正法眼蔵
正法眼蔵(しょうぼうげんぞう、正法眼藏)は、主に禅僧である道元が執筆した仏教思想書を指す。正法眼蔵という言葉は、本来は仏法の端的な肝心要の事柄を意味する。禅家はこれをもって教外別伝の心印となす[1]。
著者によって大別すると、次の3種類に分かれる。
- 『正法眼蔵』 - 3巻。大慧宗杲著
- (仮字)『正法眼蔵』(仮名記述) - 75巻+12巻+拾遺4巻(現在の研究結果による)。道元著
- (真字)『正法眼蔵』(漢文記述) - 300則の公案集。道元選(ただし道元による若干の変更あり)
ここでは、2番目の道元著(仮字)『正法眼蔵』について述べる。
仮名版と漢字版の正法眼蔵
[編集]日本曹洞宗の開祖である道元が、1231年から示寂する1253年まで生涯をかけて著した87巻(=75巻+12巻)に及ぶ大著であり、日本曹洞禅思想の神髄が説かれている。道元は、中国曹洞宗の如浄の法を継ぎ、さらに道元独自の思想深化発展がなされている。
真理を正しく伝えたいという考えから、日本語かつ仮名で著述している。当時(鎌倉時代)の仏教者の主著は、全て漢文で書かれていた(法然、親鸞『教行信証』、栄西、日蓮、…)。古い巻の記述を書き直し、新しい巻を追加して全部で100巻にまで拡充するつもりであったが、87巻で病のため完成できなかった。その後、拾遺として4巻が発見され、追加されている。
(仮字)『正法眼蔵』は、道元の禅思想を表現するために、語録から特に公案で使われてきた重要な問答を取り出し、それに説明注釈する形で教えを述べている。その種本が(真字)『正法眼蔵』であり、10種類ぐらいの禅語録から、道元がみて重要な300則の禅問答を抜き出している。ただし、そのまま写したのではなく(抜き出した段階で既に)道元の思想によって若干の変更が加えられていることが、研究の結果判かっている。
真筆と諸版
[編集]道元真筆とされるものは、正法眼蔵嗣書(しょうぼうげんぞうししょ、伊予西条藩松平家旧蔵→里見忠三郎旧蔵、現在は駒澤大学禅文化歴史博物館所蔵)[2][3]、正法眼蔵「山水経」(愛知県全久院所蔵)など[4]10数種が残っている。
また、道元の死後直後から、後継者らにより頻繁に書写され、各地に分散していく。現在では以下6系統が確認されている。
- 75巻本
- 12巻本(百八法明門がある)
- 60巻本
- 卍山本
- 80巻本
- 95巻本
最後に開版(出版)された95巻本には、『正法眼蔵』とは呼べない文章も混入している[5]。
大久保道舟など識者の精緻な研究結果から、旧稿75巻+新稿12巻に整理され、学会で合意されている[6]。
修證義
[編集]特に在家への布教を念頭において、正法眼蔵から重要な点を抜粋したものに修証義(しゅしょうぎ)がある。
有名な言葉
[編集]而今の山水は、古仏の道現成なり(目の前の自然は、古来伝えられてきた仏の道が成就したもの、そのものである) — 山水経の冒頭
宗門の正伝にいわく、この単伝正直の仏法は、最上のなかに最上なり。参見知識のはじめより、さらに焼香・礼拝・念仏・修懺・看経をもちいず、ただし打坐して身心脱落することをえよ(この仏法では最初から焼香、礼拝、念仏、懺悔、読経もせず、ひたすら座禅して身も心も消せるようにせよ) — 弁道話より
これまでの刊行書籍
[編集]原本・注釈
[編集]- 『本山版 縮刷 正法眼蔵 全』鴻盟社、1952年。
- 『本山版 訂補 正法眼藏』河村孝道・角田泰隆 編、大法輪閣、2019年8月。ISBN 978-4-80468-216-7
- 大久保道舟編『道元禅師全集(上)』、筑摩書房、1969年(旧稿75巻、新稿12巻、拾遺6巻)。臨川書店(復刻版、1989年)
- 河村孝道校註[7]『道元禅師全集 第1・2巻』春秋社、1991-93年。全7巻
- 水野弥穂子校注『正法眼蔵』全4巻、岩波文庫[8]、1990-93年、ワイド版1993年。
- 寺田透、水野弥穂子校注「正法眼蔵」上下、岩波書店「日本思想大系12・13 道元」、1970-72年(辦道話、正法眼蔵75巻本+12巻本)
- 水野弥穂子訳注『道元禅師全集 原文対照現代語訳 第1-7巻』、春秋社、2002-09年(正法眼蔵75巻本)
- 「全集 第8・9巻」は正法眼蔵12巻本、石井修道訳注、2011-12年
現代語訳
[編集]- 増谷文雄訳注『道元 正法眼蔵 全訳注』全8巻、講談社学術文庫、2004-05年。元版は角川書店 全8巻
- 玉城康四郎訳注『正法眼蔵 現代語訳』全6巻、大蔵出版、1993年。
- 石井恭二訳著『道元 正法眼蔵 現代文訳』河出書房新社 全4巻・別巻1、1996-98年。
- 新装版 全6巻、1999-2000年/河出文庫 全5巻、2004年
- 森本和夫訳著『正法眼蔵読解』全10巻、ちくま学芸文庫+筑摩書房、2003-05年。
- 西嶋和夫訳『現代語訳 正法眼蔵』全12巻、金沢文庫、1970-79年。
- 高橋賢陳訳『全巻現代訳 正法眼蔵』全2巻、理想社、1971年。
- ひろさちや著『すらすら読める正法眼蔵』講談社、2007年(抄訳版)。
- 安良岡康作訳注『正法眼蔵・行持』上下、講談社学術文庫、2002年(抜粋訳)。
- 木村清孝著『『正法眼蔵』全巻解読』佼成出版社、2015年(抜粋訳)。
- 谷口清超著『正法眼蔵を読む』全4巻、日本教文社、1985年11月。
巻名
[編集]75巻本
[編集]- 現成公案
- 摩訶般若波羅蜜
- 佛性
- 身心學道
- 即心是佛
- 行佛威儀
- 一顆明珠
- 心不可得
- 古佛心
- 大悟
- 坐禪儀
- 坐禪箴
- 海印三昧
- 空華
- 光明
- 行持
- 恁麼
- 觀音
- 古鏡
- 有時
- 授記
- 全機
- 都機
- 畫餅
- 谿聲山色
- 佛向上事
- 夢中説夢
- 禮拜得髓
- 山水經
- 看經
- 諸惡莫作
- 傳衣
- 道得
- 佛教
- 神通
- 阿羅漢
- 春秋
- 葛藤
- 嗣書
- 柏樹子
- 三界唯心
- 説心説性
- 諸法實相
- 佛道
- 密語
- 無情説法
- 佛經
- 法性
- 陀羅尼
- 洗面
- 面授
- 佛祖
- 梅花
- 洗淨
- 十方
- 見佛
- 遍参
- 眼睛
- 家常
- 三十七品菩提分法
- 龍吟
- 祖師西來意
- 發菩提心
- 優曇華
- 如來全身
- 三昧王三昧
- 轉法輪
- 大修行
- 自證三昧
- 虚空
- 鉢盂
- 安居
- 他心通
- 王索仙陀婆
- 出家
12巻本
[編集]- 出家功徳
- 受戒
- 袈裟功徳
- 發菩提心
- 供養諸佛
- 歸依佛法僧寶
- 深信因果
- 三時業
- 四馬
- 四禪比丘
- 一百八法明門
- 八大人覺
別巻
[編集]- 辨道話(弁道話、別本あり)
- 四攝法 (菩提薩埵四攝法)
- 法華轉法華
- 唯佛與佛
- 生死
- 道心
その他
[編集]- 心不可得
- 重雲堂式
- 示庫院文
脚注
[編集]- ^ 「織田佛教大辞典」p790
- ^ 駒澤大学禅文化歴史博物館所蔵「道元禅師真筆「正法眼蔵嗣書」2008年
- ^ 駒澤大学禅文化歴史博物館 平成21年度企画展『正法眼蔵』出版の足跡リーフレット
- ^ 鏡島元隆「正法眼蔵の成立的研究について:古田紹欽著『正法眼蔵の研究』刊行にちなんで」『駒澤大學佛教學部研究紀要』31巻、1973年
- ^ 旧岩波文庫全3巻、ただしこの版は、語句の誤りが多いので、岩波書店では絶版になった。復刻版が一穂社にある。
- ^ 水野弥穂子校注、岩波文庫版での解説。
- ^ 河村孝道著「正法眼蔵」‐『講座道元 第3巻 道元の著作』、73頁、春秋社、1980年11月 も参照。
- ^ 旧岩波文庫版は衛藤即応校註 全3巻
関連項目
[編集]- 『正法眼蔵那一宝』 - 父幼老卵が撰述した『正法眼蔵』の註釈書。
- 『正法眼蔵随聞記』 - 道元の弟子の懐弉がまとめた道元の説法集。
- 全久院 - 道元直筆の山水経(75巻本の29)を所蔵。国の重要文化財。
外部リンク
[編集]- 正法眼藏のテキスト
- 正法眼蔵を書き換える意図=十二巻「正法眼蔵」
- 河村孝道・塚田 博「駒澤大学禅文化歴史博物館所蔵 道元禅師真筆『正法眼蔵嗣書』」駒澤大学禅文化歴史博物館、2008年
- 正法眼蔵の現代語訳
- 正法眼蔵
- インターネットアーカイブの正法眼蔵の現代語訳
- インターネットアーカイブの正法眼蔵
- 正法眼蔵の現代語訳(字下げルビ).txt (パブリック ドメイン)
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