封じ手

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封じ手(ふうじて)とは、主にボードゲームにおいて、対局の中断時に有利不利がでないよう、次の手をあらかじめ決めておく方法のことである。

チェスにおける封じ手の例(1966年コペンハーゲンで行われたゲラーラーセンの対局のもの)

概要[編集]

持ち時間制の対局で日をまたいで中断する場合などに、手番のプレイヤーが次の手を考え続けられるのでは手番でないプレイヤーが不利であり、持ち時間制の興も削がれる。このような不公平をなくすために、封じ手が用いられる。

具体的には、その日の規定時刻を超過した場合、次の一手は必ず封じ手となり、手番のプレイヤーは相手のプレイヤーに知られないよう次の手を用意する。翌日の一手目は任意に選択することなく、封じた手をプレイする。続けて自由な着手で対局が行われる。

このことにより、どちらもある局面を中断中に考え続けた上で次手を着手する、といったことを防ぐことができる。

封じ手は規定の時刻前に行うこともできる(この場合、規定時刻まで持ち時間を消費したものとして扱う)。 また、規定の時刻に達しても、ただちに封じる必要はなく、持ち時間のある限り次の手を考慮してよい。

手番と持ち時間が影響するようなゲーム(例えばカードゲームや、ウォーゲームなど)で利用できるが、現在公式に用いられているのは将棋囲碁だけである。

封じ手は、観戦するアマチュアにクイズとして出され、懸賞の対象とされることもしばしばある

封じ手の構成[編集]

封じ手には専用の用紙と封筒を用いる。

封じ手用紙[編集]

将棋(日本将棋連盟の棋戦の場合)
用紙は横置きの縦書きで四ツ折になっている[1]
  • 右側 - 右端に「封じ手」の表題が印刷されており、その横に棋戦名を記入する欄(「第○○期○○戦第○局」)、先手の名前を記入する欄、後手の名前を記入する欄がある。
  • 左側 - 盤面が印刷されており、その上部に「(封じ手局面○○○まで)」と注記する欄がある。
囲碁(日本棋院の棋戦の場合)
用紙は縦置きの縦書きで四ツ折になっている[2]
  • 上側 - 右端の枠外に棋戦名の欄があり、その横の枠内に対局者の欄や消費時間を記入する欄がある。
  • 下側 - 盤面が印刷されており、その図の右端に対局日や対局者等の欄があり、また、最下段には「日本棋院」と印刷されている。

封筒[編集]

将棋(日本将棋連盟の棋戦の場合)
封じ手を入れる封筒は縦書きの構成で、次のような欄が設けられている[1]
  • 表面
    • 中央 - 「封じ手」の表題が印刷されている。
    • 左側 - 上側に棋戦名を記入する欄(「第○○期○○戦第○局」)があり、その下側に会場名を記入する欄(「於○○○○○」)がある。
    • 右側 - 上側に対局者を記入する欄(タイトル保持者の称号・名前を記入する「保持者」の欄と挑戦者の段位・名前を記入する「挑戦者」の欄)がある。また、その下側には立会人が署名する「立会人」の欄があり、この欄には副立会人も連署する。
  • 裏面
裏面中央には「日本将棋連盟」の文字が印刷されており、左上に封じ手をした日付を記入する欄がある。
囲碁(日本棋院の棋戦の場合)
封じ手を入れる封筒は横書きの構成で、次のような欄が設けられている[2]
  • 表面(上から)
    • 最上段には「封じ手」の表題が印刷されている。
    • 2段目には棋戦名を記入する欄(「第○○期○○戦」)がある。
    • 3段目には局数を記入する欄(「第○局」)がある。
    • 4段目には立会が署名する「立会」の欄がある。
    • 5段目・6段目には記録者の名前を記入する「記録」の欄がある。
    • 7段目には封じ手の手数を記入する「封じ手○○○手目」の欄がある。
    • 8段目には封じ手をした日時を記入する欄がある。
    • 9段目から11段目までは消費時間を記入する欄であり、9段目には「消費時間(持ち時間・各○時間)」と印刷されている。その下の10段目には黒番の対局者の氏名と消費時間、11段目には白番の対局者の氏名と消費時間を記入する欄がある。
    • 12段目には「保管者署名」の欄がある。
    • 最下段には「財団法人日本棋院」の文字が印刷されている。

封じ手の手順[編集]

将棋囲碁の一部のタイトル戦では2日にわたって対局が行われ、指しかけ(打ちかけ)にはすべてに封じ手が用いられる。

例えば将棋の名人戦は、一日目の午後6時30分が規定時刻となる。規定時刻になった時点で立会人(囲碁の場合は立会)は、次の一手が封じ手となることを知らせるが、規定時刻を過ぎても指し手を考慮することは認められている(持ち時間が残されている限り、どれだけ過ぎていてもよい)。

封じ手は次のような流れで行われる。将棋と囲碁とでは若干記入内容などが異なるが、ほぼ同様の手順で行われる。

  1. 封じ手番の対局者は、立会人に対し次の手を封じる旨の意思表明をする。このとき、記録係はただちに時計を止める(持ち時間の消費はここでストップする)。
  2. 記録係が封じ手用紙に棋戦名、対局者名、現在の局面を封じ手用紙に記入する(囲碁の場合には黒番と白番をそれぞれ青と赤に色分けして手順に従って数字を記入する)。将棋の封じ手の場合には2枚、囲碁の封じ手の場合には1枚の封じ手用紙に記入する。
  3. 対局者は秘密裏に封じ手用紙に記入する(将棋の場合は封じ手を2通作成するので2枚ともに記入する)。将棋の封じ手の場合、赤のペンで動かす駒を丸で囲み、移動先まで矢印を引くことで示される。棋譜符号が併せて用いられることもあり、同じく赤ペンで記入する。なお、将棋で駒を成るか成らないかを表す必要がある場合には局面欄外に記す。囲碁の封じ手の場合、封じ手の局面の図で用いられている黒番(青)と白番(赤)との色分けに従って、青いペンまたは赤いペンで石を打つ位置に丸をする。
  4. 封じ手が記入された封じ手用紙は秘密裏に封入される。将棋の場合、確認のために両対局者は封筒裏側の上部と下部の閉じ口の部分に赤のペンで名前を自署する(封の部分に苗字を自署して丸で囲む)。タイトル保持者と挑戦者は封筒の上下2ヶ所の対角の位置にそれぞれ署名するので、署名は両対局者のものを合わせると計4ヶ所になされることになる。なお、封筒表側の棋戦名・会場名・対局者の欄については立会人が記入し、立会人欄に立会人が署名したのち副立会人が連署する形をとる。囲碁の場合には立会の者が封筒の上部の封の部分に署名する。
  5. 将棋の場合、2通のうちひとつは立会人、もうひとつは対局場の金庫などに保管する。囲碁の場合、封じ手は1通で通常は立会が保管する(特に保管者がいる場合には「保管者署名」の欄に署名する)。
  6. 翌日、対局者は記録係の読み上げに従って前日までの手順を並べ、封じ手直前の局面を再現する。
  7. 立会人は対局者の前で鋏により封筒を開封し、(将棋の場合には2通の両方が同一の内容であることを確認の上で)封じ手を読み上げる。
  8. 封じ手番の対局者は、封じ手を実際の局面に反映させ対局を再開する。この時点で時計も再開される。

稀に 2日にわたらないものでも、例えば途中で対局場を移動する場合などに用いられることがある。テレビ東京で放送されていた早指し将棋選手権でも、先手が41手目を封じる封じ手制が用いられていた。

また、公開対局のファンサービスなどで、懸賞次の一手などで用いられる着手も封じ手と呼ばれるが、不公平さをなくすという意味は少なく、便宜上の呼び名にとどまる。

将棋の場合、現在の体制になった当初である第二次大戦直後は、封じ手は符号で記入することになっていた。また、指しかけの時刻になったところで振り駒を行い、どちらが封じ手を行うかを決定していた。現在は指しかけ時に手番を持つものが封じ手を行うように変更されている。

駒の移動を符号でなく、チェスで行われていたように図で示すことになった経緯は諸説ある。一般には誤記入を避けるためといわれているが、ほとんど非識字棋士であったとされる阪田三吉が棋戦に登場した際、阪田に恥をかかせるわけにはいかず、当時の観戦記者、菅谷北斗星が発案したという講談のような話も残っている。

昼・夕の休憩時の指し掛けや打ち掛けでは封じ手は行わない。これについては、休憩の時点で手番を持っているものが長時間考えられて有利となり、公平さを欠くという主張もあるが、プロの対局者間ではあまり問題視されていない[3]

封じ手の戦略[編集]

一般的に、必然の一手を封じることは良くない。これは、非封じ手側に手の選択肢を与えてしまうからである。いくつか候補手が存在し、自分がどれを選んだか相手側にはわからないような局面で封じるのが望ましい。逆に、相手にそうさせないように持ち時間を調節するのもテクニックのひとつである。

チェスでは、コンピュータ解析の発達と、持時間の短縮にともない、封じ手は1990年代後半にほぼ全廃された(ルール上は現存している)。

一方の囲碁や将棋においても、

  • 一般のプレイヤーが封じ手を要求されることはない
  • プロプレイヤーにおいても、2日制のタイトル戦に出場するのは一部のトッププロに限られる
  • 1日目に形勢がはっきりするような局面にすることは味が悪いとし、好まれない。必然、封じ手が重要な意味をもつことも少ない

などの理由で、封じ手の戦略について系統だった研究は発表されていない。主に、プレイヤーの好みや、その場の流れで選択することが多いようである。

将棋世界』2008年2月号で、羽生善治佐藤康光森内俊之谷川浩司渡辺明藤井猛の6人のプロ将棋棋士に封じ手の戦略や駆け引きについて質問している[4]。羽生・森内・谷川はそれほど気にしていないが、佐藤・渡辺・藤井は駆け引きがあると回答しており、特に渡辺と藤井は「封じる側が有利」としている。

囲碁においても、封じ手を嫌う棋士はいる。悪手を打ったのではないか、用紙に書き間違えていないかなどが気になり、眠れない棋士もいるという。1963年の第2期名人戦挑戦手合第6局では、挑戦者坂田栄男が封じ手の定刻間際に着手。自分に封じ手をさせようという坂田の作戦に怒った藤沢秀行名人がすかさず次の手を打つが、坂田も間髪入れずに着手、藤沢に封じ手を打たせた。この盤外戦に動揺した藤沢はこの封じ手で悪手を打ってしまい、この碁を落とした。次の第7局では、藤沢が定刻数秒前に打って坂田に封じ手をさせることに成功したが、結局この碁にも敗れ、名人を失う結果となった。「ヒカルの碁」でも、対局者同士の封じ手を巡る心理戦のやり取りが描かれている。

その他[編集]

テレビドラマ『古畑任三郎』第1シリーズ(『警部補古畑任三郎』)第5話「汚れた王将」(ゲスト:坂東八十助)では、ストーリー中に「封じ手」が登場、犯人の使用したトリックとして描かれている。しかし、実際に行われている封じ手のルールではこのトリックは不可能で、脚本の三谷幸喜も小説版のあとがきで、トリックが稚拙だったと認めている。

脚注[編集]

  1. ^ a b 日本将棋連盟「竜王戦中継plus」 (2010年10月27日). “封じ手用紙”. 日本将棋連盟. 2012年8月18日閲覧。
  2. ^ a b 毎日新聞社Twitterアカウント「毎日が囲碁道場」 (2012年7月29日). “封じ手用紙と封筒。 用紙には封じ手を示す丸印が確認できる。”. 毎日新聞社. 2012年8月18日閲覧。
  3. ^ たとえば、『将棋世界』2007年1月号185ページ「連盟の瀬川さん」に、不公平ではないかという読者からの質問と、そのように考えている棋士はいないと思われるとの瀬川晶司の回答が掲載されている。
  4. ^ 将棋世界』2008年2月号、108~109ページ、「イメージと読みの将棋観」。

関連項目[編集]