シャクンタラー

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ドゥフシャンタ王を見るために振り向くシャクンタラー
ドゥフシャンタ王とシャクンタラー

シャクンタラーशकुन्‍तला, Śakuntalā)は、 インド叙事詩マハーバーラタ』に登場する女性[1]。 天女(アプサラス)のメーナカーと、クシャトリヤ出身の大聖ヴィシュヴァーミトラとの間に生まれたが、メーナカーは幼いシャクンタラーを川岸に捨て天界に帰ってしまった。捨てられた幼児を鳥たちが囲って守っていたところにカンヴァ仙が来て、彼女をつれ帰り養女とした。そして、鳥(シャクンタ)に守られて(ラーヤテー)いたので、シャクンタラーと名付けられた。

グプタ朝320年-550年)時代の詩人カーリダーサは、『マハーバーラタ』の挿話を7の戯曲として改作した『アビジュニャーナ=シャークンタラ』(अभिज्ञानशाकुन्तल Abhijñānaśākuntala 「指輪によって思い出されたシャクンタラー」(辻直四郎訳による、邦題は『シャクンタラー』[2]、改訳版は『シャクンタラー姫』[3])のヒロイン。 である。

カーリダーサの物語では、カンヴァ仙の養女シャクンタラーと王ドゥフシャンタ英語版ヒンディー語: दुष्यन्त)との数奇な恋物語を描く。公用語とされはじめた時代のサンスクリット語で書かれており、サンスクリット語文学の代表作である。ヨーロッパに広く知られるようになったのは1789年、ウィリアム・ジョーンズの英訳がきっかけである。2年後にその独訳が出版されると、これが大変な反響を呼び、ゲーテにも影響を与えた。

あらすじ[編集]

マハーバーラタ[編集]

ある時、パウラヴァ家(プール族)のドゥフシャンタ王は、森で狩りに熱中しているうちに、カンヴァ仙の庵に迷い込んだ。王は部下たちを残して一人で庵を訪ねたところ、仙者は不在だったが庵からシュリーのように美しい娘が現れた。王は彼女に尋ねて言った。「あなたは誰の娘なのか。私の心は奪われてしまった。あなたのことを知りたく思う。」 シャクンタラーが自己の出生の秘密を語ると、ドゥフシャンタ王は彼女がクシャトリヤ(実父がクシャトリヤ)であることを知って、ガンダルヴァ婚(結婚の儀式を経ないで性的関係によって成立する結婚)の作法によって求婚した。シャクンタラーが、生れた子を太子にするという条件を出すと、王は承諾して、二人は結ばれた。 その後、王は「あなたのために軍隊を派遣して、あなたを王宮に連れて行こう。」と約束して王都に帰った。

王が旅立ってほどなくして、カンヴァ仙が庵に戻った。シャクンタラーは恥ずかしくて養父に近寄れなかったが、仙者は神通力によって二人が結ばれたことを知ると、喜んで言った。「お前は今日、私に無断で男と交わったが、それは法(ダルマ)に背くものではない。クシャトリヤにとってガンダルヴァ婚は最上といわれている。ドゥフシャンタ王は立派な王だ。お前には世にも優れた息子が生まれ、その子は全世界を征服するであろう。」 そしてシャクンタラーの願いを受け、パウラヴァ家が決して衰えることのないようにと恩寵を授けた。 やがて彼女は息子を生み、その子は6歳になると獅子や水牛や象と遊び戯れたので、隠者たちは彼をサルヴァダマナ(一切を服従させるもの)と呼んだ。 カンヴァ仙は、その子の超人的な行為を見て「彼が太子となる時が来た。」と告げ、弟子たちにシャクンタラーとその息子を都に送り届けるよう命じた。

シャクンタラーは王に挨拶をして言った。「これはあなたの息子です。彼を太子の地位につけてください。約束を果たしてください。」 王はすぐに思い出したが、わざと「余は覚えていない。邪悪な女よ。お前と関係を持った覚えはない。だが、去ろうと留まろうと好きにするが良い。」と言った。 これを聞いたシャクンタラーは、恥ずかしくてたまらなくなり、怒りで昂ぶる気持ちを抑えて言った。「大王様、あなたはご存じのはずなのに、なぜ知らないと言われるのですか。あなたは狩りをしていて私に近づいた。私は最も美しい天女メーナカーと偉大なヴィシュヴァーミトラ仙との娘です。幼いとき母に捨てられ、今またあなたに捨てられるとは、私が前世でどんな悪行をしたというのか。あなたが私を捨てることはかまいませんが、ご自身が生ませたこの子を捨てることはよろしくありません。」 王は言った。「女というものはうそつきだ。娼婦のようなお前がどうしてメーナカーとヴィシュヴァーミトラの娘だというのだ。邪悪な女よ、行ってしまえ。それにお前の息子は大きすぎる。どうしてわずかな間にこんなに成長したのか。余はお前を知らぬ。」 シャクンタラーは言った。「あなたが虚偽に執着し、ご自身を偽るのならしかたありません。あなたのようなかたとは一緒になりたくありません。あなたなしでも、私の息子は世界を征服するでしょう。」

その時、空から声が聞こえて王に告げた。「ドゥフシャンタよ、息子を抱け。シャクンタラーを侮辱してはならぬ。シャクンタラーは真実を語った。この子を抱いて、バラタと名付けよ。」 王は、天の声を聞くと喜んで、周囲の者に言った。「実は、余は彼が息子であることを知っていたのだ。しかし彼女の言葉だけで彼を息子として受け入れれば、人々の間に疑惑が生じただろう。」 王は喜んで神によって証明された息子を受け入れ、シャクンタラーを法にのっとって妻としてもてなし、彼女を慰めて言った。「あなたとの結びつきは人の見ていないところで行われた。だから余は躊躇していたのだ。あなたが余に乱暴な言葉を言ったことは気にしていない。」 それから王は、息子をバラタと命名して太子の位に就けた。やがてバラタは、全世界を征服する理想的な帝王となった。バラタを祖としてバラタ族(バーラタ)ができた。


この話において、ドゥフシャンタ王は、彼女の言葉だけで彼女と息子を受け入れれば人々の間に疑惑が生じると弁明しているが、シャクンタラーを拒絶した理由として説得力がない。 カーリダーサはこの点が不満だったようで、新たに思い出の指輪と仙人の呪いのモチーフを導入した。

カーリダーサの戯曲[編集]

あるとき、プール家の血を引くドゥフシャンタ王は、狩の最中に出会ったシャクンタラーと相思相愛の仲になり、やがて結ばれる。そして王はそのしるしとして自分の指輪を彼女に贈り、王宮に帰る。 シャクンタラーは、王のことを思い続けてぼんやりしていたため、聖賢ドゥルヴァーサス英語版仙が訪ねて来たことに気がつかず、礼を失してしまう。ドゥルヴァーサスの怒りを買い、呪いをかけられ、ドゥフシャンタ王はシャクンタラーのことを忘れてしまう。ただし聖賢はこの呪いに期限をつけ、王が思い出の指輪を見るときに、彼女を思い出すと予言した。

やがて妊娠したシャクンタラーは、養父の隠棲処を出て王宮に行くが、途中の泉で沐浴の際にこれを失ってしまったので、王は彼女を思い出さず、妻として認めなかった。悲嘆にくれたシャクンタラーは、女の形をした光明にさらわれて消え去る。

後に、漁師が泉で獲った魚の中から指輪が発見され、それが王のもとに届けられて、王は記憶を取り戻し、シャクンタラーとの別離を嘆く。そしてインドラ神が御者マリーチを通じて悪魔征服の援助を王に依頼してきたおり、王は天界に上る機会を得て、そこでわが子と対面し、シャクンタラーとも再会して大団円となる。

シャクンタラーをテーマにした音楽作品[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 『マハーバーラタ』と同時期に成立した文学作品として『ラーマーヤナ』がある。
  2. ^ 刀江書院 1956年
  3. ^ 岩波文庫、初版1977年 ISBN 978-4003206416