特定地方交通線

特定地方交通線（とくていちほうこうつうせん）とは、「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」（国鉄再建法）に規定する地方交通線のうち、バス転換が適当とされた旅客輸送密度4,000人未満の国鉄路線のことである。この中から、輸送密度等の条件を勘案して第1次から第3次までの廃止対象路線が選定された。

また、1968年に国鉄諮問委員会が「使命を終えた」ローカル線を選定し、その廃止を促したいわゆる「赤字83線」の取組みが政治的な理由で頓挫してしまった反省を受け、特定地方交通線転換の見返りに転換交付金（1kmあたり3,000万円）の交付や転換後5年間の赤字補填（バス転換は全額、鉄道維持は半額）を保証する等、飴と鞭による転換の推進が図られた。転換交付金は、転換に要する初期投資や赤字補填のための経営安定基金の積立等に充てられた。

廃止路線の選定

1980年10月、国鉄再建法が成立した。翌1981年3月に出された運輸省告示で、1977年度 - 1979年度の平均の輸送人員等によって国鉄路線を「幹線」「地方交通線」に分類、さらに地方交通線のうち旅客輸送密度などの特に低い路線を「特定地方交通線」に指定し、廃止対象としたものである。

• 第1次特定地方交通線 - 1981年9月18日廃止承認
• 第2次特定地方交通線 - 1984年6月22日廃止承認、1985年8月2日4線を追加承認
• 第3次特定地方交通線 - 1986年5月27日廃止承認、同年10月28日1線、1987年2月3日8線を追加承認

廃止対象路線の地元では、廃止から逃れるため、路線乗車運動が行われた。しかし、廃止対象となった路線はもともと利用者が極めて少ないか、その減少から本数が極限まで削減されている路線がほとんどであった（第3次対象を別にすれば、大半が10往復未満）。適切な本数が用意されていれば利用者を確保できたと思われる路線でも、利用しようにもできない時間帯にしか列車が走っていない路線も多かった（勝田線や高砂線など）。鉄道利用が主流だった時代は、企業も鉄道のダイヤに配慮した始終業時間を設定していたが、自動車通勤の普及など、モータリゼーションの進展で企業も鉄道に遠慮する必然性は薄れていった。その結果、本数減少も相まって、まともに利用できるのは通学客だけになっていた路線も多かったのである。そのため、乗車運動で輸送密度を増やそうにも限界があった。

また、こうした乗車運動に対して行政は厳しく対処した。たとえば、第2次廃止対象となった松前線は、乗車運動で一時は廃止対象の基準を外れるだけの輸送成績を記録したが、毎年追試を行い再び廃止対象となった年度があったとして、廃止を逃れる事はできなかった。また、第1次廃止対象となった木原線や信楽線、若桜線は沿線住民の熱心な乗車運動により第1次対象の基準は上回ったものの、後の第3次対象の基準には届かず、最終的には3路線全てが第三セクター化を選んでいる。

転換・廃止路線とその後

特定地方交通線の転換は1990年4月の宮津線と鍛冶屋線、大社線の転換を最後に終結し、最終的に83線 (3,157.2km) が転換された。鉄道として存続したのが38線 (1,310.7km)、バス転換が45線 (1,846.5km) であった。

こうして特定地方交通線の転換はひとまず終結をみたものの、転換後の第三セクター鉄道の経営環境は、沿線の過疎化や少子化の進行、自家用車の普及により厳しさを増しており、多くの会社で転換時よりも乗客数が減少している。乗客減少による収入減に加え、バブル崩壊にともなうゼロ金利政策によって赤字補填のための経営安定基金の利子収入が大幅に減少し、その取り崩しを余儀なくされて基金が底をつくなど、具体的にその存廃が協議されている会社もあり、今後もその行方が注目される。2008年現在、民営鉄道に転換された2線および第三セクター鉄道に転換された4線がすでに廃止され、さらに近い時期の廃止が検討されている路線も高千穂鉄道（清算業務中）をはじめとしていくつか存在する。

これはバス転換された路線でも同様で、山野線のように、バス会社が撤退した区間を地元自治体が引き受けざるを得ない事態も生まれている。また、白糠線転換バスなど、当初は鉄道時代より増便されたが、その後減便された路線は多い（白糠線の場合は鉄道時代に比べ1往復増の4往復が設定されたが、後に学校登校日に2往復のみとなった）。鉄道廃止時に設定された代替バス路線が完全に失われ、近くを通る長距離バスに吸収される例も出ている（幌内線の岩見沢 - 萱野間、士幌線の糠平 - 十勝三股など）。

また、特定地方交通線として指定される前に廃止された旧国鉄根北線などでは、近年代替バスさえ全廃という状況になってきており、過疎地帯では、公共交通の完全消滅も現実味を帯びた状況となっている。

なお、JR自身は特定地方交通線廃止路線の代替バスを運行できないことになっている。但し、既存のJRバス路線に統合できる場合は例外的にJRバスに転換されている路線もある（宮田線・大隅線→JR九州バスに転換）。

第1次廃止対象路線

1982年度末までに廃止することとして、1981年9月18日に廃止承認された路線で、次の基準によって選定された。ただし、将来沿線に団地などの造成により利用客の増加が見込まれる場合はそれを勘案し、とりあえず第1次廃止対象からは除外した（鍛冶屋線・漆生線・宮田線）。

1. 営業キロが30km以下の盲腸線（行き止まり線）かつ旅客輸送密度が2000人/km/日未満（石炭輸送量が72万t以上の路線は除く。これにより、幌内線と歌志内線が第1次廃止対象より除外された）。なお、この基準に当てはまる内子線が廃止対象路線自体に選定されなかった理由は後述する。
2. 営業キロが50km以下かつ旅客輸送密度が500人/km/日未満（白糠線・渚滑線・相生線・興浜北線・添田線に該当）

但し、次の条件に該当する線区は特定地方交通線そのものから除外され、現在でも旅客鉄道会社 (JR) 線として営業している（後述する第2次及び第3次廃止対象に関しても同一）。

1. ピーク時の乗客が一方向1時間あたり1,000人を超す（後藤寺線など多数）
2. 代替輸送道路が未整備（深名線・木次線・三江線・予土線、後に岩泉線と名松線を追加。但し、深名線は1995年9月に廃止された）
3. 代替輸送道路が積雪で年10日以上通行不可能（只見線・越美北線）
4. 平均乗車キロが30kmを超え、輸送密度が1,000人以上（米坂線・肥薩線など多数）

これにより指定された第1次廃止対象特定地方交通線は、次の40線区 (729.1km) である。第1次廃止対象候補であった漆生線は、今後の乗客増加が見込まれるとして第2次廃止対象に回され、同じく第1次廃止対象候補であった鍛冶屋線と宮田線に至っては漆生線と同じ理由であったが、第3次廃止対象まで保留された。また、信楽線は沿線に宗教団体の総本山が建設されることによる利用客の増加が見込まれたため、実質的には第2次廃止対象扱いであった。尚、第1次廃止対象候補の40線区のうち、添田線以外の39線はいわゆる「盲腸線」であった。

転換は、1983年の白糠線を皮切りに1988年の木原線まですべての線区が決着した。うち第三セクター鉄道に転換されたのが16線、私鉄に転換されたのが2線、バス転換が22線であったが、私鉄に転換された2線はすでに廃止されている。

路線名	所在地	転換時	区間	営業キロ	輸送密度	廃止年月日	備考
白糠線	北海道	国鉄	白糠 - 北進間	33.1km	123人	1983年10月23日	白糠町営バスに転換。
久慈線	岩手県	国鉄	久慈 - 普代間	26.0km	762人	1984年4月1日	三陸鉄道北リアス線に転換。
宮古線	岩手県	国鉄	宮古 - 田老	12.8km	605人		三陸鉄道北リアス線に転換。
盛線	岩手県	国鉄	盛 - 吉浜間	21.5km	971人		三陸鉄道南リアス線に転換。
日中線	福島県	国鉄	喜多方 - 熱塩間	11.6km	260人		会津乗合自動車に転換。
赤谷線	新潟県	国鉄	新発田 - 東赤谷間	18.9km	850人		新潟交通に転換。 →現在は新潟交通観光バス。
魚沼線	新潟県	国鉄	来迎寺 - 西小千谷間	12.6km	382人		越後交通バスに転換。
清水港線	静岡県	国鉄	清水 - 三保間	8.3km	783人		静岡鉄道バスに転換。 →現在はしずてつジャストライン。
神岡線	富山県 岐阜県	国鉄	猪谷 - 神岡間	20.3km	445人	1984年10月1日	神岡鉄道に転換。 →2006年12月1日廃止。
樽見線	岐阜県	国鉄	大垣 - 美濃神海間	24.0km	951人	1984年10月6日	樽見鉄道に転換。
黒石線	青森県	国鉄	川部 - 黒石間	6.6km	1904人	1984年11月1日	弘南鉄道（黒石線）に転換。 →1998年4月1日廃止。 弘南バスに転換。
高砂線	兵庫県	国鉄	加古川 - 高砂間	6.3km	1536人	1984年12月1日	神姫バスに転換。
宮原線	大分県 熊本県	国鉄	恵良 - 肥後小国間	26.6km	164人		大分交通に転換。 →現在は玖珠観光バス。
妻線	宮崎県	国鉄	佐土原 - 杉安間	19.3km	1217人		宮崎交通バスに転換。
小松島線	徳島県	国鉄	中田 - 小松島間	1.9km	1587人	1985年3月14日	小松島市営バスに転換。
相生線	北海道	国鉄	美幌 - 北見相生間	36.8km	411人	1985年4月1日	北見バス（後に北海道北見バス）・津別町営バス転換。
渚滑線	北海道	国鉄	渚滑 - 北見滝ノ上間	34.3km	398人		北紋バスに転換。
万字線	北海道	国鉄	志文- - 万字炭山間	23.8km	346人		北海道中央バスに転換。
北条線	兵庫県	国鉄	粟生 - 北条町間	13.8km	1609人		北条鉄道に転換。
三木線	兵庫県	国鉄	厄神 - 三木間	6.8km	1384人		三木鉄道に転換。 →2008年4月1日廃止。神姫バスが代替運行。
倉吉線	鳥取県	国鉄	倉吉 - 山守間	20.0km	1085人		日本交通・日ノ丸自動車バス・ 中鉄バス（→後に撤退）に転換。
香月線	福岡県	国鉄	中間 - 香月間	3.5km	1293人		西鉄バスに転換。
勝田線	福岡県	国鉄	吉塚 - 筑前勝田間	13.8km	840人		西鉄バスに転換。
添田線	福岡県	国鉄	香春 - 添田間	12.1km	212人		西鉄バスに転換。
室木線	福岡県	国鉄	遠賀川 - 室木間	11.2km	607人		西鉄バスに転換。
矢部線	福岡県	国鉄	羽犬塚 - 黒木間	19.7km	1157人		堀川バスに転換。
岩内線	北海道	国鉄	小沢 - 岩内間	14.9km	853人	1985年7月1日	ニセコバスに転換。
興浜北線	北海道	国鉄	浜頓別 - 北見枝幸間	30.4km	190人		宗谷バスに転換。
大畑線	青森県	国鉄	下北 - 大畑間	18.0km	1524人		下北交通に転換。 2001年4月1日廃止。 下北交通バスに転換。
興浜南線	北海道	国鉄	興部 - 雄武間	19.9km	347人	1985年7月15日	北紋バスに転換。
美幸線	北海道	国鉄	美深 - 仁宇布間	21.2km	82人	1985年9月17日	名士バス に転換。
矢島線	秋田県	国鉄	羽後本荘 - 羽後矢島間	23.0km	1876人	1985年10月1日	由利高原鉄道に転換。
明知線	岐阜県	国鉄	恵那 - 明知間	25.2km	1623人	1985年11月16日	明知鉄道に転換。
甘木線	佐賀県 福岡県	国鉄	基山 - 甘木間	14.0km	653人	1986年4月1日	甘木鉄道に転換。
高森線	熊本県	国鉄	立野 - 高森間	17.7km	1093人		南阿蘇鉄道に転換。
丸森線	宮城県	国鉄	槻木 - 丸森間	17.4km	1082人	1986年7月1日	阿武隈急行に転換。
角館線	秋田県	国鉄	角館 - 松葉間	19.2km	284人	1986年11月1日	秋田内陸縦貫鉄道秋田内陸南線に転換。
信楽線	滋賀県	JR西日本	貴生川 - 信楽間	14.8km	1574人	1987年7月13日	信楽高原鐵道に転換。
若桜線	鳥取県	JR西日本	郡家 - 若桜間	19.2km	1558人	1987年10月14日	若桜鉄道に転換。
木原線	千葉県	JR東日本	大原 - 上総中野間	26.9km	1815人	1988年3月24日	いすみ鉄道に転換。

第2次廃止対象路線

輸送密度2,000人/km/日未満の路線が選定された。第2次廃止対象として廃止申請された33線中、1984年6月22日、27線 (1,540.4km) を承認、6線を留保したが、留保されたうち北海道の長大4線（天北線、名寄本線、池北線、標津線 548.8km）が冬季の代替輸送に問題がなくなったとして追加承認（1985年8月2日）、2線（岩泉線、名松線）は代替道路の不備を理由に申請が撤回された。最終的に下記の31線 (2,089.2km) が第2次廃止対象特定地方交通線として選定された。

路線名	所在地	転換時	区間	営業キロ	輸送密度	廃止年月日	備考
漆生線	福岡県	国鉄	下鴨生 - 下山田間	7.9km	492人	1986年4月1日	西鉄バスに転換。
胆振線	北海道	国鉄	伊達紋別 - 倶知安間	83.0km	508人	1986年11月1日	道南バスに転換。
富内線	北海道	国鉄	鵡川 - 日高町間	83.0km	378人		道南バスに転換。
阿仁合線	秋田県	国鉄	鷹ノ巣 - 比立内間	46.1km	人		秋田内陸縦貫鉄道秋田内陸北線に転換。
越美南線	岐阜県	国鉄	美濃太田 - 北濃間	72.2km	1392人	1986年12月11日	長良川鉄道に転換。
宮之城線	鹿児島県	国鉄	川内 - 薩摩大口間	66.1km	843人	1987年1月10日	林田産業交通(現:いわさきバスネットワーク)、南国交通バスに転換。
広尾線	北海道	国鉄	帯広 - 広尾間	84.0km	1098人	1987年2月2日	十勝バスに転換。
大隅線	鹿児島県	国鉄	志布志 - 国分間	98.3km	1616人	1987年3月14日	鹿児島交通バス・JR九州バスに転換 →後にJR九州バスは撤退、現在は大隅交通ネットワーク。
二俣線	静岡県	国鉄	掛川 - 新所原間	67.9km	1518人	1987年3月15日	天竜浜名湖鉄道に転換。
瀬棚線	北海道	国鉄	国縫 - 瀬棚間	48.4km	813人	1987年3月16日	函館バスに転換。
湧網線	北海道	国鉄	中湧別 - 網走間	89.8km	267人	1987年3月20日	網走バスに転換。
士幌線	北海道	国鉄	帯広 - 十勝三股間	78.3km	493人	1987年3月23日	北海道拓殖バス・十勝バス・ 上士幌タクシーに転換（後に上士幌タクシーは撤退）。
伊勢線	三重県	国鉄	河原田 - 津間	22.3km	1508人	1987年3月27日	伊勢鉄道に転換。
佐賀線	佐賀県 福岡県	国鉄	佐賀 - 瀬高間	24.1km	1796人	1987年3月28日	佐賀市営バス・西鉄バスに転換（後に佐賀市営バスは撤退）。
志布志線	宮崎県 鹿児島県	国鉄	西都城 - 志布志間	38.6km	1616人		鹿児島交通バスに転換。 →現在は大隅交通ネットワーク・三州自動車。
羽幌線	北海道	国鉄	留萠 - 幌延間	141.1km	789人	1987年3月30日	沿岸バスに転換。
幌内線	北海道	JR北海道	岩見沢 - 幾春別間	18.1km	1090人	1987年7月13日	北海道中央バスに転換。
幌内線	北海道	JR北海道	三笠-幌内間	2.7km			北海道中央バスに転換。
会津線	福島県	JR東日本	西若松 - 会津高原間	57.4km	1333人	1987年7月16日	会津鉄道に転換。
岩日線	山口県	JR西日本	川西 - 錦町間	32.7km	1420人	1987年7月25日	錦川鉄道に転換。
山野線	熊本県 鹿児島県	JR九州	水俣 - 栗野間	55.7km	994人	1988年2月1日	南国交通に転換。
松前線	北海道	JR北海道	木古内 - 松前間	50.8km	1398人	1988年2月20日	函館バスに転換。
松浦線	佐賀県 長崎県	JR九州	有田 - 佐世保間	93.9km	1741人	1988年4月1日	松浦鉄道に転換。
真岡線	茨城県 栃木県	JR東日本	下館 - 茂木間	42.0km	1620人	1988年4月11日	真岡鐵道に転換。
歌志内線	北海道	JR北海道	砂川 - 歌志内間	14.5km	1002人	1988年4月25日	北海道中央バスに転換。
上山田線	福岡県	JR九州	飯塚 - 豊前川崎間	25.9km	1056人	1988年9月1日	西鉄バスに転換。
足尾線	群馬県 栃木県	JR東日本	桐生 - 足尾本山間	46.0km	1315人	1989年3月29日	わたらせ渓谷鐵道に転換 （間藤-足尾本山（貨物線・1.9km）は廃止）
高千穂線	宮崎県	JR九州	延岡 - 高千穂間	50.1km	1350人	1989年4月28日	高千穂鉄道に転換。 2005年9月6日全線休止。2007年9月6日延岡 - 槇峰間廃止、2008年12月28日槇峰 - 高千穂間廃止、全線廃止。
標津線	北海道	JR北海道	標茶 - 根室標津間	69.4km	590人	1989年4月30日	阿寒バスに転換。
標津線	北海道	JR北海道	中標津 - 厚床間	47.5km			根室交通に転換。
天北線	北海道	JR北海道	音威子府 - 南稚内間	148.9km	600人	1989年5月1日	宗谷バスに転換。
名寄本線	北海道	JR北海道	名寄 - 遠軽間 中湧別 - 湧別間	138.1km 4.9km	894人		北見バス（後に北海道北見バス）・北紋バス・名士バスに転換。
池北線	北海道	JR北海道	池田 - 北見間	140.0km	943人	1989年6月4日	北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線に転換、2006年4月21日廃止、十勝バス・北海道北見バスに転換。

第3次廃止対象路線

1986年5月27日（3線 124.0km）、同年10月28日（1線 30.6km）、1987年2月3日（8線 184.3km）の3次にわたって廃止承認された路線で、輸送密度4,000人/km/日未満の12線 (338.9km) が選定された。第3次廃止対象特定地方交通線は次のとおりである。第3次線は比較的輸送量が多かったこともあり、沿線自治体の第三セクター立ち上げも早く、中でも岡多線や能登線、中村線、長井線に至っては逆に沿線から廃止対象線としての選定を当時の運輸省に対して希望したほどである。そのため比較的短期間で全線が決着した。

路線名	所在地	転換時	区間	輸送密度	営業キロ	廃止年月日	備考
岡多線	愛知県	JR東海	岡崎 - 新豊田間	19.5km	2757人	1988年1月31日	愛知環状鉄道に転換 （のちに未成区間の一部も開業）。
能登線	石川県	JR西日本	穴水 - 蛸島間	61.1km	2045人	1988年3月25日	のと鉄道に転換。 2005年4月1日廃止、能登中央バス・奥能登観光開発に転換 →現在は北鉄奥能登バス。
中村線	高知県	JR四国	窪川 - 中村間	43.4km	2289人	1988年4月1日	土佐くろしお鉄道に転換。
長井線	山形県	JR東日本	赤湯 - 荒砥間	30.6km	2151人	1988年10月25日	山形鉄道に転換。
伊田線	福岡県	JR九州	直方 - 田川伊田間	16.2km	2871人	1989年10月1日	平成筑豊鉄道に転換。
糸田線	福岡県	JR九州	金田 - 田川後藤寺間	6.9km	1488人		平成筑豊鉄道に転換。
田川線	福岡県	JR九州	行橋 - 田川伊田間	26.3km	2132人		平成筑豊鉄道に転換。
湯前線	熊本県	JR九州	人吉-湯前間	24.9km	3292人		くま川鉄道に転換。
宮田線	福岡県	JR九州	勝野 - 筑前宮田間	5.3km	1559人	1989年12月23日	JR九州バスに転換 （既存の直方線による運行、後に廃止）。
宮津線	京都府 兵庫県	JR西日本	西舞鶴 - 豊岡間	83.6km	3120人	1990年4月1日	北近畿タンゴ鉄道に転換。
鍛冶屋線	兵庫県	JR西日本	野村 - 鍛冶屋間	13.2km	1961人		神姫バスに転換。
大社線	島根県	JR西日本	出雲市 - 大社間	7.5km	2661人		一畑電気鉄道バスに転換。 →現在は一畑バス。

鉄道建設公団建設線の開業

国鉄改革が取り沙汰される一方で、改正鉄道敷設法の規定に基づき、日本鉄道建設公団（鉄建公団）の手によりローカル線の建設は続けられていた。しかし、特定地方交通線の転換・廃止が議論される一方でローカル線を新たに建設するのは矛盾が生じるため、1980年4月、運輸省（当時）は、建設線のうち鹿島新線（現・鹿島臨海鉄道大洗鹿島線）と内山線（現・JR四国予讃線内子ルート）を除くAB線（地方開発線・地方幹線）の建設を凍結する措置をとった。前記の2路線を除くAB線は特定地方交通線相当の輸送密度4000人/km/日未満の路線とみなされ、例外は一切認められなかったが、その中には完成を目前にして建設が凍結された久慈線や盛線、想定輸送密度が3900人/km/日と算定されていた智頭線や同じく3800人/km/日の井原線もあった。尚、内山線と共に建設工事が続行された鹿島新線に関しては国鉄線としての開業が予定されていたものの、国鉄の経営悪化に伴い、1984年からは鹿島臨海鉄道が建設工事を引き継いだが、幸いにも工事自体は開業まで凍結されなかった。

その後、第三セクター等、完成後の受け皿が決まれば、建設を再開する道が開かれ、これまでに15線が開業している。この中には、途中で線路規格を高速運転用に変更し幹線鉄道仕様に切り替え、開業に時間がかかりながらも転換したものもある。また、こうした新規開業路線にも1kmあたり1,500万円の転換交付金が交付されている。

路線名	所在地	種別	区間	営業キロ	開業年月日	継承事業者
久慈線	岩手県	B線	田老 - 普代間	32.2km	1984年4月1日	三陸鉄道
盛線	岩手県	B線	吉浜 - 釜石間	15.0km	1984年4月1日	三陸鉄道
鷹角線	秋田県	A線	比立内 - 松葉間	29.0km	1989年4月1日	秋田内陸縦貫鉄道
野岩線	福島県	B線	新藤原 - 会津高原間	30.7km	1986年10月9日	野岩鉄道
丸森線	福島県	C線	福島（矢野目信号場） - 丸森間	37.5km	1988年7月1日	阿武隈急行
鹿島線	茨城県	B線	北鹿島 - 水戸間	53.0km	1985年3月14日	鹿島臨海鉄道
北越北線	新潟県	B線	六日町 - 犀潟間	59.5km	1997年3月22日	北越急行
岡多線・瀬戸線	愛知県	C線	新豊田 - 高蔵寺間	25.8km	1988年1月31日	愛知環状鉄道
樽見線	岐阜県	A線	神海 - 樽見間	10.9km	1989年3月25日	樽見鉄道
宮福線	京都府	A線	宮津 - 福知山間	30.4km	1988年7月16日	宮福鉄道（現・北近畿タンゴ鉄道）
智頭線	兵庫県 岡山県 鳥取県	B線	上郡（岩木信号場） - 智頭間	56.1km	1994年12月3日	智頭急行
井原線	岡山県	A線	総社（清音） - 神辺間	41.7km	1999年1月11日	井原鉄道
阿佐東線	徳島県	A線	海部 - 甲浦間	8.5km	1992年3月26日	阿佐海岸鉄道
阿佐西線	高知県	A線	後免 - 奈半利間	42.7km	2002年7月1日	土佐くろしお鉄道
宿毛線	高知県	A線	宿毛 - 中村間	23.6km	1997年10月1日	土佐くろしお鉄道

線名は鉄建公団の建設線の線名。駅名は開業時のもの。

JR化後も経過措置として1989年3月31日までの2年間に凍結解除の道が残されていたが、その間に工事を再開したのは阿佐東線のみ。岡多線・瀬戸線はC線（主要幹線）であり、鹿島新線と内山線を除くAB線の建設工事が凍結した1980年以降も工事を続行していたが輸送密度が特定地方交通線程度と見込まれた1984年に国鉄線としての工事が凍結された。C線の丸森線は工事再開時にA線扱いとなった。

国鉄再建法施行以降のAB線で唯一、全線が国鉄線として開業した内山線は想定輸送密度が6700人/km/日と算定され、なおかつ予讃本線（当時）内子ルートとしての活用が決定されていたにもかかわらずA線扱いであった（ちなみに内山線と共に建設工事が続行された鹿島新線の想定輸送密度は4100人/km/日と算定されていた）。工事凍結線となった呼子線のうち、虹ノ松原駅 - 唐津駅間に関しては佐賀県唐津市の働きかけによりA線からC線へと格上げされたと同時に建設工事を再開、1983年に国鉄筑肥線として開業した。

特定地方交通線以外の路線廃止

国鉄時代

国鉄再建法による線区の仕分けは、同法施行令別表によって行われた。この別表は、日本国有鉄道線路名称に準じており、中には実質的には特定地方交通線とほぼ同等の輸送実態でありながら、幹線系線区の一部（いわゆる「名無し支線」）として扱われたため、特定地方交通線に選定されなかった線区がある。これらの線区に対する廃止の取組みもされており、その結果次の4線が廃止されている。

路線名	所在地	区間	営業キロ	廃止年月日	備考
福知山線	兵庫県	塚口 - 尼崎港間	4.6km	1984年2月1日	貨物営業廃止。
相模線	神奈川県	寒川 - 西寒川間	1.5km	1984年4月1日	神奈川中央交通の既存路線で代替。
弥彦線	新潟県	東三条 - 越後長沢間	7.9km	1985年4月1日	越後交通に転換。
播但線	兵庫県	飾磨港 - 姫路間	5.6km	1986年11月1日

民営化後

1987年の国鉄分割民営化後も、特定地方交通線に選定されなかった地方交通線の状況は厳しさを増しており、引き続いて各社での取組みがされている。現在までに廃止された線区は、次のとおり。なお、深名線と富山港線以外は部分廃止である。

北海道旅客鉄道（JR北海道）

路線名	所在地	区間	営業キロ	廃止年月日	備考
函館本線（上砂川支線）	北海道	砂川 - 上砂川間	7.3km	1994年5月16日	北海道中央バスの既存路線に代替。
深名線	北海道	深川 - 名寄間	121.8km	1995年9月4日	JR北海道バスに転換 →現在はジェイ・アール北海道バス。

西日本旅客鉄道（JR西日本）

路線名	所在地	区間	営業キロ	廃止年月日	備考
七尾線（一部）	石川県	和倉温泉 - 輪島間	48.4km	1991年9月1日	のと鉄道に移管。 2001年4月1日 穴水-輪島間(20.4km)廃止、能登中央バスに転換 →現在は北鉄奥能登バス。
美祢線	山口県	南大嶺 - 大嶺間	1.5km	1997年4月1日	船木鉄道バスの既存路線に代替 →現在は美祢市コミュニティバス「あんもないと号」。
可部線	広島県	可部 - 三段峡間	46.2km	2003年12月1日	広島電鉄バス・広島交通バスに転換。
富山港線	富山県	富山 - 岩瀬浜間	8.0km	2006年3月1日	（2006年3月1日から2006年4月28日まではバス代行） 2006年4月29日富山ライトレールに移管。

転換に関わり問題点が指摘された路線

特定地方交通線の選定に関しては、選定基準や輸送実態に関する問題点も数多く指摘されている。その主な要因として、

1. 輸送密度の算出が区間単位ではなく路線名称単位で行われたこと
2. 輸送密度の算出に際して、優等列車など他路線への直通列車の乗降人員が算入されなかったこと
3. 選定に際して、輸送密度以外に代替交通機関の整備状況などの諸事情が考慮されたこと

などがある。ここではその主な例について記述する。

函館本線上砂川支線と歌志内線

どちらも砂川駅から分岐する炭鉱路線であったが、上砂川駅への路線は「函館本線の一部」とされたため歌志内線より輸送密度が低かったものの存続となった。この支線が廃止されたのは、前述したように歌志内線廃止の6年後だった。

宗谷本線と天北線

音威子府駅 - 南稚内駅間の輸送密度が宗谷本線より高かった天北線も、旭川近辺の輸送密度が高いことを要因として存続となった宗谷本線とは対照的に廃止対象路線となった。また札幌駅 - 稚内駅を天北線経由で結んでいた急行「天北」の乗車人員について、その乗客は多くが音威子府駅 - 南稚内駅間を乗り通し、天北線内の駅での乗降客は少ないとの見解から輸送密度に算入されなかったことも要因となった。

江差線と松前線

江差線木古内駅以西よりも松前線の方が輸送密度が高く、松前線と江差線木古内以東を乗り通す乗客が多かったものの、路線単位で廃止が決められたため五稜郭 - 木古内間の輸送密度が高い江差線が存続し松前線が廃止対象路線となった。

八戸線と久慈線

共に三陸縦貫線の一部を形成する予定であった路線だが、八戸駅から南下する路線のうち末端近くのみ「久慈線」という別路線となっており、廃止対象路線となった。このため地元ではことわざ「口は災いの元」をもじって「久慈は災いの元」と言われたという。

岩泉線と名松線

どちらも当初は第2次廃止対象路線に指定されていたが、沿線の道路が未整備だったため廃止対象から除外された。

伊勢線

名古屋から南紀地区への短絡線的役割を持つ路線だが、線内を無停車で走る特急「南紀」の乗客数が輸送密度に算入されなかったため特定地方交通線に指定された。第三セクター化により路線は存続したものの、「南紀」やJR化後に登場した快速「みえ」で同線を通過する場合の運賃計算が複雑になり、「青春18きっぷ」をはじめとする企画切符の利用対象外になるといった問題がある。

土讃本線と予土線、中村線

土讃線の延長線的な性格を持つ中村線が第3次特定地方交通線に指定されたのに対し、輸送密度がはるかに低かった予土線は並行道路が未整備との理由からで存続となった。しかし予土線と土讃本線を結ぶ窪川駅 - 川奥信号場間 (8.0km) が中村線であったため、路線網が分断される可能性が生じた。結果的に土佐くろしお鉄道が中村線を引き継ぎ予土線列車も従来通り乗り入れる事になったが、当初はバス連絡とすることも検討されたという。

内子線

内子線は第1次特定地方交通線並の輸送密度であったが、前後に鉄建公団建設線の内山線を挟むことで予讃本線（当時）の新ルートとしての活用が決定されており、1986年3月に晴れて同ルートの一部となった。しかし、既存の内子線区間は換算キロ制が適用される地方交通線であったため幹線である予讃本線へ編入されず、従来の線名と換算キロ制が引き継がれた。

鍛冶屋線と加古川線

鍛冶屋線のうち野村 - 西脇間は加古川線の運行形態において本線区間を形成しており当然ながら加古川 - 野村 - 西脇間がメインで加古川線の末端区間である野村 - 谷川間は支線的存在であった。また西脇駅は北播磨地域の核都市である西脇市の中心市街地至近に位置していた。この区間の廃止は残存する加古川線の利用者を大きく減じるだけでなく西脇市の中枢性をも毀損する懸念があり、区間単位での存続や野村 - 西脇間の加古川線編入（路線名を運行実態と合わせる）など様々な運動が行われたが、結果として従来通りの路線単位で廃止が決められたため加古川線は実質的本線区間の重要部分を失うこととなった。尚、鍛冶屋線の廃止に伴い、西脇市の街外れに存在する加古川線の野村駅がその代償として「西脇市駅」と改称され現在に至る。

関連項目

• 廃線
• 営業係数
• 赤字83線
• 日本国有鉄道経営再建促進特別措置法
• 国鉄分割民営化
• 第三セクター鉄道