントと日本の過去最高である33パーセントをはるかに超える高い状況だったこともあり、法が成立したが、実際には非正社員が2年勤務の法実施の直前に大量に解雇している事例が増えている。企業側にとって好都合な抜け道と不備がある法案で、非正規雇用の長期化は避けられたが、逆に継続雇用に支障をきたしているため、労働者全体の地位向上にはあまり効果が出ていないことが伝えられている[13]

また、この法の適用が大企業に限られていて効果が限定的で、労働者の固着化・外注化が進むなど却って非正規職労働者に不利にはたらく、といった批判も出ている。

平均月収88万ウォン程度で暮らす若者を指してある社会学者が名づけた「88万ウォン世代(88만원 세대)」という語が流行語となるなど、ワーキングプアは韓国でも大きな社会問題である。

中国[編集]

中華人民共和国(中国)の非正規雇用の定義は、『非正規就業とは、正規の職場での正式な社員契約を結んだ就労ではない、個人経営者や屋台、露店での販売員、家庭内手工業や企業の臨時契約社員などを指す』とされる。このため、例えば起業家も非正規雇用に含まれる。[14]

非正規雇用者は少なく見積もっても約1億3000万人いる(2006年時点)と言われ、かれらは社会保障を受けることが出来ないため、社会保障の整備を求める指摘がある[14]

日本[編集]

非正規雇用の特徴[編集]

非正規雇用の特徴は、正規雇用に対して、

  • 総じて、時間あたりの賃金が安い(例えば、女性出産に伴う就業パターン変化による生涯賃金の推計を行見ても、正社員として働き続ける場合と出産退職後パートタイマーとして再び働き出した場合では、賃金だけで2億円近い差が生まれるとしている)[15]
  • 雇用契約期間が短く、一般的に最長でも1-3年程度しかないため、雇用が不安定である(雇用契約期間が5年を超えた場合は法律上、正規雇用(雇用形態が正社員では、なくても良い)に切り替えなければならない)。
  • 景気が悪くなれば真っ先に非正規雇用の従業員を優先的に解雇するなど、人員削減の際に調整弁として好都合に使われる。
  • 単純業務のための安価な労働力として利用されていることが多い。
  • キャリアアップの機会に乏しい。
  • 勤続しても給料がほとんど上昇しない。正規雇用の多くが年齢給あるいは職能給であるのに対し、非正規雇用の多くは定期昇給のない職務給である。
  • 労働時間が短い(1日あたり3 - 6時間程度)。
  • 福利厚生が正社員に比して充実していない。
  • 正社員になることが不可能ないし困難。 フリーターも参照。
    • 仮に正社員で採用されたとしても、それだけで必ずしも終身雇用が保証されることにはならない。
  • 女性が多い(特に中高年)。
  • 男性は、結婚率が低い。 結婚#未婚化・晩婚化も参照。
  • 労働時間が短いため、社会保険(健康保険・厚生年金)・労働保険(雇用保険・労災保険)の適用から外れる者が多い。
    • 仮に社会保険や労働保険が適用されると、その際の保険料が労働者の賃金から差し引かれるため、最終的な手取り額が低くなる。

という点が挙げられる。

使用者側(雇う側)のメリット・デメリット[編集]

メリット
  • 需要や収益の変化に対応した調整を、職員の増減で行いやすい。
  • 時間あたりの賃金が安く、退職金社会保険料を払わないことも多いため、人件費を抑制しやすい[6]
  • 社員の教育費が削減できる。
デメリット
  • 知識・技術を社内に蓄積しづらい。製造業では熟練工、サービス業ではいわゆるベテランが育ちにくい。特に派遣社員は社外の人間であり、派遣先企業や所属事務所が異なる派遣社員同士で情報交換などは必要ないため。
  • 正社員と比べ会社に対する忠誠心・責任感が低い(特に派遣社員は派遣先の社員ではないため、他社の人間の派遣社員へ忠誠心・責任感を求めること自体ミスマッチといえる)。

などが挙げられる。

被雇用者側(雇われる側)のメリット・デメリット[編集]

メリット
  • 自分の都合に合わせて仕事の時間や期間を調整できる[16]
    • 副業・兼職(ダブルワーク)がやりやすい(正社員には従業員の副業を禁止しているところが多い)。
  • 多くは時給制であり、正社員のようなサービス残業を強いられないことが多い。結果として自給換算では報酬が正社員とあまり変わらない場合もある(しかし職場によっては時給制の非正社員でもサービス残業が強いられる場合がある。また日給制や月給制の非正社員では正社員に準じてサービス残業が横行している)
  • 多くの企業に触れて経験を積むことができる。
  • すぐに代替の人材が確保できるため、採用されやすい(現金、個人情報、その他機密事項を扱う作業でなければ、保証人を要求しない場合もある)。
  • (一部の企業では)賃金の支払い方法を月払いのみならず週払い(例:毎週金曜日締め、翌週金曜日支払いなど)に対応できる場合もあり、最低限の生活費が枯渇する不安を軽減できる。
デメリット
  • 時給に換算した場合の賃金が安いうえ、賞与が出ない。
  • 勤続年数が増え、仕事の能力が上がっても昇給はほとんどない(=使用者にしてみれば人件費を抑制できる)。
  • 退職金が払われないか、正社員よりも低い。
  • 常に自分自身でスキルアップをはからねばならない。
  • 雇用形態が短期契約のため、将来への展望が不安定。
    • 若いうちは良いが、年を取ると選べる仕事がなくなっていく。
  • 短期雇用かつ低賃金であるため、数百万円から1千万円以上の資金(住宅自動車ローンなど)の借り入れが不可能か、可能であっても高額な頭金を要する。

その他

  • 1年間の収入合計が103万円(平均月収約85,800円)を超えた場合、所得税を納める義務が発生する(ただし学生の場合、勤労学生控除でそれを超えるだけでは所得税を収める義務は発生しない)ため、パート・アルバイトは年収を103万円以下に抑えようとすることが多い(配偶者控除)。年収調整のため年末繁忙期にシフトを空ける現象も見られ、人事労務管理の配慮点の一つである。

などが挙げられる。

日本での経緯[編集]

戦後高度経済成長期(特にいざなぎ景気から列島改造ブームまでの頃)において、日本の企業は常に人手不足にあり、労働者を囲い込む形で正規雇用が常態化した。さらにそれを補佐する形で農閑期の農業労働者や主婦をパートタイム労働者として雇い入れる形になった。

その後、バブル経済崩壊後の平成不況では、企業は、競争力強化の必要性に迫られ、コスト削減の圧力への対応が必要になるとともに、大規模な景気後退を経験したことを背景として、将来の商品需要の不確実性への対応が必要だと認識するようになる。このため、 正規雇用(フルタイム労働)である正社員の採用を抑制する一方、コスト削減のために単純業務に対する安価な労働力の供給源として、また、不確実性への対応のために企業業績縮小期の雇用調整弁として、非正規雇用の従業員(非正社員)を増やすことで労働力をまかなっていくようになっていく[17]。日本では正社員に対する整理解雇の条件が非常に厳しく、(正当な理由もなく)容易に解雇することができないため、正社員の雇用には慎重になっており[18]、企業は景気が回復しても、正社員を増やすより、正社員の残業で対応したり、上述の通り、有期雇用や派遣社員などの非正規雇用で代用したりすることが常態化した。

労働者数の推移をみると、1980年代第2次オイルショック後)から雇用者に占める非正規雇用の比率は少しずつ増加し、1990年に初めて20%を超えた。以降は、ほぼ横這いで推移していたが、1990年代後半(アジア金融危機後)になると増加傾向が著しくなり、1999年に25%、2003年に30%、世界金融危機後の、2011年に35%を超え、2013年には過去最高の36.7%を記録している[17]。また、若年層の非正規雇用率については、学生を除いた15-24歳で32.3%、25-34歳で27.4%であり、全体と比較すると低いものの上昇傾向にある[19]

厚生労働省の2010年版『労働経済白書』は非正規雇用増加の原因として「相対的に賃金の低い者を活用しようとする人件費コストの抑制志向が強かった」、さらに「労働者派遣事業の規制緩和が、こうした傾向を後押しした面があったものと考えられる」と指摘している[20]。OECD(経済協力開発機構)は日本における非正規雇用増加の原因が「非正規社員に比して正社員の解雇規制が強いこと」[21]と「非正規雇用への社会保険非適用」にあると指摘。労働市場の二極化を是正するよう、たびたび勧告を行っている。

2014年現在、いわゆる「アベノミクス」効果により、雇用拡大による失業率の低下や人手不足などがメディアで取り上げられるようになっているが、大半の新規求人は非正規雇用である[22]

2015年1月30日、厚生労働省は「労働市場分析リポート」で、1984年から30年間で非正規労働者が増加えたのは、減少した農家、自営業者・家族従業者の受け皿となったことが大きな原因であるとする分析結果を公表した[23]

日本での現状[編集]

  • 非正規雇用者は極めて弱い立場にある。2000年代は輸出産業である製造業が好調だったが、人手不足は外国人労働者を含む派遣社員を中心に非正規雇用でまかなわれた。そのため、日本国外市場の減速が製造業を直撃した2008年秋頃からの解雇・雇止めの増加は、まず非正規雇用者から行われた。製造業の派遣社員は、派遣会社の提供している寮に入居している者が多く、職を失った多くの非正規雇用者たちが路上へ放り出された。また、製造業以外の職種でも非正規雇用労働者の解雇・雇止めが進んだ。経済学者大竹文雄は「非正規社員を雇用の調整弁とすることを社会が容認している以上、非正規社員を雇い止めすることは企業にとっては完全に合理的である。また、非正規切りについて対策を求めず、賃上げを求める労働組合の行動も、正社員の代表という立場として正当化されるべきである。非正規社員を増やした段階で、不況になると非正規切りが起こるということはあらかじめ予測できたことである」と指摘している[24]
  • 大企業と中小企業とでは、大企業の方が非正規雇用の割合が高い傾向にある[25]
  • 男性と女性とでは、女性の方が増加傾向にある。特に若年層でその傾向がある。例えば、バブル景気前(1984年)とバブル崩壊とその後の景気回復(2006年)とを比べると、若年層に占める正規雇用の割合は、男性に比べて女性の方が低下幅が大きい[17]
  • 非正規雇用で働いている人たちの多くは低賃金のため自活ができない[26]。経済学者の岩田規久男は「アジアなどで生産される輸入品は、現地の未熟な低賃金労働者がつくっている。それに対処するために、非正規就業者の賃金は低い水準に抑えこまれている」と指摘している[27]
  • 大竹文雄は「必要な手立ては、非正規雇用への規制強化ではなく、正規雇用の既得権益にメスを入れることである」と指摘している[28]。大竹は「労働市場の二極化に歯止めをかけるために、非正規と正規の雇用保障の差を縮小させることである。非正規社員だけでなく、正規社員も景気変動リスクを引き受ける仕組みをつくる必要がある」と指摘している[29]。経済学者の田中秀臣は「非正規雇用と正規雇用の待遇を同じにすれば問題は解決するという議論があるが、停滞が続く中でやっても単に失業者を増やすだけである」と指摘している[30]
  • 経済学者の伊藤修は「財界の人たちや『多様な働き方の提供』という理屈で労働保護規制を壊している有識者は、自分の家族を非正規労働者にしたいとは思うのだろうか。自分が無理なものを他人に押し付けることは、人間としてのモラルに欠けるのではないか」と指摘している[31]

OECDによる労働市場二極化の解消勧告[編集]

2006年にOECDは日本経済について、所得分配の不平等改善のために労働市場の二極化を削減するよう提言している[32]。そのためには、正規労働者の雇用保護を削減し非正規労働者を雇用する企業のインセンティブを弱めること、 非正規労働者に対しての社会保険適用を拡大することが必要だと指摘している[32]

さらにOECDは2008年に、「日本は若年者が安定した職を見つける支援をするために、もっとできることがあるのではないか」と題したプレスリリースの中で、「日本の若年層は、労働市場の二極化進行の深刻な影響を受けている(Young people are severely affected by the growing dualism in the Japanese labour market)」と指摘し、「彼らは収入と社会保険は少なく、スキルやキャリア形成のチャンスは少ない」「非正規から正規への移行は困難であり、若年者は不安定な雇用に放置されている」と述べ、重ねて正規労働者の雇用保護削減と、非正規労働者の雇用保護・社会保障の拡大を提言している[33]

2007年に安倍内閣労働ビッグバンを閣議決定し、二極化解消を目指したが頓挫した。

企業による待遇改善の取組状況[編集]

非正規雇用から正規雇用への転換については、制度自体がない企業も多く、制度がある企業でも適用例はさらに少ない。また多くの会社が非正規雇用に対する差別や冷遇は当然という認識があり、即戦力として扱えるスキルをもっていないと正社員と同様の収入になることは難しい。

ただし、一部では2002年から2007年までの景気回復による人手不足から、小売・流通業のように非正規雇用から正規雇用へと転換する動きがあった。小売・流通業は、出店等による人材不足感が高まっており、例えば

  • ワールド2006年11月に、子会社のパートなどのうち8割となる約5千人を本社の正社員として採用[34]
  • ユニクロを抱えるファーストリテイリングは、2007年3月5日に「地域限定正社員制度」を導入し、2年間で5千人を非正規雇用から正規雇用に転換すると発表。
  • ロフト2008年3月、正社員、契約社員、パート社員といった区別をなくし、全従業員を「ロフト社員」に統一すると発表[35]
  • 広島電鉄2008年3月、契約社員を全員正社員化し、賃金体系を一本化することを発表。ベテランを中心に、正社員の3割が賃下げとなった[36]
  • 西日本旅客鉄道2006年3月、契約社員を勤続3年以上を条件に正社員登用試験を年間2回実施することを発表。

などの動きがあった。

また、他の産業では

といった動きや、前述の小売業や外食産業で人手不足を背景としたパート待遇の改善(試用期間を経た正社員採用など)の動きについての報告(2008年4月時点)がある[39]

労働組合による取組状況[編集]

日本の企業の正社員のみを組合員にする場合が多い既存の労働組合では組合員でない非正規労働者の保護は意図されず、むしろ正社員の雇用を守るための安価な労働力・景気の調整弁として正当化されている。ただし、非正規社員の増加及び正社員の組織率の低下を受けて非正社員のための労働組合(首都圏青年ユニオンなど)が結成されたり、既存の労働組合でも非正社員の加入を認める例が増加している。しかし、100年に一度といわれる大不況を受け、大企業の労組でさえも非正規労働者の解雇・雇止めを問題にできないでいる。連合幹部によれば、「不況の影響が大き過ぎて正社員の処遇を守るのが精一杯」という[40]

日本での呼称別の事情[編集]

以下に、日本でよく用いられる呼称別に、特徴を記す。以下の呼称は法的な定義があるわけではなく、企業ごとにも定義が異なる。

パート、アルバイト[編集]

期間契約労働者の一種を指すことが多い。短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)では「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者よりも短い労働者」。パートタイム労働法上は、無期契約であっても「パートタイム労働者」の対象になりえ、実際に無期契約のパートも一部見られる。労働力調査総務省)では、「勤め先での呼称がパート・アルバイトである者」となっている。一般的に定まった定義はなく、企業によって「パート」や「アルバイト」という呼称の定義は異なる。

一般的に、正社員と比べ労働時間が短く、時間あたりの賃金が安い。労働基準法の適用範囲内だが、現状では多くの面において適用されているとは言い難い。福利厚生などの対象にもならないことが多い。

構成は、学生主婦が多く、男性よりも女性が多くある。また、年齢構成では15-24歳といった若い世代よりも、30、40歳といった中年世代の方が多い[17]

パートは略称で、正式にはパートタイマー。語源英語のPart Timer。本来、通常の労働者の所定労働時間(週に40時間以内)よりも短い所定労働時間を定められていることからそう呼ばれるが、「パート」の実態は必ずしもそうとは限らず、単に従事する業務や賃金・待遇を通常の労働者と区別するための便法として使われる場合もある。そのため、週40時間労働しながら「パート」と呼ばれる労働者(フルタイムパートタイマー)も存在する。

「パート」と呼ばれていても、その職場の通常の労働者と同じ所定労働時間を定められていれば、パートタイム労働法の短時間労働者(パートタイム労働者)には該当しない。逆に、「パート」と呼ばれず業務や待遇に差がなくても、その職場の通常の労働者よりも短い所定労働時間を定められていれば、パートタイム労働者に該当する。

伊藤修は「パートタイマーとは短時間労働者の意味であるが、日本でフルタイムで働く労働者を『パート』と呼ぶことはおかしい。世界標準では、時間内に与えられた仕事をこなせばそれは立派な正規労働である」と指摘している[41]

アルバイト語源ドイツ語のArbeit。戦前の大学生が学業の傍らで従事する労働を呼んだ用法が広まったもの。 詳しくは、アルバイトを参照。

契約社員(契約職員)[編集]

おおむね1箇月から1年単位の短期契約で雇われる形態を広く指す。製造現場に勤務する者は特に臨時工期間工などとも呼ばれる。高度な技術を有した専門職の人が1年以内の契約を結んだり、一度退職した職員が再雇用で嘱託社員として雇われる形態も含まれる。固定給のみならず、営業職に多く見られる完全出来高制のような形態もある。構成は、高齢層の割合が高い。また、若年層でも契約社員になる割合は増えている[17]

派遣社員(登録型派遣)[編集]

企業や官公庁が派遣会社と契約を交わし、派遣会社が雇っている従業員が企業や官公庁に派遣されて業務を処理する形態。指揮命令権は派遣先にある。

長い間、職業安定法の下、きわめて限定的な雇用形態として位置づけられてきており、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(労働者派遣法)の制定により正式に法律で規定されたのは1986年。当初は業種が制限されていたが、1999年、2004年に同法が改正され業種が拡大、それに伴い、派遣社員は契約社員ほどではないが増加している。

構成は、女性と男性とでは女性が多い[17]労働者派遣事業人材派遣も参照。

その他[編集]

名ばかり正社員(ブラック企業)[編集]

一方では、正社員の中にも「名ばかり正社員」と言われる、非正規社員と大差ない低い給与(毎月の固定給制ではなく日給制や時給制の会社もある)で、雇用保険労災保険厚生年金健康保険に未加入で、交通費・昇給・ボーナス・退職金制度等もない労働者が目立つようになっており、正社員も非正規社員と同等の劣悪な労働環境(長時間労働やサービス残業・サービス休日出勤も強制的に命じる)に追い込まれるケースが増加している。いわゆるブラック企業の事である。

年代別非正規雇用の比率[編集]

年代別非正規雇用の比率[42]
15-24歳※ 25-34歳 35-44歳 45-54歳 55-64歳 65歳以上
2002年 29.7 20.5 24.7 27.8 37.5 62.1
2003年 32.1 21.5 25.4 28.8 38.3 63.1
2004年 33.3 23.3 26.4 29 39.8 65.8
2005年 34.2 24.3 26.6 30 40.8 67.5
2006年 33.1 25.2 27.4 30.3 40.8 67
2007年 31.2 25.8 27.2 30.6 40.9 67.3
2008年 32 25.6 27.9 30.5 43 68.6
2009年 30 25.7 27 30.6 42.8 67.1
2010年 30.4 25.9 27.4 30.7 44.2 68.9
2011年 <32.3> <26.4> <28.0> <30.9> <46.4> <69.6>
2012年 31.2 26.5 27.6 31.4 46.2 68.8
2013年 32.3 27.4 29 32.2 47.8 71.5
2014年 30.7 28 29.6 32.7 48.3 73.1

※在学中は除く
・2011年の数値は東日本大震災の影響により正確な値を調べることができなかったため補完的に推計した値(2010年国勢調査基準)となっている。


脚注[編集]

  1. ^ 「非」正規雇用は、字面そのままを捉えれば、「正規雇用」以外の意味になるが、近年は、正規と非正規の2つだけでなく、その「中間的な雇用」の3つに分類しようとする捉え方も出てきている(『人間に格はない』(玄田有史 ミネルヴァ書房)、朝日新聞 "be" (2011年3月15日付)b4面『「准社員」という働き方』などを参照)。
  2. ^ 毎日新聞(2011年6月24日付)朝刊6面『「非正規」共通の対策を』で「非正規雇用労働者は、解雇や雇い止めで雇用調整の対象にされやすい▽時間当たりの賃金低い▽職業訓練の機会が乏しい」と紹介。朝日新聞 "be" (2011年3月15日付)b4面『「准社員」という働き方』では、ロフト(本社・東京都新宿区)労務厚生課課長の発言「常識的に考えれば、終身雇用、ボーナス、退職金の3点セットが正社員」を紹介。
  3. ^ 例えば定年まで働くのではなく、契約期間が例えば1箇月、1年、3年であるなど、期間の定めのある雇用の労働者。
  4. ^ 労働者派遣法で言う「労働者派遣契約」に基づき派遣会社から派遣されて派遣先企業の指揮命令を受けながら就労する労働者。
  5. ^ 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(通称「パートタイム労働法」)では、「1週間の所定労働時間が、通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」を「パートタイム労働者」(正式名称:短時間労働者)と定義している。
  6. ^ a b c d e f g 水町勇一郎 2005.
  7. ^ a b 内閣府 (2009-07). 平成21年度 年次経済財政報告 (Report). http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je09/09f31100.html. 
  8. ^ イギリスの非正規雇用”. 労働政策研究・研修機構. 2014年4月6日閲覧。
  9. ^ 非正規社員の賃金が低いのは、日本だけ!”. 河合薫 健康社会学者. 2012年12月2日閲覧。
  10. ^ パートタイム労働に関する条約(第175号) - 国際労働機関
  11. ^ フランスの非正規雇用”. 労働政策研究・研修機構. 2014年4月6日閲覧。
  12. ^ 雇用環境も福祉も欧米以下!日本は「世界で一番冷たい」格差社会 - ダイヤモンド・オンライン
  13. ^ NHKスペシャル「ワーキングプアIII 解決への道」(2007年12月15日放映)
  14. ^ a b 『都市部の非正規就業者、全国で1億3000万人!大卒の起業家もそのなかに―中国』 - Record China(2007年12月22日配信) ※本文の『』部分はソース元より引用。
  15. ^ 「家族とライフスタイルに関する研究会報告」 - 内閣府2001年
  16. ^ 例えば、第45回関西財政セミナーでは、「主婦などは正規社員にはならず短時間で働きたいという人もいる」という声も上がっている。(産経新聞、2007年2月9日配信)
  17. ^ a b c d e f 総務省統計局『労働力調査』による[要文献特定詳細情報]
  18. ^ 日本の正社員はどうしてクビにされにくいのか - web R25
  19. ^ 内閣府『2014年版 子ども・若者白書』
  20. ^ 2010年版労働経済白書 - 厚生労働省
  21. ^ OECDが各国の雇用保護規制 (EPL) の強さの度合いについて算定している雇用保護指標 (EPI) の最新の数値では、日本は比較的解雇規制が緩いとされている。 ※参考:2009年版経済財政白書 - 厚生労働省
  22. ^ “(人手不足列島)雇用、増えるは非正社員ばかり 求人22年ぶり高水準でも”. 朝日新聞. (2014年6月28日). http://digital.asahi.com/articles/DA3S11213780.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11213780 2014年8月2日閲覧。 
  23. ^ 自営業者減少の受け皿に=非正規増加の原因分析-厚労省時事ドットコム 2015年1月30日
  24. ^ 大竹文雄 『競争と公平感-市場経済の本当のメリット』 中央公論新社〈中公新書〉、2010年、159頁。
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  28. ^ 大竹文雄 『競争と公平感-市場経済の本当のメリット』 中央公論新社〈中公新書〉、2010年、162頁。
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    『Jobs for Youth Japan』プレスリリース資料 - OECD日本政府代表部(仮訳、2008年12月)
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  35. ^ 株式会社ロフト:働き方の“壁”をなくし現場を活性化する人事制度 - 日本の人事部
  36. ^ 同一労働同一賃金は可能か?(ワールドビジネスサテライト) - テレビ東京
  37. ^ 『トヨタ 08年春は3500人採用 期間工登用は1200人』 - フジサンケイビジネスアイ(2007年3月13日配信)
  38. ^ 『<三井住友銀行>派遣社員2000人を正社員化へ』 - 毎日新聞(2007年12月6日配信)
  39. ^ 『日経ビジネスオンライン』「激烈!パート獲得大作戦 「お試し」「前給」…あの手この手の流通・外食」 - 日経BP社(2008年4月30日配信)
  40. ^ 読売新聞(2009年3月19日付)
  41. ^ 伊藤修 『日本の経済-歴史・現状・論点』 中央公論新社〈中公新書〉、2007年、240頁。
  42. ^ 労働力調査 長期時系列データ表10 年齢階級,雇用形態別雇用者数
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参考文献[編集]

  • 水町勇一郎 『均等待遇の国際比較とパート活用の鍵 : ヨーロッパ、アメリカ、そして日本』 労働政策研究・研修機構〈ビジネス・レーバー・トレンド研究会〉、2005年NCID BA72050562 

関連文献・記事[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]