インヴィンシブル級航空母艦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
インヴィンシブル級航空母艦
HMS Illustrious MOD 45154447.jpg
艦級概観
艦種 航空母艦軽空母
艦名
建造期間 1973年 - 1981年
就役期間 1980年 - 2014年
前級 オーディシャス級
タイガー級ヘリコプター巡洋艦
次級 クイーン・エリザベス級
性能諸元
排水量 基準:16,000 t
満載:20,500 t
全長 210 m
全幅 36 m
吃水 8 m
機関 COGAG方式
TM3Bガスタービンエンジン
(24,250 hp/18,080 kW)
4基
スクリュープロペラ 2軸
速力 最大28kt
航続距離 7,000海里 (18kt巡航時)
乗員 個艦要員685名 (うち士官60名)[1]
航空要員366名 (うち士官80名)[1]
海兵隊員600名以上[1]
兵装 ファランクスゴールキーパーCIWS 3基
GAM-B01 20mm機銃 2基
シーダートSAM連装発射機
※後に撤去
1基
艦載機
(一例)
V/STOL戦闘機
(シーハリアー/ハリアー II)
9機
哨戒ヘリコプター
(シーキング/マーリン)
9機
早期警戒ヘリコプター 3機
C4I ADAWS戦術情報処理装置
レーダー 922型 捜索用 1基
1006型 航法用 2基
1022型英語版 長射程対空用 1基
909型 SAM管制用
※後に撤去
2基
ソナー 2016型 船底装備式 1基

インヴィンシブル級航空母艦英語: Invincible-class aircraft carrier)は、イギリス海軍が建造した軽空母の艦級。公式の艦種呼称はCVS(対潜空母)とされている[2]

世界で初めてスキージャンプ勾配によるSTOVL運用を導入した艦級であり、フォークランド紛争において実戦投入された際には、搭載するシーハリアーによる戦闘空中哨戒近接航空支援で活躍した。ソ連海軍キエフ級航空母艦とともに、現代的な軽空母の先駆者として高く評価されている[3]

来歴[編集]

CVA-01と護衛巡洋艦[編集]

イギリス海軍では、1950年代より新しいヘリ空母についての検討を開始した。当初はヘリコプター22機の搭載が求められたために排水量19,000トンとされていたが、コスト低減のため、後に搭載機は8機に削減された。これに伴い、設計案の排水量も5,000トンから7,000トン程度に削減されたほか、従来の空母船型に加えて、艦橋構造物と一体化した長船尾楼を備えた巡洋艦型の設計も俎上に載せられた[4]

これらの検討は1959年から1960年頃にはおおむね完了しており[4]、これを踏まえて、1961年5月、海軍本部国防省に対し、護衛巡洋艦(escort cruiser)を提案した。これはタイガー級ヘリコプター巡洋艦(12,080トン、ヘリコプター4機搭載)の後継として、基準排水量13,500トン、シースラグ艦対空ミサイル旗艦設備を備えるほか、正規空母を固定翼機の運用に集中させられるように、シーキング哨戒ヘリコプター9機の運用も分担することになっていた[5]

またこれとは別に、1963年7月30日、イギリス政府は、空母「アーク・ロイヤル」および「ヴィクトリアス」の代替となる新しい航空母艦の建造計画を発表した。1964年度の防衛白書では、近代化改修された空母「イーグル」よりわずかに大きく、1970年代初頭より就役する予定とされており、設計はCVA-01級と名付けられた[6]。CVA-01級の設計は1966年1月27日に完了したが、その後1ヶ月もしないうちに、計画そのものがキャンセルされた[4]

CCHとTDC[編集]

CVA-01級の計画中止後も護衛巡洋艦の計画は生き残ったが、艦隊から正規空母が消滅することになったことに伴い、設計は全面的に改訂された。1967年12月には幕僚要求事項が作成されたが、航空運用能力は強化され、軽空母(CVL)に近いサイズまで大型化した[5]。この計画は指揮巡洋艦(CCH)と称されるようになっており、1968年1月には3つの設計案が作成された。1つめは艦後半部のみに航空艤装を備えた航空巡洋艦(12,750トン)、2つめは全通飛行甲板を備えた案(17,500トン)、3つめはこれに海底反跳に対応したソナーを追加した案(18,700トン)であった。参謀部は3つめの設計を採択し、1970年末には概略設計が完了した[4]

一方、当時イギリスでは垂直離着陸機の開発が進められており、1966年にはイギリス空軍向けの実用機としてホーカー・シドレー ハリアーが初飛行し、1969年には引き渡しを受けていた。同機は、航続距離や兵装搭載量で通常離着陸機に劣る点が多かったものの、Tu-95「ベア」のような洋上哨戒機に対する要撃機としては有望と考えられており、同年、デビッド・オーエン海軍担当政務次官は、ハリアーを新しい対潜巡洋艦からも運用するように提言した。この提言は、この時点では採択されなかったものの、上記のように艦型が拡大されるとともに本格的に検討されるようになっていった。この頃には、計画は全通甲板巡洋艦(Through Deck Cruiser, TDC)と称されるようになっていた[5]

1973年4月17日、1番艦「インヴィンシブル」が発注された。建造途上の1975年5月にはシーハリアーの導入が正式に決定され、これに伴い、発艦支援設備としてスキージャンプ勾配が同艦に追加されることとなった。これらの設計変更の影響もあり、同艦の就役は予定より2年遅れの1980年7月にずれ込むこととなった。就役時には、対潜空母と称されるようになっていた[5]

設計[編集]

船体[編集]

船型としては全通甲板型が採用されており、上部構造物は右舷側に寄せたアイランド方式とされている。ガスタービン主機をシフト配置している関係から、アイランドはかなり長大なものとなった。また英空母の通例として、アイランドは右舷いっぱいに寄せられてはおらず、その外側には車両等が通行できる程度の通路が残されている[3]

なお、建造費と維持費を抑えるため、商船の設計方法が導入されている。LB比(水線長/幅)は約7で、決して高速艦の艦型ではない。ただし、機関部はダブル・ハルとされるなど抗堪性には意が払われており、また後に数次に渡る改修による重量増(1990年前後の第1次改装のみで250トン)を許容できるなど、設計には十分な余裕が見込まれていた[7]

小型の空母なので艦の動揺軽減のために船底に固定式のフィン・スタビライザーを2組備えることで、艦載機の離着艦の安全をはかり、シーステート7という荒れた海でも33km/hで航走して70%の時間で動揺を5度以内に収める設計となっている。高い乾舷もあって、航洋性は非常に優れていた[4]

機関[編集]

本級は、当時としては世界最大のガスタービン推進艦として知られている。主機関としては、21型フリゲートで高速機として採用されていたロールス・ロイス オリンパスTM3Bの単機種構成とされ、COGAG方式で2基ずつ4基、両舷2軸に配している。抗堪性向上のため機関はシフト配置とされており、前部機械室が右舷軸、後部機械室が左舷軸を駆動する。

なお、後のガスタービン推進艦は、いずれも可変ピッチプロペラ(CPP)によって逆進時の操作を容易にしていたが、本級ではまだ固定ピッチ式であったため、逆転時のクラッチなどのギヤ操作が複雑となり、減速機が重く大きなものとなった。

電源としては、パクスマン-バレンタ16-RPM 200Aディーゼルエンジンを原動機とする発電機(単機出力1,750キロワット)8セットが搭載された[8]

能力[編集]

航空運用機能[編集]

HMS Illustrious at Speed MOD 45155641.jpg

全通飛行甲板は長さ183m×幅13.5mを確保している[9]。全通飛行甲板の左舷側が滑走レーンとされており、艦首尾線にほぼ平行ではあるが、当初は艦首にシーダート発射機が設けられていたことから、これを避けるため、わずかに左側に寄せられている。ヘリコプターの発着スポットが6ヶ所、滑走レーンには4ヶ所のスタート・ポイントが設定された[4]

設計当初、装備を搭載したシーハリアーを発艦させるためにはカタパルトが必要と考えられていたが、ガスタービン艦である本級では必要な蒸気の供給が難しかった。1969年に、海軍とホーカー・シドレー社の技術者がそれぞれ別々にスキージャンプを発明し、上記の通り、本級のための発艦支援設備として採用された[5]。これにより、シーハリアーの搭載量は30パーセント増大し、滑走距離の短縮にもつながった[4]。「インヴィンシブル」と「イラストリアス」では、滑走レーンの前端部に軽量鋼製で重量47トン、勾配角7度のスキージャンプが設けられた[10]。また設計変更の余裕があった「アーク・ロイヤル」では勾配角を12度に増し、長さも12メートル延長した[9]。その後、「インヴィンシブル」は1986年から1989年にかけての改修で12度に[10]、また「イラストリアス」も1990年代の改修で13度に勾配角を増した[8]

飛行甲板の下には、1層のギャラリデッキをおいて、長さ152×幅22.6×高さ6.10メートルのハンガー・デッキが設けられている。3つのベイに分割されており、中央部ではガスタービン主機のための給排気路のため、他の部分よりも低くなっている[9]。飛行甲板とハンガーを連絡する艦載機用エレベーターとしては、長さ16.7×幅9.7メートルのものが中央前部と中央後部に1基ずつ、いずれもインボード式に設置されている。このエレベーターは2本のY字型アームを油圧で動かすことで昇降させる形式で、元々はCVA-01のために開発されていたものであるが、重いチェーンや錘が必要なくなるため、重量軽減に有用であると考えられていた[4]ストラチャン・アンド・ヘンショー社製のチェーン式のエレベータへの換装も計画されたが、予算面の問題から実現しなかった[8]

平時の搭載機はシーハリアーFRS.1艦上戦闘攻撃機5機とシーキングHAS.5哨戒ヘリコプター10機が標準的な構成とされていたが、「インヴィンシブル」がフォークランド紛争に派遣された際には、シーハリアーFRS.1×8機とシーキングHAS.5×11機が展開した[11]。その後、同艦は上記の1980年代後半の改修の際に、シーハリアー9機とシーキング12機を搭載できるように格納庫を改修するとともに、シーイーグル空対艦ミサイルおよびスティングレイ英語版魚雷を収容できるように弾庫を50パーセント拡大した[9]。搭載機としては早期警戒用のシーキングAEW.2が追加された。また1990年代中盤にはシーダート発射機の撤去に伴い、飛行甲板は23×18メートル拡大されたほか、統合運用に対応して空軍のハリアー IIの整備のための設備が設置され、最大で24機までの航空機を搭載できるようになった[1]

その後、2006年までにシーハリアーが運用を終了したことから、2007年時点では、ハリアーGR.7A/9A×16機とマーリンないしシーキング×6機が標準的な構成とされていたが[12]2010年には空軍型ハリアーも退役し、固定翼機をもたないヘリ空母として活動することになった[8]

スキージャンプ勾配を利用して発艦するシーハリアーFRS.1 シーハリアーFA.2を搭載したエレベーター
スキージャンプ勾配を利用して発艦するシーハリアーFRS.1
シーハリアーFA.2を搭載したエレベーター

個艦防御機能[編集]

シーダート発射機とブラストシールド

元来のコンセプトが巡洋艦であったこともあり、本級は、航空母艦としてはかなり強力な個艦戦闘機能を備えている。飛行甲板前端の艦首には、当時の主力防空艦であった42型駆逐艦と同型のシーダート艦隊防空ミサイルの連装発射機が搭載されており、バックブラストが飛行甲板上に影響を与えないよう、その後方には大型のシールドが設置された。ただし後に、航空艤装拡張のため、これらのシーダートの運用設備は撤去された。また当初の計画では、エグゾセ艦対艦ミサイル4発の搭載も検討されていたが、これは断念された[9]

本級は当初CIWSを搭載していなかったが、フォークランド紛争の戦訓から、当時艤装の最終段階にあった「イラストリアス」は、急遽アメリカから提供されたファランクスを装備した。当初の搭載数は2基であったが後に3基に増備され、また1・2番艦も同様の要領で搭載した後、より大口径のゴールキーパーに換装された[9][8]

同型艦[編集]

一覧表[編集]

# 艦名 起工 進水 就役 退役 備考
R05 インヴィンシブル
HMS Invincible
1973年
7月20日
1977年
5月3日
1980年
7月11日
2005年
8月3日
トルコで解体
R06 イラストリアス
HMS Illustrious
1976年
10月7日
1978年
12月14日
1982年
6月20日
2014年
8月28日
2013年10月15日以降、入札受付中
R07 アーク・ロイヤル
HMS Ark Royal
1978年
12月14日
1981年
6月2日
1985年
11月1日
2011年
3月11日
オークションに出品され、香港船芸学会が280万ポンドで落札と一時報じられたが、
「インヴィンシブル」の解体を行ったトルコのLeyal Ship Recycling社が290万ポンドで落札

運用史[編集]

1980年6月「インヴィンシブル」竣工。竣工当初は退役したコマンド母艦「ブルワーク」と「アルビオン」の代替も兼ねていた為、ヘリコプター揚陸艦オーシャン」の就役までは、海兵隊1個大隊と装備をヘリコプターで揚陸する任務も与えられていた。一時期、「インヴィンシブル」をオーストラリアへ売却する予定だったが、1982年のフォークランド紛争では小型空母とシーハリアーの組合せが戦闘で有効であることが判明し、売却は中止された。

1番艦の「インヴィンシブル」は2005年7月に退役しモスボール化された。2010年まで有事には現役復帰することになっていたが、運用はされず、2010年11月にオークションに出品された。また同年中に、国防費の大幅縮減を受けて、イギリス軍におけるハリアーの運用が終了した。3番艦の「アーク・ロイヤル」は、同じく国防費の大幅縮減のため、2011年3月11日に退役した。

インヴィンシブル級の後継としてクイーン・エリザベス級が計画されていたが、2番艦の「イラストリアス」はその配備を待たず2014年に退役した。緊縮財政を強いられているイギリス国防省は、2013年10月15日、「イラストリアス」の買い手を探し始めた。企業や慈善団体、財団などからの入札を受け付けるとしている。入札者は英国籍保持者に限らないが、艦体の全部もしくは一部を歴史遺産として英国内に残すことが買い取りの条件となっている。

登場作品[編集]

漫画・アニメ[編集]

HELLSING
架空のインヴィンシヴル改級VSTOL空母1番艦「イーグル」(英語で「」の意)が登場。リップヴァーン率いるミレニアム大隊が占拠し、「アドラー」(ドイツ語で「鷲」の意)と改名する。

小説[編集]

レッド・オクトーバーを追え
架空のタイフーン型原子力潜水艦「レッド・オクトーバー」の追跡に当たって「インヴィンシブル」が重要な役割を果たす。
レッド・ストーム作戦発動
大西洋上の通商路護衛作戦およびアイスランド奪還作戦で登場。

ゲーム[編集]

凱歌の号砲 エアランドフォース
日本を占拠したイギリス軍艦船として登場。プレイヤーも購入して使用できる。
大戦略シリーズ

脚注[編集]

[ヘルプ]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b c d Saunders 2009, p. 872.
  2. ^ イギリス海軍 (2008年). “Aircraft Carriers - The Role of an Aircraft Carrier (CVS)” (英語). 2013年10月3日閲覧。
  3. ^ a b 野木 2008.
  4. ^ a b c d e f g h Brown & Moore 2012, ch.4 Aircraft Carriers.
  5. ^ a b c d e Polmar 2006, ch.19 New Directions.
  6. ^ Polmar 2006, ch.12 Carrier Proliferation.
  7. ^ 海人社 1992.
  8. ^ a b c d e Wertheim 2013, pp. 803-804.
  9. ^ a b c d e f Prezelin 1990, p. 696.
  10. ^ a b Gardiner 1996, p. 501.
  11. ^ Polmar 2006, ch.20 Carrier war in the South Atlantic.
  12. ^ 木津 2007.

参考文献[編集]

  • Brown, D. K.; Moore, George (2012). Rebuilding the Royal Navy: Warship Design Since 1945. Seaforth Publishing. ISBN 978-1848321502. 
  • Gardiner, Robert (1996). Conway's All the World's Fighting Ships 1947-1995. Naval Institute Press. ISBN 978-1557501325. 
  • Polmar, Norman (2006). Aircraft Carriers: 2. Potomac Books Inc.. ISBN 978-1574886634. 
  • Prezelin, Bernard (1990). The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World, 1990-1991. Naval Institute Press. ISBN 978-0870212505. 
  • Saunders, Stephen (2009). Jane's Fighting Ships 2009-2010. Janes Information Group. ISBN 978-0710628886. 
  • Wertheim, Eric (2013). The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World, 16th Edition. Naval Institute Press. ISBN 978-1591149545. 
  • 岡部, いさく「現代空母を解剖する」『世界の艦船』第600号、海人社、2002年9月、 88-95頁、 NAID 40005452747
  • 木津, 徹「現代軽空母の歩み 「インヴィンシブル」から「ひゅうが」まで (特集 現代の軽空母)」『世界の艦船』第682号、海人社、2007年11月、 76-81頁、 NAID 40015635561
  • 野木, 恵一「V/STOL空母に見るお国ぶり インヴィンシブル級vsキエフ級 (特集 空母比較論)」『世界の艦船』第694号、海人社、2008年8月、 108-111頁、 NAID 40016116197
  • 海人社, 編纂.「現代軽空母のメカニズム」『世界の艦船』第451号、海人社、1992年6月、 94-99頁。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]