彫刻
彫刻(ちょうこく)とは、木、石、土、金属などを彫り刻んで、物の像を立体的に表すこと。または、それらの表面に書画や図版などを掘り込むこと。あるいは美術的な鑑賞を目的として、様々な素材を用いて立体的に制作された芸術作品のこと。また、その表現領域を指す。以下では西洋美術の概念における、芸術作品としての彫刻(スカルプチャー、英語: sculpture)について述べる。
概要
「美術史」を参照
硬い素材を彫り刻む技法も彫刻(カーヴィング、carving)と呼び、それに対して、可塑性素材を盛りつけて形を作る技法を彫塑(モデリング、modeling)という。彫塑で作られた作品を特に塑像と呼び分けることもある。
使われる素材は、石、木、土、フェルト、石膏、紙、繊維、金属(鉄、銅など)、樹脂、ガラス、蝋など、多種にわたり、また、複数の素材を組み合わせる作品も多い。
彫刻の対象(モチーフ)は元来、人間や身近な動物など具体物であった(具象彫刻)が、20世紀になると、心象を表したもの(抽象彫刻)も多く制作されるようになった。
現在では、表現が多様化し、従来の彫刻の概念では収まらないケースもあり、それらを「立体」、「立体アート」と呼ぶこともあるほか、表現が設置空間全体へ拡散したものは、特に「空間表現」や「インスタレーション」と呼び分けられる。
主な西洋の彫刻
古代ギリシャ
- 幾何学文様期
- カルディツァの戦士(Karditsa warrior)
- マンティクロスのアポロン(Mantiklos "Apollo" )
- アルカイック期
- 古典期
- ヘレニズム期
- アレクサンドロス大王の胸像(リュシッポス)
- ファルネーゼのヘラクレス(リュシッポス)
- ペルガモンのゼウス大祭壇装飾彫刻
- ミロのヴィーナス
- サモトラケのニケ
- ラオコーン群像
- 瀕死のガリア人
- ロ・スピナーリオ(棘を抜く少年)
- クニドスのデメテル
- ペーザロのイドリーノ
- バルベリーニのファウヌス
- カピトリーノのウェヌス
- ウェヌス・カッリピュゴス(美しい尻のウェヌス)
- 眠るアリアドネ
- 眠るヘルマプロディトゥス(ボルゲーゼのヘルマプロディトス)
- ベルヴェデーレのトルソー(アテナイのアポロニオス)
- アルテミシオンの騎手
- マザラ・デル・ヴァッロの踊るサテュロス
古代イベリア
古代エトルリア
古代ローマ
- カピトリーノのブルトゥス(ルキウス・ユニウス・ブルトゥスの胸像)
- プリマポルタのアウグストゥス像
- ラビカナ街道のアウグストゥス像
- アラ・パキス(アウグストゥスの平和の祭壇)
- マルクス・ウィプサニウス・アグリッパ像
- トラヤヌスの記念柱浮彫
- アンティノウスの肖像
- マルクス・アウレリウス帝騎馬像
- テトラルキア記念像
- コンスタンティヌスの凱旋門装飾彫刻
- ローマ・ドミティッラのカタコンベの「善き羊飼い」
中世ヨーロッパ
- サンタ・サビーナ聖堂木製扉十字架磔刑像
- 大英博物館所蔵・象牙製二連板浮彫「大天使ミカエルの像」
- チヴィダーレ・デル・フリウーリ博物館所蔵・ランゴバルド王ラトキスの祭壇
- カール大帝騎馬像
- ケルン大聖堂ゲロ大司教の十字架磔刑像
- ヒルデスハイム大聖堂のベルンヴァルトの扉
- サン・ジュニ・デ・フォンテーヌ修道院楣石(リンテル)装飾彫刻
- イアーズリーの聖マグダラのマリア教会の洗礼盤
- クラジョのキリスト(十字架から降ろされたキリスト)
- ラヴォデューのキリスト
- ブラウンシュヴァイクの獅子像
- バンベルク大聖堂所蔵・「バンベルクの騎士」
- エッケハルトとウタの肖像
- ピサ大聖堂洗礼堂説教壇(ニコラ・ピサーノ)
- サン・ピエトロ大聖堂の聖ペテロ像(アルノルフォ・ディ・カンビオ)
- シャンモル修道院内のモーセの井戸(クラウス・スリューテル)
- ブルゴーニュ公の家令フィリップ・ポーの墓
- ニュルンベルク聖ロレンツ聖堂内のアダム・クラフト自刻像
イタリアルネサンス
- イサクの犠牲(ロレンツォ・ギベルティ)
- サン・ジョヴァンニ洗礼堂東門「天国の門」(ロレンツォ・ギベルティ)
- イサクの犠牲(フィリッポ・ブルネレスキ)
- ダヴィデ像(ドナテッロ)
- 傭兵隊長ガッタメラータ像(ドナテッロ)
- ガイアの泉(ヤコポ・デッラ・クエルチャ)
- フィレンツェ書記官長カルロ・マルスッピーニの墓碑(デジデーリオ・ダ・セッティニャーノ)
- ガレアッツォ・マリーア・スフォルツァ像(ジョヴァンニ・アントニオ・アマデーオ)
- カントリア(ルカ・デッラ・ロッビア)
- ダヴィデ像(ヴェロッキオ)
- キリストと聖トマス(ヴェロッキオ)
- 傭兵隊長バルトロメーオ・コッレオーニ像(ヴェロッキオ)
- ダヴィデ像(ミケランジェロ)
- サン・ピエトロのピエタ(ミケランジェロ)
- モーセ像(ミケランジェロ)
- メディチ家礼拝堂装飾彫刻「夜」「昼」「夕暮れ」「曙」(ミケランジェロ)
- ブリュージュの聖母子(ミケランジェロ)
- ロンダニーニのピエタ(ミケランジェロ)
北方ルネサンス
- マグダラのマリア(グレゴール・エアハルト)
- ローテンブルク聖ヤコブ教会の「聖血の祭壇」(ティルマン・リーメンシュナイダー)
マニエリスム
- ヘラクレスとカクス(バルトロメオ・バンディネッリ)
- ネプチューンの噴水(バルトロメオ・アンマナーティ)
- メドゥーサの首を持つペルセウス(チェリーニ)
- サリエラ(チェリーニ)
- サビニの女たちの略奪(ジャンボローニャ)
- メルクリウス(ジャンボローニャ)
- ボマルツォの怪物庭園(ボスコ・サクロ)の巨像(ピッロ・リゴーリオ)
- ディアナの泉(ジャン・グージョン)
- サン・ミエルのサン・エティエンヌ教会「キリストへの哀悼」(リジェ・リシエ)
- バー・ル・デュックのサン・エティエンヌ教会「ルネ・ド・シャロンのトランジ」(リジェ・リシエ)
- 神聖ローマ皇帝ルドルフ2世胸像(アドリアン・デ・フリース)
- メルクリウスとプシュケー(アドリアン・デ・フリース)
バロックと17世紀
- 聖セシリアの殉教(ステファノ・マデルノ)
- 教皇インノケンティウス10世の肖像(アレッサンドロ・アルガルディ)
- ネプチューンとトリトン(ベルニーニ)
- ダヴィデ像 (ベルニーニ)
- 聖テレジアの法悦(ベルニーニ)
- アポロンとダフネ (ベルニーニ)
- プロセルピナの略奪(ベルニーニ)
- ナヴォーナ広場の四大河の噴水(ベルニーニ)
- 福者ルドヴィカ・アルベルトーニ(ベルニーニ)
- フランス国王ルイ14世像(アントワーヌ・コワズヴォ)
- ペルセウスとアンドロメダ(ピエール・ピュジェ)
ロココと18世紀
- ロール修道院聖母被昇天教会(アザム教会)装飾(エギド・クィリン・アザム)
- 偽りの網からの解放(フランチェスコ・クイローロ)
- 謙遜(彫刻)(アントニオ・コッラディーニ)
- ヴェールに包まれたキリスト像(ジュゼッペ・サンマルティーノ)
- トレヴィの泉(ニコラ・サルヴィピエトロ・ブラッチ)
- 縛られたプロメテウス(ニコラ・セバスティアン・アダム)
- アポロンとパルナッソス山のムーサイ(ヨハン・ヨアキム・ケンドラー)
- ロシア皇帝ピョートル1世像(青銅の騎士)(エティエンヌ・モーリス・ファルコネ)
- 元帥モーリス・ド・サックスの墓(ジャン・バティスト・ピガール)
- あくびをする男(フランツ・クサファー・メッサーシュミット)
- ヴォルテールの胸像(ジャン=アントワーヌ・ウードン)
- モリエールの胸像(ジャン=アントワーヌ・ウードン)
近代彫刻と19世紀
- 新古典主義
- アモールとプシュケー(アントニオ・カノーヴァ)
- ガニュメデスとユピテルの鷲(ベルテル・トルヴァルセン)
- ブランデンブルク門上のクアドリガ(四頭仕立て馬車)(ヨハン・ゴットフリート・シャドウ)
- ロマン主義・折衷主義
- パリ・エトワール凱旋門装飾「義勇兵の出発」(フランソワ・リュード)
- 不死性に目覚めるナポレオン(フランソワ・リュード)
- パリ・オペラ座装飾「ダンス」(ジャン=バティスト・カルポー)
- 地球を支える四つの世界(ジャン=バティスト・カルポー)
- オフィーリア(アントワーヌ=オーギュスタン・プレオー)
- 蛇を踏みつぶすライオン(アントワーヌ=ルイ・バリー)
- 写実主義・自然主義
- ラタポワール(オノレ・ドーミエ)
- 労働記念碑(コンスタンタン・ムーニエ)
- 偉大なる農民(エメ・ジュール・ダルー)
- 印象主義
- 14歳の小さな踊子(エドガー・ドガ)
- 勝利のヴィーナス(ピエール=オーギュスト・ルノワール)
- ポスト印象主義
- 神秘的であれ(ポール・ゴーギャン)
- 存在、誕生、愛、死(ジョルジュ・ラコンブ)
- 象徴主義
- アマゾンの戦い(フランツ・フォン・シュトゥック)
- ベートーヴェン像(マックス・クリンガー)
- ひざまずく青年の泉(ジョルジュ・ミンヌ)
- 未来あるいは若きイギリス婦人(フェルナン・クノップフ)
- ロダンとその周辺
- 青銅時代(ロダン)
- 考える人/地獄の門(ロダン)
- 接吻(ロダン)
- カレーの市民(ロダン)
- バルザック像(ロダン)
- 分別盛り(カミーユ・クローデル)
- シャクンタラー(カミーユ・クローデル)
- 弓を引くヘラクレス(アントワーヌ・ブールデル)
- ペネロペ(アントワーヌ・ブールデル)
- 地中海(アリスティド・マイヨール)
- イル・ド・フランス(アリスティド・マイヨール)
- クラ・クラ(シャルル・デスピオ)
- アエタス・アウレア(黄金時代)(メダルト・ロッソ)
- 白熊(フランソワ・ポンポン)
- その他
現代彫刻と20世紀
- フォーヴィスム
- ドイツ表現主義
- 復讐者(エルンスト・バルラッハ)
- マクデブルク戦没者記念碑(エルンスト・バルラッハ)
- ギュストロウ教会の「漂う天使」(エルンスト・バルラッハ)
- キリスト磔刑(ルドヴィヒ・ギーズ)
- 新しき人間(オットー・フロイントリッヒ)
- 崩れ落ちる男(ヴィルヘルム・レームブルック)
- 両親(ケーテ・コルヴィッツ)
- キュビスム
- 女性の頭部(フェルナンド・オリビエ)(パブロ・ピカソ)
- ゴンドリエール(ゴンドラを漕ぐ人)(アレクサンダー・アーキペンコ)
- 破壊された都市(オシップ・ザッキン)
- ギターを持って座る男(ジャック・リプシッツ)
- 男性の頭部(ヨセフ・シアケー)
- オケアニデス(アンリ・ローランス)
- 天使(フリオ・ゴンサレス)
- 馬(レイモン・デュシャン=ヴィヨン)
- エコール・ド・パリ
- 未来派
- 空間における連続性の唯一の形態(ウンベルト・ボッチョーニ)
- 空間における壜の展開(ウンベルト・ボッチョーニ)
- ダダイスム
- 卵の板(The egg board)(ジャン・アルプ)
- 偶然の法則による星座(ジャン・アルプ)
- ダダの頭部(Tête Dada)(ゾフィー・トイバー=アルプ)
- 機械的な頭部(ラウル・ハウスマン)
- メルツバウ(クルト・シュヴィッタース)
- 贈り物(彫刻)(マン・レイ)
- 破壊されるオブジェ(マン・レイ)
- イジドール・デュカスの謎(マン・レイ)
- 自転車の車輪(マルセル・デュシャン)
- ボトルラック(壜乾燥機)(マルセル・デュシャン)
- 泉(マルセル・デュシャン)
- シュルレアリスム
- ヘクトルとアンドロマケ(ジョルジョ・デ・キリコ)
- 王妃とチェスをする王(マックス・エルンスト)
- 鳥頭(マックス・エルンスト)
- 夜の鳥(ジョアン・ミロ)
- ドナ・イ・オセル(女性と鳥)(ジョアン・ミロ)
- 懐古的な女性の胸像(サルバドール・ダリ)
- 雨降りタクシー(サルバドール・ダリ)
- 宇宙象(サルバドール・ダリ)
- ニュートン礼賛(サルバドール・ダリ)
- 球体関節人形(ハンス・ベルメール)
- 毛皮の昼食(メレット・オッペンハイム)
- 吊り下げられた球(アルベルト・ジャコメッティ)
- 午前4時の宮殿(アルベルト・ジャコメッティ)
- 喉を切られた女(アルベルト・ジャコメッティ)
- テーブル(彫刻)(アルベルト・ジャコメッティ)
- 戦前の抽象彫刻
- 抽象彫刻の始まり
- ロシア構成主義
- 第三インターナショナル記念塔(タトリンの塔)(ウラディミール・タトリン)
- コーナーレリーフ(ウラディミール・タトリン)
- 精神の解放を象徴するモニュメント模型(アントワーヌ・ペヴスナー)
- 頭部 No. 2(ナウム・ガボ)
- 吊るされた空間構成(アレクサンドル・ロトチェンコ)
- バウハウス
- 光・空間・変調器(モホリ=ナジ・ラースロー)
- 抽象的人物像(オスカー・シュレンマー)
- 新造形主義/デ・ステイル
- 立体の均衡(ジョルジュ・ヴァントンゲルロー)
- 1930年代から1940年代の具象彫刻
- ソ連の社会主義レアリスム
- ナチス・ドイツの彫刻
- ベルリン・オリンピック会場彫刻「休息する運動選手」(ゲオルク・コルベ)
- アウトバーン工事記念碑(ヨーゼフ・トーラク)
- 党(Die Partei)(アルノ・ブレーカー)
- アメリカのパブリックアート
- ラシュモア山の大統領群像(ガットスン・ボーグラム)
- 戦後の彫刻
- 鼻(アルベルト・ジャコメッティ)
- 指さす男(アルベルト・ジャコメッティ)
- 大きく細い頭(アルベルト・ジャコメッティ)
- 歩く男 Ⅰ(アルベルト・ジャコメッティ)
- 大きく悲劇的な頭(ジャン・フォートリエ)
- クーロス(イサム・ノグチ)
東洋の彫刻
「東洋の美術史」を参照
参考文献
- 世界美術大事典(小学館、1989年):特に第3巻「彫刻」の部分
- 日本美術史事典(平凡社、1987年):特に「石仏」「彫金」「木彫」の各項目
- (注)この文献に「彫刻」の項目は存在しない。
- 日本近現代美術史事典(東京書籍、2007年)特に用語編および第6章・第7章
- カラー版20世紀の美術(美術出版社、2000年)