はてるま型巡視船
| はてるま型巡視船 | |
|---|---|
|
PL-62 「はかた」 | |
| 基本情報 | |
| 艦種 | 1,000トン型PL |
| 運用者 |
|
| 就役期間 | 2008年 - 現在 |
| 前級 | あそ型 |
| 次級 | くにがみ型 |
| 要目 | |
| 総トン数 | 1,300トン |
| 全長 | 89.0メートル (292.0 ft) |
| 最大幅 | 11.0メートル (36.1 ft) |
| 深さ | 5.0メートル (16.4 ft) |
| 主機 |
新潟16V20FX ディーゼルエンジン×4基 |
| 推進 |
|
| 速力 | 30ノット |
| 乗員 | 30人 |
| 兵装 | 30mm単装機銃×1基 |
| 搭載艇 | 7m型高速複合警備艇×3隻[注 1] |
| FCS | FCS射撃指揮装置(30mm機銃用) |
| 光学機器 | |
はてるま型巡視船(はてるまがたじゅんしせん、英語: Hateruma-class patrol vessel)は、海上保安庁の巡視船の船級。分類上はPL(Patrol vessel Large)型、公称船型は1,000トン型[1]。また令和5年12月に1番船(ネームシップ)が配置替えに伴い改名したことから、だいせつ型とも称される。
来歴
[編集]海上保安庁では、常に複数の大型巡視船を尖閣諸島周辺海域に派遣して領海警備にあたっているが、巡視艇の常時展開は行われておらず、通常は大型巡視船による連絡を受けてから石垣島や宮古島を出港することになる。しかし尖閣諸島までの距離は90海里以上に及ぶため、比較的堪航性に優れた30メートル型PCであっても、現場到着まで、最低でも3時間はかかることになる。従って、これらの巡視艇が到着するまでは、大型巡視船と搭載艇のみで対応する必要がある[3]。
大型巡視船では小型船を規制するには機動力が不足であり、それを補うため7メートル型高速警備救難艇を搭載しているとはいえ、通常その搭載数は1隻のみであり、不足が指摘されていた[3]。また現地には補給施設がないため、進出した巡視艇は、清水・食料・燃料などの補給や乗員休養のために毎回帰港する必要があるが、これも乗員の疲労を増大させていた[4]。
2004年3月には、中国人活動家7名が魚釣島に不法上陸し、沖縄県警察によって逮捕されるという事件が発生した。この際には、母船から手漕ぎボートで上陸を試みる活動家に対して、巡視船は規制に失敗し、上陸を許すこととなった[5]。この事件を契機として、より多くの搭載艇を備え、またヘリコプターや巡視艇への補給拠点としても使える大型巡視船として整備されることになったのが本型である。このような性格から、拠点機能強化型巡視船とも通称される[1][4]。
設計
[編集]船型は長船首楼型である。試設計の段階では3,000トン型として計画されたが、予算の事情で1,000トン型に縮小されることになった[6]。設計にあたっては、高速高機能大型巡視船(2,000トン型および1,000トン型)の船型が基本とされたが、上記の経緯より、巡視艇に対する横抱き給油が求められたことから、横揺れ軽減のため、フレーム形状は角型船型に近いものとなった。船橋構造下の吃水がもっとも深く、船尾にむけてなだらかに浅くなる特殊な形態であり、高速航行時は半滑走状態となる[7]。
船殻重量軽減のため、船質はアルミニウム合金とされた。なお設計にあたっては、平成15年度計画以降の高速高機能大型巡視船と同様、「高速船の安全に関する国際規則2000」(HSCコード)が適用され、航行上の安全性および信頼性の向上をはかっている。また波浪中の高速航行を考慮したこともあり、船体の部材寸法については試験などの結果を解析することによる"Design by Analysis"の手法を、また船体局部強度については有限要素法(FEM解析)を用いた直接計算による検証が行われた[4]。
母船機能および航空運用機能が要求されたことから、減揺装置としては、減揺タンクおよびフィンスタビライザーを備える[4]。しかしそれでも動揺は大きく、また重量を低減するために煙突を廃止して舷側排気としたこととあいまって、乗員には不評であった[8]。航行中には後部甲板は原則的に立ち入りが禁止されるほか、めざし係留する場合、排煙で汚れるのを嫌った隣船が舷側にビニールシートを取り付けることもあるとされる[9]。その後、排気口を喫水線近くに移設し、散水装置を取り付けるといった改修が行われた船もある。
主機関は4基の高速ディーゼル機関、推進器はウォータージェット推進とされている。また迅速な離着岸のため、バウスラスターも備えている。電源としては、主電源としてディーゼル発電機、予備電源としてシール型蓄電池を搭載している[4]。
装備
[編集]リアルタイムでの情報共有のため、ヘリコプターが撮影した映像を受信するヘリコプター撮影画像伝送システム(ヘリテレ装置)、さらにこれを衛星通信で地上基地に転送する衛星映像伝送システム船上型(船テレ装置)を備えている[4]。なお操舵室上には、FCSを兼ねた赤外線捜索監視装置とともに、遠隔監視採証装置も設置された[4]。
本型は、高速高機能大型巡視船に準じた警備能力を要求されたことから、これらと同様に、赤外線捜索監視装置と機銃を連動させて、射撃管制機能(FCS)を備えている。機銃としては、当初は高速高機能大型巡視船と同じボフォースMk.3 40mm単装機銃が予定されたものの、価格低減のため、より小口径で軽量のブッシュマスターII 30mm機銃に変更された[1][注 2]。
また船首には遠隔操作型の放水砲が搭載されているが、これは「ひりゆう」が船橋上に装備しているものをもとに多少圧力を高めて使用しており、放水能力は毎分2万リットルに達する[11]。消防船では停船しての放水が基本であることから、本型への搭載にあたって、「ひりゆう」を用いて航走中の放水実験が行われた[4]。
搭載機・搭載艇
[編集]搭載艇の増加を要求されたことから、高速警備救難艇よりも軽量の複合艇を採用しており、船橋後方のボート・デッキに、7メートル型および4.8メートル型を各2隻搭載する。揚降装置は、平成13年度計画の350トン型PM(とから型)で装備化された、軽量のクレーンによるものとされた。また6番船以降は、搭載艇は計3隻に削減された[1][注 3]。
本型は、PC型であれば3隻、CL型であれば4隻の巡視艇を同時に支援できる能力を有する[12]。補給は停船して横抱き式に行うことから、上記のように、船体設計上の配慮や減揺装置の搭載などが行われたものの、それでも低速~停船時の動揺は大きく、洋上補給は海域・海況を限定せざるを得なくなった[1]。一方で東日本大震災等の災害時における救援活動の際には、これらの液体補給能力や、複合艇の揚降用クレーンを転用しての荷役により、ロジスティクスの面で大きく貢献した[8]。
同型船一覧
[編集]| 計画年度 | 番号 | 船名 | 船舶番号 信号符字 |
造船所 | 起工 | 進水 | 就役/配属替え | 解役 | 配属保安部署 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 平成17年度[13] | PL-61[13] | はてるま[13] Hateruma |
140915 7JCQ |
三井造船玉野事業所[13][14] | 2007年2月7日[13] | 2007年8月10日[13] | 2008年3月31日[13] | 石垣[13] (第十一管区) |
配属替えに伴い船名変更 | |
| だいせつ Daisetsu |
2023年12月15日 | 紋別 (第一管区) |
(就役中) | |||||||
| 平成18年度[14] | PL-62[14] | はかた[14] Hakata |
140845 7JEB |
2007年11月20日[14] | 2008年6月19日[14] | 2009年2月2日[14] | 福岡[14] (第七管区) |
配属替えに伴い船名変更[15] | ||
| いしがき[15] Ishigaki |
2011年10月8日[15] | 石垣→中城[注 4] (第十一管区) |
配属替えに伴い船名変更 | |||||||
| なにわ Naniwa |
2026年1月20日 | 大阪 (第五管区) |
(就役中) | |||||||
| PL-63[14] | よなくに[14] Yonakuni |
140846 7JEC |
2009年2月2日[14] | 石垣[14] (第十一管区) |
配属替えに伴い船名変更[17] | |||||
| くにがみ[17] Kunigami |
2016年10月24日[17] | 中城[17] (第十一管区) |
(就役中) | |||||||
| PL-64[14] | もとぶ[14] Motobu |
140914 7JEP |
2008年3月1日[14] | 2008年9月30日[14] | 2009年3月3日[14] | 那覇[14] (第十一管区) |
配属替えに伴い船名変更[15] | |||
| しもきた[15] Shimokita |
2012年3月26日[15] | 八戸[15] (第二管区) |
配属替えに伴い船名変更 | |||||||
| くりこま[18]
Kurikoma |
2022年3月10日[18] | 宮城[18] (第二管区) |
(就役中) | |||||||
| PL-65[14] | くにがみ Kunigami |
140915 7JEQ |
2009年3月12日[14] | 中城[14] (第十一管区) |
配属替えに伴い船名変更[15] | |||||
| しれとこ[15] Shiretoko |
2012年3月26日[15] | 小樽[15] (第一管区) |
(就役中) | |||||||
| 平成19年度[19] | PL-66[19] | しきね[19] Shikine |
141039 7JFM |
三菱重工業下関造船所[19] | 2008年7月15日[19] | 2009年4月16日[19] | 2009年10月7日[19] | 横浜→下田[注 5] (第三管区) |
(就役中) | |
| PL-67[19] | あまぎ[19] Amagi |
141146 7JGI |
三井造船玉野事業所[19] | 2008年11月7日[19] | 2009年9月25日[19] | 2010年3月11日[19] | 2026年7月24日 | 下田[19] (第三管区) |
(除籍、解役)
※令和6年9月11日石垣港で火災事故以降業務から外れている [21] 第十管区鹿児島保安部七ツ島巡視船基地を経て住友重機械工業横須賀製造所に長らく係留されていたようであるが、令和8年3月以降横浜防災基地に係留されているのが目撃されている。 令和8年8月3日付の官報で「あまぎ」が海上保安庁船舶一覧から削除され、告示は同日に施行、7月24日に遡って適用された。7月24日付で除籍・解役されたとみられる[22] [23]。 | |
| 2013年12月20日 | 奄美[注 6] (第十管区) | |||||||||
| PL-68[19] | すずか[19] Suzuka |
141147 7JGJ |
2009年2月13日[19] | 2010年3月11日[19] | 尾鷲[19] (第四管区) |
(就役中) | ||||
| PL-69[19] | こしき[19] Koshiki |
141117 7JGD |
三菱重工業下関造船所[19] | 2009年9月30日[19] | 2010年3月9日[19] | 鹿児島[19] (第十管区) |
(就役中) |
※巡視船は配属変更に伴って名称を変更することがあるため、上記の名称・所属先は執筆時点のものである。
登場作品
[編集]映画
[編集]- 『BRAVE HEARTS 海猿』
- 「しきね」が登場。左翼エンジンが爆発したボーイング747-400が東京湾内に海上着水することを受け、着水する海域の近くで待機し、着水が成功すると直ちに接近して救助活動を開始する。
漫画
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]- ↑ 1番船建造当初は、7m型高速複合警備艇2隻と4.8m型高速複合警備艇2隻が搭載されていた。
- ↑ 逆に高速高機能大型巡視船では、当初は30mm口径とする予定だったものの、計画段階で発生した九州南西海域工作船事件を受けて、より長射程で強力な40mm口径のボフォースMk.3に急遽変更されたという経緯がある[10]。
- ↑ 既存の船でも、順次に搭載艇を3隻に変更しているが、2018年7月現在、「しもきた」のみ4艇搭載されている。
- ↑ 2020年4月24日付けで、石垣海上保安部から、同じ管内の中城海上保安部へ配属替えとなった[16]。
- ↑ 竣工当初は横浜海上保安部に配属されていたが[19]、2016年10月25日付けで下田海上保安部に配属替えとなった[20]。
- ↑ 2013年12月20日に第十管区奄美海上保安部に配属替えとなったが、管区を跨ぐ移動であったにもかかわらず海上保安庁の巡視船艇では珍しく改名されなかった[24]。
出典
[編集]- 1 2 3 4 5 6 海人社 2014, p. 55.
- ↑ 海人社 2012.
- 1 2 3 坂本 2008.
- 1 2 3 4 5 6 7 8 海上保安庁装備技術部船舶課 2006.
- ↑ 中内 2012.
- ↑ 海人社 2008.
- ↑ 海人社 2010.
- 1 2 海人社 2014b.
- ↑ 海人社 2020.
- ↑ 中名生 2015.
- ↑ 海上保安庁装備技術部船舶課 1998.
- ↑ 海人社 2006.
- 1 2 3 4 5 6 7 8 海人社 2008b.
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 海人社 2009.
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 海人社 2012b.
- ↑ “巡視船「いしがき」が配属替え”. 世界の艦船. 2020年4月30日.
- 1 2 3 4 海人社 2017.
- 1 2 3 ships03. “PL2隻が異動・改名”. 世界の艦船. 2022年3月11日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 海人社 2010b.
- ↑ 下田海上保安部『「巡視船しきね」の配属について』(プレスリリース)2016年10月28日。
- ↑ “船舶事故調査報告書”. 運輸安全委員会 (2025年11月5日). 2026年4月6日閲覧。
- ↑ “官報 本紙 第1760号 海上保安庁告示第二十五号”. 官報. 内閣府 (2026年8月3日). 2026年8月4日閲覧。
- ↑ “巡視船「あまぎ」、7月24日付で解役 「海上保安庁の船舶の番号及び標識」一覧から削除”. フネコ (Funeco). 2026年8月4日閲覧。
- ↑ 海人社 2014c.
参考文献
[編集]- 海上保安庁装備技術部船舶課「消防船「ひりゆう」 (海上保安庁の新型船艇と航空機)」『世界の艦船』第538号、海人社、1998年5月、120-121頁、NCID AN00026307。
- 海上保安庁装備技術部船舶課「新型巡視船と航空機」『世界の艦船』第660号、海人社、2006年7月、154-157頁、NAID 40007319936。
- 海人社(編)「警備救難業務用船 (モノクロ写真頁 写真特集・海上保安庁現有船艇の全容)」『世界の艦船』第660号、海人社、2006年7月、53頁、NAID 40007319924。
- 海人社(編)「巻風カラー! 海上保安庁 大型巡視船全タイプ」『世界の艦船』第692号、海人社、2008年7月、1-8頁、NAID 40016073797。
- 海人社(編)「海上自衛隊・海上保安庁 艦船の動向 : 平成19年度を顧みて」『世界の艦船』第692号、海人社、2008年7月、203-212頁、NAID 40016073818。
- 海人社(編)「海上自衛隊・海上保安庁 艦船の動向 : 平成20年度を顧みて」『世界の艦船』第708号、海人社、2009年7月、147-153頁、NAID 40016685803。
- 海人社(編)「警備救難業務用船 (海上保安庁現有船艇の全容)」『世界の艦船』第726号、海人社、2010年7月、51頁、NAID 40017138092。
- 海人社(編)「海上自衛隊・海上保安庁 艦船の動向 : 平成21年度を顧みて」『世界の艦船』第726号、海人社、2010年7月、203-209頁、NAID 40017138107。
- 海人社(編)「新1,000トン型巡視船」『世界の艦船』第762号、海人社、2012年7月、144-145頁。
- 海人社(編)「海上自衛隊・海上保安庁 艦船の動向 : 平成23年度を顧みて」『世界の艦船』第762号、海人社、2012年7月、197-203頁、NAID 40019333047。
- 海人社(編)「警備救難業務用船 (海上保安庁船艇の全容)」『世界の艦船』第800号、海人社、2014年7月、39-90頁、NAID 40020105550。
- 海人社(編)「海上保安庁の新型船艇」『世界の艦船』第800号、海人社、2014年7月、144-147頁、NAID 40020105615。
- 海人社(編)「海上自衛隊・海上保安庁 艦船の動向 : 平成25年度を顧みて」『世界の艦船』第800号、海人社、2014年7月、151-157頁、NAID 40020105619。
- 海人社(編)「海上自衛隊・海上保安庁 艦船の動向 : 平成28年度を顧みて」『世界の艦船』第861号、海人社、2017年7月、141-147頁、NAID 40021224513。
- 海人社(編)「海上保安庁船艇の全容」『世界の艦船』第933号、海人社、2020年10月、37-101頁。
- 坂本, 茂宏「創設50年から60年 そして70年に向けて (創設60周年を迎えた海上保安庁)」『世界の艦船』第692号、海人社、2008年7月、132-137頁、NAID 40016073810。
- 中内, 康夫「尖閣諸島をめぐる問題と日中関係」『立法と調査』第334号、2012年11月、69-84頁、NAID 40019463521。
- 中名生, 正己「巡視船 武装の歩み(下)」『世界の艦船』第825号、海人社、2015年11月、168-173頁、NAID 40020597434。