キューベルワーゲン
キューベルワーゲン(独:Kübelwagen または Kübelsitzwagen)とは、第二次世界大戦中にドイツで生産された小型軍用車両である。フェルディナント・ポルシェらにより設計された。
構造的には先行してポルシェが設計していたフォルクスワーゲン・タイプ1の軍用車ヴァージョンというべきものであり、不整地走破性を高めるため、軽量・低重心なタイプ1の特長を生かしながら、可能な限り最低地上高を高めるように設計された。
ドイツ語では Wagen は「ヴァーゲン」と読まれるが、本項では日本でのフォルクスワーゲンの前例に倣い「ワーゲン」と表記する。
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概要 [編集]
車体はオープントップ(和製英語:オープンカー)であり、ターポリン(耐水性のキャンバス地)の折り畳み式幌で覆うことができる。座席はバケットシート。
車名の由来 [編集]
すべての座席がベンチシートではなくバケットシートであったため、当初は「バケットシート自動車 (Kübelsitzwagen = Kübel + Sitz + Wagen)」と呼ばれていた。「バケットシート自動車 」の呼称からその後「シート」が略され、スチール製でプレス加工のリブを持つシンプルな外観から、「バケツ自動車 (キューベルワーゲン Kübelwagen = Kübel + Wagen)」と呼ばれるようになった。バケットとバケツは日本語でのカタカナ表記は異なるが、西欧では同じ一つの言葉である。バケットシートが採用されたのは、フォルクスワーゲンの試作中、バケットシートを載せたシャシだけの車両で、フェルディナント・ポルシェの息子であるフェリー・ポルシェが山道などでこれを運転し、操縦時の体の保持に優れている事実を経験した事による。
現在「キューベルワーゲン」といえばこの車を指すものと認識されているが、当時はバケットシート、折り畳み式の幌、初期は取り外し可能なサイドカーテン、後に鋼製ドアを持つこの種の軍用車は車種に関わらず全て「キューベルジッツァ」、「キューベルワーゲン」又は単に「キューベル」と呼ばれた[1]。武装SSの将校であるクルト・マイヤーは、著書「擲弾兵」の中でTyp 82を一貫して「フォルクスワーゲン」と表記している。
詳細 [編集]
1938年、ポルシェ設計事務所は、陸軍兵器局の要請に応じてフォルクスワーゲン・タイプ1を軍用車に応用する研究を開始した。陸軍兵器局の設計要件は、下記の通りである。
- オープントップであること
- 総重量950kg、うち車輌自重550kg、積載量(乗員3名と貨物)400kg
- 生産性が高いこと
- 大量生産が可能であること
- 軍用車輌だが、民間用にも簡単に転用できること
要件に沿った最初のプロトタイプは、1939年の終わり頃に完成した。角形車体の発展型試作品はTyp 62(62型)と名付けられた。数十輌が試作されたが、うち少なくとも18輌はリア・アクスルのハブリダクションギアがない形で作られた。試運転が繰り返され、地面への追従性改善とトルクの増加などの改良が施された。
Typ 62の評価試験の結果を受けて改良型のTyp 82(82型)が採用された。制式名称は Leichter geländegängiger Personenkraftwagen K1(4x2) Volkswagen Typ 82、大体の意味は「不整地走行形軽乗用自動車 K1 (4輪、2輪駆動) フォルクスワーゲン 82式」。 量産は1940年からKdF市(「歓喜力行団車市」の意。現・ヴォルフスブルク市)のフォルクスワーゲン製造会社で開始され、10万台の製造が指示された。また、他の用途に発展させるための基礎として、Typ 87(87型)の試作も開始された。
第二次世界大戦が始まり、軍用車輌の生産が優先された。キューベルワーゲンだけでなく、セダン・ボディの車も多くが軍用に回され、キューベルワーゲンのシャーシにセダン・ボディを載せたTyp 82Eや四輪駆動のTyp 87も製造された。Typ 87は戦後に英軍管理下で2台が組み立てられ、Typ 82EはTyp 51という名称で暫く生産が続けられた。
キューベルワーゲンは戦場では兵士に歓迎され、軍馬代わりに使われた。軽量であるため、排気量985cc、出力23.5馬力の小型エンジンでもこの車輌を駆動するには十分で、最高速度は83km/hに達した。リアアクスルのハブ内に減速ギア(ハブリダクションギア)を装着し、駆動力を高めると共に、車軸取り付け位置を高くして、床下の最低地上高を高めているのが大きな特徴である。
四輪駆動でないにも拘らず、床の高さとリアエンジンならではの駆動輪荷重の大きさから不整地走破性も良好で、当時多数が使用されていたサイドカー付き自動二輪よりも実用性が高かった。ただし、牽引力は二輪駆動なりで、小型の対戦車砲でさえも牽引することは不可能であったため、これを改善するために牽引能力を高めた試作車(Typ 276)がテストされたが、これは制動力と加速力に問題があり、最高速度も65 km/hに留まった[2]。派生型であるシュビムワーゲンには水際から上陸するために必要な四輪駆動機構が追加されたが、本車は最後まで後輪のみの二輪駆動であった。
エンジンは空冷のため冷却水やラジエターが不要で、厳冬時や厳寒地においても取り扱いの面倒な不凍液を必要としなかった。この車輌は寒冷地でも酷暑でも高い耐久性を発揮し、アフリカ戦線でもロシア戦線でも同じように扱うことができた。前線への配備は北アフリカ戦線の方が早く、1942年からは砂地での走破性能を高めるための、幅広のバルーンタイヤも生産された。東部戦線のバルバロッサ作戦開始当時には姿が見られないが、翌年のブラウ作戦時には多数が配備されている。
第二次世界大戦中を通して派生形の要求が増加した。1941年には、四輪駆動ヴァージョンTyp 87が、フォルクスワーゲン製造会社ではなくポルシェ本社のあるシュトゥットガルト市で6輌のみ製造された。特色すべき点は、フォルクスワーゲン のクランクシャフトを使用したポルシェ製1,086ccエンジンを搭載していたことで、この排気量拡大版エンジンは後にポルシェ・356に採用されて結実する。
この四輪駆動プロジェクトは、後に水陸両用車のTyp 128 / Typ 166シュビムワーゲンに移行した。このために製造された1,131cc・24.5馬力のエンジンは、キューベルワーゲンにも搭載された。
Volkswagen Typ 82の生産が軌道に乗ると、いくつかの派生形が生産された。個別のモデルはすべてTyp 82と共通の車台を使っていたため、生産性が高かった。代表的な派生形は、Typ 92 荷台付貨物車(Pritschenwagen)、Typ 174 突撃ボート(Sturmboot mit VW-Motor)、Typ 287 指揮車(Kommandowagen)である。結果的に1940年から1945年にかけて、およそ52,000台のキューベルワーゲンが製造された。
戦後ドイツの類似車両 [編集]
1950年代に入ってから、アウトウニオン社のDKWがドイツ連邦軍のためにDKW・ムンガ(DKW Munga)を製造した。また、1970年代にはフォルクスワーゲン社が後輪駆動のままのビートルのシャシを使用して、タイプ181を製造した。これは市販も行われ、北アメリカで販売されたほか、フォルクスワーゲン サファリとしてメキシコで販売された。
同じくオープントップである旧東ドイツ軍のトラバント軍用ヴァージョンも、キューベルワーゲンの影響を受けている。
登場作品 [編集]
- グランツーリスモ5[3] - 自動車ディーラーで購入可能(Typ 82を収録)。同じフォルクスワーゲンの軍用車としてシュビムワーゲン(Typ 166)も収録される。
- コール オブ デューティ ワールド・アット・ウォー - ナチス幹部の送迎用として登場。プレイヤーは乗車できない。
- The Saboteur - ナチス兵士が使用。プレイヤーも運転可能。偵察用とテクニカル仕様がある。
- メダル・オブ・オナー 史上最大の作戦 - 一部ミッションで主人公がエンジンに細工をする。
- ストライクウィッチーズ - 第8話でゲルトルートとエーリカがゲルトルートの妹が入院している病院へ向かう際に搭乗。車体色はジャーマングレイ。
- ソ・ラ・ノ・ヲ・ト - 第1121小隊に二台配備。全編を通じて主人公達の足として使われている。塗装はダークイエロー。
関連項目 [編集]
- フォルクスワーゲン
- フェルディナント・ポルシェ
- シュビムワーゲン
- 制式番号
- 同時期の小型汎用自動車
出典 [編集]
- ^ バート・H・ヴァンダビーン 『第二次世界大戦で活躍した 世界の軍用自動車』 橋本茂春訳 八重洲出版 1973年(昭和48年)1月20日発刊 ISBN 0631-63013-8501 p.262
- ^ J・スロニガー 『ワーゲン・ストーリー』 高斎正訳 グランプリ出版 昭和59年5月20日発刊 ISBN 4-906189-24-5 p.68
- ^ 『グランツーリスモ5』最新情報 東京ゲームショウ2010版(4/5)
文献 [編集]
- Hans Georg Mayer-Stein :Volkswagen of the Wehrmacht, Schiffer Military History, 1994, ISBN 0-88740-684-X、戦場のキューベルワーゲン写真集
- 山本秀行『ナチズムの記憶』山川出版社、1995年、ISBN 4-634-48070-0、国民車に対する国民の夢
- Werner Oswald : Kraftfahrzeuge und Panzer der Reichswehr, Wehrmacht und Bundeswehr, Motorbuch Verlag, 1995, ISBN 3-87943-850-1、1918年~1945年のドイツの軍用車両および戦闘車両の全カタログ
- J.Piekalkiewicz : Der VW Kübelwagen Typ82 im Zweiten Weltkrieg, Motorbuch Verlag, 1996, ISBN 3-87943-468-9、第二次大戦中のキューベルワーゲンの活躍
- 影山夙『四輪駆動車』山海堂、2000年、ISBN 4-381-07743-1
外部リンク [編集]
- Volkswagen Kübelwagen Technical Manual TM E9-803, US War Department, June 1944
- http://www.waffenhq.de/panzer/kuebelwagen.html (ドイツ語)
- http://www.Kuebelforum.de (ドイツ語)
- http://www.intermeccanica.co.jp/im_index.html (復刻版紹介のページ)