巡視船

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海上保安庁の巡視船「しきしま」(PLH31)

巡視船(じゅんしせん)は、広義では、国土交通省外局である海上保安庁が所有する、海上における法令の励行、海難救助、海洋汚染及び海上災害の防止、海上における犯罪の予防及び鎮圧、海上における犯人の捜査及び逮捕、その他海上の安全の確保に関する事務に従事する船舶のことであり、狭義ではこの内の大型船舶のこと(小型船舶は「巡視艇」と呼称する)。英語ではPatrol vessel[1]あるいは Patrol boat[2]の訳が充てられる。

任務と能力[編集]

巡視船は、基本的には1隻で単独行動をしているが、巡視船が海上警備(海上警察・救難活動)の任務を遂行するためには、巡視船に、十分な速力、航続力、探知能力、指揮・通信能力、警察力としての本分を果たすための適切な武装/装備が必要である。また、海難救助の任務を遂行するためには、荒れた海でも活動可能な良好な航洋性、ヘリコプターによる迅速な輸送力、巡視船が収容した要救助者に救急救命処置を行う人員と装備、速やかに医師による医療行為を受けさせる体制づくりが必要である。また、消防活動や海洋汚染対策の任務を遂行するためには、消火機能や油防除などの特に特別な機能を持った巡視船を配備しておくことが必要である。

状況[編集]

日本は、海上保安庁が軍隊でないことを法律(海上保安庁法第25条)で明示しており、巡視船は軍艦でないことは元より、組織や乗員も軍人としての訓練はされてはおらず、このため海上保安庁の船舶は「"艦"艇」ではなく「"船"艇」と呼称される。自衛隊法では特別の必要を認めるときは組織の全部や一部を防衛大臣の統制・指揮下に組み込める規定はあるが、あくまでも有事の警察活動と解釈されており、軍事的な活動を明示したものではない。[3]。「巡視船」は警備救難業務で使用される海上保安庁の船舶を総称する語句として使われる場合もあるが、海上保安庁では「海上保安庁の船舶の番号及び標識」(昭和24年 海上保安庁告示第36号)に基づき、比較的大型で航洋性も持つ船舶を「巡視船」、小型の船舶を「巡視艇」と区分している[4][5]

海上保安庁創設当時、武装した海上保安機構に対する極東委員会での反発を考慮した連合国軍最高司令官総司令部民政局の指示を受け、巡視船が軍事用ではないと明確にするため、その最高速力は15ノットに制限されていた[6]ため、新型船舶への代替が始まる昭和50年頃まで高速巡視船を保有することができず、不審船密漁船、密航船、密輸者の追跡は能力的に困難であった。現在では高速巡視船を増強し検挙を効果的に行うことができるようになっている。

また、日本では海上警備行動が発令されない限り海上自衛隊などによる領海での治安維持に伴う実力行使ができないため、海上保安庁の巡視船にとって領海警備(巡視・監視、治安維持)は最重要任務のひとつであり、中国が領有権を主張している尖閣諸島の領海周辺を常時複数隻体制で警備している。

海上保安庁は、特定の知識・技量を有する人員を配置し、装備を強化した救難強化巡視船潜水指定船防災巡視船警備実施等強化巡視船海上環境指定巡視船、鑑識業務指定巡視船、港長業務指定船を指定し能力向上に努めている。また、管区本部独自の指定制度を設けているところもあり、射撃強化巡視船、特捜巡視船、捕捉強化巡視船などがある。

型式[編集]

詳細は各型の記事及び海上保安庁船艇一覧を参照のこと。

PLH型
巡視船 PLH07 せっつ

PLH型(Patrol Vessel Large With Helicopterヘリコプター付大型巡視船)は700トン型以上の巡視船。遠方海域での捜索救難を目的に建造されており、今日では警備救難現場海域での指揮・宿泊・空輸等総合拠点的任務を行なうことが多い。各管区海上保安本部に1 - 2隻ずつ配備され、搭載ヘリはベル 412(重量約5.3t)シコルスキーS-76C++及びS-76D(重量約5.3t)または、AS332L1(重量約8.6t)、EC225(重量約11.2t)である。2017年1月末時点14隻。

  • ヘリコプター2機搭載型
  • ヘリコプター1機搭載型
    • そうや(PLH01):砕氷型、搭載機はシコルスキー S-76C++
    • つがる型巡視船(PLH02-10):建造年によって形状・性能が大幅に異なる。搭載機はシコルスキー S-76D。


PL型
巡視船 PL51 ひだ 1800トン
ヘリ甲板付高速高機能大型巡視船
巡視船 PL42 でわ 1000トン
40mm機関砲を装備

PL型(Patrol Vessel Large)は700トン型以上の大型巡視船。近年、ヘリとの連携強化、部隊の迅速移動等が要求される事案が多いことから、ヘリ甲板を設けた巡視船が増えつつある。2017年2月末時点48隻。


PM型
PM34 ちくご(2012. 4)

PM型(Patrol Vessel Medium)は350トン型以上の中型巡視船。500トン型、350トン型がある。2017年2月末時点38隻。


PS型

PS型(Patrol Vessel Small)は350トン型以下の小型巡視船。高速特殊警備船(つるぎ型、220トン)、180トン型、特130トン型がある。2017年2月末時点30隻。


船名の由来[編集]

基本的に下記の原則に基づいて、配備された地域に関係深い名前がつけられる。船名は、平仮名表記で、かつ「ゃ」「ゅ」「ょ」など小さい文字は使用しない(「ひりゆう型」は、読みは「ひりゅう」だが、書く時は小さい「ゅ」は使用しない)。漢字表記へ変更する要望も出されている。[要出典]例としては巡視船「やしま」が八島なのか屋島か分からない事例がある。また、海上自衛隊の護衛艦と共通する船名は、採用されないようになりつつある。

  • PLH ヘリ2機搭載型 - 日本の旧国名
  • PLH ヘリ1機搭載型 - 海峡・水道・山等
  • PL型 - 半島・岬・湾・島等
  • PM型 - 河川・島
  • PS型 - 山

ただし建造時の社会情勢により原則どおりでない場合もある。配属替えに伴い船名の変更がある。また、「おりおん」型など、日本語ではない単語が由来となっている船名もあるが、この場合でも、平仮名で、かつ小書き文字は使わないという原則は守られる(SS-78「こめつと」など)。

船体表示[編集]

従来白色船体に黒字船名、煙突は濃紺に白色コンパスマークのみであったが、1984年「Sマーク」が採用され、 船首付近に記載されることになった。また、2000年に英文名称が「Japanese Maritime Safety Agency」から「JAPAN COAST GUARD」に変更されたのを機に船体中央付近に記載されるようになった。また、船名も黒字から濃紺字に変更された。

出演作品[編集]

周辺諸国への供与[編集]

日本のシーレーンの安全確保に関連して、テロや海賊対策のため、周辺諸国への巡視船艇の供与が検討・実施されている。防弾措置が施されている巡視船艇は、輸出貿易管理令における「軍用船舶」であり、武器輸出三原則に抵触していた。そのため、軍用目的に転用しないことを条件とし、政府開発援助の一環として船艇の供与が行われることとなった[7]

ベトナム[8]やフィリピン[9]への供与も検討されている。

インドネシア[編集]

インドネシア海上警察が保有・運用する。中でも日本政府が無償供与した巡視艇3隻は、98トン、30ノット以上の性能を有するもので2008年から運用開始。両国の鳥であるタカ、ハヤブサ、アニス・マドゥの名が付けられており、2014年現在もマラッカ海峡の海賊対策などに運用されている[10]

他国の巡視船に相当する船舶[編集]

英語では、洋上で警備・救難活動を行なう艦船については、大小所属にかかわらず、一括してPatrol Vessel哨戒艦艇)と称される。

アメリカ[編集]

準軍事組織アメリカ沿岸警備隊(USCG)では、日本の巡視船あるいは巡視艇に相当するものを「カッター」と称している。

外洋で使用される長距離カッター(WHEC)および中距離カッター(WMEC)は、海上保安庁の大型巡視船(PL/PLH)に相当するものであり、長距離カッターとしてはハミルトン級カッターおよびバーソルフ級カッター、中距離カッターとしてはリライアンス級カッターおよびベア級カッターが運用されている。これらは、海上保安庁の大型巡視船よりも大口径の砲および電子装備を搭載しており、やや重武装である。ただし、軍事組織として冷戦中に装備していた魚雷ミサイルなどの重装備は撤去された。

やや小型の即応カッター(FRP)であるセンチネル型カッターは、海上保安庁の中型巡視船(PM)ないし小型巡視船(PS)にほぼ相当するもので、武装もほぼ同程度である。

一方、近海で使用される比較的小型のカッター(WPB: "Marine Protector Class" cutter[11])などには、日本の巡視艇に近い大きさの種別もある。なお、USCGの "boat"とは、長さ65フィート(19.8メートル)未満の船艇を「ボート」として分類しており、海岸の近くの内陸水路などで使用されている。

ロシア[編集]

ロシアにおいては、準軍事組織であるロシア国境軍ПВ)が国境警備隊および沿岸警備隊の業務を実施しており、洋上での警備救難用に国境警備艦(ПСКР)を保有している。ロシア国境軍でもっとも大型の国境警備艦である11351型国境警備艦は、100ミリ艦砲個艦防空ミサイル魚雷対潜ロケット弾など、海上自衛隊の乙型護衛艦(DE)を凌ぐ重武装を備えていることから、NATOコードネームでは軍艦と見なされてフリゲートと称されている。

中国[編集]

2013年3月以降の中国の海洋行政は、公安部が海上公安、国家海洋局が海洋資源、農業部が漁業管理、海関総署が税関業務の戦略を企画・立案し、国家海洋委員会が各機関の戦略を調整し、国家海洋局が公安部の指導を受けながら一元的に中国海警局を指揮して公船や航空機を運用する体制がとられている[12]。中国海警局の公船の船体表示は「中国海警」である。2013年3月に、初代の中国海警局の局長 兼 国家海洋局副局長に公安部の次官を兼務する孟宏偉が就任した[13]。ただし、捜索救助、海洋汚染への対応、水路業務などを担当する交通部海事局(船体表示「海巡」)のみ独立して公船の運用を行う[14]。交通部には捜索救助を専門とする救助打捞(救助サルベージ)局(船体表示「中国救助」)も存在する。

2013年3月までは、公安部辺防管理局(Border Control Department of Ministry of Public Safety)が所管する中国公安辺防海警部隊(CHINA COAST GUARD、船体表示「中国海警」)、国土資源部が所管する中国海監総隊(船体表示「海監」)、農業部漁業局(船体表示「漁政」)が、別々に公船や航空機の運用を行っていた [15]

脚注[編集]

  1. ^ 海上保安庁. “Vessels, craft and aircraft of JCG” (英語). 2013年3月20日閲覧。
  2. ^ BBC News/8 September 2010/Boat collisions spark Japan-China diplomatic row日本における尖閣諸島中国漁船衝突事件に対するイギリスの報道---2012.07.22閲覧
  3. ^ 海上保安庁の武力紛争法上の地位
  4. ^ 巡視船と巡視艇の違いはなんですか?,海上保安庁
  5. ^ 「巡視船」と「巡視艇」の違いをご存じですか? 第10管区海上保安本部
  6. ^ 読売新聞戦後史班編 「第2章 海上警備隊」『昭和戦後史「再軍備」の軌跡』 読売新聞社1981年、174-256頁。ASIN B000J7W6JM
  7. ^ インドネシアへの巡視船艇供与,2006年政府開発援助白書,外務省
  8. ^ 中古の巡視船供与は困難、ベトナム支援で安倍首相”. ロイター通信 (2014年5月28日). 2015年3月15日閲覧。
  9. ^ 日本放送協会 (2014年5月1日). “海の安全 変わるODA”. 2015年3月15日閲覧。
  10. ^ “海賊対策や救難で活躍 日本供与の巡視艇第1号 海保専門家西分氏が報告”. じゃかるた新聞 (じゃかるた新聞). (2014年6月30日). http://www.jakartashimbun.com/free/detail/18853.html 2014年9月7日閲覧。 
  11. ^ A "Cutter" is basically any CG vessel 65 feet in length or greater, having adequate accommodations for crew to live on board. Larger cutters (over 179 feet in length) are under control of Area Commands (Atlantic Area or Pacific Area).---アメリカ沿岸警備隊webサイトのカッターについての説明文(カッターは大きさの他に、乗組員用の適切な居住区を有している艦艇)
  12. ^ 中国 海洋局の権限強化 権益確保へ部局一元化、東京新聞 2013年3月11日
  13. ^ 公安次官が国家海洋局ナンバー2を兼務「中国海警」を指揮 、日本経済新聞 2013年3月19日
  14. ^ 中国、尖閣監視機能を一本化 国家海洋局を強化、Sankeiニュース 2013年3月10日
  15. ^ 中国安全保障レポート2011 - 防衛省防衛研究所 Archived 2013年1月22日, at the Wayback Machine.

関連項目[編集]