持ち時間

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持ち時間(もちじかん)とは、将棋囲碁などのボードゲームをする際にあらかじめ定められた対局に使用できる時間限度のこと。持ち時間を使い切った対局者は負けとなる。対局両当事者に同じ持ち時間を定めることで公平を保ち、ゲームの途中放棄や故意の遅滞による相手への嫌がらせを排除する目的で設定される。

持ち時間設定[編集]

指し切り[編集]

あらかじめ定めた持ち時間を過ぎると即時間切れとなる設定。制限時間がくると、無情に対局時計の旗が落ちる様子からギロチンとも呼ばれる。最も単純な方式で、対局時間もあらかじめ定めた時間よりも延長しないこと、どのような対局時計でも対応していることから、アマチュアの大会や早指し、練習対局などで主に採用される。

シビアで緊張感がある一方、時間切れ間際での棋譜のレベル低下や盤上の勝負と無関係な時間切れによる決着、終盤時間に追われた対局者による局面の乱雑化(駒や石の位置が正確に分からなくなる)や対局時計を叩きあう見苦しい状況などが起こりうるため、プロによる公式な大会ではほとんど採用されない。

秒読み[編集]

囲碁や将棋で主に行われる設定。持ち時間を使い終わった後も一定時間内に指し(打ち)続ければ時間切れにはならないという方式で、時計係が秒数をカウントすることから「秒読み」と呼ばれる。すでに盤上でほぼ勝負がついている場合、次の手にほとんど時間をとる必要はないため、秒読みを採用することで「勝負に勝って試合で負ける」ような事態を避けることができる。

指し切りの問題点を解消できる代わりに、採用するには時計係や秒読みに対応したデジタル式の対局時計が必要となる。 加えて、対局終了の時間が定まらず、延々と続く可能性があるため、アマチュアの大会では進行の遅延を招くとして敬遠されがちである(決勝や準決勝など上位対局にのみ採用されるケースもある)。

フィッシャーモード(Fischer mode)[編集]

あらかじめ定められた持ち時間に加え、一手ごとに決められた時間が加算されていく設定。定められた時間より早く次の手を指した(ノータイム)場合、残りの時間分持ち時間が増える点で秒読みと異なる。考案者であるボビー・フィッシャーからフィッシャーモードと呼ばれる。
秒読み同様指しきりの問題点を解消した方式だが、対応したチェスクロックを必要とする。また、設定によっては持ち時間が増え続けるという事態も起こりうるが、チェスは将棋などに比べると一局が短いので、あまり弊害がない。また、公式な競技会で採用されるため、チェスクロックにはフィッシャーモードへの切り替えができる物もある。

将棋[編集]

消費時間の計測[編集]

1分未満切り捨ての計時
プロ将棋の対局では多くの場合、記録係によりストップウォッチで計時され、実際に消費した時間から1分未満の部分を切り捨てたものが消費時間として記録される。持ち時間の最後の1分は使い切らずに残して指す必要があり、残り1分になってからは1手1分未満で指し続ける「1分将棋」となる。
対局では終局までにほとんどの棋士が持ち時間をほぼ使い切るが、展開によっては持ち時間をほとんど使わずに対局が終了することがあり、中には終局まで1手1分未満で指し続けて「自分の持ち時間を1分も使わずに勝利する」といった例も存在する。公式戦で記録が残っているものとしては、過去に関屋喜代作灘蓮照大平武洋[1]の3人が達成している。
対局時計による計時
テレビ棋戦など持ち時間の短い棋戦では、計時に対局時計(チェスクロック)が用いられる。対局時計使用の対局では消費時間が秒単位で計測され、持ち時間を使い切るとそこから「1分将棋」や「30秒将棋」などになる。チェスクロックの操作はプロ棋戦では記録係が行い、アマチュアの大会では対局者自身が行うことが多い。アマチュアの大会では、持ち時間を使い切った時点で負けとする(「切れ負け」という)ルールもある。1秒未満の消費時間は通常切り捨てとなるが、コンピュータ将棋では1手1秒未満で着手することが可能なため、「1手につき最低1秒は必ず消費する」ルールを採用する場合がある[2]
テレビ棋戦の銀河戦NHK杯、および公開対局を行う日本シリーズ達人戦(達人戦は決勝のみ)では、持ち時間を使い切った後は原則として1手30秒未満で指さなくてはならない。ただし、これらの棋戦では、規定の回数を限度として、1手に考える時間を30秒以上に延長することができる。この延長時間のことを考慮時間という。前記のいずれの棋戦も考慮時間は1分単位と規定されているが、1手に2回以上の考慮時間を連続して使ってもよい。たとえば、考慮時間を1回使えば1手に1分30秒考えることができ、3回連続で考慮時間を使えば1手に3分30秒考えることができる。なお、考慮時間を使用するか否かを対局者自身が宣言する必要はなく、対局者が指さないまま考慮時間に入った時点で記録係がその旨を告げる。
遅刻の取り扱い
日本将棋連盟の対局規定によれば、対局に遅刻をした場合、遅刻をした時間の3倍の時間、即ち10分遅刻なら30分、30分遅刻なら1時間半を持ち時間から差し引くことになっている。差し引かれる時間がその対局の持ち時間を上回った場合、あるいは1時間以上遅刻した場合[3]は不戦敗となる。
なお対局者の一方が意図的なボイコットを事前に宣言している場合も運用上は遅刻扱いとなるため、対局の持ち時間が切れるまで不戦敗は確定しない(具体例として、2013年1月のマイナビ女子オープン準決勝・里見香奈石橋幸緒戦などがある[4])。

各棋戦の持ち時間[編集]

下表では、チェスクロック方式の対局で持ち時間を使い切った後に1手1分未満で指し続ける「1分将棋」に★印、1手30秒未満の「30秒将棋」に☆印、1手40秒未満の「40秒将棋」に(40)を付している。色付きはタイトル戦である。

棋戦 挑戦手合 本戦 予選
竜王戦 8時間(2日制、七番勝負 5時間(挑戦者決定三番勝負、決勝トーナメント) 5時間(ランキング戦)
3時間★(残留決定戦)
名人戦 9時間(2日制、七番勝負) 6時間(順位戦
王位戦 8時間(2日制、七番勝負) 4時間(挑戦者決定戦、紅白リーグ、予選)
王座戦 5時間(1日制、五番勝負) 5時間(挑戦者決定トーナメント、二次予選、一次予選)
棋王戦 4時間(1日制、五番勝負) 4時間(挑戦者決定二番勝負、挑戦者決定トーナメント、予選)
棋聖戦 2010年度から 4時間(1日制、五番勝負) 4時間(挑戦者決定トーナメント) 3時間(二次予選)
1時間★(一次予選)
2009年度まで 3時間(最終予選、二次予選、一次予選)
王将戦 8時間(2日制、七番勝負) 4時間(挑戦者決定リーグ) 3時間(二次予選、一次予選)
朝日オープン選手権
※2006年で終了[5]
3時間(1日制、五番勝負) 3時間(挑戦者決定トーナメント、予選)
棋戦 本戦(決勝) 本戦(準決勝まで) 予選
朝日杯オープン戦 40分★(本戦トーナメント、二次予選、一次予選)
銀河戦 15分☆(考慮時間10回)(決勝トーナメント、本戦トーナメント) 25分☆
ネット将棋・最強戦 30分☆ - コンピュータ計測
NHK杯 2011年度から 10分☆(考慮時間10回)(本戦トーナメント) 20分☆
2010年度まで 15分☆(考慮時間10回)(本戦トーナメント)
日本シリーズ 10分☆(考慮時間5回)
新人王戦 2006年度から 3時間(三番勝負) 3時間
2005年度まで 5時間(三番勝負) 4時間 1時間(奨励会予選)
達人戦(非公式戦) 15分☆(考慮時間10回) 3時間
女流棋戦 挑戦手合 本戦 予選
マイナビ女子オープン 3時間★ (1日制、五番勝負) 3時間★ 40分★(トーナメント)
30分☆(予備予選)
女流王座戦 3時間 (1日制、五番勝負) 3時間(トーナメント) 3時間★(二次予選)
40分★(一次予選)
15分☆(アマチュア予選)
女流名人位戦 3時間 (1日制、五番勝負) 2時間(A級、B級リーグ、予選)
女流王位戦 4時間 (1日制、五番勝負) 3時間(挑戦者決定戦、紅白リーグ) 2時間
倉敷藤花戦 2時間★ (1日制、三番勝負) 2時間★(トーナメント)
女流王将戦 2009年度から 25分(40) (1日制、三番勝負) 25分(40)(本戦、予選)※2009年度は予選なし(選抜)
2008年度まで 3時間 (1日制、五番勝負) 2時間(本戦、予選)
女流棋戦 本戦(決勝) 本戦(準決勝まで) 予選
ネット将棋・女流最強戦 30分☆ - コンピュータ計測
鹿島杯
※2006年で終了
10分☆(トーナメント、予選) ※2006年度は予選なし(選抜)
レディースオープン
※2006年で終了[6]
3時間★(三番勝負) 2時間★ 1時間★

歴史[編集]

昭和の初めまでは、持ち時間制は採用されていなかった模様である[7]

かつては非常に長い持ち時間の棋戦も多く、最初のタイトル戦である名人戦では、持ち時間15時間の3日制を採用していた。また、「南禅寺の決戦」として知られる阪田三吉木村義雄の対局では、持ち時間を30時間と設定し、7日間にわたる対局となっている。

21世紀に入ってから持ち時間が短縮された例がある。2005年に新人王戦の持ち時間が4時間から3時間になった。2007年には朝日オープン将棋選手権朝日杯将棋オープン戦に移行された際、持ち時間が3時間(1分未満は切り捨て)から40分(対局時計使用)に大きく短縮されている。2009年には棋聖戦の一次予選の持ち時間が1時間(対局時計使用)に短縮されている。

指し直し局の持時間[編集]

日本将棋連盟の対局規定では、千日手持将棋の成立による指し直し局の持時間は成立時の残り時間を引き継ぐものと定められている。なお対局者のどちらか一方または双方の残り時間が1時間未満(タイトル戦の挑戦手合では2時間未満)であった場合は、残り時間が少ない方の対局者の持時間が1時間(タイトル戦の挑戦手合では2時間)となるように両対局者の持時間に同じ時間を加算する。ただし本来の持時間を超えて加算されることはない。再度指し直しとなった場合も同様の措置を採る。
また早指し棋戦等、持時間が1時間以下の棋戦の指し直し局の持時間の扱いについては棋戦ごとの実行規定に定められている。

囲碁[編集]

基本的には将棋と同じ。ただし、記録係が消費時間を計測する場合で、対局時計を使わない場合において違いが生じてくる。

この場合、記録係は消費時間の記録のために通常の小型の時計(腕時計など)を用い、その分針の位置で消費時間を計測する。そのため、次のような状況が起こる。

ある局面から、たまたま双方が1手ごとに50秒ずつ使って6手進めたとする。

説明の都合上ある局面になった(すなわち直前の手が打たれた)のが午前11時きっかりとし、次の手番を黒とする。すると、

  • 一手目:時計は11時00分(50秒)を指しているので黒に消費時間は記録されない。
  • 二手目:時計は11時01分(40秒)を指しているので白に消費時間1分が記録される。
  • 三手目:時計は11時02分(30秒)を指しているので黒に消費時間1分が記録される。
  • 四手目:時計は11時03分(20秒)を指しているので白に消費時間1分が記録される。
  • 五手目:時計は11時04分(10秒)を指しているので黒に消費時間1分が記録される。
  • 六手目:時計は11時05分(00秒)を指しているので白に消費時間1分が記録される。

結果、黒に消費時間2分、白に消費時間3分が記録されることになる。

これに対し将棋ではすべての手に対して消費時間は0と記録され、結果双方とも消費時間は0である。

なお、残り時間が逼迫して秒読みが始まっている場合は適用されない。

棋戦ごとの持ち時間[編集]

(日本の最新の棋戦に限る)

棋戦名 番勝負 本戦 予選
棋聖戦 8時間(2日制) 5時間(リーグ戦) 5時間(最終予選)
3時間(予選A・B・C)
名人戦 8時間(2日制) 5時間(リーグ戦) 5時間(最終予選)
3時間(予選A・B・C)
本因坊戦 8時間(2日制) 5時間(リーグ戦) 5時間(最終予選)
3時間(予選A・B・C)
十段戦 3時間(1日制) 3時間 3時間
天元 3時間(1日制) 3時間 3時間
王座戦 3時間(1日制) 3時間 3時間
碁聖 3時間(1日制) 3時間 3時間
NECカップ   10分  
阿含桐山杯 1時間30分(決勝) 2時間 1時間
新人王戦 3時間 3時間 3時間
王冠戦 4時間 4時間 3時間
NHK杯   初手から1手30秒
1分×10回の考慮時間
 
竜星戦   初手から1手30秒
1分×10回の考慮時間
1時間

歴史[編集]

対局に持ち時間制を設けたのは1922年(大正11年)に設立された裨聖会で、当時盛んになり出した労働運動で8時間労働が唱えられていたことを参考に、1日各8時間で二日打切りとして、持ち時間を各16時間とした。その後、1924年に設立された日本棋院の棋戦では持ち時間制は無く、棋戦によっては16時間、15時間、13時間などが用いられるが、これらは実際は二日では終わらず三日がかりの対局だった。1937年に行われた本因坊引退碁挑戦者決定リーグ戦では各12時間、同年から開始された第1期本因坊戦では各11時間、決勝六番勝負が13時間となった。本因坊戦は1953年の第8期から、挑戦手合は各10時間二日打切りとなる。1954年開始の早碁名人戦では各4時間が採用されるなど、持ち時間短縮の傾向が進む。1988年開始の世界囲碁選手権富士通杯では各3時間となり、世界戦や中国、韓国などの棋戦では3時間が主流となった。さらに2010年アジア競技大会では各1時間となるなど、スポーツとしての時間短縮化も進んでいる。

チェス[編集]

FIDEの認定マークが付いた対局時計

チェスでは19世紀中ごろから持ち時間の制限が始まり、はじめ砂時計が、続いてストップウォッチが、1880年代からは現代と同じ対局時計(チェスクロック)が使われた。主要国際大会の持ち時間は戦前は「30手2時間、そこで指しかけの後15手につき1時間ずつ延長」が多かった。戦後は「40手2時間半、16手につき1時間ずつ延長」となり、さらに「40手2時間、20手につき1時間ずつ延長」と短縮された。

1990年代にはボビー・フィッシャーが1手ずつ持ち時間を追加する「フィッシャーモード」を提唱、1992年の対ボリス・スパスキー戦で初めて使用し、この方式は急速に普及した。このため現代のチェスクロックの上位機種は必ずデジタル式で、フィッシャーモードでの追加時間を1秒単位で設定できることが必須となる。FIDE公式の競技会で使用が許可されている、認定チェスクロックなども販売されている。

1990年代後半になるとコンピュータ解析の発達によって指しかけも廃止され、「40手2時間、41手目に1時間追加、61手目に30分追加(計3時間半)」を一気に行なう「7時間セッション」と呼ばれる方式が定着した。またこれにフィッシャーモードを加える場合も多い。

世界選手権などFIDEの主要大会でも同じであったが、FIDEは2000年から「90分、初手から1手につき30秒追加」、つまり一人あたり平均2時間弱という短い持ち時間(「FIDE持ち時間」などと呼ばれる)を主要な公式大会で適用した。しかし伝統的なやり方に拘る地域では不評で、2008年からは41手目に30分を加えることにしたが、まだ一人あたり2時間半弱である。この間もずっとクラシカルの世界選手権マッチ、主要招待大会、伝統的なクラブ対抗戦などは7時間セッションで行われていた。また非公式の競技会などでは、事情に合わせて持ち時間を短縮することも多い。

持ち時間と戦略[編集]

持ち時間が足りなくなってくると、対局者の思考は時間不足や焦りなどからしばしば乱れ、それによって勝敗が逆転してしまうケースは、プロ同士であっても珍しくない。考え出せばキリがない局面では時間を使わずに局面の知識や勘で着手し、時間を使えば優位を得ることができそうな局面や勝負所でのみ時間を投入するというような時間配分戦略も、持ち時間ありの対局では必要になることがある。

また、相手方が自身の着手を考えている時間にも自身の着手を考えておくことや、秒読みにおいては自身の着手が決まってもギリギリまで着手せずに先を読むことも、時間節約のために有用な技術である。

秒読み対局では、相手に特定の応手を強制する着手で考慮する時間をキープする「時間つなぎ」も、しばしば行われる。 ただし、ほんのわずかな局面のずれが勝敗に直結する将棋・チェスでは無意味な時間つなぎが即負けにつながるケースが多く、めったなことでは行えない(千日手になる状態を利用することで、局面に影響させず行うことは可能)。囲碁では比較的時間つなぎのリスクは少ないが、コウ材を使ってしまうために不利をもたらす可能性がある。

他方で、あえて時間を使い切り、自身を秒読みに追い込むことで集中力を保つことができるという面もあり、各人にあった時間戦略が必要となる。

ただし、特に囲碁において相手方の持ち時間を切らせるために故意に終局に同意しない行為はマナー違反とされている。大会によっては審判権限で形勢判断の上で時間切れの側に勝ちを認めるなどの対応がとられるケースもあり、持ち時間戦略にも節度が求められている。

脚注[編集]

  1. ^ 大平のケース(2005年3月18日竜王戦昇級者決定戦1回戦・対児玉孝一戦)は、埼玉で行われたZONEのコンサートに、対局場の大阪から駆けつけるためであったことで有名であり、「トリビアの泉」(2006年6月7日放送)でも紹介された。
  2. ^ 世界コンピュータ将棋選手権 大会ルール 第22条1項
  3. ^ 田丸の勝率、里見香奈女流四冠へのコメントと遅刻の罰則規定について - 田丸昇、2013年9月2日(2014年5月28日閲覧)。
  4. ^ 女流将棋界で対局ボイコット騒動 プロ資格巡り対立 - 日本経済新聞・2013年1月30日
  5. ^ 朝日オープン将棋選手権は朝日杯将棋オープン戦に移行。
  6. ^ レディースオープントーナメントは、マイナビ女子オープンに移行。
  7. ^ 近代将棋』連載の「名人義雄」によると、日本将棋連盟設立前の対局である、1921年の木村義雄四段対金子金五郎四段(段位は当時)戦では持ち時間は設定されておらず、3日間の長丁場の戦いとなっている。

参考文献[編集]

  • 井口昭夫『本因坊名勝負物語』三一書房 1995年

関連項目[編集]