船員保険

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船員保険(せんいんほけん)とは、船員法第1条に規定する船員として船舶所有者に使用される者を対象(被用者保険)としている公的医療保険制度である。船員保険法等を根拠とする。

一般の被用者健康保険相当部分(職務外疾病部門)と、船員労働の特性に応じた独自・上乗せ給付を行う部分の2階建て的なものになっている。

  • 船員保険法について以下では条数のみ記す。
日本の国民医療費(制度区別、平成25年度)[1]
公費負担医療給付 2兆9792億円(7.4%)
後期高齢者医療給付 13兆821億円 (32.7%)
医療保険等給付
18兆8109億円
(47.0%)
被用者保険
8兆8815億円
(22.2%)
協会けんぽ 4兆4926億円 (11.2%)
健保組合 3兆3238億円 (8.3%)
船員保険 189億円 (0.0%)
共済組合 1兆461億円 (2.6%)
国民健康保険 9兆5331億円 (24.0%)
その他労災など 2981億円 (0.7%)
患者等負担 4兆9918億円 (12.5%)
軽減特例措置 1970億円 (0.5%)
総額 40兆610億円

目的・歴史[編集]

船員保険は、船員又はその被扶養者職務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行うとともに、労働者災害補償保険による保険給付と併せて船員の職務上の事由又は通勤による疾病、負傷、障害又は死亡に関して保険給付を行うこと等により、船員の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする(第1条)。

1939年昭和14年)の船員保険法制定により、ほぼすべての社会保険部門(年金、医療、労災失業)を有する船員のための総合社会保険制度として発足した。その後、職務外年金部門は1986年(昭和61年)に厚生年金へ、職務上疾病・年金及び失業部門は2010年平成22年)に一般の労災保険雇用保険にそれぞれ統合された(職務上疾病・年金に関する給付については、労災保険制度に相当する部分を労災保険制度から給付することとし、それではカバーできない部分については、引き続き船員保険制度から給付することとされた)。この結果、現在は医療保険部門と船員保険独自の給付のみが残っている。また2013年(平成25年)の改正により、職務上の傷病であっても労災の対象とならない場合は包括的に船員保険の対象とすることとした。

保険者[編集]

保険者は全国健康保険協会(以下、「協会」と略す。第4条1項)。かつては社会保険庁であったが、省庁廃止により協会が新たな運営主体となった。

船員保険の事業に関する業務のうち、被保険者の資格の取得及び喪失の確認、標準報酬月額及び標準賞与額の決定並びに保険料の徴収(疾病任意継続被保険者に係るものを除く。)並びにこれらに附帯する業務は、厚生労働大臣が行う(第4条2項)。協会は以下の事業を行う(第5条)。

  1. 保険給付に関する業務
  2. 保健事業及び福祉事業に関する業務
  3. 前二号に掲げる業務のほか、船員保険事業に関する業務であって厚生労働大臣が行う業務以外のもの
  4. 厚生労働大臣が有する、船舶所有者に対し文書その他の物件の提出若しくは提示を命じ、又は当該職員に船舶所有者の事務所若しくは船舶に立ち入り、関係者に質問させ、若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる権限に係る事務に関する業務
  5. 前各号に掲げる業務に附帯する業務

船員保険事業に関して船舶所有者及び被保険者の意見を聴き、当該事業の円滑な運営を図るため、協会に船員保険協議会を置く(第6条1項)。船員保険協議会の委員は、12人以内で、船舶所有者、被保険者、学識経験者のうちから、厚生労働大臣が任命する(第6条2項)。2016年現在、船員保険協議会の委員長は岩村正彦東京大学大学院教授が務めている。協会の理事長(以下「理事長」という。)は、次に掲げる事項の立案をしようとするときは、あらかじめ、船員保険協議会の意見を聴き、その意見を尊重しなければならない(第7条1項)ほか、船員保険協議会は、船員保険事業に関し、理事長の諮問に応じ、又は必要と認める事項について、理事長に建議することができる(第7条3項)。

  1. 定款(船員保険事業に係る部分に限る。)の変更
  2. 運営規則(船員保険事業に係る部分に限る。)の変更
  3. 協会の毎事業年度の事業計画並びに予算及び決算(船員保険事業に係る部分に限る。)
  4. 協会の重要な財産の処分又は重大な債務の負担(船員保険事業に係るものに限る。)
  5. その他船員保険事業に関する重要事項として厚生労働省令で定めるもの

協会は、政令で定めるところにより、船員保険事業に要する費用の支出に備えるため、毎事業年度末において、準備金を積み立てなければならない(第124条)。

国庫は、所定の保険給付に要する費用の一部や、予算の範囲内において事務の執行に要する費用を負担する(第112条)。またこれらのほか、国庫は予算の範囲内において、船員保険事業の執行に要する費用(船員法に規定する災害補償に相当する保険給付に要する費用を除く)の一部を補助する(第113条)。

被保険者[編集]

船員法第1条に規定する船員(船長、海員、予備船員)として船舶所有者に使用される者(下記の船舶に乗り込む者)を被保険者強制被保険者)とする。船員として船舶所有者に使用されるに至った日から、被保険者の資格を取得する(第11条)。

  • 船舶法に定める日本船舶
  • 日本船舶以外の船舶で、日本人若しくは日本法人が借り入れ、又は外国の港まで航海を請け負った船舶、日本政府が配乗を行っている船舶等
    • 以上の船舶のうち、5トン未満の船舶、又は内のみを航行する船舶、30トン未満の漁船の一部、スポーツ又はレクリエーションの用に共するヨット又はモーターボートは除く。

船舶所有者に使用されなくなったため、被保険者の資格を喪失した者であって、喪失の日の前日まで継続して2月以上被保険者であった者は、協会に申出て、継続して被保険者になることができる(疾病任意継続被保険者)。この申出は被保険者の資格を喪失した日から20日以内にしなければならない(第13条)。健康保険でいう任意継続被保険者に相当し、内容もほぼ任意継続被保険者と共通する。

船員保険の被保険者は、死亡した日、又は船員として船舶所有者に使用されなくなるに至った日の翌日(その事実があった日に更に被保険者の資格を取得するに至ったときは、その日)に被保険者資格を喪失する。なお健康保険や国民健康保険のように75歳に達しても、資格喪失しない(75歳以降は、上乗せ給付分を船員保険から給付し、それ以外の給付は後期高齢者医療制度から給付する。つまり二重に加入することになる)。

保険料[編集]

  • 一般保険料:疾病保険料と災害保険福祉保険料との合算。
  • 疾病保険料:船員保険事業に要する費用(保険給付、後期高齢者支援金、事務費用等)に充てる保険料(4.0%~13.0%。2016年現在9.6%)
  • 災害保険福祉保険料:労災保険の上乗せ給付等の費用に充てる保険料(1.0%~3.5%。2016年現在1.05%(75歳以上は0.88%、独立行政法人等に勤務する船員及び疾病任意継続被保険者は0.33%))
  • 介護保険料:協会が納付すべき介護納付金に基づいて設定する保険料(2016年現在1.68%)

保険料は被保険者の標準報酬月額及び標準賞与額に保険料率を乗ずることにより計算される。強制被保険者の保険料は労使折半で負担(災害保険福祉保険料は全額事業主負担)するのが原則である(第125条1項)。ただし疾病保険料については当分の間協会が定める率を控除するとされていて、実際には事業主負担のほうが重くなっている。いっぽう、疾病任意継続被保険者は保険料の全額を負担しなければならない(第126条)。

協会が保険料率を変更しようとするときは、あらかじめ、理事長が船員保険協議会の意見を聴いた上で、運営委員会の議を経なければならず、理事長は、この意見を尊重しなければならない。またその変更について厚生労働大臣の認可を受けなければならない(第121条)。

標準報酬月額[編集]

健康保険と同様、2016年4月現在、第1級58,000円(報酬月額が63,000円以下)〜第50級1,390,000円(報酬月額が1,355,000円以上)の50等級。被保険者の報酬の月額を等級区分に当てはめることによって決定する(第16条)。その算出は、汽船に乗り組む者と漁船に乗り組む者とで算式が異なっている。船員が随時改定・育児休業等終了時改定・産前産後休業終了時改定に該当した場合は、10日以内に変更届を日本年金機構に届け出なければならない(通常、厚生年金の変更届と併せて提出する)。

賞与についても、健康保険と同様に年度累計額573万円を超えた場合は、超過分について保険料賦課の対象にせず、当該年度の翌月分以降に受ける賞与の標準賞与額はゼロとなる(第21条)。

被保険者に係る届出[編集]

船舶所有者は、被保険者の資格の取得及び喪失並びに報酬月額及び賞与額に関する事項を厚生労働大臣に届け出なければならない(第24条)。厚生労働大臣は、被保険者の資格の得喪の確認又は標準報酬の決定若しくは改定を行ったときは、その旨を船舶所有者に通知しなければならない(第25条)。

船舶所有者や被保険者資格(疾病任意継続被保険者を除く)に関する届出については、基本的に厚生年金とセットになっているため、日本年金機構(実際は各船舶所有者の所在地を管轄する年金事務所)に行わなければならない。一方、被保険者証再発行、船員保険の給付関係及び疾病任意継続被保険者に関する届出については、船舶所有者の所在地や疾病任意継続被保険者の住所地がどこであったとしても、東京にある協会の船員保険部に行わなければならない(原則郵送申請。協会の各都道府県支部では船員保険事務を取り扱っていない)。

船員保険特有の給付[編集]

船員保険の保険給付は、基本的には健康保険と同内容[2]、労災保険の上乗せ給付として行われる(第29条)。船員保険独自の給付内容としては以下のものがある。

  • 療養の給付
健康保険における給付に加え、「自宅以外の場所における療養に必要な宿泊及び食事の支給」が行われる(第53条)。「自宅以外の・・・」については、職務外の事由だけでなく、職務上又は通勤による疾病又は負傷についても給付が行われるが、披扶養者に対しては行われない。
健康保険における「連続3日間の待期期間」要件が船員保険には設けられていない。したがって、労務に服することができなくなった初日から給付が行われる。また、健康保険では最長「1年6ヶ月」となっている支給期間は「3年」となっている(第69条)。
健康保険における「出産の日以前42日」要件は、船員保険では「出産の日以前において船員法第87条の規定により職務に服さなかった期間」となる。船員法第87条は妊娠中の女子の使用を禁じているので、実際には妊娠が判明した初日から給付が行われる(第74条)。
  • 行方不明手当金
被保険者が職務上の事由により1ヶ月以上行方不明になったとき、その被扶養者に対して、行方不明になった当時の本人の標準報酬日額相当を、行方不明になった日の翌日から3ヶ月間支給される(第93条)。
  • 休業手当金
労災保険における休業(補償)給付では支給されない最初の3日間についても標準報酬日額の全額が支給される。4日目以降も所定の計算による額が休業(補償)給付に上乗せされる(第85条)。
  • 障害年金・一時金・障害手当金、遺族年金・一時金
労災保険における各給付に加え、所定の計算による額が上乗せされる(第87条~第92条、第97条~第102条)
  • 下船後の療養補償
乗船中に発生した職務外の傷病について、下船日から3ヶ月目の末日まで、自己負担なしで療養を受けることができる(第66条、船員法第89条2項)。医療機関に船舶所有者の証明を受けた療養補償証明書を提出することにより行う。
  • 付加給付
協会は、政令で定めるところにより、健康保険の各給付に併せて、保険給付としてその他の給付(付加給付)を行うことができる(第30条)。

不服申立て[編集]

健康保険と手続きはほぼ同じである。すなわち、被保険者の資格、標準報酬又は保険給付に関する処分に不服がある者は、各地方厚生局に置かれる社会保険審査官に対して審査請求をすることができ、社会保険審査官の決定に不服がある者は、社会保険審査会に対して再審査請求をすることができる(二審制)。保険料の賦課もしくは徴収の処分又は滞納処分に不服がある者は、社会保険審査会に対して審査請求をすることができる(一審制)。健康保険#不服申立ても参照。

脚注[編集]

  1. ^ 平成25年度 国民医療費の概況 (Report). 厚生労働省. (2012-10-08). http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/13/index.html. 
  2. ^ 健康保険でいう「埋葬料」「家族埋葬料」は船員保険では「葬祭料」「家族葬祭料」という。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]