はてるま型巡視船

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はてるま型巡視船
JCG PL61 hateruma.jpg
基本情報
種別 1,000トン型PL
運用者  海上保安庁
就役期間 2008年 - 現在
前級 あそ型
次級 くにがみ型
要目
総トン数 1,300トン
全長 89.0メートル (292.0 ft)
全幅 11.0メートル (36.1 ft)
深さ 5.0メートル (16.4 ft)
主機関 ディーゼルエンジン×4基
推進器 ウォータージェット推進器×4軸
バウスラスター
速力 30ノット
乗員 30人
兵装 30mm単装機銃×1基
搭載艇 7m型高速複合警備艇×2隻
4.8m型高速複合警備艇×2隻
C4ISTAR 船テレ装置・ヘリテレ装置
FCS FCS射撃指揮装置(30mm機銃用)
光学機器 遠隔監視採証装置
赤外線捜索監視装置 (FCS兼用)
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はてるま型巡視船(-がたじゅんしせん、英語: Hateruma-class patrol vessel)は、海上保安庁巡視船の船級。分類上はPL(Patrol vessel Large)型、公称船型は1,000トン型[1]

予算要求時の名称から拠点機能強化型とも称される[1]。建造費は49億円[2]

来歴[編集]

尖閣諸島問題を受けて、尖閣諸島の領海には、たびたび侵入が試みられている。領海侵入する船舶は大小さまざまなタイプがあるが、小回りがきく小型船に対しては、大きさが近い小型巡視船や巡視艇で対応する必要がある。

海上保安庁では、常に複数の大型巡視船を周辺海域に派遣して領海警備にあたっているが、巡視艇の常時展開は行われておらず、通常は大型巡視船による連絡を受けてから石垣島宮古島を出港することになる。しかし尖閣諸島までの距離は90海里以上に及ぶため、比較的堪航性に優れた30メートル型PCであっても、現場到着まで、最低でも3時間はかかることになる。従って、これらの巡視艇が到着するまでは、大型巡視船と搭載艇のみで対応する必要がある。大型巡視船では小型船を規制するには機動力が不足であり、またそれを補うため7メートル型高速警備救難艇を搭載しているものの、通常その搭載数は1隻のみであり、不足が指摘されていた[3]。また現地には補給施設がないため、進出した巡視艇は、清水・食料・燃料などの補給や乗員休養のために毎回帰港する必要があるが、これも乗員の疲労を増大させていた[4]

2004年3月には、中国人活動家7名が領海侵犯し魚釣島に不法上陸し、沖縄県警察によって逮捕されるという事件が発生した。この際には、母船から手漕ぎボートで上陸を試みる活動家に対して、巡視船は規制に失敗し、上陸を許すこととなった[5]。この事件を契機として、より多くの搭載艇を備え、またヘリコプターや巡視艇への補給拠点としても使える大型巡視船として整備されることになったのが本型である。このような性格から、拠点機能強化型巡視船とも通称される[1][4]

設計[編集]

試設計の段階では3,000トン型として計画されたが、予算の事情で1,000トン型に縮小されることになった[6]。船型は長船首楼型である。設計にあたっては、高速高機能大型巡視船2,000トン型および1,000トン型)の船型が基本とされたが、上記の経緯より、巡視艇に対する横抱き給油が求められたことから、横揺れ軽減のため、フレーム形状は角型船型に近いものとなった。船橋構造下の吃水がもっとも深く、船尾にむけてなだらかに浅くなる特殊な形態であり、高速航行時は半滑走状態となる[7]。船殻重量軽減のため、船質はアルミニウム合金とされた。なお設計にあたっては、平成15年度計画以降の高速高機能大型巡視船と同様、「高速船の安全に関する国際規則2000」(HSCコード)が適用され、航行上の安全性および信頼性の向上をはかっている。また波浪中の高速航行を考慮したこともあり、船体の部材寸法については試験などの結果を解析することによる"Design by Analysis"の手法を、また船体局部強度については有限要素法(FEM解析)を用いた直接計算による検証が行われた[4]

母船機能および航空運用機能が要求されたことから、減揺装置としては、減揺タンクおよびフィンスタビライザーを備える[4]。しかしそれでも動揺は大きく、舷側排気とあいまって、乗員には不評であった[8]

主機関は4基の高速ディーゼル機関、推進器はウォータージェット推進とされている。また迅速な離着岸のため、バウスラスターも備えている。電源としては、主電源としてディーゼル発電機、予備電源としてシール型蓄電池を搭載している[4]

装備[編集]

C4ISR[編集]

ヘリコプターが撮影した映像を受信するヘリコプター撮影画像伝送システム(ヘリテレ装置)、さらにこれを衛星通信で地上基地に転送する衛星映像伝送システム船上型(船テレ装置)を備えている[4]

なお操舵室上には、FCSを兼ねた赤外線捜索監視装置とともに、遠隔監視採証装置も設置された[4]

兵装[編集]

本型は、高速高機能大型巡視船に準じた警備能力を要求されたことから、これらと同様に、赤外線捜索監視装置と機銃を連動させて、射撃管制機能(FCS)を備えている。機銃としては、当初は高速高機能大型巡視船と同じボフォースMk.3 40mm単装機銃が予定されたものの、価格低減のため、より小口径で軽量のブッシュマスターII 30mm機銃に変更された[1]。なおこれは、高速高機能大型巡視船が当初搭載予定だったものの、計画段階で発生した九州南西海域工作船事件を受けて、より長射程で強力な40mm口径のボフォースMk.3に急遽変更されたという経緯がある[9]

また船首には遠隔操作型の放水砲が搭載されているが、これは「ひりゆう」が船橋上に装備しているものをもとに多少圧力を高めて使用しており、放水能力は毎分2万リットルに達する[10]。消防船では停船しての放水が基本であることから、本型への搭載にあたって、「ひりゆう」を用いて航走中の放水実験が行われた[4]

舟艇・航空機[編集]

搭載艇の増加を要求されたことから、高速警備救難艇よりも軽量の複合艇を採用しており、船橋後方のボート・デッキに、7メートル型および4.8メートル型を各2隻搭載する。揚降装置は、平成13年度計画の350トン型PM(とから型)で装備化された、軽量のクレーンによるものとされた。また6番船以降は、搭載艇は計3隻に削減された[1]。1番船以降も搭載艇は3隻へと順次改正されている。

本型は、PC型であれば3隻、CL型であれば4隻の巡視艇を同時に支援できる能力を有する[11]。補給は停船して横抱き式に行うことから、上記のように、船体設計上の配慮や減揺装置の搭載などが行われたものの、それでも低速~停船時の動揺は大きく、洋上補給は海域・海況を限定せざるを得なくなった[1]東日本大震災に対する救援活動の際には、これらの液体補給能力や、複合艇の揚降用クレーンを転用しての荷役により、ロジスティクスで大きく貢献した[8]

なお船尾甲板はヘリコプター甲板としており、ヘリコプターへの給油設備も有している[3]

運用[編集]

ネームシップである一番船「はてるま」(PL-61)が2007年8月10日三井造船玉野事業所で進水し、2008年3月31日引渡しを受け 第十一管区石垣海上保安部に配属された。二番船以降は仕様が多少変更されたことから、汎用型の大型巡視船として、かつて28隻建造されたしれとこ型を代替し続けていくかに見えた。しかし、警備任務を重視して野心的な造船思想を導入したことが裏目に出てしまい、舷側排気による運用性や低速航行時の安定性に問題を生じ、救難任務における使い勝手が悪かったことから、計9隻の建造で終了した。汎用型として使い勝手が良いように本型を基に大規模な改設計を行なったくにがみ型巡視船の一番船が2012年に就役した。

「よなくに」(PL-63)および「はてるま」(PL-61)は尖閣諸島中国漁船衝突事件にも従事している。

同型船一覧
番号 船名 建造 竣工・転属 所属 退役・転属
PL61 はてるま 三井造船玉野事業所 2008年(平成20年)3月31日 石垣第11管区
PL62 はかた 2009年(平成21年)2月2日 福岡第7管区 (配属替えに伴い「いしがき」に改名)
いしがき 2011年(平成23年)10月11日 石垣第11管区
PL63 よなくに 2009年(平成21年)2月2日 石垣第11管区
PL64 もとぶ 2009年(平成21年)3月3日 那覇第11管区 (配属替えに伴い「しもきた」に改名)
しもきた 2012年(平成24年)3月26日 八戸第2管区
PL65 くにがみ 2009年(平成21年)3月12日 中城第11管区 (配属替えに伴い「しれとこ」に改名)
しれとこ 2012年(平成24年)3月26日 小樽第1管区
PL66 しきね 三菱重工業下関造船所 2009年(平成21年)10月7日 横浜第3管区
PL67 あまぎ 三井造船玉野事業所 2010年(平成22年)3月11日 下田第3管区 (配属替えするも改名せず)
2013年(平成25年)12月20日 奄美第10管区
PL68 すずか 2010年(平成22年)3月11日 尾鷲第4管区
PL69 こしき 三菱重工業下関造船所 2010年(平成22年)3月9日 鹿児島第10管区

※巡視船は配属変更に伴って名称を変更することがあるため、上記の名称・所属先は執筆時点のものである。

参考文献[編集]

  1. ^ a b c d e f 「警備救難業務用船 (海上保安庁船艇の全容)」、『世界の艦船』第800号、海人社、2014年7月、 55頁、 NAID 40020105550
  2. ^ 「新1,000トン型巡視船」、『世界の艦船』第762号、海人社、2012年7月、 144-145頁。
  3. ^ a b 坂本茂宏「創設50年から60年 そして70年に向けて (創設60周年を迎えた海上保安庁)」、『世界の艦船』第692号、海人社、2008年7月、 132-137頁、 NAID 40016073810
  4. ^ a b c d e f g h 海上保安庁装備技術部船舶課/編集部「新型巡視船と航空機」、『世界の艦船』第660号、海人社、2006年7月、 154-157頁、 NAID 40007319936
  5. ^ 外交防衛委員会調査室 中内康夫「尖閣諸島をめぐる問題と日中関係 (PDF) 」 、『立法と調査』第334号、2012年11月、 69-84頁。
  6. ^ 「巻風カラー! 海上保安庁 大型巡視船全タイプ」、『世界の艦船』第692号、海人社、2008年7月、 1-8頁、 NAID 40016073797
  7. ^ 「警備救難業務用船 (海上保安庁現有船艇の全容)」、『世界の艦船』第726号、海人社、2010年7月、 51頁、 NAID 40017138092
  8. ^ a b 「海上保安庁の新型船艇」、『世界の艦船』第800号、海人社、2014年7月、 144-147頁、 NAID 40020105615
  9. ^ 中名生正己「巡視船 武装の歩み(下)」、『世界の艦船』第825号、海人社、2015年11月、 168-173頁、 NAID 40020597434
  10. ^ 海上保安庁装備技術部船舶課「消防船「ひりゆう」 (海上保安庁の新型船艇と航空機)」、『世界の艦船』第538号、海人社、1998年5月、 120-121頁。
  11. ^ 「警備救難業務用船 (モノクロ写真頁 写真特集・海上保安庁現有船艇の全容)」、『世界の艦船』第660号、海人社、2006年7月、 53頁、 NAID 40007319924

外部リンク[編集]