ヘリボーン

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イラク戦争時、ハッチが開いた後にCH-47から展開するアメリカ陸軍第101空挺師団兵士
戦闘ヘリの掩護下、UH-60JAから展開した陸上自衛隊の隊員

ヘリボーン: Heliborne)は、ヘリコプターを用いて敵地などへ部隊を派兵する戦術。この名称は、空挺作戦(エアボーン)に由来する。兵員が分乗した武装・非武装の各種ヘリコプターが戦闘機攻撃機COIN機の護衛を受けながら敵地に侵入・奇襲し、着陸したヘリコプターから展開した兵員が目的地を制圧する戦術。

第二次世界大戦後、ヘリコプターの発達と共に大きく発展した戦術であり、特に対ゲリラ戦には非常に有効な戦術である。ベトナム戦争アフガニスタン紛争において特に多用された。また、現在の特殊部隊が行うロープ降下作戦もヘリボーンの一種と言える。

利点および欠点[編集]

エアボーン作戦と比較して、以下のような利点を持つ。

実施の容易さ
  • ラペリング(ヘリから降ろされたロープを伝って滑り降りる技術。懸垂下降も参照)を例外として特殊訓練が不要なことから、普通の兵員でも実施可能である。
  • 落下傘降下に必要な出撃前の諸準備が不要である。
  • エアボーンでは降下部隊は輸送機へ搭乗する必要があるが、駐屯地に充分な飛行場施設を有さない場合、降下部隊は駐屯地から飛行場へ移動しなければならないが、ヘリボーンではヘリの離着陸するだけのヘリスポットがあればその必要はない。
  • 多くの国では降下部隊と落下傘降下に用いる戦術輸送機の所属は別組織となっているため、作戦実施のためには双方で綿密な調整が必要だが、ヘリボーンでは降下部隊とヘリコプターの双方を有する陸軍・海兵隊単独で実施できる。
実施に際しての安全性と柔軟性
  • 落下傘降下に適さない山岳地帯や森林地帯、市街地といった地勢においても、わずかな降下適地があれば降下部隊を降下させられる。
  • 兵員がに流され分散・損失するというようなことがなく、集中して目的地に到着できる。
  • 通常落下傘降下が困難な輸送車両・装甲車・火砲を特別な装備なしに搭載または吊下することができるため、降下部隊に戦力を付加しやすい。
  • 地上連絡線を確保しない状態での降下においても、降下部隊を再びヘリに搭乗させることによって速やかに戦場から脱出できる。

欠点としては、以下が挙げられる。

実施に際しての危険性
  • 兵員・物資を降ろすために一定時間その場に留まる必要があり、その間敵の攻撃に対する回避手段が著しく制限されるため、攻撃に対して脆弱である。
  • エアボーンと比べ遥かに遅い飛行速度と低い高度(地上0m~数十m)で物資や兵員を投下・降下させる。そのため通常対空攻撃に用いられる火器の他に、小銃やロケットランチャーなどの歩兵携行の小火器からも脅威に晒さられるため被弾撃墜リスクが高い。(例: モガディシュの戦闘)
  • 標高の高い地域(アフガニスタンなど)においてはエンジン出力が低下するため通常ヘリボーンに用いられる小型軽快なヘリコプターの使用が困難であり、大型鈍重ながらもエンジン出力の強力なヘリコプターを必要とするため、通常より撃墜リスクが高い。(例: レッド・ウィング作戦)
輸送機の性能不足
  • 固定翼輸送機に比べて大型装備を運搬することが困難で、大量の物資・重量物を運搬することもできない。
  • 上記に同じく、固定翼輸送機に比べてヘリコプターの航続距離と速度による制限により、長距離に進出することが困難である(ヘリコプターでは概ね100-200km程度、ティルトローター機のV-22で約650kmに対して、固定翼機では(条件次第で)数百-1万数千km先まで進出することが可能である)。

歴史[編集]

ヘリボーンは、1940年代後半にイギリスマレーにおいて、イギリス軍が対共産ゲリラ作戦に用いたのが始まりである。ゲリラ側が有効な対空兵器を持っていないこと、ヘリコプター密林における兵員移動に適していたことから、十分な効果を挙げることができた。

その後の朝鮮戦争アルジェリア戦争アグーネンダの戦い)における発展を得て、ベトナム戦争においてヘリボーン作戦が多用されるようになる。この戦争において、アメリカ軍は有効な対ゲリラ作戦を行い多大な成果を挙げたが、それと同時に対空兵器や地上での待ち伏せにより、大きな損害を被っている。また、第四次中東戦争においては、シリア軍コマンド部隊ヘルモン山イスラエル国防軍観測所を襲撃し、短期間ながら制圧に成功したように、奇襲作戦の一種として用いられる事も多い。

アメリカ戦術思想が異なるロシアにおいてヘリボーンは、偵察用など小規模なものを除いて消極的だった。しかし、1978年に始まったアフガニスタン紛争でヘリボーンの使用頻度が増し、重要性が認識されたといわれる。独自の研究が続けられて、チェチェン紛争などでは、まず短距離弾道ミサイルロケット砲の無差別砲撃戦術爆撃機などによる空爆などによって、安全地帯から制圧地点への防御力を削ぐ攻撃を行った後に、周縁部から包囲するように降下を開始、最終的に目的地点を制圧する方法が取られているという。ただし、この方法では大多数の非戦闘員戦闘に巻き込まれるなど、重大な欠点も多い。

湾岸戦争においては、多国籍軍の先鋒として、イラク領内への侵攻を行っている。

大陸国家発展途上国においては、麻薬密輸や密入国の摘発の一環としてヘリボーンが実施される事もある。

1990年代初期のソマリア内戦2001年からのアメリカ主導のアフガニスタン紛争においては、ヘリボーンが有効に活用されると同時に、ゲリラ側による待ち伏せによりヘリコプターが撃墜されることも多い。そのため、あらためてヘリコプターの生存性が問題となっている。

参考文献[編集]

  • 田村, 尚也 「ヘリボーン戦術大研究」『ミリタリー基礎講座 2』 学習研究社〈歴史群像アーカイブ Vol.3〉、2008年、97-107頁。ISBN 978-4056051995
  • 江畑, 謙介 「第2章 ヘリボーン・オペレーション」『軍用ヘリのすべて』 原書房1987年、22-42頁。ISBN 978-4562018925

関連項目[編集]

ヘリボーン部隊