厚み (囲碁)

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囲碁における厚みとは上において影響力を及ぼすことのできる、しっかりと連絡して眼形の心配もない強力な石の集団である。「厚味」とも表記する。

「厚み」は「薄み」に対する対義語である。囲碁で「薄い」というのは連絡が十分取れていない形、眼に不安がある石のことであり、相手に攻撃される可能性を持っている状態を指す。

これに対して強力な「厚み」は相手からの攻撃を受ける可能性が低く、周囲に近づいた敵の石に対して攻撃するための基盤となる。また、相手が近づいてこなければ大きな模様を形成する拠点となる。

概要[編集]

「厚み」を誰もが納得する形で定義することは難しく、打ち手によって解釈は異なる。一つの定義として、横田茂昭は、厚みを「高さ」と「根拠」で計る考えを述べている[1]。ある程度「高さ」がある石は攻められにくく、相手の石を攻める際に武器として働く。また、眼型がはっきりある石は決して死なないので、周りにある相手の石の攻撃拠点となりうる。


これは黒のに対して白が三々入りしたときの定石の一形である。このワカレ(進行)で白は隅に10目ほどのを得、それと交換に黒は厚みを得た。この黒石は十分な「高さ」があり、白石がいくつか周辺に近づいてきてもある程度眼型を得やすく、攻められにくい。このため、相手に対する脅威となりうる強力な「厚み」といえる。


例えば白が厚みの近くに1などと打ってきたら、背後から黒2と迫り、以下白が実質のない手を打って中央に逃げる間に、黒は2,4,6などと打って左下の模様を拡大することができる。右下の厚みは強力であり、白石が周囲に増えても攻撃を受ける心配はない。これが厚みの効果である。


右上は小目定石の一つ。黒の一団は中央に向けた「高さ」はそれほどないが、眼型は完全であり、白にいくら周辺を包囲されても全く動揺しない極めて堅い石である。このため、周辺で戦いが起きた時には強力な援軍となる。例えば白1などと近づいてきたら黒2と打ち込み、強硬に戦うことができる。白3,5などと石が加わっても、右上一団には何の心配もないため黒4,6などと打って利得を得ることができる。

厚みを囲うな[編集]

囲碁の格言に「厚みに近寄るな」「厚みを囲うなかれ」があり[2]、厚みの近くに打つことを戒めている[2]。例えば上図の場合、黒1と厚みに近い側からツメるのはよくない。せっかくの強力な厚みの周囲に数目の地を作るだけであり、効果が薄い。白2とヒラかれ、安心されてしまう。

この場合黒1と左側からツメて、白2と窮屈なヒラキを強いて黒3,5などと攻めかかる方がよいとされる。白は右方の厚みのためなかなか安定できず、攻めている間に黒は左辺に大きな模様を築くことができる。

関連・類似用語[編集]

形容詞として「厚い」という言葉が使われる。上述のような、連絡がしっかりしていて眼型の心配がない強い石を「厚い石」と表現する。また、すぐに相手から厳しい手があるわけではないが、一手かけて完全に心配をなくしておくような手・本手を「厚い手」と表現することがある。また弱い石を作らず、確実に自分の石を固めて攻めを狙う棋風を「厚い碁」と呼ぶ。また形勢を表現する際にも使われることがある。黒がわずかに優勢である場合、「黒の厚い半目勝負」など。

厚みと似た概念に模様勢力があるが、全く同じではない。

模様派[編集]

雄大な厚みを築くスタイルの棋士一覧。

脚注[編集]

  1. ^ NHK囲碁講座テキスト2009年10月号
  2. ^ a b 日本棋院編『新・早わかり格言小事典』日本棋院、1994年4月、20-22頁。 

参考図書[編集]

  • 『厚みの百科 よくわかる模様と勢力』日本棋院
  • 『厚みの活用 これだけは (囲碁ブックス)』 誠文堂新光社 2009年