ヘリ空母

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ヘリコプター搭載護衛艦 「ひゅうが

ヘリ空母(ヘリくうぼ、英語: Helicopter carrier)とは、複数のヘリコプターを搭載し、それを離着させられる飛行甲板格納庫などを備えた航空母艦[1]国際戦略研究所では、全通飛行甲板を備えて航空機の運用を主目的とし、かつ水陸両用作戦能力をもたないことを条件としているのに対し[2]ジェーン海軍年鑑では、飛行甲板が全通していない艦[3]ヘリコプター揚陸艦もヘリ空母として扱っている[4]

上陸戦[編集]

HUS-1を搭載した「セティス・ベイ」
ワスプ級強襲揚陸艦「ワスプ

ヘリコプターの発達に伴って、アメリカ軍は、これを上陸戦での兵員・物資の揚陸に使用できる可能性に着目して、1955年、モスボールされていた護衛空母セティス・ベイ」を強襲ヘリコプター空母 (CVHA) に改装した。これにより、同艦は、世界で初めてヘリコプター運用に適合させて改装された航空母艦となった[5]

その後、一回り大きな「ブロック・アイランド」を同様に改装することが計画された際に、これらの艦が航空母艦の保有枠を圧迫しないように揚陸艦のカテゴリに移すことになり、ヘリコプター揚陸艦(LPH)という新艦種が創設された。予算上の理由から同艦の改装はキャンセルされたものの、LPHとしてはイオー・ジマ級が新造されることになり、これは世界初の新造ヘリコプター空母となった。また同級の竣工までの漸進策として、エセックス級航空母艦3隻もボクサー級として改装された[5]

また1956年には、イギリス海軍も、兵員輸送艦に転用していたコロッサス級航空母艦2隻(オーシャンシーシュース)艦上にヘリコプターを展開して、ヘリ空母としての運用を試みた。そして1959年から1962年にかけて、より大型のセントー級航空母艦2隻(アルビオンブルワーク)がコマンドー母艦commando carrier)として改装されたが、これは実質的にヘリコプター揚陸艦と同様のものであった[5]。ただしイギリス海軍は、その有用性を評価しつつも予算不足のために専用艦としては維持できず、また北大西洋条約機構(NATO)から対潜戦プラットフォームの拡充を要請されたこともあって、1973年に退役した「アルビオン」のかわりにコマンドー母艦として改装された「ハーミーズ」は、1976年には対潜空母として再改装されて、対潜戦と上陸戦の両方に用いられるようになった[6]。またこれに続く対潜空母として1980年から就役したインヴィンシブル級も、600名以上の海兵隊員の乗艦に対応した[7][注 1]

一方、アメリカ海軍は、これらのヘリコプター揚陸艦の有用性を評価した結果、1971年から、より大型で、上陸用舟艇の運用に対応するなど多機能な強襲揚陸艦としてタラワ級の建造に着手し、1989年からは発展型のワスプ級が就役を開始した。また2000年代に入ると、ミストラル級強襲揚陸艦のように、アメリカ国外でも同種の艦艇が出現している[8]

対潜戦[編集]

ヘリ空母 「デダロ」
インヴィンシブル級航空母艦「インヴィンシブル

上陸戦への導入と並行して、対潜戦(ASW)への導入も着手された。アメリカ海軍は、1955年6月12日に艦籍にあった護衛空母(CVE)のうち、30隻を護衛ヘリコプター空母(CVHE)に類別変更した。これは、戦時に哨戒ヘリコプターを搭載して船団護衛にあたることを想定した措置であったが、そのために特に改修されたわけではなかった[5]。またスペイン海軍は、1967年よりアメリカ海軍のインディペンデンス級航空母艦カボット」の貸与を受けて(後に購入)「デダロ」として就役させ、ヘリ空母として運用した[9]

ソ連海軍では、政治的な理由から空母の保有がなかなか実現せず、まずは水上戦闘艦に艦載ヘリコプターを搭載して運用していたが、その経験から、各艦に分散配備するよりは複数機を集中配備したほうが効率的であると判断され、ヘリ空母の保有が志向されることになった。まずヘリコプター巡洋艦として1123型対潜巡洋艦(モスクワ級)が建造され、1967年より就役したのち[10]、1975年からは、Yak-38艦上攻撃機の運用に対応して全通飛行甲板を備えた1143型航空巡洋艦(キエフ級)が就役を開始した[11]

イギリス海軍では、上記のようにコマンドー母艦に対潜空母を兼務させるとともに、タイガー級防空巡洋艦2隻をヘリコプター巡洋艦として改装していたが、1961年には、その後継となるヘリ空母として護衛巡洋艦(escort cruiser)の計画が着手された。その後、正規空母の運用終了に伴って護衛巡洋艦の機能充実が図られることになり、最終的に、シーハリアー艦上戦闘機の運用に対応したインヴィンシブル級航空母艦として結実して、1980年より就役を開始した[6]

またアメリカ海軍も、新造LPHとしてイオー・ジマ級を建造する際には副次的に対潜戦への投入を想定してソノブイや短魚雷の搭載スペースを確保していたほか[12]、1969年より、対潜ヘリコプター母艦(DHK)の計画に着手していた。これはハリアー搭載の制海艦(SCS)に発展し、1975年度予算から建造に入る予定だったが、結局実現しなかった[13]。ただしスペイン海軍とタイ海軍向けに、その準同型艦および派生型が建造されたほか[14]、上記のワスプ級にも、副次的に制海艦任務が付与された[13]

海上自衛隊も、第2次防衛力整備計画の策定段階で全通飛行甲板を備えたヘリ空母 (CVH) の建造を計画したものの、これは政治的な事情で実現せず、かわって従来の護衛艦の延長線上でヘリコプター搭載護衛艦(DDH)が建造された[15]。その後継艦では全通飛行甲板が導入され、平成16年度からひゅうが型、また平成22年度からは発展型のいずも型が建造されており、これらはジェーン海軍年鑑ではヘリ空母として類別されている[16]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ フォークランド紛争後には専用のヘリコプター揚陸艦の計画がスタートし、「オーシャン」が建造されたものの[8]、これも2018年には退役した。

出典[編集]

  1. ^ ヘリ空母』 - コトバンク
  2. ^ IISS 2018, pp. 514-515.
  3. ^ Saunders 2009, p. 250.
  4. ^ Saunders 2009, p. 884.
  5. ^ a b c d Polmar 2008, ch.11 New Carrier Concepts.
  6. ^ a b Polmar 2008, ch.19 New Directions.
  7. ^ Saunders 2009, p. 872.
  8. ^ a b Polmar 2008, ch.25 Amphibious Assault.
  9. ^ Polmar 2008, ch.12 Carrier Proliferation.
  10. ^ Polutov 2017, pp. 108-115.
  11. ^ Polutov 2017, pp. 120-137.
  12. ^ Friedman 2002, ch.12 The Bomb and Vertical Envelopment.
  13. ^ a b Gardiner 1996, p. 575.
  14. ^ Polmar 2008, ch.18 Carrier Controversies.
  15. ^ 岡田 1994.
  16. ^ Saunders 2015, pp. 435-436.

参考文献[編集]

  • Friedman, Norman (2002). U.S. Amphibious Ships and Craft: An Illustrated Design History. Naval Institute Press. ISBN 978-1557502506. 
  • Gardiner, Robert (1996). Conway's All the World's Fighting Ships 1947-1995. Naval Institute Press]]. ISBN 978-1557501325. 
  • IISS (2018). The Military Balance. ラウトレッジ. ISBN 978-1857439557. 
  • Polmar, Norman (2008). Aircraft Carriers: A History of Carrier Aviation and Its Influence on World Events. Volume II. Potomac Books Inc.. ISBN 978-1597973434. 
  • Polutov, Andrey V.「ソ連/ロシア空母建造史」『世界の艦船』第864号、海人社、2017年8月、 NAID 40021269184
  • Saunders, Stephen (2009). Jane's Fighting Ships 2009-2010. Janes Information Group. ISBN 978-0710628886. 
  • Saunders, Stephen (2015). Jane's Fighting Ships 2015-2016. Janes Information Group. ISBN 978-0710631435. 
  • 岡田, 幸和「幻に終わった海上自衛隊のヘリ空母」『世界の艦船』第490号、海人社、1994年12月、 141-147頁。
  • 海人社, 編纂.「現代軽空母のメカニズム (特集 空母のメカニズム)」『世界の艦船』第451号、海人社、1992年6月、 94-99頁。
  • 長田, 博「海上自衛隊DDH運用思想の変遷 (特集 海上自衛隊のDDHとその将来)」『世界の艦船』第584号、海人社、2001年7月、 70-75頁、 NAID 40002156107