OECD生徒の学習到達度調査 (OECDせいとのがくしゅうとうたつどちょうさ、英語 : P rogramme for I nternational S tudent A ssessment, PISA )とは、経済協力開発機構 (OECD)による国際 的な生徒 の学習 到達度調査 のこと。日本では「国際学習到達度調査」とも言われるが、英語の原文は『国際生徒評価のためのプログラム 』である。
この項では概要 、調査方法 ならびにその直接的結果 についてのみ述べる。文部科学省 による詳細な結果や、PISA自体については外部リンク を、結果の評価、解釈、影響等については関連項目 を参照されたい。
OECD 加盟国の多くで義務教育 の終了段階にある15歳の生徒を対象に、読解力、数学知識、科学知識、問題解決 を調査するもの。国際比較により教育方法を改善し標準化する観点から、生徒の成績を研究することを目的としている。調査プログラムの開発が1997年 に始まり、第1回調査は2000年 、以後3年毎に調査することになっている。2000年の第1回調査、2003年 の第2回調査、2006年 の第3回調査の結果については、国際報告書をもとに日本国内向けに翻訳した形で国立教育政策研究所 が編纂し、ぎょうせい から出版されている。
調査は、毎回メインテーマが存在し、読解力、数学的知識、科学的知識の順番でメインテーマが移っていく。そのため、2000年は読解力、2003年は数学的リテラシー、2006年は科学的リテラシー、2009年 は読解力、2012年 は数学的リテラシーをメインテーマとして扱っており、2015年 は科学的リテラシーをメインテーマで扱う予定である[1] 。
調査データファイルがすべて公開されており、OECD PISA公式ウェブサイト より入手可能である[2] 。
調査方法 [ 編集 ]
調査開始時において、15歳3カ月から16歳2カ月の生徒がテストされる。学年は考慮されない。自宅学習者は除き学校教育に参加している者のみが対象。しかし2006年には、いくつかの国で学年を基準にしたサンプルが用いられた。
生徒達は各2時間の自記式試験を行う。試験の一部は複数選択肢式の問で、一部は全記述式である。全部で6時間半の試験があるが、生徒達はすべての問を答えるわけではなく一部である。また生徒は、学習習慣や、学習動機 (motivation)、家族など彼らの属性に関する問にも答える。また学校の管理者は、学校の基本属性の特徴や財政基盤等に関する問に記入する。
テスト問題のサンプルはOECDのサイトから入手可能である[3] 。例えば、サンプルテストの読解力の第2問"Flu"(インフルエンザ)の第2.2問では、文章を読ませて文章がフレンドリーか否かを尋ねる形式の問題となっているが、どちらで答えても理由付けが良ければ正解となる。さらに、「さし絵がマンガのようでかわいい」という理由でフレンドリーという答えも模範解答の一つとなっており、「さし絵」という文章外のものも理由になる。逆に「さし絵の注射器が怖い」という理由でフレンドリーではないという答えも模範解答の一つとなっている。
各年度の結果を分析するには通常1年ほどの時間が必要である。第1回の結果は2001年 (OECD, 2001a)と2003年(OECD, 2003c)、そして各テーマごとの分析結果も出されている。第2回の結果は2004年 (OECD, 2004 OECD, 2004d)の2巻が出ている。以下の点数はすべて、全参加国の平均点が500点となるように計算した点数である 。
* のついている表は、その年における調査のメインテーマ
2000年調査 [ 編集 ]
OECD加盟国28か国を含む32か国、約26万5000人の生徒が参加。各分野の上位は以下である。
読解力*
1.
フィンランド
546
2.
カナダ
534
3.
ニュージーランド
529
4.
オーストラリア
528
5.
アイルランド
527
6.
韓国
525
7.
イギリス
523
8.
日本
522
9.
スウェーデン
516
10.
オーストリア
507
OECD 平均
500
科学的リテラシー
1.
韓国
552
2.
日本
550
3.
フィンランド
538
4.
イギリス
532
5.
カナダ
529
6.
ニュージーランド
528
オーストラリア
8.
オーストリア
519
9.
アイルランド
513
10.
スウェーデン
512
OECD 平均
500
1999年 には予備調査が実施された。
2002年 には、同一内容で、OECDに加盟していないものの調査に協賛する国々11か国で実施されている。
2003年調査 [ 編集 ]
OECD加盟国30か国を含む41の国と地域、27万5000人の生徒が参加。各分野の上位は以下である。
数学的リテラシー*
1.
香港
550
2.
フィンランド
544
3.
韓国
542
4.
オランダ
538
5.
リヒテンシュタイン
536
6.
日本
534
7.
カナダ
532
8.
ベルギー
529
9.
マカオ
527
スイス
OECD 平均
500
読解力
1.
フィンランド
543
2.
韓国
534
3.
カナダ
528
4.
オーストラリア
525
リヒテンシュタイン
6.
ニュージーランド
522
7.
アイルランド
515
8.
スウェーデン
514
9.
オランダ
513
10.
香港
510
OECD 平均
494
科学的リテラシー
1.
フィンランド
548
日本
3.
香港
539
4.
韓国
538
5.
リヒテンシュタイン
525
オーストラリア
7.
マカオ
525
8.
オランダ
524
9.
チェコ
523
10.
ニュージーランド
521
OECD 平均
500
問題解決能力
1.
韓国
550
2.
フィンランド
548
香港
4.
日本
547
5.
ニュージーランド
533
6.
マカオ
532
7.
オーストラリア
530
8.
リヒテンシュタイン
529
カナダ
10.
ベルギー
525
2002年には予備調査が実施された。
イギリス (イングランド )が調査に充分な数の生徒を集めることが出来なかったため、テスト は実施されたものの、統計処理による国際比較の中には含まれていない(スコットランド は国際基準を満たしていた)。
問題解決能力 が初めて出題された。
2006年調査 [ 編集 ]
56の国と地域が参加。各分野の上位は以下である。
数学的リテラシー
1.
台湾
549
2.
フィンランド
548
3.
香港
547
韓国
5.
オランダ
531
6.
スイス
530
7.
カナダ
527
8.
マカオ
525
リヒテンシュタイン
10.
日本
523
OECD 平均
498
読解力
1.
韓国
556
2.
フィンランド
547
3.
香港
536
4.
カナダ
527
5.
ニュージーランド
521
6.
アイルランド
517
7.
オーストラリア
513
8.
リヒテンシュタイン
510
9.
ポーランド
508
10.
スウェーデン
507
OECD 平均
492
科学的リテラシー*
1.
フィンランド
563
2.
香港
542
3.
カナダ
534
4.
台湾
532
5.
エストニア
531
日本
7.
ニュージーランド
530
8.
オーストラリア
527
9.
オランダ
525
10.
リヒテンシュタイン
522
OECD 平均
500
2009年調査 [ 編集 ]
65の国と地域が参加。各分野の上位は以下である。また、65の国と地域のうちの19の国と地域でデジタル読解力も実施された。
数学的リテラシー
1.
上海
600
2.
シンガポール
562
3.
香港
555
4.
韓国
546
5.
台湾
543
6.
フィンランド
541
7.
リヒテンシュタイン
536
8.
スイス
534
9.
日本
529
10.
カナダ
527
OECD 平均
496
読解力*
1.
上海
556
2.
韓国
539
3.
フィンランド
536
4.
香港
533
5.
シンガポール
526
6.
カナダ
524
7.
ニュージーランド
521
8.
日本
520
9.
オーストリア
515
10.
オランダ
508
OECD 平均
493
科学的リテラシー
1.
上海
575
2.
フィンランド
554
3.
香港
549
4.
シンガポール
542
5.
日本
539
6.
韓国
538
7.
ニュージーランド
532
8.
カナダ
529
9.
エストニア
528
10.
オーストリア
527
OECD 平均
501
デジタル読解力
1.
韓国
568
2.
ニュージーランド
537
オーストラリア
4.
日本
519
5.
香港
515
6.
アイスランド
512
7.
スウェーデン
510
8.
アイルランド
509
9.
ベルギー
507
10.
ノルウェー
500
2012年調査 [ 編集 ]
65の国と地域が参加。各分野の上位は以下である。また、そのうち32の国と地域がコンピューター使用型調査も行った。
数学的リテラシー*
1.
上海
613
2.
シンガポール
573
3.
香港
561
4.
台湾
560
5.
韓国
554
6.
マカオ
538
7.
日本
536
8.
リヒテンシュタイン
535
9.
スイス
531
10.
オランダ
523
OECD 平均
494
読解力
1.
上海
570
2.
香港
545
3.
シンガポール
542
4.
日本
538
5.
韓国
536
6.
フィンランド
524
7.
アイルランド
523
8.
台湾
523
9.
カナダ
523
10.
ポーランド
518
OECD 平均
496
科学的リテラシー
1.
上海
580
2.
香港
555
3.
シンガポール
551
4.
日本
547
5.
フィンランド
545
6.
エストニア
541
7.
韓国
538
8.
ポーランド
528
9.
ベトナム
526
10.
カナダ
525
OECD 平均
501
デジタル数学的リテラシー
1.
シンガポール
580
2.
上海
555
3.
韓国
551
4.
香港
547
5.
マカオ
545
6.
日本
541
7.
台湾
538
8.
カナダ
528
9.
エストニア
526
10.
ベルギー
525
デジタル読解力
1.
シンガポール
580
2.
韓国
555
3.
香港
551
4.
日本
547
5.
カナダ
545
6.
上海
541
7.
エストニア
538
8.
オーストラリア
528
9.
アイルランド
526
10.
台湾
525
2015年調査 [ 編集 ]
72の国・地域が参加。うち、OECD加盟国・地域が35、非加盟国・地域が37だった。この年から全面的にコンピュータ使用型調査へと移行した。[4]
数学的リテラシー
1.
シンガポール
564
2.
香港
548
3.
マカオ
544
4.
台湾
542
5.
日本
532
6.
北京、上海、江蘇、広東
531
7.
韓国
524
8.
スイス
521
9.
エストニア
520
10.
カナダ
516
OECD 平均
490
読解力
1.
シンガポール
535
2.
香港
527
3.
カナダ
527
4.
フィンランド
526
5.
アイルランド
521
6.
エストニア
519
7.
韓国
517
8.
日本
516
9.
ノルウェー
513
10.
ニュージーランド
509
OECD 平均
493
科学的リテラシー*
1.
シンガポール
556
2.
日本
538
3.
エストニア
534
4.
台湾
532
5.
フィンランド
531
6.
マカオ
529
7.
カナダ
528
8.
香港
523
9.
北京、上海、江蘇、広東
518
10.
韓国
516
OECD 平均
493
2018年調査 [ 編集 ]
2018 年に 79 か国・地域(OECD 加盟 37 か国,非加盟 42 か国・地域),約 60 万人の生徒を 対象に調査を実施。PISA2018の読解力において、504点(15位)であるが、信頼区間は499~509点、有意差のない順位は11位~20位。数学リテラシー522〜532点で5位〜8位。科学リテラシー524〜534点で4位〜5位[5] [6] 。
日本の読解力は各分野、上位以下である。
数学的リテラシー
1.
北京、上海、江蘇、広東
591
2.
シンガポール
569
3.
マカオ
558
4.
香港
551
5.
台湾
531
6.
韓国
526
7.
エストニア
523
8.
日本
522
9.
オランダ
519
10.
ポーランド
516
OECD 平均
489
読解力*
1.
北京、上海、江蘇、広東
555
2.
シンガポール
549
3.
マカオ
525
4.
香港
524
5.
エストニア
523
6.
カナダ
520
7.
フィンランド
520
8.
アイルランド
518
9.
韓国
514
10.
ポーランド
512
OECD 平均
487
科学的リテラシー
1.
北京、上海、江蘇、広東
590
2.
シンガポール
551
3.
マカオ
544
4.
エストニア
530
5.
日本
524
6.
フィンランド
522
7.
韓国
519
8.
カナダ
518
9.
香港
517
10.
台湾
516
OECD 平均
489
PISA事業に対する教育現場や研究者からの批判は当初より根強い[7] [8] 。
2014年に世界的に著名な教育学者が連名でPISA事業の責任者であるOECDのアンドレアス・シュライヒャーに対して、PISAが世界の教育にダメージを与えていると懸念する公開書簡を送った。書簡では、PISAが教育実践のごく限られた範囲しか測れていないにもかかわらず、大きな影響力を持っていることから、体力やモラル、芸術的な発達などの測れない分野をないがしろにし、各国の政策が近視眼的になることで教育の目的を見失うと指摘され、PISA2015の中止を要請した[9] 。
これに対してシュライヒャーは、PISAが各国の政策を近視眼的にした証拠はないし、各国に政策オプションを提供していると反論した[10] 。
また、PISA事業が国境を越えた教育政策市場を創出を後押しし、市場開拓の道具となっているという批判もある。この結果、先進国から途上国に対して学力向上のノウハウを提供する見返り経済的便益を得る不公正な関係(ヘゲモニー)が成立していると指摘される[11] 。
さらに、これらの市場が発展するにしたがって、成績の高い先進国がPISAによるブランド力を用いて、自国の教育モデルを海外に売る「教育の輸出」現象が生起していることも指摘されている[12] 。
^ OECD PISA – THE OECD PROGRAMME FOR INTERNATIONAL STUDENT ASSESSMENT
^ OECD_PISA公式サイト
^ テスト問題のサンプル [リンク切れ ]
^ “研究紹介: PISA2015の結果と考察 ”. 信州大学 比較教育学研究室. 2020年12月27日 閲覧。
^ https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2018/01_point.pdf
^ “OECD 生徒の学習到達度調査(PISA)Programme for International Student Assessment~ 2018 年調査国際結果の要約~ ”. 国立教育政策研究所. 2019年12月6日 閲覧。
^ 高山, 敬太「PISA研究批評 」『教育学研究』第85巻第3号、2018年、 332-343頁。
^ Heinz-Dieter Meyer & Benavot Aaron (2013/6/3). PISA, Power, and Policy: The Emergence of Global Educational Governance (Oxford Studies in Comparative Education) . Symposium Books
^ “OECD and Pisa tests are damaging education worldwide - academics” . (2014年5月6日). https://www.theguardian.com/education/2014/may/06/oecd-pisa-tests-damaging-education-academics
^ “Pisa programme not about short-term fixes” . (2014年5月8日). https://www.theguardian.com/education/2014/may/08/pisa-programme-short-term-fixes
^ 林, 寛平 (2016). “グローバル教育政策市場を通じた「教育のヘゲモニー」の形成 ──教育研究所の対外戦略をめぐる構造的問題の分析─” . 日本教育行政学会年報 42 : 147-163. https://doi.org/10.24491/jeas.42.0_147 .
^ 林, 寛平「比較教育学における「政策移転」を再考する ―Partnership Schools for Liberia を事例に― 」『教育学研究』第86巻第2号、2019年、 213-224頁。
関連項目 [ 編集 ]
外部リンク [ 編集 ]