国歌
国の象徴 |
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国歌(こっか)は、国家を象徴する歌曲または器楽曲のこと[1]。
各国の法律によって規定されるもの、国民の共通意識によって認識されるもの、歴史的に国歌として扱われているものなどがあり、一様ではない。
国歌は不変の存在ではなく、政治体制や時代の変化によって改定が行われることもある。
歴史[編集]
- ヨーロッパにおいて最も古い国歌
オランダの国歌「ヴィルヘルムス・ファン・ナッソウエ(ウィルヘルムス)」
スペインからの独立戦争(八十年戦争)の際、1568年から1572年に書かれた「ヴィルヘルムス・ファン・ナッソウエ(ウィルヘルムス)」は、国歌の旋律としては最古であるが、1815年にオランダ王国が成立した際には『ネーデルラントの血』が国歌に選定された。
しかし「ウィルヘルムス」の人気が上回り、公式行事で使われることも多くなったため、1932年に正式に国歌に定められた。なお、曲名の「ウィルヘルムス」とは、オランダ独立の指導者オラニエ公ウィレムのことである。
ヨーロッパでは国歌に対する関心が19世紀に高まり、ナショナリズムの台頭とともに、各国が独立国家の象徴として国歌を採用した。ヨーロッパ諸国による植民地支配を乗り越えて成立した国々の多くもヨーロッパ式の国歌を採っている。
様式[編集]
多くの国歌は、行進曲か賛美歌のスタイルを採っている。ラテンアメリカの国々は、オペラ風の作品を選ぶ傾向があり、一握りの国々はファンファーレの様式を採っている。各国の国歌の平均的な長さは演奏時間にして1分ほどであるが、南アメリカ諸国の国歌は長いものが多い。英語表記が national anthems であるように、直訳すれば「国賛歌」となる。 幾つかの国歌は有名な作曲家や詩人によって書かれている。
現在、存在する国の国歌。
フランスの「ラ・マルセイエーズ」:クロード=ジョゼフ・ルジェ・ド・リールによる。
アメリカ合衆国の「星条旗」:ジョン・スタフォード・スミスの「天国のアナクレオンへ」をもとにしている。
ドイツ国歌:フランツ・ヨーゼフ・ハイドンによる。
オーストリア国歌:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトによる。
バチカン国歌:シャルル・グノーによる。
インドの国歌「ジャナ・ガナ・マナ」及び
バングラデシュの国歌「我が黄金のベンガルよ」:ラビンドラナート・タゴールの作詞作曲による。
ノルウェー国歌「我らこの国を愛す」:ビョルンスティエルネ・ビョルンソンの作詞による。
マレーシアの国歌「我が国」:ピエール=ジャン・ド・ベランジェの作曲による。
スペインの国歌「国王行進曲」:歌詞のない国歌。
ロシアの国歌「ロシア連邦国歌」:現在の2000年制定国歌の作詞はセルゲイ・ミハルコフ。
ソビエト連邦国歌と同一メロディーだが、その原曲は1936年にアレクサンドル・アレクサンドロフにより作曲された「ボリシェヴィキ党歌」であり、歌詞は何度か変更されている。
かつて存在した国の国歌。
ニューファンドランド(1949年、
カナダに併合):チャールズ・ヒューバート・パリー卿による。
アルメニア・ソビエト社会主義共和国国歌:アラム・ハチャトゥリアンの作曲による。
満洲国 大満洲建国歌:作詞は鄭孝胥、作曲は山田耕筰。満洲国国歌は作詞は建国歌と同じ、作曲は高津敏・園山民平・村岡楽童の合作であった。
歌詞[編集]
政治体制の変化などによって国歌を改訂する際、メロディーはそのままで歌詞のみを一部、または全面的に改編することが見られる(詳細後述)。また歌詞がない国歌もある(器楽曲)。
公用語が複数ある国家では、国歌の歌詞も各言語のものが全て正式なものとして認められている場合が多い。その場合、多数派の言語の歌詞を少数派の言語に訳すことが多い。
- 複数の公用語の歌詞を一曲にまとめた国歌(但し、この例においては独立的な2曲を一曲として国歌にしている)。
- 公的な場において複数言語の歌詞を一度に歌うことが慣習となっている国歌。
- 同一のメロディーに言語が異なる別の歌詞が付けられている国歌。
イギリスの国歌と
リヒテンシュタインの国歌
フィンランドの国歌と
エストニアの国歌
南アフリカの国歌の一部、
タンザニアの国歌と
ザンビアの国歌
国歌の歌詞はおおむね、次の4種に分類される。
- 自国の自然風土を賛美する …
韓国「愛国歌」など
- 神の栄光と国家の安寧を願う …
インド「ジャナ・ガナ・マナ」など
- 君主や君主国家を讃える …
イギリス「国王(女王)陛下万歳」、
日本「君が代」など
- 君主制への反逆や外敵との抗争を歌う …
アメリカ「星条旗」、
フランス「ラ・マルセイエーズ」、
中国「義勇軍行進曲」など
国歌の改変・改訂[編集]
中華人民共和国の国歌「義勇軍進行曲」
- 文化大革命で一度変更した歌詞を元に戻した。
アメリカ合衆国の国歌「星条旗」
- 初代国歌は「コロンビア万歳」(ジョゼフ・ホプキンソン作詞、フィリップ・フィリー作曲)であった。2代国歌は「My Country, 'Tis of Thee(マイ・カントリー・ティズ・オブ・ジー)」であり、イギリス国歌と同一旋律にサミュエル・フランシス・スミスが曲をつけた。現行の国歌「星条旗」は3代目の国歌で、米英戦争中の1814年、アメリカ人弁護士フランシス・スコット・キーが、イギリス海軍の砲撃にさらされた米軍要塞にひるがえる星条旗から「マクヘンリー砦の守り」を作詞、曲はイギリス人作曲の流行歌「天国のアナクレオンへ」をあてた。1931年、正式に国歌に選定された。
フランスの国歌「ラ・マルセイエーズ」
ドイツの国歌「ドイツの歌」
- イギリス滞在中のフランツ・ヨーゼフ・ハイドンがイギリスの人々が国歌を口ずさみ、国家への忠誠を心に深く抱く様を目撃して感銘を受け、また、時同じくして、祖国オーストリア帝国がナポレオン率いるフランス軍の侵略に脅かされていたため、故郷の存続を他国から救い、人々にオーストリア人としての誇りを取り戻させ、励ますために「オーストリア国歌」制定を試み、作曲した「神よ、皇帝フランツを守り給え」(弦楽四重奏曲第77番 第2楽章)をもとにしている。これに詩をつけたのは、アウグスト・ハインリヒ・ホフマン・フォン・ファラースレーベンで1841年のことである。ヴァイマル共和国時代に正式な国歌となったが、第二次世界大戦で敗北した後、一時、演奏禁止となり、1949年のドイツ連邦共和国(旧西ドイツ)成立時に3番のみを公式なものとして復活させた。
国歌の使用機会[編集]
国歌は多様な機会で使用される。
休日や、祭りで演奏される場合や、オリンピックやFIFAワールドカップなどのスポーツの国際大会や親善試合などでも試合の前や、金メダル受賞者の表彰時に国旗掲揚に合わせて演奏される。
国によっては愛国心の涵養のために毎日学校で始業前に国歌を演奏したり、国旗に敬礼することもあり、演劇や映画の上演前に演奏する国もある。
多くのラジオ、テレビ局は放送開始と終了の時に国歌を流す。多くの場合1番 (stanza) のみ演奏される(ドイツは3番)。
ワールドゲームズにおいては、2001年に開催された第6回秋田大会から演奏されている。
国歌に準ずる曲[編集]
多くの国家は非公式な国歌も持っている(王室、文化圏、州、連邦州、など。例:ベルギー地域)。
国歌に次いでその国を象徴するような歌(曲)が「第二の国歌」と呼ばれることがある。ほとんどの場合、法的に定められたものではない。
- 「第二の国歌」として知られる曲。
大きな統一体の場合、欧州連合 (EU) の歌として、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの「歓喜の歌」をもつ。国際連合とアフリカ連合も非公式な歌を持つ。2005年には、ブリティッシュ・アンド・アイリッシュ・ライオンズ(イギリスことグレートブリテン及び北アイルランド連合王国構成地域。イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランド=北アイルランド+アイルランド共和国)からなるラグビー連合)は "The Power of Four" を聖歌に定めた。
国歌一覧[編集]
評価[編集]
作曲家の團伊玖磨は晩年に、国歌の必要条件として、「短い事、エスニックである事、好戦的でない事の3条件」を挙げ、「イギリス国歌、ドイツ国歌、君が代の3つが白眉である」と評した。
なお、君が代については同時に、「音楽として歌曲としては変な曲だが、国歌としては最適な曲である。」と書いていた[3]。
脚注[編集]
- ^ 『ブリタニカ国際大百科事典』
- ^ 堀 雅昭『戦争歌が映す近代』、葦書房、2001年、25-26頁
- ^ 團伊玖磨、「しっとりパイプのけむり」、p145、朝日新聞社、2000年、ISBN 4022574607