グリーンマイル

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グリーンマイル』(The Green Mile[注釈 1]は、スティーヴン・キング1996年に発表した、1932年大恐慌時代死刑囚が収容されている刑務所を舞台とするロー・ファンタジー小説

アメリカではネタばれを防ぐために(その後に日本でも)6冊が毎月1冊ずつ6か月連続で刊行された。

あらすじ[編集]

20世紀末、刑務所の看守主任だったポールが、60年前の出来事を回想する形で物語が始まる。

1935年アメリカ刑務所死刑囚監房看守を務めるポールのもとに、一人の大男が送られて来る。双子の少女を強姦殺人した罪を持つ死刑囚ジョン・コーフィは、その風貌や罪状に似合わないほど弱く、繊細で純粋な心を持っていた。これと同時期に、知事の妻の甥であるパーシーが看守となり、傲慢な態度で他の看守たちから嫌われる存在になる。

ある時、コーフィは局部を掴んだだけでポールの重い尿路感染症を治してしまう。その後も、コーフィはデルことエデュアール・ドラクロアが飼っていたネズミMr.ジングルスがパーシーに踏みつけられて瀕死の状態を救った。これを見た看守たちは「コーフィは不思議な力を神から授かった特別な存在なのでは」と考え始める。同時にポールは、コーフィが電気椅子に送られること、それを行う自分たちは大きな過ちを犯しているのではないかと悩む。

しばらくして、ウィリアム・ウォートン ―― 通称“ワイルド・ビル”という凶悪な死刑囚が送られてくる。ポールは仲間達と共に、コーフィを刑務所から内密に連れ出して、難病を患っている刑務所所長のハルの妻・メリンダを助けようとする。コーフィはメリンダを治し、彼女から吸い取った病気をすぐに吐き出さず、横暴な看守のパーシーに移した。パーシーは錯乱状態となって凶悪犯のウォートンを銃殺し、まもなくパーシーは精神病院に送られた。それからコーフィは、ポールの手を取って「双子の少女の殺人事件の真相」を伝え、ポールはウォートンこそが双子の少女を殺害した真犯人だったと知る。

しかし、コーフィの冤罪を覆す証拠は存在せず、死刑執行が決定される。ポールたちはコーフィに脱獄を勧めるが、「世界中で今も愛を騙って人が殺されている」「毎日のように、世界中の苦しみを感じたり聞いたりすることに疲れたよ」と言い、コーフィはそれを拒否して死ぬことを選んだ。数日後、コーフィは電気椅子に送られ、ポールの手で処刑された。

その後、ポールは108歳になっても健康なまま生き続け、Mr.ジングルスも60年以上生き続けていた。これはコーフィから与えられた力によるものだったが、ポールは自分がコーフィを処刑したことで神から罰を与えられ[注釈 2]、家族や友人全員より長生きすることになると信じている。そして、ネズミのMr.ジングルスの異常な長寿から、自分が死ぬのは遠い先のことだろうと考えている。

登場人物[編集]

主人公[編集]

ポール・エッジコム
本作品の主人公。コールド・マウンテン刑務所Eブロックの看守主任。在職中、78回の死刑執行の指揮をとった。ジョン・コーフィに尿路感染症を治療してもらってから、彼が本当に双子の少女を殺害したのか懐疑的になる。
1930年代時点で44歳で、子供が2人いるがどちらも成人している。
ジョン・コーフィの処刑後は、ブルータスと共に少年更生院へ転属している。
ジョン・コーフィ
もう一人の主人公。飲み物のコーヒー(Coffee)と発音が似ているがスペルは「Coffey」。双子の幼女を殺害した罪でコールド・マウンテン刑務所に投獄されることになった、巨漢の黒人(ブルータスよりもさらに巨体)。身長2m、体重126kg。深みと静かな響きのこもった声質。まるで子供のように暗闇を恐れ、不思議な力[注釈 3]を持っている。
穏やかで純粋な性格だが知能が低く、自分の名前以外は字が書けない。記憶に障害があるらしく、自身の過去については「覚えていない」と語ることが多く、天涯孤独の身。しかし危機察知能力は高く、ウィリアム・ウォートンのことを一目見る前に凶悪犯であると察知している。
双子の殺人事件は冤罪であるが、ジョンは「毎日愛が利用され、たくさんの人が苦しんでいる。それを感じることに疲れてしまった」と言って刑を受け入れた。

刑務官[編集]

ブルータス・ハウエル
Eブロック副主任。ポールの相棒であり、正義感の強い大男。「ブルータル(乱暴者)を自称しているが、これは冗談であり、体格は良かったが、必要に迫られなければ蠅1匹殺せない男であった」とポールに称されている。独身。
死刑執行指揮の担当者だったが、ジョン・コーフィの刑死後は、ポールと共に少年更生院へ転属している。
パーシー・ウェットモア
看守の1人。州知事と義理の血縁関係にあり、コネがあるのをいいことに好き放題振る舞っている。「筋金入りに残酷な男で、冷酷で不注意でバカと3拍子揃っている」とポールに評されている。囚人のデルとは非常に相性が悪い。自尊心が高く大物ぶっているが、本性は臆病者で自分より凶悪なウォートンを特に苦手としている。
コネで「ブライアー・リッジ精神病院」に転属が間近であり、すぐにでも囚人と関わる危険もない高給のデスクワークが可能なのだが、「死刑の様子を見たい」「自分で死刑の指揮を執りたい」という願望のために刑務所に留まっている。また、1人だけ特注のヒッコリー製の警棒を愛用している。
ブライアー・リッジ精神病院へ転属願を出すことを条件にポールからデルの処刑の指揮を任されるが、処刑の際に手順をわざと省いた事によりデルに余計な苦しみを与えてしまい、通常の死刑よりも凄惨な結果になる[注釈 4]
メリンダの病気を治癒したコーフィーから黒い粒子をうつされ、精神が錯乱したままウォートンを銃殺する。精神疾患と判定され、皮肉にも自身が職員として転属するはずだったブライアー・リッジ精神病院に患者として入院することになった。その後 精神が戻ることはなく、死ぬまで院内でまともに口をきくことはなかったという。
ディーン・スタントン
看守の1人で比較的若手である。縁なしのメガネを着用している(映画では眼鏡をかけていない)。繊細で涙もろい。看守の中で唯一幼い子供がいる。
ハリー・ターウィルガー
看守の1人。冷静で物静かな性格。看守の中では年長で、ポールと同様に子供は成人済み。
ジャック・ヴァン・ヘイ
電気椅子のスイッチ担当の目立たない看守。
ハル
コールド・マウンテン刑務所の所長。妻・メリンダが難病を患っており、そのことで頭を抱えている。ポールとは家族ぐるみで仲が良い。
カーティス・アンダーソン
コールド・マウンテン刑務所の副所長。映画には登場しない。

囚人[編集]

アーレン・ビターバック
劇中では最初に処刑される囚人。通称「首長(チーフ)」。ネイティブ・アメリカンだが、キリスト教徒である。酒に酔って喧嘩で人を殺し、死刑を宣告された。ウォシタ・チェロキー評議会長老のビターバックの死刑は「上首尾の死刑」と称され、何の支障もなく執行された処刑の例として挙げられている。
アーサー・フランダース
死刑囚。通称<大統領>。映画版では登場しないが原作では処刑される前に減刑となりEブロックを離れ、電気椅子に座ることはなかった。その後受刑者同士の争いにより殺害される。
エデュアール・ドラクロア
通称「デル」。南部系フランス人の死刑囚(名前の日本語表記が曖昧で、エドワール・デラクロアなどと表記されることもある)。ミスター・ジングルスと名付けたネズミを飼育している。少女を強姦し、死体をアパートの裏で燃やしたところ、建物に燃え移り、中の住人6人が更に死亡。うち2人は子供だったという。心配そうな顔つきの物腰穏やかな小男であり、頭は禿げあがり、長く伸びた髪の先がシャツの後ろ襟をこすっている。看守のパーシーとの相性が非常に悪く、デルの死刑執行の際、パーシーがわざと手順を省いたことにより、処刑が残酷な結果になってしまい、派手に惨死する末路を迎える。
ウィリアム・ウォートン
通称は「ワイルド・ビル」だが本人はこの呼び名を嫌っており、「ビリー・ザ・キッド」を自称している。凶悪な囚人であり、強盗を犯し多数を殺害(そのうち1人は妊婦だった)。少女2人を殺害した真犯人でもある。コーフィの力で錯乱状態に陥ったパーシーによって銃殺される(原作では眠っているときに撃たれ、ほぼ恐怖も苦痛もない死を迎えることになった)。
トゥート=トゥート
模範囚。最も長くコールドマウンテン刑務所に服役しているため、ある程度の自由が認められていて刑務所内での物資調達などを行っている。死刑執行のリハーサルの囚人役などを担当している。

農園[編集]

ケイティ・デタリック / コーラ・デタリック
強姦され殺害された双子の少女たち。ブロンド髪の無垢な子どもで、姉妹仲は非常に良好だったが、その愛を利用されウォートンに殺害される。放置された遺体はコーフィに発見され、治癒を試みられたが手遅れだった。
クラウス・デタリック
綿花農園主で、殺された双子の少女の父親。コーフィを犯人と考え、激しく憎んでいる。憎しみのあまり常に興奮状態にあり、事件の翌年に脳卒中で死亡している。
マージョリー・デタリック
双子の少女の母親。同様にコーフィを憎んでいて、夫と共にコーフィの死刑執行の立会人となる。
ロブ・マッギー
コーフィを逮捕した保安官助手。

その他[編集]

Mr.ジングルス
突然グリーンマイルに現れた利口なネズミ。デルによく懐いている。一時パーシーに踏み潰されたがコーフィに治してもらう。
コーフィの力の影響で長寿を得ることになり、デルの死後はポールによって飼育され、長生きをする。原作では約60年後に死亡した。名付け親はデルであり、原作では当初はポール達に「スチームボート・ウィリー」と呼ばれていた。
エレイン・コネリー
老人ホームで暮らしている、老ポールの友人の女性。
バート・ハマースミス
コーフィの事件を取材したジャーナリスト。映画ではコーフィの弁護人に変更された。コーフィに対してはあくまで法律上の義務で弁護に付いただけで、彼が犯人だと全く疑っていない。黒人に対して独特の考えを持っている。
メリンダ・ムーアズ
コールド・マウンテン刑務所の所長ハルの妻。重い精神疾患を患っていたが、コーフィによって治療を受けて回復する。

作品解説[編集]

形式としては主人公のポール・エッジコムが1992年に老人ホームで友人のエレインに60年以上前の話を聞かせるといった形となっている。

主な舞台は回想の1932年だが、この時代はコールドマウンテンの刑務所において未だに死刑電気椅子が使用されていた時代であり、また恐慌時代で多くの人が就職難に苦しんでいたため、職を失うことを現代よりも恐れているといった設定になっている。事実、コールドマウンテンはノースカロライナ州に属する都市だが、ノースカロライナ州では電気椅子による死刑は廃止されている。

邦訳[編集]

映画[編集]

グリーンマイル
The Green Mile
監督 フランク・ダラボン
脚本 フランク・ダラボン
原作 スティーヴン・キング
製作 フランク・ダラボン
デヴィッド・ヴァルデス
出演者 後述
音楽 トーマス・ニューマン
撮影 デヴィッド・タッターサル
編集 リチャード・フランシス=ブルース
製作会社 キャッスル・ロック・エンターテインメント
ドリームワークス
配給 アメリカ合衆国の旗 ワーナー・ブラザース
世界の旗 ユニバーサル・ピクチャーズ
日本の旗 ギャガ=ヒューマックス
杉原晃史
公開 アメリカ合衆国の旗 1999年12月10日
日本の旗 2000年3月25日
上映時間 188分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $60,000,000[1]
興行収入 $286,801,374[1]
65.0億円[2] 日本の旗
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グリーンマイル』(The Green Mile)は、1999年アメリカ映画ジャンルドラマ

上記の小説を原作とする。トム・ハンクス主演。フランク・ダラボン監督。2000年アカデミー賞では音響・脚本・作品賞、マイケル・クラーク・ダンカンアカデミー助演男優賞にノミネートされた。日本での公開は2000年3月25日

ダラボンは映画化に際し、8週間程度で原作から脚本を執筆している[3]。撮影はカリフォルニア州ウェスト・ハリウッドのワーナー・ハリウッド・スタジオ、テネシー州シェルビービル英語版ノースカロライナ州ブローウィング・ロック英語版で行われた[4]

予告編では、スティーヴン・スピルバーグが「途中で堪えきれずに、4回号泣してしまった」とコメントしていた。

日本では2000年の興行収入ランキング2位になるなど、大ヒット作品となった。

原作との違い[編集]

映画版は時代設定が1999年現在(公開された年)であり、回想の主な舞台は1935年になっている。

また、原作に登場するブラッド、アーサー・フランダースは登場しない。

評価[編集]

Rotten Tomatoesでは132件のレビュー中80%が本作を支持し「新鮮保証」印がつけられ、平均点は6.8/10となった[5]Metacriticでは36名の批評家レビューに基づいて61点となった[6]

ロジャー・イーバートは四つ星満点中三ツ星半を与え、「映画は3時間以上の長いものです。これによって何か月間、何年間もの刑務所の時間を感じることができたことに感謝しています」と批評している[7]

キャスト[編集]

役名 俳優 日本語吹替
ソフト版 フジテレビ
ポール・エッジコム トム・ハンクス 江原正士
ブルータス・“ブルータル”・ハウエル デヴィッド・モース 石塚運昇 森田順平
ディーン・スタントン バリー・ペッパー 堀井真吾 鳥海勝美
ハリー・ターウィルガー ジェフリー・デマン 佐々木敏 池田勝
パーシー・ウェットモア ダグ・ハッチソン 平田広明 山寺宏一
ハル・ムーアズ ジェームズ・クロムウェル 糸博 稲垣隆史
ジョン・コーフィ マイケル・クラーク・ダンカン 大友龍三郎 銀河万丈
ウィリアム・“ワイルド・ビル”・ウォートン サム・ロックウェル 成田剣 堀内賢雄
エデュアール・“デル”・ドラクロア マイケル・ジェッター 牛山茂 麦人
ジャン(ジャニス)・エッジコム ボニー・ハント 唐沢潤 山像かおり
メリンダ・ムーアズ パトリシア・クラークソン 野沢由香里 鈴木弘子
バート・ハマースミス ゲイリー・シニーズ 仲野裕 登場シーンカット
アーレン・ビターバック グラハム・グリーン 渡辺寛二 郷里大輔
トゥート=トゥート ハリー・ディーン・スタントン 後藤敦 斎藤志郎
クラウス・デタリック ウィリアム・サドラー 内田直哉
老人のポール・エッジコム ダブス・グリア 小林恭治 内藤武敏
エレーン・コネリー イヴ・ブレント英語版 斉藤昌 京田尚子
ジャック・ヴァン・ヘイ ビル・マッキニー英語版 高橋翔
ロブ・マッギー保安官助手 Brian Libby
ビル・ダッジ ブレント・ブリスコー 辻つとむ
演出 福永莞爾 小林守夫
翻訳 武満眞樹 松崎広幸
制作 プロセンスタジオ ムービーテレビジョン
プロデューサー 石田雄治
(ポニーキャニオン)
小笠原恵美子
中島良明
(フジテレビ)
初回放送 2002年9月14日
ゴールデンシアター
(21:00-23:54)

舞台[編集]

2017年、日本で上記小説を原作として世界初の舞台化。主演は加藤シゲアキ[8]

公演日程[編集]

キャスト(舞台)[編集]

スタッフ[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 実際には1マイルもなく「遠い道」を意味し、獄舎から電気椅子へとつながる古ぼけた緑色の通路を指している。
  2. ^ John Coffey、つまりJesus Christと同じJ.C.であり、『キリストの磔刑』を表象している。
  3. ^ 触れた相手から病気を吸い取って黒い粒子として吐き出す。触れた相手の心を読み取り、他人にそれを見せることができる。
  4. ^ 電気椅子による処刑では、確実に脳天から電気を通すべく頭と電極の間に濡らしたスポンジを挿むが、この一件においてパーシーはスポンジを濡らさずに挿んだ。

出典[編集]

  1. ^ a b The Green Mile (1999)” (英語). Box Office Mojo. 2010年10月15日閲覧。
  2. ^ 2000年興行収入10億円以上番組 (PDF) - 日本映画製作者連盟 2017年10月30日閲覧。
  3. ^ About the Film”. 2011年11月1日閲覧。
  4. ^ Darabont, Frank (Director) (10 December 1999). The Green Mile (Motion picture). United States: Warner Bros.
  5. ^ The Green Mile”. Rotten Tomatoes. 2012年2月1日閲覧。
  6. ^ The Green Mile”. Metacritic. 2012年2月1日閲覧。
  7. ^ “The Green Mile”. (1999年12月10日). http://www.rogerebert.com/reviews/the-green-mile-1999 
  8. ^ The Globe Tokyo”. www.tglobe.net. 2021年9月17日閲覧。

外部リンク[編集]