労働時間

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経済協力開発機構(OECD)の報告による
各国の例年労働時間

労働時間(ろうどうじかん)とは、使用者または監督者の下で労働に服しなければならない時間のことを指す。労働者が使用者の下で労働に服するにあたり、労働者は使用者の指揮命令下におかれ、その間の時間を労働のために費やすこととなる。つまり、労働者はこの時間において使用者によって拘束され、労働者の行動は大きく制限される。

カール・マルクスの『資本論』においては、資本家に対して労働者が己の労働力そして時間を売り、その対価として資本家から賃金を得るものとされている。

各国の労働時間[編集]

国際労働機関(ILO)において、第1号条約[1]工業の労働時間は8時間/日、48時間/週を超えてはならないと決められており、また第30号条約[2]などにより商業および他の業種も同じ程度の労働時間が決められている。時間外労働(残業)は厳しく制限されており、時間外労働を毎日させることは出来ないことになっている。

世界の労働時間は1980年以降、減少傾向にある国と横ばいで推移する国とに二分される。2004年度のOECDの報告において、OECD加盟諸国のうちで労働者の就労時間が最も長いのは、年間2390時間を計上した大韓民国であった。次点が1984時間のポーランド、更にメキシコチェコ日本ギリシャアメリカ合衆国と続く。

独立行政法人労働政策研究・研修機構発行「データブック国際労働比較2014」によれば、主要諸外国についても減少、横ばい傾向となっており、2012年にはイタリアで1,752時間、アメリカで1,790時間、日本で1,745時間、イギリスで1,654時間、スウェーデンで1,621時間、フランスで1,479時間、ドイツで1,397時間などとなっている[3]

日本[編集]

日本では、日本国憲法第27条2項の規定を受け、労働基準法(昭和22年4月7日法律49号)等により、割増賃金の不要な法定労働時間の上限やその計算方法が定められている。時間外労働を含めた実労働時間の上限は定められてはいない。

労働基準法に定められた労働時間を法定労働時間就業規則などに決められた労働時間から休憩時間を除いた時間を所定労働時間という。法定労働時間または所定労働時間のいずれか長い時間を越えた時間外労働の時間を法定外労働時間、所定労働時間を越え法定労働時間未満を所定外労働時間ということがある。また、就業時間は、労働時間、特に所定労働時間の意味でもちいられる。なお、労働時間を1日あたりに割り振った場合の1日単位を労働日という。

始業及び終業の時刻、休憩時間に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項となっているため、使用者は就業規則にこれらに関する事項を必ず記載しなければならない(第89条)。また、労働条件絶対的明示事項ともされていて(第15条件)、使用者は労働契約締結に際し書面でこれらに関する事項を明示しなければならない。

労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有している。使用者が行う始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法としては、使用者が自ら現認することにより確認し、適正に記録すること又はタイムカードICカードパソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し記録することを求めている(平成29年1月20日労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)。これらの方法によることなく、自己申告制により行わざるを得ない場合、使用者は、次の措置を講ずることとされる(平成29年1月20日労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)。

  • 自己申告制の対象となる労働者に対して、ガイドラインを踏まえ、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
  • 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと。
  • 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
  • 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。
  • 自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。さらに、労働基準法の定める法定労働時間や三六協定により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること

労働時間の記録に関する書類(労働者名簿賃金台帳のみならず、出勤簿タイムカード等を含む)は、第109条でいう「その他労働関係に関する重要な書類」に該当し、使用者は3年間の保存義務がある(平成29年1月20日労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)。

一方で、日本はILOの労働時間に関する条約(1号、30号、153号など)を1つも批准していない。法定労働時間は例外が規定されており、三六協定などを用いれば労働時間に事実上、上限は無い。深夜12時を過ぎる残業や翌朝までの残業が行われているケースもあり、著しい長時間労働は労働者の健康を害し、うつ病などの精神疾患過労死自殺の原因となっている。こうしたことから、 事業主は、労働時間等[4]の設定の改善を図るため、必要な措置を講ずるよう努めなければならない とする「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」(時限立法であった「労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法」を改正し、恒久化して成立)が平成18年4月1日から施行されている。同法により、事業主は、労働時間等の設定に当たっては、その雇用する労働者のうち、その心身の状況及びその労働時間等に関する実情に照らして、健康の保持に努める必要があると認められる労働者に対して、休暇の付与その他の必要な措置を講ずるように努めるほか、その雇用する労働者のうち、その子の養育又は家族の介護を行う労働者、単身赴任者、自ら職業に関する教育訓練を受ける労働者その他の特に配慮を必要とする労働者について、その事情を考慮してこれを行う等その改善に努めなければならないとされる(同法第2条)。

法定労働時間[編集]

第32条(労働時間)

  1. 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
  2. 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

昭和63年の法改正で上の原則を打ち立て、移行措置を設けながら平成9年に例外を除き完全実施となった。一方、各種の変形労働時間制をあわせて導入し、柔軟な労働時間の枠組みを定めることで変則的な業務形態に対応させ、もって所定労働時間の短縮を促した。労働時間の規制は1週間単位での規制を基本として1週間の労働時間を短縮し、1日の労働時間は1週間の労働時間を各日に割り振る場合の上限として考えるものである。1週間の法定労働時間と1日の法定労働時間とを項を分けて規定することとしたが、いずれも法定労働時間であることに変わりはなく、使用者は、労働者に、法定除外事由なく、1週間の法定労働時間及び1日の法定労働時間を超えて労働させてはならないものである(昭和63年1月1日基発1号)。

「1週間」は、就業規則等に特段の定めがない限り、日曜日から土曜日までのいわゆる暦週をいう。「1日」は、午前0時から午後12時までのいわゆる暦日をいう。ただし継続勤務が2暦日にわたる場合は、たとえ暦日を異にする場合であっても1勤務として扱い、始業時刻の属する日の労働としての「1日」となる(昭和63年1月1日基発1号)。

特例事業[編集]

常時10人未満の労働者を使用する事業場であって次の業種については、平成13年(2001年)3月31日までは1週間の労働時間が46時間、平成13年4月1日からは1週44時間の特例として認められている(規則第25条の2)。これら特例であっても変形労働時間制は1箇月単位または、フレックスタイム制に限り認められる(昭和63年1月1日基発1号)。1年単位、1週間単位の変形労働時間制においては、特例事業であっても週40時間となる。

  • 商業
    • 卸売、小売、理美容、倉庫、駐車場・不動産管理、出版業(ただし印刷部門を除く)等
  • 映画演劇業
    • 映画撮影、演劇、その他興業等(ただし映画作成、ビデオ製作を除く
  • 保健衛生業
    • 病院、診療所、歯科医院、保育所、老人ホーム、浴場(ただし個室浴場を除く)等
  • 接客娯楽業
    • 旅館、飲食店、ゴルフ場、公園遊園地等

満18歳未満の年少者については、特例事業であっても週40時間となり、変形労働時間制も適用しない(第60条、61条)。代わりに、満15歳以上(満15歳に達した日以後の最初の3月31日までの間を除く)の者については、週40時間を超えない範囲内において、1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮する場合において、他の日の労働時間を10時間まで延長することは認められる(第60条3項)。

休憩時間[編集]

第34条(休憩)

  1. 使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
  2. 前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、この限りでない。
  3. 使用者は、第1項の休憩時間を自由に利用させなければならない。

休憩時間とは単に作業に従事しない手持時間を含まず労働者の権利として労働から離れることを保障されて居る時間の意であって、その他の拘束時間は労働時間として取り扱う(昭和22年9月13日発基第17号)。労働時間中に与えられる休憩時間については、第34条において、以下の3原則が示されている。

  1. 途中付与の原則(1項)
    休憩時間は、労働時間の途中に与えなければならず、勤務時間の始めまたは終わりに与えることは第34条違反となる。この原則には法令上の例外は一切認められていない。
  2. 一斉付与の原則(2項)
    休憩時間は一斉に与えなければならない。ただし当該事業所に労使協定がある場合はこの限りではない。この労使協定には「一斉に休憩を与えない労働者の範囲」及び「当該労働者に対する休憩の与え方」について協定しなければならない(規則第15条)。派遣労働者がいる場合、派遣先の使用者は派遣労働者も含めて一斉に与えなければならない。派遣労働者を一斉付与の対象としないこととする場合には、派遣先の事業場で労使協定を締結する必要がある(昭和61年6月6日基発333号)。なお、以下のものについては、労使協定を締結しなくても、休憩を一斉に付与しなくてよい。
    • 坑内労働の場合(第38条2項により、休憩時間も含めて労働時間と算定される)
    • 運輸交通業、商業、金融広告業、映画演劇業、通信業、保健衛生業、接客娯楽業又は官公署の事業の場合(規則第31条)
    法制定当初は一斉休憩の例外適用には行政官庁の許可が必要とされていたが、平成11年4月の改正法施行により許可制は廃止され、労使の自主的な話合いの上、職場の実情に応じた労使協定の締結により例外適用が可能となった(平成11年1月29日基発45号)。
  3. 自由利用の原則(3項)
    使用者は、休憩時間を自由に利用させなければならない。もっとも、事業場の規律保持上必要な制限を加えることは、休憩の目的を害しない限り差し支えない(昭和22年9月13日発基第17号、最判昭和52年12月13日)。休憩時間中の外出を許可制とすることは、事業場内において自由に休息しうる場合であれば差支えない(昭和23年10月30日基発1575号)。なお、以下のものについては、休憩を自由利用させなくても差支えない。
    • 坑内労働をしている者(第38条2項により、休憩時間も含めて労働時間と算定される)
    • 警察官消防吏員、常勤の消防団員、児童自立支援施設に勤務する職員で児童と起居を共にする者(規則第33条1項1号、3号)
    • 乳児院児童養護施設・障害児入所施設に勤務する職員で児童と起居を共にする者であって使用者があらかじめ行政官庁(所轄労働基準監督署長)の許可を受けた者(規則第33条1項2号)
      • 「児童と起居を共にする者」とは、交代制あるいは通勤の者を含まない趣旨であって、保育士看護師等で四六時中児童と生活を共にする者をいう(昭和27年9月20日基発675号)。

労働時間が6時間以下の者については休憩を与えなくてもよい、労働時間が6時間1分以上8時間以下の者については45分の休憩を与えれば違法ではない。また時間外労働が何時間であっても、1時間の休憩を与えれば違法ではない(昭和26年10月23日基収5058号)。一昼夜交代制(二日間の所定労働時間を継続して勤務する場合)であっても、法律上は1時間の休憩を与えればよい(昭和23年5月10日基収1582号)。

以下の者については、休憩を付与しなくてもよい。

  • 第41条該当者
  • 列車自動車等の運転手車掌等の乗務員(列車内販売員はこれに含まれない)のうち、6時間を超える長距離区間に連続して乗務するもの又は業務の性質上休憩時間を与えることができず、かつ停車時間や待合時間等の合計が法定の休憩時間に相当するもの(規則第32条)
  • 屋内勤務者30人未満の日本郵便の営業所(郵便窓口業務を行うものに限る)において郵便の業務に従事するもの(規則第32条)

労働時間の計算・範囲[編集]

第38条(時間計算)

  1. 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
  2. 坑内労働については、労働者が坑口に入った時刻から坑口を出た時刻までの時間を、休憩時間を含め労働時間とみなす。但し、この場合においては、第34条第2項及び第3項の休憩に関する規定は適用しない。

「事業場を異にする場合」には、事業主を異にする場合も含む(昭和23年5月14日基発769号)。事業主Aのもとで8時間労働し、その後に事業主Bに雇われて労働に従事する場合、Bは三六協定等、時間外労働に係る所定の手続きが必要である(昭和23年10月14日基収2117号)。派遣労働者が一定期間内に相前後して複数の事業場に派遣された場合、労働時間の規定の適用については、それぞれの派遣先の事情場において労働した時間を通算する(昭和61年6月6日基発333号)。

使用者が一団として入坑及び出坑する労働者に関し、その入坑開始から入坑終了までの時間について様式第11号によって所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合には、第38条2項の規定の適用については、入坑終了から出坑終了までの時間を、その団に属する労働者の労働時間とみなす(規則第24条)。

第32条の労働時間とは、労働者が使用者の明示または黙示の指示によって、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう(最一小判平成12年3月9日[5]、最一小判昭和56年10月18日[6])。労働時間に該当するかどうかは、労働者の行為が使用者の指揮命令下におかれたと評価することができるかどうかによって客観的に定まるものであり、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではない。労働者が使用者によって直接的に強制されている、つまり使用者の指揮監督下にある行動に要する時間は基本的に全て労働時間に該当する[5][6]

就業前の準備や清掃のほか朝礼に要する時間、就業後の終礼や後片付けの時間、指定されたの制服や作業服への着替え(あるいは終業後の通勤着への着替え)のほか装備品着脱に要する時間、更衣室等から作業所までの往復の移動時間も、使用者の指揮命令下に労働者が置かれている限り労働時間に含まれる[5]。就業規則に、始業時刻と同時に業務を開始すべき旨の定めがある場合には、業務(更衣等を含む)の開始時点が労働時間の起算点となり、会社への入門から始業時刻までの時間は、労働時間には該当しない(東京高判昭和59年10月31日)。

朝礼や終礼への参加が労働者の任意であったり、ボランティアで清掃を行うような場合は、直接の強制を伴っておらず使用者の指揮命令下に置かれていないと解されるので、労働時間には含まれない。ただし、たとえそれらの行動が労働者の任意としていても、不参加の労働者に対し使用者が不利な取り扱いをする場合は事実上直接強制しているのであり使用者の指揮命令下に置かれていると解されるため、労働時間に含まれることになる(昭和23年7月13日基発第1018号・第1019号)。

休憩時間は労働時間に含まれない。ただし、事実上の休憩時間であっても労働者が使用者の一定の指揮命令下に置かれている場合は休憩時間とは見なされず労働時間に含まれる。休憩時間中に来客対応や電話対応をさせる場合(昭和23年4月7日基収1196号、昭和63年3月14日基発150号)[7]、使用者または監督者のもとで労働はしていないがいつでも労働できる待機状態である時間(手待ち時間 例:タクシーの客待ち時間。昭和22年9月13日基発17号)は、出勤を命ぜられ、一定の場所に拘束されている以上、そのような時間も労働時間に含まれる。

労働安全衛生法による特殊健康診断の実施に要する時間、安全衛生教育の実施に要する時間、安全委員会・衛生委員会の実施に要する時間は、労働時間として扱われる(昭和47年9月18日、旧労働省労働基準局長名通達602号)。一方、同法による一般健康診断の時間や、その後の面接指導については当然には労働時間とはならず、労働時間として扱うか否かは労使の協議に委ねられる。

宿直勤務などの仮眠時間も、その時間内に何かあれば対応しなければならない義務がある場合などは「指揮命令下に置かれている」とされ、労働時間とされる(大星ビル管理事件、最判平成14年2月28日)。ただし、労働基準監督署から「監視・断続的労働に従事する者に対する適用除外」の許可を受けた事業所では、通常の労働時間法規が適用されなくなり、仮眠時間は法規上の労働時間とはならない(後述)。

実作業に従事していない時間(以下「不活動時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かによって客観的に定まる。不活動時間であっても労働からの解放が保障されている場合は労働時間には該当しないが、労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たる。労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているとはいえないのである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下というべきであり、この場合は労働時間に該当する。参加することが業務上義務づけられてい研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務必要な学習等を行っていた時間は、労働時間として扱われる(平成29年1月20日労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)。

労働時間の特例・適用除外[編集]

第40条(労働時間及び休憩の特例)

  1. 別表第一第1号から第3号まで、第6号及び第7号に掲げる事業以外の事業で、公衆の不便を避けるために必要なものその他特殊の必要あるものについては、その必要避くべからざる限度で、第32条から第32条の5までの労働時間及び第34条の休憩に関する規定について、厚生労働省令で別段の定めをすることができる。
  2. 前項の規定による別段の定めは、この法律で定める基準に近いものであって、労働者の健康及び福祉を害しないものでなければならない。

第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)

この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
  1. 別表第一第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
  2. 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
  3. 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
    • 第3号の許可は、従事する労働の態様及び員数について、様式第14号によって、所轄労働基準監督署長より、これを受けなければならない(規則第34条)。

第41条該当者については、法定労働時間を超えて労働させることができ、時間外労働・休日労働に対する割増賃金の支払義務も発生しない。また、法定の休憩や休日を与えなくても違法とならない。一方、深夜業年次有給休暇産前産後休業、育児時間、生理休暇の規定はこれらの者にも適用される(昭和63年3月14日基発150号)。また労働時間に係る規定が適用されないこれらの者やみなし労働時間制が適用される労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務がある(平成29年1月20日労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)。

「監督又は管理の地位にある者」とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいう。具体的には、職務内容、権限及び責任に照らし、企業全体の事業経営にどのように関与しているか、その勤務態様が労働時間等に関する規制になじまないものであるか否か、給与及び一時金において管理監督者にふさわしい待遇がされているか否か、などの点から、資格及び職位の名称にとらわれることなく実態に即して判断すべきである(昭和22年9月13日基発17号、昭和63年3月14日基発150号)[8]。企業が人事管理上あるいは営業政策上の必要等から任命する職制上の役付者であればすべてが管理監督者として例外的扱いが認められるものではない。これらの職制上の役付者のうち、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な責任と職務を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って第41条による適用除外が認められる趣旨である。

労働安全衛生法に定める安全管理者衛生管理者が「監督又は管理の地位にある者」に該当するか否かは、個々の当該管理者の労働の態様によって判断する(昭和23年12月3日基収3271号)。

小売業、飲食業等において、いわゆるチェーン店の形態により相当数の店舗を展開して事業活動を行う企業における比較的小規模の店舗においては、店長等の少数の正社員と多数のアルバイト・パート等により運営されている実態がみられるが、この店舗の店長等が管理監督者に該当するか否かについては、店舗における実態を踏まえ、以下の通り判断する(平成20年9月9日基発0909001号)。なお、以下の内容は、いずれも管理監督者性を否定する要素に係るものであるが、これらの否定要素が認められない場合であっても、直ちに管理監督者性が肯定されることになるものではない。

  • 店舗に所属するアルバイト・パート等の採用(人選のみを行う場合も含む。)・解雇に関する責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
  • 店舗における勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
  • 遅刻、早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。ただし、管理監督者であっても過重労働による健康障害防止や深夜業に対する割増賃金の支払の観点から労働時間の把握や管理が行われることから、これらの観点から労働時間の把握や管理を受けている場合については管理監督者性を否定する要素とはならない。
  • 営業時間中は店舗に常駐しなければならない、あるいはアルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合のように、実際には労働時間に関する裁量がほとんどないと認められる場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
  • 管理監督者としての職務も行うが、会社から配布されたマニュアルに従った業務に従事しているなど労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
  • 基本給、役職手当等の優遇措置が、実際の労働時間数を勘案した場合に、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく、当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められるときは、管理監督者性を否定する補強要素となる。
  • 一年間に支払われた賃金の総額が、勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず、他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
  • 実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額において、店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となる。

「機密の事務を取り扱う者」とは、秘書その他職務が管理監督者の活動と一体不可分であり、厳格な労働時間管理になじまない者をいう(昭和22年9月13日基発17号)。

「監視に従事する者」とは、一定部署にあって監視を本来の業務とし、常態として身体の疲労又は精神的緊張の少ない業務に従事する者について許可される。したがって以下の者は許可されない(昭和22年9月13日基発17号、昭和63年3月14日基発150号)。

  • 交通関係の監視、車両誘導を行う駐車場の監視等精神的緊張の高い業務
  • プラント等における計器類を常態として監視する業務
  • 危険または有害な場所における業務

「断続的労働に従事する者」とは、休憩時間は少ないが手待ち時間が多い者をいう。その許可はおおむね以下のような取り扱いとなる(昭和22年9月13日基発17号、昭和23年4月5日基発535号、昭和63年3月14日基発150号)。

  • 修繕係等通常は業務閑散であるが、事故発生に備えて待機する者は許可する。
  • 寄宿舎の賄い人等は、その者の勤務時間を基礎として作業時間と手待ち時間折半の程度までは許可する。ただし、実労働時間の合計が8時間を超える場合は許可すべき限りではない。
  • 鉄道踏切番等については、1日交通量10往復程度まで許可する。
  • その他特に危険な業務に従事する者については許可しない(具体例として、タクシー運転手(昭和23年4月5日基収1372号)、常備消防団員(昭和23年5月5日基収1540号)、高圧線の保守等危険業務従事者[9](昭和23年11月25日基収3998号))。
  • 断続労働と通常の労働とが一日の中において混在し、又は日によって反復するような場合には、許可すべき限りではない(具体例として、新聞配達員(昭和23年2月24日基発356号))。
  • 派遣労働者については、派遣先が許可を受けた場合には、当該許可に係る業務に派遣中の労働者を従事させる場合には、労働時間等の規定に基づく義務を負わない。すでに許可を受けている場合には、派遣中の労働者に関して別途に許可を受ける必要はない(昭和61年6月6日基発333号)。

「監視又は断続的労働に従事する」とは、必ずしもそれを本来の業務とするものに限らず、宿日直業務の如く本来の業務外において附随的に従事する場合も含む(昭和35年8月25日基収6438号)。使用者は、宿直又は日直の勤務で断続的な業務について、様式第10号によって、所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は、これに従事する労働者を、第32条の規定にかかわらず、使用することができる、とされ(規則第23条)[10]、宿日直勤務の許可基準は以下の通りである(昭和22年9月13日発基17号、昭和63年3月14日基発150号)。

  • 常態として、ほとんど労働をする必要のない勤務のみを認めるものであって、定時的巡視、緊急の電話または文書の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするものに限って許可する。
  • 原則として、通常の労働の継続は許可しない
  • 宿日直の勤務に対して相当の手当が支給されること。
  • 宿直については週一回、日直については月一回を限度とすること(宿日直を行いうるすべての者に宿日直をさせてもなお不足であり、かつ勤務の労働密度が特に薄い場合を除く)。
  • 宿直については、相当の睡眠設備を設置すること。
  • 満18歳未満の者については原則として許可しない(昭和23年6月16日収監733号)。

育児介護休業法による規定[編集]

事業主は、その雇用する労働者(日々雇用される者を除く)のうち、その3歳に満たない子を養育する労働者であって育児休業をしていないもの(1日の所定労働時間が6時間以下の労働者を除く)に関して、労働者の申出に基づき所定労働時間を短縮することにより当該労働者が就業しつつ当該子を養育することを容易にするための措置を講じなければならない(育児介護休業法第23条1項)。ただし労使協定に定めることにより以下の労働者については短縮措置の申出を認めないことができる。

  • 当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者
  • 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
  • 業務の性質又は業務の実施体制に照らして、所定労働時間の短縮措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者(この者に短縮措置を講じないときは、代わりに始業時刻変更等の措置を講じなければならない)

事業主は、その雇用する労働者(日々雇用される者を除く)のうち、その要介護状態にある対象家族を介護する労働者に関して、労働者の申出に基づく連続する93日以上の期間における所定労働時間を短縮することにより当該労働者が就業しつつ当該対象家族を介護することを容易にするための措置を講じなければならない(育児介護休業法第23条3項)。当該労働者は介護休業の取得日数とは別に、3年以上の期間において介護のための所定労働時間の短縮等の措置を2回以上利用することができる。

事業主は、労働者が所定労働時間の短縮措置等の申出をし、又は短縮措置が講じられたことを理由として、当該労働者に解雇その他の不利益な取扱いをしてはならない(育児介護休業法第23条の2)。

船員法による規定[編集]

船員船員法第1条に規定する船員)には労働基準法の労働時間に関する規定は適用されないが(第116条)、別途船員法によって労働時間等に関する定めを置いている。

  • 船員の一日当たりの労働時間は、8時間以内とし、一週間当たりの労働時間は、基準労働期間について平均40時間以内とする(船員法第60条)。ここでいう「基準労働期間」とは、船舶の航行区域、航路その他の航海の期間及び態様に係る事項を勘案して国土交通省令で定める船舶の区分に応じて一年以下の範囲内において国土交通省令で定める期間(船舶所有者が就業規則その他これに準ずるものにより当該期間の範囲内においてこれと異なる期間を定めた場合又は労働協約により一年以下の範囲内においてこれらと異なる期間が定められた場合には、それぞれその定められた期間)をいう。船員労働の特殊性にかんがみ、一般の労働者とは異なる労働時間配分が規定されている。
  • 船舶所有者は、休息時間(一日のうち、労働時間を除いた時間をいう)を一日について3回以上に分割して船員に与えてはならず、船舶所有者は、前項に規定する休息時間を一日について2回に分割して船員に与える場合において、休息時間のうち、いずれか長い方の休息時間を6時間以上としなければならない。ただし、労使協定を国土交通大臣に届け出た場合においては、その協定で定めるところにより、休息時間を、一日について3回以上に分割して、又は休息時間のうちいずれか長い方の休息時間を6時間未満として、船員(海員にあつては、次に掲げる者に限る。)に与えることができる(船員法第65条の3)。
    • 船舶が狭い水路を通過するため航海当直の員数を増加する必要がある場合その他の国土交通省令で定める特別の安全上の必要がある場合において作業に従事する海員
    • 定期的に短距離の航路に就航するため入出港が頻繁である船舶その他のその航海の態様が特殊であるため船員が前二項の規定によることが著しく不適当な職務に従事することとなると認められる船舶で国土交通大臣の指定するものに乗り組む海員

日本における動向[編集]

長期的には、昭和35年(2,432時間)ごろをピークとして高度経済成長期に労働時間の短縮が進み、昭和50年(2,064時間)以降は横ばい、平成期以降に再度短縮傾向という流れで推移している。平成4年に成立した時限立法の「労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法」とその延長により、閣議決定で目標としていた年間総実労働時間1,800時間をほぼ達成できた。もっともこれは一般労働者(パートタイム労働者以外の者)についてほぼ横ばいで推移するなかで、平成8年頃からパートタイム労働者比率が高まったこと等がその要因と考えられ、正社員については平成期においても2,000時間前後での推移が続いている。また週の労働時間が60時間以上の労働者割合も、特に30歳代男性で16.0%に上っており、労働時間分布の長短二極分化の進展や、年次有給休暇の取得率の低下傾向といった問題も発生しているため、一律目標による時短促進ではなく、労使による自主的な改善を目指す法改正(「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」として恒久化)が行われた。

厚生労働省「毎月勤労統計調査」によれば、平成25年の年間総実労働時間は、事業所規模30人以上では1,792時間、事業所規模5人以上では1,746時間となっていて、前年より微減となっている。ここ数年、1,800時間程度での横ばいが続いている[11]。厚生労働省「平成27年版労働経済白書」によれば、1週間当たりの労働時間数が増えるほど労働者の労働時間に対する満足度について不満と考える割合が高まり、週40時間以下では不満と考える割合が17.0%なのに対し週60時間以上では70.8%と大きく上昇している。また健康に対する不安を感じる者の割合は週40時間以下では36.9%なのに対し週間60時間以上では69.9%と大きく上昇している。

脚注[編集]

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  1. ^ ILO第1号条約 - 国際労働機関
  2. ^ ILO第30号条約 - 国際労働機関
  3. ^ データは一国の時系列比較のために作成されており、データ源の違いから特定年の平均年間労働時間水準の各国間比較には適さないことに留意する必要がある。例えば韓国は2012年のデータがない。
  4. ^ 「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」において、「労働時間等」とは、労働時間、休日及び年次有給休暇その他の休暇をいう(同法第1条の2)。
  5. ^ a b c 平成12年3月9日 最高裁判所第1小法廷判決 三菱重工業長崎造船所事件
  6. ^ a b 昭和56年10月18日 最高裁判所第一小法廷判決 日野自動車工業事件
  7. ^ Q7 休憩時間についてはどのような法規制がありますか。” (日本語). 独立行政法人 労働政策研究・研修機構 (2011年3月). 2011年10月30日閲覧。
  8. ^ 管理監督者として認められた例は、人事第二課長として看護師の採用・配置に携わった医療法人徳洲会事件(大阪地判昭和62年3月31日)、認められなかった例として、取締役工場長でありながら役員会に招かれず役員報酬も支払われなかった橘屋事件(大阪地判昭和40年5月22日)、店長でありながら権限は店舗内に限られ重要な職務と権限を付与されているとは認められないとした日本マクドナルド事件(東京地判平成20年1月28日)など。
  9. ^ 労働安全衛生法令に定める「危険業務」に従事することのみでは、直ちには該当しない(昭和23年11月25日基収3998号)。
  10. ^ 規則第23条は、法第41条3号に係る解釈規定であり、労働条件の基準を「法律」によって定める(「命令」等の形式により得ない)ことを宣言した日本国憲法第27条に違反しない(昭和35年8月25日基収6438号)。
  11. ^ ただし、統計の基礎となる回答にいわゆる「サービス残業」時間は含めない回答をした場合、その時間は統計に反映されない。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]