正規空母

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正規空母(せいきくうぼ、英語: fleet carrier)は、航空母艦(空母)の一種。空母のうち、改造空母護衛空母を除いた、大型で艦隊の主戦力として用いられる艦を指す呼称である。

概要[編集]

正規空母の「正規」とは最初から空母として設計・建造され、完成した空母であることを示している。空母以外の軍艦から改造された空母(改造空母)や商船から改造された空母(特設空母)と対比されて用いられた。一般的に、正規空母は他艦種から改造された空母よりも大型で速力や航空機運用能力に優れており空母としての戦闘力が高かったため、「正規空母」という言葉が「艦隊の主戦力となる大型の空母」という意味合いで使用された。ただし、あらゆる場合において「正規空母=大型空母」という図式が成立するわけではなく、黎明期に建造された「鳳翔」や軍縮条約の制約を受けた「龍驤」など、正規空母でありながら小型で搭載機数が少ない空母も存在する。一方、巡洋戦艦として完成していた船体を空母に改造した「赤城」や戦艦として完成していた船体を空母に改造した「加賀」は厳密には正規空母の定義から外れているが、大型で高い航空戦力を持つことから正規空母に分類されることが多い。

なお、「正規空母」という分類は大日本帝国海軍(日本海軍)独自のものであり、他国の海軍で同種の呼称が使用されたことはない。英語では艦隊の主力となる大型空母は「fleet carrier(英語版)」、日本語に訳せば「艦隊空母」と呼ばれている。また、日本海軍においても「正規空母」という艦艇類別は正式には存在せず(空母は一括して「航空母艦」に分類されていた)、あくまでも便宜的な分類として使用されていた。

各国海軍における状況[編集]

大日本帝国海軍[編集]

「正規空母」という呼称は日本海軍独自のものだが、この呼称が誕生したきっかけは1930年のロンドン海軍軍縮会議にある。この会議で決定された空母の保有制限をかいくぐるため、日本海軍は「空母への改造を前提とした設計の補助艦艇や商船を建造しておき、制限失効後に空母に改造する」という策をとった。そこで、既に就役していた空母をこれらの改造型空母(比較的小型・低速で搭載機数も少なく、戦力は小さい)と区別するため、「正規空母」という呼称が便宜的に用いられるようになった。

日本海軍の正式な艦艇類別では空母を全て「航空母艦」に分類し、細かい類別は設けていなかったが、実際には艦政上・人事上は適宜に区別されていた。例えば海軍省では、「赤城」「加賀」の竣工にあわせて「排水量25,000トン以上の空母の艦長は、戦艦の艦長と同じく、大佐の特別俸とする(代将にあたる待遇)」と定めた。これに該当する大型空母は、上記2隻に翔鶴型翔鶴瑞鶴)と「大鳳」 ・「信濃」を加えた6隻であった[1]。また、これらの大型空母のほか、中型空母のうち改造空母以外の艦(蒼龍飛龍雲龍型[2]軽空母のうちやはり改造空母以外の艦(鳳翔および龍驤)を加えた艦が正規空母と称される[3]。「赤城」「加賀」は戦艦や巡洋戦艦の船体を流用して建造された艦であり厳密には正規空母の定義には当てはまらないが、いずれも主力空母にふさわしい強力な航空戦力を備えていた[4]ことから正規空母に分類される。

アメリカ海軍[編集]

アメリカ海軍も、当初は日本海軍と同様に空母の中に細かい類別を設けず、一括してCV船体分類記号を付与していた。ただし第二次世界大戦に伴う需要激増に対応して、特に船団護衛に投入するために商船の船体を利用した小型・低速の空母として登場した航空機護衛艦(Aircraft escort vessel)については、AVGの船体分類記号を付してCVと区別していた[5][注 1]。その後、異例の大型艦であるミッドウェイ級の建造にあわせて、1943年7月15日に整理が図られることになり、従来の航空母艦(CV)のうち同級のみ大型航空母艦(Large aircraft carrier)に類別変更され、CVBの船体分類記号が付与された。一方、巡洋艦の設計を流用した小型の艦(インディペンデンス級サイパン級)は軽空母Light aircraft carrier, CVL)に類別変更された[5]

1952年7月、アメリカ海軍はCVの一部を対潜戦に充当することとし、対潜空母の類別が新設されて、CVSの船体分類記号が付与された。また10月には、それ以外のCVとCVBが攻撃空母に類別変更されて、CVAの船体分類記号が付与された[6]。また1956年5月29日核動力を導入した「エンタープライズ」が就役すると、原子力攻撃空母Nuclear-powered attack aircraft carrier)の類別が新設されて、CVANの船体分類記号が付与された[5]。しかしベトナム戦争後に国防予算が削減されると、対潜戦専従の航空母艦を維持することは困難になっていき、CVA/CVANに艦上哨戒機哨戒ヘリコプターを搭載して対潜戦を兼務させることになり、CVSの運用は1974年までに終了して、CVA/CVANは汎用化されてCV/CVNと改称した[6]

なおこれらの船体分類記号による正式な類別とは別に、フォレスタル級以降のCV・CVN(CVA・CVAN)は超大型空母とも俗称される[7]

イギリス海軍[編集]

イギリス海軍では、黎明期の空母や改造空母で累積した経験を踏まえて「アーク・ロイヤル」を建造し[8]、1938年に正規空母として竣工させた。同艦は新時代を画する第一艦として[9]超大型空母とも称された[10]。これに続いて、重防御化を図ったイラストリアス級の建造も開始された[9]。しかし第二次世界大戦の開戦とともに空母の急速建造が急務となり、イラストリアス級のように強力・複雑な艦では所定の勢力を確保できないと判断されたことから、コロッサス級を端緒として、排水量・速力を妥協して甲鉄防御も全廃、構造も商船類似の方式とした軽空母(Light fleet aircraft carriers)の建造に移行した[9]

その後、アメリカ合衆国の参戦で戦局が安定した1942年から1943年にかけて戦後を見据えた建艦計画が策定されると、大型の艦隊空母の建造が再開されることになり、オーディシャス級ジブラルタル級の建造が盛り込まれた。しかしジブラルタル級は結局全て建造中止となり、オーディシャス級2隻のみが建造された。これらは順次に改正を受けつつ戦後のイギリス海軍の艦隊航空戦力の中核を構成していたが、1966年度国防白書固定翼機運用空母の全廃が決定されたことで1978年までに運用を終了した。またこのとき、これらの後継艦として計画されていたCVA-01級の建造中止も決定されており、これによってイギリス海軍の空母史は一度終止符を打たれることになった[11]。しかしこの空母全廃政策は艦載ヘリコプターなどの搭載艦まで含むものではなかったことから、艦隊空母を補完するヘリ空母として開発されていた護衛巡洋艦の機能充実が図られることになり、最終的に、垂直/短距離離着陸機であるシーハリアー艦上戦闘機の運用に対応したインヴィンシブル級として結実した[11]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 航空機護衛艦(AVG)は、1942年8月20日には補助航空母艦(Auxiliary aircraft carrier)と改称して船体分類記号もACVに変更された。その後、1943年7月15日の類別の整理の際に、他の空母になぞらえて、護衛空母Escort carrier)と改称し、船体分類記号もCVEに変更された[5]

出典[編集]

  1. ^ 福井 2009, pp. 35–40.
  2. ^ 福井 2009, pp. 254–280.
  3. ^ 中川 1994, pp. 8–70.
  4. ^ 中川 1994, p. 7.
  5. ^ a b c d 中名生 2014.
  6. ^ a b Naval History and Heritage Command (2017年8月1日). “Carrier Designations and Names”. 2020年2月17日閲覧。
  7. ^ 野木 2021.
  8. ^ 福井 2008, pp. 57–70.
  9. ^ a b c 福井 2008, pp. 119–127.
  10. ^ “Reich's Cruise Ships Held Potential Plane Carriers”. The New York Times: p. 32. (1938年5月1日). オリジナルの2018年2月24日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180224173246/https://www.nytimes.com/1938/05/01/archives/reichs-cruise-ships-held-potential-plane-carriers.html 2015年5月17日閲覧。 
  11. ^ a b 中川 2005.

参考文献[編集]

  • 中川, 務「日本航空母艦史」『世界の艦船』第481号、海人社、1994年5月、 ASIN B007U1UYGC
  • 中川, 務「イギリス航空母艦の歩み」『世界の艦船』第649号、海人社、2005年10月、 143-149頁、 NAID 40006903894
  • 中名生, 正己「米空母の艦種記号」『世界の艦船』第807号、海人社、2014年11月、 204-205頁、 NAID 40020238934
  • 野木, 恵一「航空母艦 私のベスト3」『世界の艦船』第943号、海人社、2021年3月、 112-113頁。
  • 福井, 静夫『世界空母物語』光人社〈福井静夫著作集〉、2008年。ISBN 978-4769813934
  • 福井, 静夫『日本空母物語』光人社〈福井静夫著作集〉、2009年。ISBN 978-4769814276