正規空母

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

正規空母(せいきくうぼ)とは、航空母艦(空母)の一種。もともとは日本海軍において空母として運用される目的で起工、建造されたものを指した。

概要[編集]

この用語は現代においては曖昧に使用されていおり、第二次世界大戦当時と現代でも解釈が異なる。また、留意しなければならないのは正規空母という語を使うのはほぼ日本のみであるという点である。これは後述するように正規の空母とそれ以外を区別すべき必要性が日本海軍にはあった(言い換えれば他所にはなかった)ことに起因する。

たとえばアメリカ海軍であればミッドウェー級にCVB(大型空母)という艦種記号を割り当てたこともあるが「正規」に相当する語はなく、日本語で俗に正規空母とされる艦は概ねCV(空母)であり、厳密に言うなら艦隊空母(Fleet carrier)となる。艦隊空母の定義は艦隊の主力となりうるという能力的な面と、艦隊の行動に追随できるという機動性の面に分かれる。大型高速の空母であればもちろん艦隊空母となるが、比較的小型であったり、あるいは巡洋艦などの船体設計を流用した搭載機の少ないもの(第二次世界大戦当時で言えば大型空母の90機に対して45機程度)であっても高速であれば艦隊空母に分類される。この分類を最も端的に表したのはイギリス海軍コロッサス級で、日本であれば低速(25ノット)の軽空母とのみ認識されるが、正確には1942年戦時計画艦隊軽空母(1942 Design Light Fleet Carrier)と呼ばれ、商船の船体設計を流用した低速(18ノット程度)の護衛空母と異なり、艦隊に随伴可能でありながら高価で建造に時間のかかる艦隊空母の不足を埋めるものであった。

日本において正規空母という語ができた原因については、正規空母と対比される改装空母(対象が海軍艦艇であれば改造空母、商船であれば特設空母)の存在がある。日本海軍はワシントン/ロンドン軍縮条約によって個々の艦の排水量や保有空母の総排水量に制限を加えられた空母の戦時の短期間での増加策として、急速建造ではなく既に完成した条約制限外の他艦種からの改造・改装を意図し、空母への改装を前提とした給油艦潜水母艦、海軍による建造費助成を行った民間の高速商船が建造された。日本の改装空母と米英の護衛空母は対ににあたるという見方がされる場合も多いが、艦隊決戦のために改装元となる船舶を事前に建造しておく(そして船ごとに異なる工事を行った)日本の「改装空母」と、商船の線図を基本としながらも空母としての設計を行った上で船団護衛のために新規建造された「護衛空母」は、建造数の多寡の問題を別としても概念として異なる存在である。実際、米英の護衛空母はジープ空母(Jeep Carrier)、赤ちゃん空母(Baby Flattop)、ウルワースキャリア(Woolworth Carrier:ウルワースは廉価販売のチェーン店)などと呼ばれたが(実際に商船から改装された艦があったにも関わらず)圧倒的に新造艦が多数を占めたことから、日本のように完成している、あるいは別目的で建造中の艦艇や商船を改造した空母として説明される機会は少ない。逆に言えば、日本海軍には航空母艦という種別はあっても、それを細分化して小型の空母を区別する「軽空母」という概念は存在しない。改装を終えた改造空母や特設空母も、種別としては正規空母と同じ航空母艦であった。

戦後の日本は空母を保有していないため、公式に空母の種別を決めたことも他国の空母を類別したこともない。ヘリコプター護衛艦やDDH、あるいはヘリ空母という呼称も、あくまで一般にそう呼ばれるというものであり、公式にはすべて単なる護衛艦(DD)である。以下の正規空母の分類や根拠も、旧海軍の分類を除き、そういう見方があるという一例である。

  1. 第二次世界大戦時の空母について
    1. 空母として完成した艦を正規空母とする分類。日本海軍の定義であり、公式なものはこれのみである。当初より空母として設計・建造されたもの(「鳳翔」、「ヨークタウン」など)の他、設計時は他の艦種ながら途中で設計変更し、結果的に空母として完成したもの(「赤城」、「サラトガ」など)も含まれる。
    2. 軽量な戦闘機のみならずより大型で重量のある雷撃機等も運用できる空母。この定義では特設空母の飛鷹型カタパルトTBFアベンジャー雷撃機を運用したアメリカ海軍の護衛空母も正規空母に含まれる。
    3. 商船などでなく当初より軍艦として建造された艦とする分類。前述の「赤城」、「サラトガ」、「信濃」のような大型艦のほか、水上機母艦や潜水母艦、給油艦を改装した小型の改造空母も含まれる。
    4. 建造・改装によらず空母のうち、速度、防御、搭載能力の全てまたはどれかが優れ・戦力において主力であった空母。鳳翔はこの分類では正規空母から外れるが、この場合、定義そのものが日本海軍の分類とは無関係となる。
    5. 単に、護衛空母・改造空母に対する反対概念。単に海軍の水上機母艦や輸送空母でない(旧日本陸軍が「正規」の兵器として空母を保有した例-あきつ丸など-はある)空母。
  2. 現代の空母について
    現代の日本においては、建造国が空母という分類で建造した艦(たとえばNATOの国際ペナント・ナンバーにおけるR)であっても、STOVL機の運用能力しか持たなければ正規空母ではなく軽空母と分類される。イタリアの「ジュゼッペ・ガリバルディ」は軽空母とされるが、海軍の固定翼機の保有を禁じた空軍法が改正されるまではヘリコプターしか搭載していないため、ヘリ空母と呼ばれていた。しかしスキージャンプ台は建造当初から装備されており、艦そのものは改装されおらず同一のものであり、イタリア海軍自身は一貫して空母とのみ種別している。
    カタパルトによって発艦し、着艦拘束装置を用いるCATOBAR空母は正規空母とされる例がほとんどであるが、スキージャンプ台を使って短距離で発艦し着艦拘束装置を用いるSTOBAR空母は正規空母に含められることもあれば、艦上機の構造上の上限では無く(計画段階からSTOBAR運用を求めた艦上機はまだ存在しない。すべてが陸上運用する戦闘機の改造型である)滑走距離と搭載量によって最大離陸重量が大きく制限される事実を以って、空母の排水量如何に関わらず軽空母と分類する場合もある。
    また、日本ではあまり馴染みがなく公式なものではないが、一般に知られる分類としてスーパーキャリアと呼ばれるものがある。アメリカ海軍のフォレスタル級以降の大型の空母を指すもので、現在現役なのはニミッツ級以降の原子力空母のみとなるが、イギリス海軍クイーン・エリザベス級の排水量が7万トンを超えることから、就役すればスーパーキャリアに加わるとされる。

メリット・デメリット[編集]

各国の正規空母[編集]

2017年現在この現代の定義に当てはまる空母を持っている国は、以下の5ヶ国のみである。

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

アメリカ海軍は第二次世界大戦中に建造したエセックス級ミッドウェイ級ジェット機を運用するためにアングルド・デッキの増設改修したものを保有していたがこれらは1992年までに全艦が退役し、第二次世界大戦後に当初よりジェット機を艦載機とする前提で建造された通常動力型もフォレスタル級が1998年までに、キティホーク級も2007年までに全艦が退役したため、現在保有する正規空母はすべてが排水量8万トン超の原子力空母となっている。
また、1950年頃から、それまでは艦隊空母(CV)、大型空母(CVB)とされていたものが、搭載する航空団(およびそれを支援する航空艤装)によって攻撃空母(CVA、原子力推進であればCVAN)と対潜空母(CVS)に区別された。艦隊空母(CV)という類別そのものは残されたが、モスボールされた保管艦も含めて、類別変更を受けているため、その指定を受けた船は存在しなくなった。1975年以降、対潜機を含む航空団の編成に改組されたことから汎用空母(CV、原子力推進であればCVN)へ変更された。


フランスの旗 フランス

フランス最初の原子力正規空母「シャルル・ド・ゴール」
フランス海軍の空母「シャルル・ド・ゴール」は原子力潜水艦用の原子炉を転用した機関を搭載する原子力空母で、アメリカ海軍以外で唯一E-2C早期警戒機を運用可能な空母である。艦上機としてのE-2Cをみた場合、他の艦上機との大きな違いは、発艦重量と着艦重量の差が機内燃料分に限られる点がある。他の艦上機であれば、最大発艦重量において空虚重量は最小となるように設計することで燃料や兵装をより多く搭載し、作戦行動半径や攻撃力を増大させるが、E-2Cの場合は消費する燃料以外は機体と搭載した電子機器であり、投棄する兵装も持たない。具体的な例を挙げると、F/A-18Cは最大離陸重量5万2,000ポンドに対して最大着艦重量は3万4,000ポンドとなる。E-2Cは最大離陸重量が5万4,000ポンドであるが、最大着艦重量はF/A-18Cを大きく超える4万6,000ポンドとなる。そのため、アングルド・デッキはニミッツ級原子力空母そのままの寸法でありながら、艦形の抑制のために駐機スペースに思い切った削減を施して、機体のハンドリングの不利を承知で長大なC-13カタパルトの後端をアングルド・デッキに食い込ませてまで艦の全長を短縮、右舷の発艦位置に近くに2基のエレベータを配置するためにアイランドを艦首側に押しやったものとなっており、これはE-2Cを運用できる最小サイズを追求したものであるといえる。しかし、それでも2000年に実施された発着艦公試では飛行甲板の不足が判明し、飛行甲板を延長する工事を行うなど就役は2年遅れ、建造費は20パーセント超過、2番艦の建造は中止された。
改めてクイーン・エリザベス級の準同型艦の取得が計画されたが、こちらも2013年に中止となっている。


ロシアの旗 ロシア

スキージャンプ甲板を持つ「アドミラル・クズネツォフ」
ロシア海軍の「アドミラル・クズネツォフ」は基準排水量5万トン超の大型艦であるが建造費用を圧縮するという政治的な理由により蒸気カタパルトを装備せず発艦時はスキージャンプを使用する。また、航空打撃力の不足を補うために巡航ミサイルを始め各種ミサイルが装備されている。
搭載機は空軍の主力戦闘機Su-27の艦上型Su-33でカタパルトを装備しないためSTOBAR機として扱われる。
なおロシアはモントルー条約による制限を避ける政治上の理由で、「アドミラル・クズネツォフ」やキエフ級を航空母艦とではなく航空巡洋艦と呼んでいる。


ブラジルの旗 ブラジル

サン・パウロ」(手前)と原子力空母「ロナルド・レーガン」(奥)
ブラジル海軍の空母「サン・パウロ」は元フランス空母「フォッシュ」で、カタパルトと着艦拘束装置を装備したCATOBAER空母である。搭載する艦上戦闘機はA-4 スカイホークであるが、これは既に退役したコロッサス級空母「ミナス・ジェライス」の航空機運用能力に合わせたものである。同大のエセックス級の近代化改装型は重攻撃飛行隊から分遣されるA-3 スカイウォーリアを運用可能していた時期があり、クレマンソー級もまた老朽化したF-8 クルセイダーの更新としてF/A-18 ホーネットを検討し発着艦のテストを実施しており、装備するBS5カタパルトはF-4 ファントムを運用したイギリス海軍の「アーク・ロイヤル」のものと同型であることから、航空艤装の能力的にはより大型機も運用可能である。
後継機としてはフランス海軍時代にテストを行ったラファールMや、インド海軍に提案されていたユーロファイター・タイフーン艦上型などの選択肢もないわけではないが、そもそも現在運用しているA-4KUそのものが予算の不足から近代化改修済みのアメリカ海軍機の中古を購入できず、より安価な元クウェート空軍機を23機7,000万ドルで導入した経緯があるため、予算の不足に起因する低調な活動とも相まって、正規空母にカテゴライズしてもその戦力としては限られた能力しか発揮し得ないが、ブラジル海軍は2030年代まで運用する意図を持っている。


 インド

進水した「ヴィクラント」
STOVL機のシーハリアーを搭載する軽空母「ヴィラート」を運用してきたインド海軍だが、スキージャンプ甲板を利用するSTOBAR方式でCTOL機を運用する「ヴィクラント」の自国建造を進めており、2010年進水、2012年就役を予定していたが、造船所のインフラが不十分な事や、建造費の高騰などによる建造計画が大幅に遅延。2012年6月、他の船の建造のためドックを空ける必要になり、建造途中でドックより引き出された。2013年8月12日進水。
またロシアに同じくSTOBAR方式の「ヴィクラマーディティヤ」の改装を発注するも工事が遅延を繰り返すし、2013年11月16日にようやく引き渡された[1]


建造中の正規空母[編集]

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

現在建造中なのは、「ニミッツ」の後継艦として、2015年に起工された2番艦「ジョン・F・ケネディ」。


イギリスの旗 イギリス

「クイーン・エリザベス」
イギリス海軍では1978年に「アーク・ロイヤル」が退役した後、多額の建造費と運用費が掛かる正規空母の運用を諦め、STOVL機の運用能力しか持たない満載排水量2万トンのインヴィンシブル級軽空母を30年近く運用してきたが、インヴィンシブル級の後継として満載排水量6万トンを超えるクイーン・エリザベス級2隻の建造が進められている。
2番艦「プリンス・オブ・ウェールズ」は、電磁式カタパルトを持ちCTOL機のF-35Cを運用できる正規空母として再設計の上、建造が進められ、2019年に「プリンス・オブ・ウェールズ」が就役すると同時に1番艦「クイーン・エリザベス」は予備役に編入される予定だったが、F-35Cの実戦配備が2023年まで遅れる見込みのため、C型からB型に戻されることとなったため今後の動きは不透明である。


中華人民共和国の旗 中国

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ ロシアの声 (2013年11月16日). “空母「ヴィクラマーディティヤ」インドに引き渡し”. 2013年12月1日閲覧。