厚生年金

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厚生年金(こうせいねんきん)とは、厚生年金保険法に基づき、主として日本の民間企業の労働者が加入する公的年金制度である。厚生年金は、基礎年金たる国民年金(1階部分)にさらに上乗せして支給される(2階部分)ものであり、その保険料の一部は、自動的に国民年金へ拠出されている。したがって一般的には、厚生年金加入者は、国民年金にも自動的に加入していることになる(国民年金第2号被保険者となる)[1]厚生年金基金等の企業年金(3階部分)は、対象者についてさらに上乗せする制度である。

  • 厚生年金保険法について、以下では条数のみ記す。

目的・管掌[編集]

厚生年金保険は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする(第1条)。健康保険とは異なり業務上・通勤途上の災害によるものをも給付対象とするが労働者災害補償保険による給付との間に調整がある。

「厚生年金保険は、政府が、管掌する」と定められ(第2条)、厚生労働大臣がその責任者となるが、実際の運営事務のほとんどは日本年金機構(以下、機構と略する)に委任・委託されている。また、厚生年金基金に係る権限、機構が滞納処分を行う場合の認可等については地方厚生局長等に委任されている。なお、公的年金の運用は年金積立金管理運用独立行政法人が行っている。

2015年平成27年)10月より厚生年金と共済年金とが統合された(被用者年金一元化)ことにより、各被保険者区分ごとの資格、標準報酬、事業所および被保険者期間、それぞれの被保険者期間に基づく保険給付、当該保険給付の受給権者、それぞれの被保険者に係る基礎年金拠出金の負担又は納付、それぞれの被保険者期間に係る保険料等の徴収金ならびにそれぞれの被保険者の保険料に係る運用に関する事務は、厚生年金被保険者の種別に応じて、それぞれの実施機関が行うこととなった(第2条の5)。

厚生年金保険の加入者は、2012年平成24年)度末現在で3,472万人(男性2,228万人、女性1,244万人)であり、これは国民年金第1号被保険者(1,864万人)と第3号被保険者(960万人)の合計より多い。また共済組合員(440万人)も合わせた第2号被保険者の総数は3,912万人となっている[2]。厚生年金積立金は2013年(平成25年)度末の時価ベースで123.6兆円であり、国民年金積立金8.4兆円と合わせた132兆円が一体として運用されている[3]

適用事業所[編集]

厚生年金の手続きは、通常健康保険とセットでなされることから、適用事業所の要件は健康保険とほぼ共通している(第6条)。健康保険#適用事業所も参照。

厚生年金の強制適用事業所は、健康保険の強制適用事業所と共通であるが、厚生年金ではさらに、「船員法第1条に規定する船員として船舶所有者に使用される者が乗り組む船舶」も強制適用事業所とされる[4]

強制適用事業所以外の事業所の事業主は、厚生労働大臣の認可を受けて、当該事業所を適用事業所(任意適用事業所)とすることができる。この認可を受けようとするときは、事業主は当該事業所に使用される者(適用除外者を除く)の2分の1以上の同意を得て厚生労働大臣に申請しなければならない。また、船舶以外の強制適用事業所が強制適用の要件を欠くに至ったときは、自動的に任意適用事業所の認可があったものとみなされる(第7条)。認可のあった日に、その事業所に使用される70歳未満の者は、適用除外者を除き、任意加入に不同意であった者も含めて被保険者の資格を取得する(第13条)。なお労災保険雇用保険とは異なり、労働者からの希望があっても事業主が当該事業所を適用事業所とする義務はない。

任意適用事業所が当該事業所を適用事業所でなくするためには、当該事業所に使用される者(適用除外者を除く)の4分の3以上の同意を得て厚生労働大臣に申請しなければならない(第8条)。厚生労働大臣の認可のあった日の翌日に、適用事業所としての法律関係は消滅し、被保険者は脱退に不同意であった者も含めて被保険者の資格を喪失する(第14条)。

船舶以外の、2以上の適用事業所の事業主が同一である場合には、事業主は厚生労働大臣の承認を受けて、当該2以上の事業所を一の適用事業所とすることができる(一括適用事業所、第8条の2)。本社管理の場合も健康保険と同様である。一方、2以上の船舶の船舶所有者が同一である場合は、厚生労働大臣の承認を受けることなく、自動的に一の適用事業所とされる(第8条の3)。

新規に強制適用事業所に該当したとき、適用事業所を休止・廃止等したときは、5日以内(船舶は10日以内)に機構に届け出なければならない。この届出は、健康保険(船舶は船員保険)の届出書に併記して行うこととされる(規則第13条)。事業所の名称・所在地等に変更があったときは、5日以内(船舶は速やかに)に機構に届け出なければならないが、この届出は健康保険(船員保険)の届出をしたときは厚生年金についても届出をしたものとみなされる。

被保険者[編集]

適用事業所に使用される70歳未満の者は、適用除外に該当しない限り、厚生年金の当然被保険者となる(第9条)。法人の代表者、業務執行者、法人でない組合の70歳未満の組合長についても、労働の対価として報酬を受けている場合は、原則として被保険者となる。

被用者年金一元化により、被保険者は、次の4つの種別に区分される(第2条の5)。同一の適用事業所においてこれらの種別に変更が生じた場合は、各種別ごとに被保険者資格の取得・喪失の手続きが必要となる(第13条・第14条)。また第2号・第3号・第4号厚生年金被保険者は同時に第1号厚生年金被保険者の資格を取得せず、第1号厚生年金被保険者が同時に第2号・第3号・第4号厚生年金被保険者資格を取得した場合は、その日に第1号厚生年金被保険者の資格を喪失する(第18条の2)。なお第2号・第3号・第4号厚生年金被保険者の資格の取得・喪失については厚生労働大臣の確認は必要としない(第18条4項)。

適用事業所以外の事業所に使用される70歳未満の者は、適用除外に該当しない限り、厚生労働大臣の認可を受けて、厚生年金の任意単独被保険者となる。この認可を受けるには、当該事業所の事業主の同意を得なければならない(第10条)。被保険者期間の長短は問わず、またすでに老齢厚生年金の受給資格を有する場合であってもなることはできる。なお、任意単独被保険者は厚生労働大臣の認可を受けてその資格を喪失することができるが、その場合は事業主の同意は不要である(第11条)。ただし、強制適用事業所がその要件に該当しなくなったからといって、その事業所に使用される者が自動的に任意単独被保険者となるわけではない。

1985年昭和60年)改正前の旧法においては、以下のように被保険者種別が区分されていた。経過措置として規定の一部が残存する。

  • 第1種被保険者・・男子である被保険者であって、第3種被保険者、第4種被保険者及び船員任意継続被保険者以外のもの。
  • 第2種被保険者・・女子である被保険者であって、第3種被保険者、第4種被保険者及び船員任意継続被保険者以外のもの。
  • 第3種被保険者・・鉱業法第4条に規定する事業の事業場に使用され、かつ、常時坑内作業に従事する被保険者または船員法第1条に規定する船員として同法第6条1項3号に規定する船舶に使用される被保険者であって、第4種被保険者、および船員任意継続被保険者以外のもの。
  • 第4種被保険者・・任意継続被保険者(10年以上の加入期間を有する者は、退職後も、旧老齢年金の受給資格期間(原則20年)を満たすまで加入することを認めていた)。
  • 船員任意継続被保険者

被保険者期間を計算する場合には、月によるものとし、被保険者の資格を取得した月からその資格を喪失した月の前月までをこれに算入する。被保険者の資格を取得した月にその資格を喪失したときは、その月を1ヶ月として被保険者期間に算入する。但し、その月にさらに被保険者又は国民年金の被保険者(国民年金第2号被保険者を除く)の資格を取得したときは、この限りでない(第19条)。この規定は被保険者種別ごとに適用し、同一月において被保険者種別に変更があったときはその月は変更後の種別(2回以上変更があった場合は、その最後の種別)の被保険者であった月とみなす。

  • 例えば、月の途中で民間企業(厚生年金、国民年金第2号被保険者)を退職し、自営業(国民年金第1号被保険者)となった場合、従来はその月は厚生年金の被保険者としての1ヶ月として計算され、保険料は厚生年金の1ヶ月分、国民年金の1ヶ月分の両方が徴収されていたが、2015年(平成27年)10月からは国民年金第1号被保険者としての1ヶ月として計算され、保険料は国民年金の1ヶ月分のみが徴収されることとなる。ただし、この者が60歳以上の場合、退職しても国民年金第1号被保険者とはならないため、厚生年金の被保険者としての1ヶ月として計算され、保険料は厚生年金の1ヶ月分が徴収されることになる。

被用者年金一元化による経過措置として、平成27年10月より前の公務員共済の組合員期間、私学共済の加入者期間は、一定の場合(脱退一時金の計算の基礎となった期間等)を除き、それぞれ第2~4号厚生年金被保険者期間とみなされる(一元化法附則第7条)。

70歳に達した時の被保険者の扱い[編集]

当然被保険者は70歳に達したときは、その日にその資格を喪失するが、以下の要件を満たした場合は、「70歳以上の被用者」として、在職老齢年金(高在老)の対象となり、老齢厚生年金の支給停止の対象となる。該当する場合は当該事実があった日から5日以内(船員は10日以内)に事業主は厚生年金保険70歳以上被用者該当届と被保険者資格喪失届を機構に提出しなければならない。

  • 70歳以上であること。ただし1937年昭和12年)4月1日以前に生まれた者を除く。
  • 70歳以上であることを除き、当然被保険者に該当する要件を満たす者。
  • かつて厚生年金保険の被保険者であったことがある者。

当然被保険者は70歳に達したときはその資格を喪失するが(第14条5号)、その者が老齢年金の受給資格期間を満たしているとは限らない。そこで、所定の要件を満たした者については、この受給資格期間を満たすまで(年齢制限なし)厚生年金に加入することができる(高齢任意加入被保険者)。受給権を有しないからといって自動的に高齢任意加入被保険者となるわけではない。なお遺族年金や障害年金の受給権を有していても高齢任意加入被保険者となることはできる。

  • 適用事業所に使用される場合は、厚生労働大臣に申し出て、高齢任意加入被保険者となることができる。申出の受理された日に被保険者資格を取得する。保険料は、事業主が折半負担の同意をした場合を除いて、被保険者が保険料を全額負担し、かつその納付義務を負う。事業主のこの同意あるいは同意の撤回は、10日以内に機構に届出なければならない。事業主の折半負担等の同意がない場合に高齢任意加入被保険者が保険料を滞納し、督促状の納期限までに納付しない場合、納期限の属する月の前月末日にその資格を失う。ただしその保険料が初めて納付すべき保険料であった場合は、当初から高齢任意加入被保険者とならなかったものとみなす。なお同意を撤回したからといって被保険者資格を喪失することは無い。
    • 適用事業所が適用事業所でなくなった場合、引き続き同じ事業所に使用されたとしても、当該高齢任意被保険者はその翌日に被保険者資格を失う。
  • 適用事業所以外の事業所に使用される場合は、事業主の同意(この同意は後で撤回できない)と厚生労働大臣の認可を受けて、高齢任意加入被保険者となることができる。認可のあった日に被保険者資格を取得する。保険料は労使折半で、事業主が全額の納付義務を負う。そのため、保険料の滞納があったとしても、そのことをもって被保険者資格を喪失することは無い。

以下の要件をすべて満たす者については、経過措置として現在でも第4種被保険者となることができる。なお、第4種被保険者は、高齢任意加入被保険者となることはできない。

  • 1941年(昭和16年)4月1日以前生まれ[5]で、1986年(昭和61年)4月1日(新法施行日)に厚生年金保険の被保険者であること。
  • 1986年(昭和61年)4月から資格喪失日(退職日)の属する月の前月までのすべての期間、厚生年金保険等に加入していたこと。
  • 厚生年金保険の被保険者期間が10年以上20年(特例の場合は15〜19年)未満であること[6]
  • 資格喪失日から起算して6ヶ月以内に厚生労働大臣に申し出ること。

経過措置により、1932年(昭和7年)4月2日以降に生まれた者であって、かつ2002年(平成14年)3月31日において第4種被保険者であった者であって、同年4月1日において適用事業所に使用される者については、同日に当然被保険者の資格を取得し、第4種被保険者の資格を喪失する。

被保険者等に関する届出等[編集]

被保険者資格を取得したときは、直ちに年金手帳を事業主に提出しなければならない。事業主は、年金手帳の確認後、これを被保険者に返付しなければならない。なお、初めて被保険者資格を取得した者については、厚生労働大臣から年金手帳が交付されるが、この交付は事業主を通して行うことができる。

事業主は、被保険者の資格を取得(喪失)した者があるときは、資格取得(喪失)届を5日以内(船員は10日以内)に機構に提出しなければならない。

一般の被保険者がその氏名を変更したときは、速やかに変更後の氏名を事業主に申し出ると主に、年金手帳を事業主に提出しなければならない。事業主は申出を受けて、速やかに年金手帳に変更後の氏名を記載して被保険者に返付するとともに、氏名変更届を機構に提出しなければならない。なお、適用事業所に使用される高齢任意加入被保険者又は第4種被保険者がその氏名を変更した場合は、10日以内に、年金手帳を添えて機構に直接氏名変更届を提出する。

被保険者資格の得喪は原則として厚生労働大臣の確認によってその効力を生じる(第18条)。確認は原則として事業主からの届出によって行うが、以下の場合は確認は行わない(届出は不要となる)。なお、確認自体は厚生労働大臣が職権で行うことができる。

  • 任意適用事業所の適用取消による被保険者の資格喪失
  • 任意単独被保険者の資格取得・認可による資格喪失(認可によらない資格喪失の場合は届出要)
  • 高齢任意加入被保険者の資格取得
  • 適用事業所以外の事業所に使用される高齢任意加入被保険者の資格喪失の認可・老齢年金の受給権取得による資格喪失
  • 適用事業所に使用される高齢任意加入被保険者の資格喪失の申出の受理・老齢年金の受給権取得・滞納・任意適用事業所の適用取消による資格喪失

被保険者又は70歳以上被用者は、同時に2以上の事業所に使用されるに至ったとき、その2以上の事業所に係る機構の業務が2以上の年金事務所に分掌されている場合は年金事務所を選択し所属選択届を、分掌されていない場合は2以上事業所勤務届を、それぞれ10日以内に機構に提出しなければならない。

年金の受給権者の属する世帯の世帯主その他その世帯に属する者は、当該受給権者の所在が1月以上明らかでないときは、速やかに所定の事項を記載した届書を日本年金機構に提出しなければならない。

適用除外者[編集]

次の各号のいずれかに該当する者は、上記の規定にかかわらず、厚生年金保険の被保険者としない(第12条)。なお、被用者年金一元化により、公務員等を適用除外とする規定は削除され、昭和20年10月2日以降に生まれた者(被用者年金一元化の施行日(平成27年10月1日)に70歳未満の者)は公務員等であっても厚生年金の被保険者となり、一元化をまたいで公務員であった者は一元化施行日に厚生年金被保険者資格を取得する(一元化法附則第5条)。

  • 臨時に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く)であって、日々雇い入れられる者
但し、その者が1月を超えて引き続き使用されるに至った場合は、その超えた日から、事業所が強制適用事業所であれば当然被保険者に、任意適用事業所であれば事業主の同意と厚生労働大臣の認可を経て任意単独被保険者となる。
  • 臨時に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く)であって、2月以内の期間を定めて使用される者
但し、その者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合は、その超えた日から、事業所が強制適用事業所であれば当然被保険者に、任意適用事業所であれば事業主の同意と厚生労働大臣の認可を経て任意単独被保険者となる。
  • 所在地が一定しない事業所に使用される者
この場合は、その者が長期にわたって使用されたとしても、当然被保険者・任意単独被保険者とはならない。
  • 季節的業務に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く)
但し、その者が、当初から継続して4月を超えて使用される予定である場合は、その当初から、事業所が強制適用事業所であれば当然被保険者に、任意適用事業所であれば事業主の同意と厚生労働大臣の認可を経て任意単独被保険者となる。
業務の都合により使用期間が4月を超えたに過ぎない場合は、被保険者とはならない(昭和9年4月17日保発191号)。
  • 臨時的事業の事業所に使用される者
但し、その者が、当初から継続して6月を超えて使用される予定である場合は、その当初から、事業所が強制適用事業所であれば当然被保険者に、任意適用事業所であれば事業主の同意と厚生労働大臣の認可を経て任意単独被保険者となる。
業務の都合により使用期間が6月を超えたに過ぎない場合は、被保険者とはならない。
  • 厚生年金に相当する外国の法令の適用を受ける者であって政令で定めるもの(現在、当該政令は未制定)

費用負担[編集]

保険料[編集]

第3種被保険者の厚生年金保険料率
時点 保険料率
2012年(平成24年)9月 17.192%
2013年(平成25年)9月 17.44%
2014年(平成26年)9月 17.688%
2015年(平成27年)9月 17.936%
2016年(平成28年)9月 18.184%
2017年(平成29年)9月 18.3%
一般の厚生年金保険料率
時点 保険料率
2012年(平成24年)9月 16.766%
2013年(平成25年)9月 17.12%
2014年(平成26年)9月 17.474%
2015年(平成27年)9月 17.828%
2016年(平成28年)9月 18.182%
2017年(平成29年)9月 18.3%

第3種被保険者(坑内員・船員)以外の被保険者に係る保険料率は、被保険者の標準報酬月額・標準賞与額の17.828%(2015年(平成27年)9月現在の料率。2004年(平成26年)10月以降2017年9月まで、毎年9月に0.354%ずつ引き上げられる)である。第3種被保険者については17.936%(2015年(平成27年)9月現在の料率。2017年9月まで、毎年9月に0.248%ずつ引き上げられる)となる。2017年9月以降は、被保険者種別にかかわらず18.3%に統一される予定である。また、厚生年金基金加入者は、前記の保険料率から2.4〜5.0%(免除保険料率)を控除した率となる。被用者年金一元化により、厚生年金よりも低い保険料率となっていた共済年金保険料率についても、公務員は2018年、私学教職員等は2027年に厚生年金と同じ18.3%に統一される予定である。

保険料は被保険者と事業主とが折半して負担し(健康保険とは異なり、規約等で定めても事業主負担を増やすことはできない)、事業主が被保険者の分も含めて納付義務を負う。ただし事業主の同意のない高齢任意加入被保険者及び第4種被保険者は、保険料を全額自己負担し、その納付義務を負う。毎月の保険料は、翌月末日(第4種被保険者はその月の10日。ただし前納可)までに納付しなければならない。事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬・賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額・標準賞与額に係る保険料を報酬から控除することができる。事業主の同意のない高齢任意加入被保険者又は第4種被保険者は、初めて納付する保険料を滞納した場合、当初より高齢任意加入被保険者又は第4種被保険者とならなかったものとみなされる。

被保険者が、船舶に使用され、かつ、同時に事業所に使用される場合においては、船舶所有者以外の事業主は保険料を負担せず、保険料を納付する義務を負わないものとし、船舶所有者が当該被保険者に係る保険料の半額を負担し、当該保険料及び当該被保険者の負担する保険料を納付する義務を負うものとする。

育児休業等をしている被保険者が使用される事業主は、実施機関に申出ることにより、育児休業開始月から終了の前月までの当該被保険者に係る保険料(本人負担分・事業主負担分とも)の免除が行われる(第81条の2)。一方、労働基準法上の産前産後休業期間については、2014年(平成26年)4月30日以降に休業が終了となる者について、2014年(平成26年)4月分以降の保険料が本人負担分・事業主負担分とも免除される。当該免除期間は、免除されていない通常の期間と同様の被保険者期間として扱われる。当該被保険者が、休業等終了予定日を変更したときは、速やかに実施機関に届け出なければならない。なお、第4種被保険者・船員任意継続被保険者については、これらに該当しても免除は行われない。また健康保険とは異なり、被保険者が少年院刑事施設等に収容拘禁されても保険料は免除されない。

以下の場合においては、保険料は納期前であっても、すべて徴収することができる(繰上徴収、第85条)。船舶については厚生年金独自の、ほかは健康保険と共通の規定である。

  • 納付義務者が国税地方税その他公課の滞納によって、滞納処分を受けるとき
  • 納付義務者が強制執行破産手続きの開始決定を受けるとき、企業担保権の実行手続きの開始、競売の開始があったとき
  • 法人たる納付義務者が解散した場合
  • 被保険者の使用される事業所が廃止された場合(事業譲渡により事業主に変更があった場合を含む)、船舶所有者の変更があった場合、又は当該船舶が滅失・沈没・運航に全く堪えなくなるに至った場合

厚生労働大臣は、納付すべき保険料額を超えて被保険者が保険料を納付した場合、その超えた部分の額を、その納付の日の翌日から6月以内の期日に納付されるべき保険料について納期を繰り上げてしたものとみなすことができる。この場合、厚生労働大臣はその旨を当該納付義務者に通知しなければならない(第83条)。

保険料その他の徴収金は、別段の規定がある場合を除き、国税徴収の例により徴収する(第89条)。

保険料を徴収する権利が時効により消滅したときは、当該保険料に係る被保険者であった期間に基づく保険給付は行わない。ただし、当該被保険者であった期間に係る被保険者の資格の取得について事業主からの届出または被保険者もしくは被保険者であった者からの確認の請求があった後に、保険料を徴収する権利が時効によって消滅したものであるときは、保険給付は行われる。

標準報酬月額・標準賞与額[編集]

標準報酬月額は、保険料の算出の基礎となる。健康保険とほぼ同様の仕組みがある(第20条)。標準報酬月額と標準賞与額に乗ずる保険料率は同じである。

  • 第1級98,000円(報酬月額が101,000円以下)〜第30級620,000円(報酬月額が605,000円以上)の30等級。
  • 毎年3月31日における全被保険者の標準報酬月額を平均した額の2倍に相当する額が標準報酬月額等級の最高等級の標準報酬月額を超える場合において、その状態が継続すると認められるときは、その年の9月1日から、健康保険法に規定する標準報酬月額の等級区分を参酌して、政令で、当該最高等級の上に更に等級を加える標準報酬月額の等級区分の改定を行うことができる。

2014年(平成26年)4月1日以降に産前産後休業が終了した者について、産前産後休業終了後の3ヶ月間の報酬額をもとに、新しい標準報酬月額を決定し、その翌月から改定される。産前産後休業終了日の翌日に育児休業等を開始している被保険者については、従来通り産前産後休業終了時の標準報酬月額の改定は行わず、育児休業等を終了したときに所定の要件を満たしていれば育児休業等終了時改定が行われる。

  • 3歳に満たない子を養育する被保険者が、実施機関に申出をしたときは、当該3歳に満たない子を養育する一定期間の各月のうち、その標準報酬月額が従来標準報酬月額を下回る月については、従前標準報酬月額を当該下回る月の平均標準報酬額の計算の基礎となる標準報酬月額とみなす(第26条)。つまり、産前産後休業・育児休業等終了時改定により標準報酬月額が減額改定されても、年金額の計算についてはこの期間内は減額改定される前の標準報酬月額で計算され、一方保険料の計算については減額改定された標準報酬月額で計算されるので、保険料の負担が抑えられたまま従来の年金額が保障されるということである。

船員たる被保険者又は船員たる70歳以上の使用される者の標準報酬月額の決定・改定については船員保険法の標準報酬月額の規定を用いて行い、第4種被保険者の各月の標準報酬月額は、原則としてその被保険者の資格を取得する前の最後の標準報酬月額を用いる。被保険者又は70歳以上被保険者が船舶に使用され、かつ同時に事業所に使用される場合は、船舶に係る報酬のみで報酬月額を算定する(事業所で受ける報酬は無視する)。

標準賞与額は、その月に受けた賞与額(1,000円未満切り捨て)である。賞与を受けた月において、その額が150万円を超えるときは、これを150万円として計算する。なお、賞与が年4回以上支給される(と客観的に定められている)場合においては、当該賞与は、原則として「報酬」に該当する。健康保険の場合は「年間の」支払累計で標準賞与額の上限額(540万円。2016年(平成28年)4月からは573万円)が決められているが、厚生年金では「月の」賞与等について上限が定められている。

報酬又は賞与の全部又は一部が、通貨以外のもので支払われる場合においては、その価額は、その地方の時価によつて、厚生労働大臣が定める(第25条)。この権限は機構に委任されていない。

事業主は、毎年7月1日〜7月10日までに、報酬月額算定基礎届を実施機関に提出し、定時決定対象者の報酬月額を届出なければならない。また、賞与を支払ったときは5日(船舶所有者は10日)以内に賞与支払届を提出しなければならない。

厚生労働大臣は、被保険者の資格、標準報酬又は保険料に関し必要があると認めるときは、官公署に対し、法人の事業所の名称、所在地その他必要な資料の提供を求めることができる。市町村長は、厚生労働大臣又は受給権者に対して、当該市町村の条例の定めるところにより、被保険者、被保険者であった者又は受給権者の戸籍に関し、無料で証明を行うことができる。

滞納に対する措置[編集]

保険料その他厚生年金保険法の規定による徴収金を滞納する者があるときは、厚生労働大臣は保険料を繰上徴収する場合を除き、期限を指定してこれを督促しなければならない(第86条1項)。この期限は、督促状を発する日から起算して10日以上を経過した日でなければならない(第86条4項)。通常、厚生年金と健康保険はセットで手続されるものであるから、健康保険の督促状に厚生年金の督促を併記して発することができる(第86条3項)。また滞納者が悪質な場合において権限を財務大臣に委任できる要件も健康保険と共通である。

政府は、保険料の納付を督促したときは、やむをえない理由がある場合、公示送達による督促の場合等を除き、保険料の額(一部納付の場合は残余の額。1,000円未満の端数は切り捨て)に、納期限の翌日からその完納又は財産差押えの日の前日までの期間の日数に応じ、

  • 当該納期限の翌日から3月を経過する日までの期間については、年7.3%
  • それより後の日については、年14.6%

の割合を乗じて計算した延滞金(100円未満の端数は切り捨て)を徴収する(第87条)。なお現在の低金利の状況では年14.6%の延滞金は高すぎるとの問題意識から、事業主の負担軽減等を図るべく、当分の間特例が設けられ、各年の特例基準割合租税特別措置法第93項2項の規定に基づき、「前々年10月から前年9月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して得た割合」として財務大臣が告示した割合に年1%の割合を加算)が年7.3%に満たない場合は、

  • 当該納期限の翌日から3月を経過する日までの期間については、特例基準割合に年1%を加算した割合(加算した割合が年7.3%を超える場合は、年7.3%)
  • それより後の日については、特例基準割合に年7.3%を加算した割合

とされる。2015年(平成27年)、2016年(平成28年)の場合、特例基準割合は年1.8%(告示割合年0.8%に年1%を加算)とされたので[7]、実際には以下のようになる。

  • 当該納期限の翌日から3月を経過する日までの期間については、年2.8%
  • それより後の日については、年9.1%

なお第2号・第3号・第4号厚生年金被保険者に係る保険料の繰上徴収、保険料その他厚生年金保険法の規定による徴収金の督促及び滞納処分並びに延滞金の徴収については、これらの規定にかかわらず、共済各法の定めるところによる(第87条の2)。

国庫負担[編集]

国庫は、毎年度予算の範囲内で、厚生年金事業の事務の執行に要する費用を負担する(事務費は全額国庫負担)。また、国庫は、毎年度、政府が負担する基礎年金拠出金の額の2分の1に相当する額を負担する。また1961年(昭和36年)4月1日前の期間に係る給付費についても国庫負担が行われている(第3種被保険者期間の25%、それ以外の期間の20%)。

保険給付[編集]

厚生年金は国民年金に相当する固定部分(基礎年金部分)と報酬比例部分に分けられる。第3種被保険者(坑内員又は船員)であった期間については、原則として1986年(昭和61年)3月31日以前の期間については3分の4倍、1986年(昭和61年)4月1日から1991年(平成3年)3月31日までの期間は5分の6倍して計算する。1991年(平成3年)4月1日以降の期間については実期間で計算する。

保険給付を受ける権利は、受給権者の請求に基づき、実施機関が裁定する(第33条)。公務員等に厚生年金が支給されるのは一元化法施行日以後に給付事由が生じた場合であり、施行日前に給付事由が生じた共済年金は、なおその効力を有する。

老齢厚生年金[編集]

65歳以上の者で、老齢基礎年金の受給資格期間を満たす場合(保険料納付済期間、保険料免除期間、合算対象期間とを合算した期間が25年以上)であり、かつ1ヶ月以上の厚生年金の被保険者期間を有することを要件に支給される(「本来の」老齢厚生年金)。年金額は、「報酬比例部分」「経過的加算」「加給年金額」の合計である。

厚生年金の加入期間が1年以上の、以下の生年月日の者に対しては65歳より前に経過措置として特別支給の老齢厚生年金が65歳まで支給される。支給額は「定額部分」「報酬比例部分」「加給年金額」の合計である。特別支給者も「本来の」老齢厚生年金を受給するときは改めて裁定請求を行う。

対象となる生年月日範囲とそれに対する支給内容一覧表
生年月日(男性、第2~4号女性) 生年月日(第1号女性) 特定警察職員等[8] 支給詳細
1941年(昭和16年)4月1日以前 1946年(昭和21年)4月1日以前 1947年(昭和22年)4月1日以前 60歳から「定額部分」及び「加給年金額」が加算された特別支給の老齢厚生年金が支給される。65歳から本来の老齢厚生年金が支給される。
1941年(昭和16年)4月2日から
1949年(昭和24年)4月1日まで
1946年(昭和21年)4月2日から
1954年(昭和29年)4月1日まで
1947年(昭和22年)4月2日から
1955年(昭和30年)4月1日まで
60歳から「報酬比例部分」のみの特別支給の老齢厚生年金が支給され、生年月日によって61〜64歳に達したときから「定額部分」及び「加給年金額」が加算された特別支給の老齢厚生年金が支給される。65歳から本来の老齢厚生年金が支給される。
1949年(昭和24年)4月2日から
1953年(昭和28年)4月1日まで
1954年(昭和29年)4月2日から
1958年(昭和33年)4月1日まで
1955年(昭和30年)4月2日から
1959年(昭和34年)4月1日まで
60〜65歳まで「報酬比例部分」のみの特別支給の老齢厚生年金が支給される(定額部分は支給されない)。65歳から本来の老齢厚生年金及び「加給年金額」が支給される。
1953年(昭和28年)4月2日から
1961年(昭和36年)4月1日まで
1958年(昭和33年)4月2日から
1966年(昭和41年)4月1日まで
1959年(昭和34年)4月2日から
1967年(昭和42年)4月1日まで
生年月日によって61〜64歳に達したときから「報酬比例部分」のみの特別支給の老齢厚生年金が支給される(定額部分は支給されない)。65歳から本来の老齢厚生年金及び「加給年金額」が支給される。
1961年(昭和36年)4月2日以降 1966年(昭和41年)4月2日以降 1967年(昭和42年)4月2日以降 特別支給の老齢厚生年金は支給されない。

以下の者については、次の特例がある。

  • 被保険者でない(退職者である)報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金の受給権者については、
    • 障害等級3級以上に該当し初診日から1年6ヶ月経過(その期間内に治癒したときは、その治癒した日)した場合は、請求することにより、定額部分が加算された特別支給の老齢厚生年金が障害状態にあると判断されるときにさかのぼって支給される(男子は1941年(昭和16年)4月2日〜1961年(昭和36年)4月1日生まれ、女子は1946年(昭和21年)4月2日〜1966年(昭和41年)4月1日生まれの者に限る)。
    • 被保険者期間が44年以上ある者については、報酬比例部分の支給開始年齢から定額部分が加算される(男子は1941年(昭和16年)4月2日〜1961年(昭和36年)4月1日生まれ、女子は1946年(昭和21年)4月2日〜1966年(昭和41年)4月1日生まれの者に限る)。障害者特例とは異なり、請求は不要である。
  • 坑内員・船員としての被保険者期間が合算して15年(実期間)以上ある者については、生年月日に応じて定められた年齢から、定額部分等が加算された特別支給の老齢厚生年金が支給される。この場合、報酬比例部分と定額部分の支給開始年齢が異なることはない(1966年(昭和41年)4月1日以前生まれの者に限る)。
    • 1946年(昭和21年)4月1日以前生まれ・・55歳から
    • 1946年(昭和21年)4月2日〜1948年(昭和23年)4月1日生まれ・・56歳から
      • 以降、2年刻みで1歳ずつ支給開始年齢が繰り下がり
    • 1964年(昭和39年)4月2日生まれ〜1966年(昭和41年)4月1日生まれ・・64歳から

定額部分[編集]

2015年(平成27年)度は以下の通り。「定額」であるので、被保険者月数と生年月日が同じであれば、報酬額にかかわらず同額となる。

  • 1,620円×生年月日に応じて定める率(1.0〜1.875)×被保険者期間の月数(上限は原則480月)×改定率(2015年(平成27年)度は0.999)
    • 被保険者期間の月数については、中高齢者の特例が適用される者については被保険者期間が240月未満のときは240月として計算する。上限は、1946年(昭和21年)4月2日以降生まれであれば480月となるが、それ以前生まれであれば上限が順次減じられ、例えば1929年(昭和4年)4月1日以前生まれであれば上限は420月となる。
    • 「生年月日に応じて定める率」は、1926年大正15年)4月2日〜1946年(昭和21年)4月1日生まれの者は1.875(1926年(大正15年)度生まれ)〜1.032(1945年(昭和20年)度生まれ)となる。1946年(昭和21年)4月2日以降生まれの者は一律1.0である。

報酬比例部分[編集]

原則的な額
  • 新再評価率を用いて算定した2003年(平成15年)3月までの期間の平均標準報酬月額×給付乗率×2003年(平成15年)3月までの被保険者期間の月数
  • 新再評価率を用いて算定した2003年(平成15年)4月以後の期間の平均標準報酬額×給付乗率×2003年(平成15年)4月以後の被保険者期間の月数

の合計である[9]

  • 新再評価率(2004年(平成16年)改正後の再評価率)は、現在の調整期間(マクロ経済スライド)においては、新規裁定者の再評価率は「名目手取り賃金変動率×調整率」を基準にして、既裁定者の再評価率(受給権者が65歳に達した日の属する年の3年後の年の4月1日の属する年度以後において適用される再評価率)は「物価変動率×調整率」を基準にして毎年度改定される。
  • 給付乗率
    • 2003年(平成15年)3月までの期間分については、1946年(昭和21年)4月1日以前生まれの者は0.723〜0.95%、1946年(昭和21年)4月2日後生まれの者は一律0.7125%。
    • 2003年(平成15年)4月以後の期間分については、1946年(昭和21年)4月1日以前生まれの者は0.5562〜0.7308%、1946年(昭和21年)4月2日後生まれの者は一律0.5481%。
  • 被保険者期間の月数については、中高齢者の特例が適用される者であっても実期間で計算する(最低保障はない)。また上限はない。なお1991年(平成3年)4月1日前の第3種被保険者期間については特例を用いる。
  • 2003年(平成15年)3〜4月で区切っているのは2003年(平成15年)4月より、賞与等も含めた年収をベースとした総報酬制を導入したことによる。
従前額の保障
  • 平成6年再評価率を用いて算定した2003年(平成15年)3月までの期間の平均標準報酬月額×給付乗率×2003年(平成15年)3月までの被保険者期間の月数
  • 平成6年再評価率を用いて算定した2003年(平成15年)4月以後の期間の平均標準報酬額×給付乗率×2003年(平成15年)4月以後の被保険者期間の月数

の合計に従前額改定率(「物価変動率×調整率」を基準にして毎年度改定)を乗じた額が、前述の原則的な額を上回る場合は、従前額が報酬比例部分の額となる。結果的に平成26年度までは大部分の受給権者に従前額が支給されている。

  • 給付乗率
    • 2003年(平成15年)3月までの期間分については、1946年(昭和21年)4月1日以前生まれの者は0.761〜1.0%、1946年(昭和21年)4月2日後生まれの者は一律0.75%。
    • 2003年(平成15年)4月以後の期間分については、1946年(昭和21年)4月1日以前生まれの者は0.5854〜0.7692%、1946年(昭和21年)4月2日後生まれの者は一律0.5769%。

加給年金額[編集]

定額部分が加算される特別支給の(65歳未満の者に支給される)老齢厚生年金の受給者または「本来の」老齢厚生年金の受給権者が以下のすべての要件を満たしたときは、年金額に加給年金額が加算される。

  • 年金額計算の基礎となる厚生年金の被保険者期間が20年(特例の場合は15〜19年)以上あること
    • 受給権取得時に20年未満であっても、退職時改定により20年以上となった場合、その改定規定により当該年数が20年以上となるに至った当時の、以下の生計維持関係を確認する。
    • 離婚分割(後述)によって20年以上となった場合には、加給年金額は加算されない。
  • 受給権取得時にその者によって生計を維持していた65歳未満の配偶者(厚生年金の被保険者であってもよい)、又は子(18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子及び20歳未満で所定の障害の状態にある子)があること
    • 受給権取得時とは、定額部分の支給開始年齢または65歳に達した時をいい、報酬比例部分のみの受給権が発生した段階ではない。
    • 加算対象者の年収(前年の収入。確定しない場合は前々年の収入。一時的な収入は除く)が850万円以上の場合は加算の対象から外れるが、概ね5年以内に850万円未満になると認められるときは加算の対象となる。
    • 1926年(大正15年)4月1日以前生まれの配偶者であれば、65歳以上であってもよい。
      • 1926年(大正15年)4月2日〜1966年(昭和41年)4月1日生まれの配偶者は、配偶者が65歳に達したときは加給年金額の加算は無くなり、これに相当する金額は「振替加算」として配偶者自身が受給する老齢基礎年金に加算される。一般的には妻のほうが夫よりも年上の場合、夫が加給年金を受給できるようになったときには妻はすでに老齢基礎年金を受給しているので、夫には加給年金は加算されず、相当額が振替加算としてその時点より妻に支給される。
    • 配偶者が老齢基礎年金を繰上げ受給した場合であっても、加給年金は支給停止されない。

2015年(平成27年)度の加給年金額は、配偶者、第1子、第2子については一人につき224,500円(≒224,700円×改定率0.999)、第3子以降は一人につき74,800円(≒74,900円×0.999)となる。また配偶者のある受給権者が1934年(昭和9年)4月2日以後の生まれの場合、受給権者の生年月日に応じて33,200円(≒33,200円×0.999)〜165,600円(≒165,800円×0.999)が特別加算される。

なお、配偶者が240月以上の被用者老齢年金を受けることができる場合(一の制度で240月の場合のみで、通算して240月の場合は含まない)、もしくは障害年金を受けることができる場合は、当該配偶者の加算分は支給停止される。また老齢厚生年金と障害基礎年金とが併給されている場合、障害基礎年金に子の加算が行われている場合は、加給年金額の子の加算は支給停止される。老齢厚生年金の受給権取得時に単身者だった者が後に所定の要件を満たした配偶者や子を有することになっても加給年金額は加算されない。

経過的加算[編集]

合算対象期間が含まれるために定額部分額よりも老齢基礎年金額が低くなる場合がある。これによる年金受給総額の減少を防止する目的で、その差額相当額が当分の間支給される。

  • 定額部分-(老齢基礎年金の満額×1961年(昭和36年)4月1日以後で20歳以上60歳未満の厚生年金の被保険者期間の月数÷480(加入可能年数の12倍))
    • つまり、「経過的加算=定額部分-老齢基礎年金相当額」ということである。
    • 月数は実期間で計算し、第3種被保険者等の特例は用いない。

働きながら老齢厚生年金を受け取る[編集]

  1. 60歳から65歳に達するまでの間、厚生年金保険に加入しながら勤務
  2. 65歳以上で厚生年金保険適用事業所に勤務

この2つのケースであっても、老齢厚生年金を受け取ることが出来る。但し、年金額と賃金+賞与額に応じて年金額の一部又は全額が支給停止になる[10]老齢基礎年金#在職老齢年金も参照。

年金額の改定[編集]

被保険者(在職中)である老齢厚生年金(「本来」、特別支給とも)の受給権者は、昇給・降給・賞与支払い等によって総報酬月額相当額が改定された場合、改定が行われた月から新たな総報酬月額相当額に基づいて支給停止額が再計算され、当該改定が行われた月から年金額も改定される(第46条6項)。

離婚分割(後述)が行われた場合、当該分割の請求のあった日の属する月の翌月から年金額が改定される(第78条の10)。

「本来の」老齢厚生年金は、受給権者がその権利を取得した月以後における被保険者である期間は、原則としてその計算の基礎とされない。しかし、受給権者が資格喪失(退職)し、かつ被保険者となる(再就職する)ことなく資格喪失日から1月を経過したときは、(「本来」、特別支給とも)資格喪失月の前月までの被保険者期間を年金額の基礎として、資格喪失日から1月を経過した日(退職月の翌月。月末退職の場合は翌々月)から年金額の改定が行われる(退職時改定、第43条2項、3項)。

報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金の受給権者が、上述の特例(障害者・長期加入者)に該当した場合、該当した(障害者は請求した)月の翌月から、年金額が改定(定額部分が加算)される。また、すでに特例に該当して定額部分が加算されている特別支給の老齢厚生年金の受給権者が、特例に該当しなくなった場合、年金額が改定(定額部分が加算されなくなる)される(附則第9条の2)。

被保険者でなかった特別支給の老齢厚生年金の受給権者が被保険者となった(就職した)場合、被保険者となった月の翌月から、低在老の仕組みにより年金額が改定(原則として減額改定、支給停止)される(附則第11条)。なお被保険者となった月に被保険者の資格を喪失した場合(就職月に退職した場合)は、この仕組みは適用されない。

支給の繰上げ・繰下げ[編集]

国民年金と同様の支給繰上げ・繰下げの請求・申出をすることもできる。

支給の繰上げ
老齢厚生年金の繰上げは、老齢基礎年金の繰上げと同時に行わなければならない。
  • 60歳から定額部分が支給される者については、「老齢基礎年金の繰上げ」を請求でき、繰上げると定額部分については老齢基礎年金相当額が支給停止され、老齢基礎年金については全額が減額の対象となり、65歳になっても増額されることはない。
  • 60歳から報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金が支給され61歳以降から定額部分が支給される者については、60歳以後から「全部繰上げ支給の老齢基礎年金」を請求することができる。この場合、定額部分については老齢基礎年金相当額が支給停止され、老齢基礎年金については全額が減額の対象となり、65歳になっても増額されることはない。報酬比例部分や65歳からの経過的加算については減額されない。定額部分の支給開始前なら「一部繰り上げの老齢基礎年金」の請求もでき、この場合、定額部分も同時に繰上げ支給され、所定の率で調整され、65歳になると繰上げしなかった部分の老齢基礎年金額が加算される。
    • 「一部繰り上げの老齢基礎年金」は、以下の計算式で求める。
      (65歳からの老齢基礎年金の年金額)×(繰上げ請求月から定額部分支給開始月の前月までの月数)/(繰上げ請求月から65歳到達月の前月までの月数)×支給率
      「支給率」は、100%-(0.5%×繰上げ請求月から65歳到達月の前月までの月数)
  • 60歳から報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金が支給され定額部分が支給されない者については、60歳以後から「全部繰上げ支給の老齢基礎年金」を請求することができる。「一部繰り上げの老齢基礎年金」の請求はできない。
  • 61歳以後から報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金が支給され定額部分が支給されない者については、60歳から報酬比例部分の支給開始年齢までに「経過的な繰上げ支給の老齢厚生年金」を請求することができる。この場合、「全部繰上げ支給の老齢基礎年金」の請求も同時にしなければならない(双方とも当然減額される)。報酬比例部分の支給開始後から65歳までの間は、「繰上げ支給の老齢基礎年金」を請求することができる。
  • 特別支給の老齢厚生年金が支給されない者については、請求日の前日において老齢厚生年金の受給資格期間(=老齢基礎年金の受給資格期間)を満たす場合に、老齢厚生年金の支給繰上げを請求できる。この場合、老齢基礎年金の繰上げと同時に行わなければならない。なお、繰上げても加給年金額は65歳にならないと加算されない。また国民年金任意加入被保険者は、この請求はできない。
支給の繰下げ
老齢厚生年金の受給権を有する者(2007年(平成19年)3月31日までに当該受給権を取得した者を除く)であってその受給権を取得した日から起算して1年を経過した日前に当該老齢厚生年金を請求していなかったものは、実施機関に当該老齢厚生年金の支給繰下げの申出をすることができる。ただし、その者が当該老齢厚生年金の受給権を取得したときに、障害基礎年金以外の障害年金又は遺族年金の受給権者であったとき、又は当該老齢厚生年金の受給権を取得した日から1年を経過した日までの間において障害基礎年金以外の障害年金又は遺族年金の受給権者となったときは、この申し出はできない(第44条の3)。1年を経過した日後に障害基礎年金以外の障害年金又は遺族年金の受給権者となった者が、障害基礎年金以外の障害年金又は遺族年金を支給すべき事由が生じた日以後に繰下げの申出をしたときは、原則として当該受給権者となった日において、繰下げの申出があったものとみなす。

雇用保険との調整[編集]

基本手当
特別支給の老齢厚生年金は、その受給権者が雇用保険法の規定による基本手当の支給を受けることができる場合、原則として基本手当に係る求職の申し込みがあった月の翌月(求職の申込が年金受給権発生日よりも前の場合は、受給権取得月の翌月)から、当該受給期間が経過するに至った月、又はその支給を受け終わったときに至る月まで、全額が支給停止される(基本手当が優先して支給される)。また「本来の」老齢厚生年金を繰り上げ受給する場合も、基本手当(65歳以降に支給されるものを除く)と調整される。なお、自己都合退職等による給付制限期間中も支給停止されるが、基本手当の対象となった日が1日もなかった場合は支給停止されずに支給され、さらに基本手当の受給期間終了時に実際に受けた基本手当の日数を月数に換算して、支給停止の月数が多い場合は支給停止をさかのぼって解除する(事後精算)。
受給権者が求職の申し込みを行った場合は、「受給権者支給停止事由該当届」に雇用保険受給資格者証を添付して住所地を所轄する年金事務所へ提出する。ただし、2003年(平成25年)10月1日以降に支給停止事由に該当した者については届出は原則不要である。
高年齢雇用継続給付
特別支給の老齢厚生年金(在職老齢年金)は、その受給権者が雇用保険法の規定による高年齢雇用継続基本給付金(基本手当を受給しないで継続雇用されている者)の支給を受けることができる場合、在職老齢年金の支給停止に加え、標準報酬月額の6%相当額を上限にさらに支給停止される(高年齢雇用継続基本給付金は全額支給される)。なお、「本来の」老齢厚生年金を65歳以降に受給する場合は、支給停止は行われない。
受給権者が高年齢雇用継続基本給付金を受給することになった場合は、「受給権者支給停止事由該当届」に高年齢雇用継続基本給付支給決定通知を添付して住所地を所轄する年金事務所へ提出する。ただし、高年齢雇用継続基本給付金の支給対象となった最初の月の1日が2013年(平成25年)10月1日以降の場合については届出は原則不要である。

失権[編集]

老齢厚生年金の受給権(特別支給、「本来の」とも)は、受給権者が死亡したときに消滅する。また、特別支給の老齢厚生年金の受給権は、受給権者が65歳に達したときは消滅する。

障害厚生年金・障害手当金[編集]

障害の原因となった傷病ではじめて医師または歯科医師の診察を受けた日(初診日)に被保険者であった場合で、その日から1年6月(あるいはそれより早く障害が固定した場合はその日)に所定の障害(1級から3級)にある場合、その障害の程度に応じ年金または一時金が支給される(所定の保険料納付要件を満たしていることも必要)。障害年金を参照。

遺族厚生年金[編集]

被保険者が死亡したとき、被保険者であった者が被保険者期間中に初診日のある傷病により傷病の日から5年以内に死亡または障害等級が1級若しくは2級の障害厚生年金受給者が死亡したとき、あるいは老齢厚生年金の受給権者または老齢厚生年金の受給資格要件を満たした者が死亡したときに、対象となる生計維持関係のあった遺族に支給される(所定の保険料納付要件を満たしていることも必要)。遺族年金を参照。

脱退一時金[編集]

厚生年金の被保険者期間が6月以上である日本国籍を有しない者(国民年金の被保険者でないものに限る)は、以下の要件を満たすことにより脱退一時金の支給を請求することができる。なお、支給回数に特に制限はない。脱退一時金の支給を受けると、その額の計算の基礎となった期間は被保険者でなかったものとみなされる。

  • 老齢厚生年金の受給資格期間を満たしていないこと
  • 日本国内に住所を有しないこと
  • 障害厚生年金又は障害手当金の受給権を有したことがないこと
  • 最後に国民年金の被保険者の資格喪失日から起算して2年を経過していないこと
  • 厚生年金に相当する外国の法令の適用を受けない者

支給額は、被保険者であった期間に応じて、その期間の平均標準報酬額に支給率を乗じて得た額となる。「支給率」は、最終月の属する年の前年10月(最終月が1〜8月の場合は、前々年の10月)の保険料率に2分の1を乗じて得た率に、被保険者期間の区分に応じて定められた数を乗じて得た率である。また2003年(平成15年)3月までの各月の標準報酬月額は1.3倍して計算する。

1941年(昭和16年)4月1日以前生まれの者で被保険者期間が5年以上ある者等については、経過措置として旧法の脱退手当金が支給される。なお脱退手当金は公課の禁止の対象外であるので、課税対象となる。

旧法下で脱退手当金を受給した者は、その期間は老齢基礎年金の計算において合算対象期間となるが、経過措置として脱退手当金を受給した者及び現行法の脱退一時金を受給した者は、その期間は合算対象期間とはならない。

離婚分割の特例[編集]

合意分割
離婚事実婚の解消を含む。以下同じ)した夫婦が、離婚分割の請求をすること及びその按分割合について合意しているとき(協議が整わずに家庭裁判所がそれを定めたときを含む)は、離婚のときから2年以内(審判の審理が長引いて2年を過ぎてしまった場合は、審判が確定した日の翌日から起算して1ヶ月以内)に限り、実施機関に対し離婚分割の請求をすることができる(第78条の2)。2007年(平成19年)4月1日以後に離婚した夫婦に適用されるが、分割の対象期間はそれ以前の期間も含まれる。請求は、「標準報酬改定請求書」に年金手帳、按分割合が記載された書類等を添付して、請求者の住所を管轄する年金事務所に提出する。
第1号改定者(対象期間標準報酬総額の多い者、一般的には夫)と第2号改定者(対象期間標準報酬総額の少ない者、一般的には妻)との按分割合については、
  • 第2号改定者の持ち分は第1号改定者の持ち分を超えてはいけない。
  • 分割により第2号改定者の持ち分が減少してはならない。
離婚分割により、対象期間の間は第2号改定者も厚生年金の被保険者であった者とみなされる(離婚時みなし被保険者期間)。この期間は、老齢厚生年金の受給資格期間や加給年金額の支給要件となる被保険者期間としては扱われず、障害厚生年金の最低保障の対象(300月)にも含まれないが、遺族厚生年金については同様の被保険者期間として扱われる。なお3号分割とは異なり、障害厚生年金の受給権者たる第1号改定者が当該障害厚生年金の額の計算の基礎となっている期間があるときであっても、合意があれば分割することができる。
3号分割
被扶養配偶者(国民年金の第3号被保険者に該当する者、一般的には妻)がその配偶者(特定被保険者という。一般的には夫)と離婚した場合、2008年(平成20年)4月1日以後の期間について、離婚のときから2年以内に限り、厚生労働大臣に対し3号分割の請求をすることができる。この請求に特定被保険者の同意は不要である。この場合、特定被保険者の標準報酬を両者で50%ずつ等分して分割する(協議の余地はない)。3号分割により被扶養配偶者も厚生年金の被保険者であった者とみなされる等は上記と同様である。特定被保険者が離婚後に死亡した場合でも、死亡日から1月以内に3号分割の請求をすることで、死亡日の前日に3号分割の請求があったとみなすことができる。
離婚分割の請求時に、その対象期間内に3号分割の対象となる特定期間が含まれているときは、離婚分割の標準報酬改定請求をしたときに3号分割の請求があったものとみなされる。なお、請求日に障害厚生年金の受給権者たる特定被保険者が当該障害厚生年金の額の計算の基礎となっている期間があるときは、その期間を除いて3号分割を行い、特定期間の全部を計算の基礎とする場合は、3号分割は行われない。

離婚分割の制度は、年金額の計算の基礎となる被保険者期間を分割するものであって、年金額そのものを分割する制度ではない。したがっていかに分割しようとも配偶者本人に老齢厚生年金の受給権が生じなければ、分割に基づく年金は受け取れない。また離婚分割をしたからといって過去にさかのぼって保険給付が発生したり年金額が改定されたりすることもない。なお再婚しても受給権は失われない。

なお、厚生労働大臣は標準報酬の決定・改定を行ったときは事業主にその旨を通知することになっているが、離婚分割による改定はこの例外となっているので、離婚分割を行って標準報酬が変化しても事業主には通知されない。

時効[編集]

保険料その他厚生年金による徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利は、2年を経過したとき、保険給付を受ける権利(当該権利に基づき支払期月ごとに又は一時金として支払うものとされる保険給付の支給を受ける権利を含む)は、5年を経過したときは、時効によって消滅する(第92条)。ただし年金たる保険給付を受ける権利の時効は、当該年金たる保険給付がその全額につき支給を停止されている間は、進行しない。

保険料その他厚生年金による徴収金の納入の告知・督促は、時効中断の効力を有する。

また厚生労働大臣は、厚生年金の受給権者又は受給権者であった者(未支給の給付の請求権者を含む)について、記録の訂正がなされたうえで裁定(裁定の訂正を含む)が行われた場合においては、その裁定による当該記録の訂正に係る受給権に基づき支払われる保険給付の支給を受ける権利について消滅時効が完成した場合においても、保険給付を支払うものとされる(年金時効特例法第1条)。

不服申立て[編集]

厚生年金における被保険者の資格、保険料については健康保険とセットになっていることから、不服申立てについても健康保険と手続が一元化されていて、国民年金における不服申し立て手続きとは一部異なっている。

被保険者の資格、標準報酬又は保険給付に関する処分に不服がある者は、各地方厚生局に置かれる社会保険審査官に対して審査請求をすることができる。この審査請求は処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内にしなければならない。また、被保険者の資格または標準報酬に関する処分に対する審査請求は、原処分のあった日の翌日から起算して2年を経過したときは、することができない。

社会保険審査官の決定に不服がある者は、厚生労働省に置かれる社会保険審査会に対して再審査請求をすることができる(二審制)。この再審査請求は、正当な事由がない限り、社会保険審査官の決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して60日以内にしなければならない。また、審査請求をした日から60日以内に決定がないときは、審査請求人は、社会保険審査官が審査請求を棄却したものとみなして、社会保険審査会に再審査請求をすることができる。いずれの場合であっても、当該再審査請求は口頭で行うことができる。

保険料の賦課もしくは徴収の処分又は滞納処分に不服がある者は、社会保険審査会に対して直接審査請求をすることができる(一審制)。この処分についても二審制をとる国民年金とは異なっている。また脱退一時金に関する処分についても社会保険審査会に対して直接審査請求をすることができる。

以上の処分については、当該審査請求・再審査請求に対する社会保険審査会の裁決を経た後でなければ、取消の訴えを提起することはできない(審査請求前置主義)。

審査請求・再審査請求は、時効の中断に関しては裁判上の請求とみなされる。

厚生年金制度の歴史[編集]

一般の労働者に対する厚生年金の起源は、第二次世界大戦下の1942年に施行された民間企業の現業男子を対象とした「労働者年金保険」である(それ以前にも、企業における福利厚生事業の一としての年金や、対象者を限定する船員年金等はあった)。これは、戦時下における労働力の増強確保と強制貯蓄的機能を期待する目的があったとされているが、手っ取り早い戦費調達手段として導入されたとする見方もある。

その後の1944年(昭和19年)に、対象を女子労働者及び事務系労働者に拡大すると共に、名称も現行の「厚生年金保険」に変更された。

戦後の1947年(昭和22年)の改正においては、それまでは厚生年金保険で行っていた業務上災害による廃疾や死亡に対する給付が、労災保険に移行した。

さらに1954年(昭和29年)には、「年金給付を、定額部分と報酬比例部分に分割する」「老齢年金の開始支給年齢を、男性60歳、女性及び坑内員を55歳とする」「厚生年金の財政は修正積立方式とする」などの改正が行われた。

それ以降、2012年現在に至るまで継続している制度等の実施、導入及び開始は、次のとおりである(厚生年金保険に特に関連するものに限る)。

  • 1961年(昭和36年) 国民年金の開始により、国民皆年金制度が実現
  • 1966年(昭和41年) 厚生年金基金の実施
  • 1973年(昭和48年) 物価スライド制、賃金再評価制の導入
  • 1985年(昭和60年) 基礎年金制度の導入
  • 1986年(昭和61年) 第3号被保険者制度の実施
  • 1994年(平成6年) 特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢の引き上げ開始(定額部分の支給を段階的に廃止)、経過措置による障害厚生年金
  • 1997年(平成9年) 基礎年金番号の実施
  • 2000年(平成12年) 報酬比例部分の支給開始年齢の引き上げ開始
  • 2003年(平成15年) 総報酬制の導入
  • 2004年(平成16年) 厚生年金保険料の引き上げ開始
  • 2005年(平成17年) 財政均衡期間における保険給付額調整期間の開始年度
  • 2007年(平成19年) 離婚時の報酬比例部分の年金分割制度導入
  • 2010年(平成22年) 社会保険庁の廃止、及び日本年金機構の発足

2004年年金制度改正[編集]

自由民主党公明党による与党年金制度改革協議会は、2004年(平成16年)2月4日に厚生年金保険料の引き上げについて合意文書を交わした。

厚生年金保険料は、2004年(平成16年)9月までは年収(総報酬)の13.58%(労使折半)であるが、2004年(平成16年)10月から毎年0.354%(労使折半)ずつ引き上げ、2017年度には年収の18.30%(労使折半)まで引き上げられ13年間で段階的に4.72%引き上げられることになる。ボーナスを含めた平均年収が570万円である場合、2017年度の保険料は年額52万1,550円となり、2004年(平成16年)度よりも13万4,520円の負担増額となる。

厚生年金の支給額については、標準的な年金受給世帯[11]において、現役世代(働いている時)の平均収入の50%以上の水準を確保する。

年齢別の保険料負担と年金給付額についての推計[編集]

厚生労働省は、2004年(平成16年)に国会で成立した年金改革案関連法案に基いた世代別の給付と負担の関係、給付と負担の見通しについての推計を公表した[12]

なお、以下の点に注意する必要がある。

  • 年金では負担時と受給時に大きな時間のずれが存在するため、経済成長や物価上昇により貨幣価値が変化する(負担時の1円としての価値と、受給時の1円としての価値が違う)。このため、比較のために何らかの換算を行う必要がある。本表では賃金上昇率(2.1%と想定)について換算されている。
  • 使用者負担の保険料(労働者負担と同額)は除いて計算している。
  • 基礎年金については国庫負担が存在する。
世代ごとの保険料負担額と年金給付額
2005年(平成17年)時の年齢 保険料(万円、賃金上昇率による換算) 給付額(万円、賃金上昇率による換算) 倍率
70歳(1935年(昭和10年)生) 670 5,500 8.3
60歳(1945年(昭和20年)生) 1,100 5,100 4.6
50歳(1955年(昭和30年)生) 1,600 5,100 3.2
40歳(1965年(昭和40年)生) 2,200 5,900 2.7
30歳(1975年(昭和50年)生) 2,800 6,700 2.4
20歳(1985年(昭和60年)生) 3,300 7,600 2.3
10歳(1995年(平成7年)生) 3,700 8,500 2.3
0歳(2005年(平成17年)生) 4,100 9,500 2.3

(厚生労働省推計)
※モデル世帯の夫婦(ただし妻は1986年(昭和61年)度以降のみ国民年金に加入)がそれぞれの平均余命まで年金を受給した場合。
※保険料は本人負担分。
※金額は物価上昇率で2004年(平成16年)度時点の価値に換算。
※端数処理のため倍率が異なることがある。

世帯タイプ別の年金額と給付水準の試算
タイプ 現在の受給者 2025年(平成37年)度からの受給者
現役時の
平均手取り収入
世帯の年金額と
給付水準
現役時の
平均手取り収入
世帯の年金額と
給付水準
夫は40年間就労
妻は専業主婦
39.3万円 23.3万円
(59.3%)
47.2万円 23.7万円
(50.2%)
40年間夫婦で共働き 63.8万円 29.6万円
(46.4%)
76.6万円 30.1万円
(39.3%)
夫は40年間就労
妻は子育て後に再就職
55.3万円 27.4万円
(49.6%)
66.4万円 27.9万円
(42.0%)
夫は40年間就労
妻は出産後に専業主婦
43.4万円 24.4万円
(56.1%)
52.1万円 24.8万円
(47.5%)
男性独身者が40年間就労 39.3万円 16.7万円
(42.5%)
47.2万円 17万円
(36.0%)
女性独身者が40年間就労 24.5万円 12.9万円
(52.7%)
29.4万円 13.1万円
(44.7%)

※手取り収入は、世帯の合計で、ボーナスを含めた月額換算。2025年の金額は現在の価値に換算。()内は給付水準。

厚生年金保険法の改正[編集]

2004年(平成16年)2月10日に閣議決定された厚生年金保険法改正の主要な条項は次の通りである。

  • 政府は政令で年金給付額を調整する期間を定める。調整期間の年金額再評価改定は、原則として名目手取り賃金変動率に調整率をかけた率を基準とする(34条)。
  • 年金の受給権者が65歳に達した以降の年金額再評価率は、原則として物価変動率を基準とする(43条)。
  • 厚生年金保険料率は2004年(平成16年)から毎年、0.354%ずつ引き上げ、2017年9月以降、18.30%とする(81条)。
  • 3歳未満の子どもを育てる厚生年金加入者の月額賃金が、子育て以前の月額賃金を下回った場合は、以前の賃金を年金額計算の基礎とする。3歳未満の子どもを育てる厚生年金加入者の育児休業期間について保険料を免除する。2005年(平成17年)4月1日から実施する(26条、81条)。
  • 70歳以上で在籍者への厚生年金支給額について、賃金に応じて全部又は一部を支給停止する。2007年(平成19年)4月から実施する(46条)。
  • 30歳未満で遺族厚生年金の受給権を得た妻は、5年を経過すると受給権が無くなる。中高齢寡婦加算支給要件を見直す。2007年(平成19年)から実施する(63条)。
  • 65歳未満で在職者への厚生年金支給額について、2割停止する現行方式を改める(附則11条など)。
  • 離婚した場合、厚生年金の分割割合で合意しているか、裁判所の決定があれば、厚生年金の分割を請求することができる制度を創設する。2007年(平成19年)4月から導入する(3章)。

脚注[編集]

  1. ^ 国民年金と同趣旨の規定が厚生年金についても置かれている(財政の均衡、財政の現況と見通しの作成、積立金の運用、年金原簿、年金請求手続き、併給調整、受給権の保護、給付制限等)。厚生年金原簿には、国民年金原簿の記載事項に加え、被保険者の「標準報酬」が記載される。
  2. ^ 厚生労働省年金局「平成24年度厚生年金保険・国民年金事業の概要」 2013年平成25年)12月
  3. ^ 厚生労働省年金局「平成25年度厚生年金・国民年金の収支決算の概要」 2014年(平成26年)8月
  4. ^ これは、船員保険独自で持っていた年金制度を1986年昭和61年)に厚生年金と統合したが、医療保険制度については引き続き船員保険独自の給付を行っているためである。
  5. ^ 1941年昭和16年)4月2日以降に生まれた者については、新法施行日時点では第4種被保険者となることができたが、現在では1941年(昭和16年)4月1日以前生まれの者に限られる。
  6. ^ 被保険者期間が20年(15〜19年)に達した場合は、老齢年金の受給権が発生していなくても、被保険者資格を喪失する。
  7. ^ 平成26年12月12日財務省告示第386号、平成27年12月11日財務省告示第394号
  8. ^ 「警察官もしくは皇宮護衛官又は消防吏員もしくは常勤の消防団員(政令で定める階級以下の階級であるものに限る)である被保険者(であった者)のうち、特別支給の老齢厚生年金の支給要件を満たしたとき(資格喪失日の前日)において引き続き20年以上在職していた者その他これに準ずるものとして政令で定める者」をいう。
  9. ^ ただし2014年(平成26年)度までにおいてマクロ経済スライドは発動されていないので、実際の給付額は物価スライド特例措置による年金額となる。またこの場合、調整期間においても名目手取り賃金変動率又は物価変動率に調整率は乗じられない。
  10. ^ 在職中に老齢厚生年金を受け取られる方へ 〜働きながら年金を受けるとき (PDF)”. 日本年金機構 (2012年3月29日). 2013年11月5日閲覧。
  11. ^ 夫が平均的な収入で40年間就業し、妻が専業主婦であるという世帯。
  12. ^ 平成16年 財政再計算版”. 厚生労働省 (2012年). 2013年11月7日閲覧。

関連項目[編集]

年金の種類(老齢による給付の場合)
厚生年金基金等の企業年金 共済年金(職域加算) 3階部分
国民年金基金 厚生年金(受給時の正式呼称は老齢厚生年金) 共済年金 2階部分
国民年金(基礎年金、受給時の正式呼称は「老齢基礎年金」) 1階部分

外部リンク[編集]