ドゥルヨーダナ

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演劇のドゥルヨーダナ(インド・カルナータカ州)

ドゥルヨーダナDuryodhana, デーヴァナーガリー : दुर्योधन)は、インドの叙事詩『マハーバーラタ』の登場人物。 盲目の王ドリタラシュートラ英語版とその妃ガーンダーリー英語版の間に生まれた、カウラヴァの100人兄弟の長男。 クル国の王位を巡って、従兄にあたるパーンダヴァと対立した。

出生[編集]

母ガーンダーリーはかつて聖仙ヴィヤーサを恭しくもてなし満足させたことで、100人の息子に恵まれるという恩寵を得た。 時が経ち、ガーンダーリーはドリタラーシュトラの子を身籠ったが、2年経っても出産することはなかった。 そこで、ガーンダーリーは苦悩して胎児を産み落としたが、それは鉄のように堅い肉塊であった。 ヴィヤーサの指示により、その肉塊は100つ(実は101つである)に分けられ、それぞれギー(インドの乳製品)で満たした100個の瓶に入れられた。

やがて、それらの瓶から第一に生まれ出た息子がいた。それがドゥルヨーダナである。 ドゥルヨーダナが生まれると、いたるところで肉食獣やジャッカルが唸り声をあげるなど不吉な前兆が見られた。 そのため、彼の父ドリタラーシュトラ王の全ての忠臣たちは、「このような不吉な兆候と共に生まれた子は一族を滅ぼすことになるため、心を鬼にして捨てるべきである」と説いたが、 ドリタラーシュトラは息子への愛着からその忠言を聞き入れなかった。[1]

パーンダヴァ兄弟への策略[編集]

ワヤン・クリ(影絵芝居)のドゥルヨーダナ《インドネシア》
ドラウパディーがサイコロゲームに招かれる場面

クル国の王位継承権において、ドゥルヨーダナはパーンドゥの長男ユディシュティラに対して明白な劣勢にあった。 王位を狙うドゥルヨーダナは、常にパーンダヴァ兄弟を征服し、自らが権力を得られることを望んだ。 そのため、ドゥルヨーダナは母方の伯父シャクニ英語版、親友であるカルナ、弟のドゥフシャーサナなどを腹心とし、パーンダヴァ兄弟に対し様々な策略を講じた。

少年期に、彼はパーンダヴァ兄弟の次男ビーマの強力さを懸念し、彼を手短に抹殺することを企てた。 ドゥルヨーダナはビーマに毒を盛って眠らせた後、彼を縄で縛りあげガンジス河に投げ込んだ。 しかし、ビーマは目覚めるとすぐにその戒めを解き、生還した。[2] ある時は、燃えやすい素材を用いて宮殿を建てさせ、そこにパーンダヴァ兄弟を送り込み、火を付けて殺すことを企てた。[3] この際も、パーンダヴァ兄弟は忠臣ヴィドゥラの助けを得て生き延びることとなった。

サイコロ賭博とパーンダヴァ兄弟の追放[編集]

やがて、クル国の家臣たちはパーンダヴァとカウラヴァの対立を懸念し、領土を彼ら2者の間において分割することを決定した。 すなわち、クル国の首都ハスティナープラ英語版がドゥルヨーダナに、辺境の地カーンダヴァプラスタ英語版がユディシュティラに与えられた。 ユディシュティラはカーンダヴァプラスタをインドラプラスタ英語版と改称し、不毛の地を栄華極まる土地へと開拓した。 そして、ユディシュティラは諸王が憧れる世界皇帝(ラージャスーヤ英語版)の即位式を行い、権勢を極めた。

しかし、ドゥルヨーダナはその即位式の豪華さに圧倒され嫉妬し、蒼白となった。 そこで、伯父のシャクニは、「賭博に長けた自分なら、容易にユディシュティラから全てを奪うことができる」と語り、ドゥルヨーダナを励ました。

ドゥルヨーダナたちはパーンダヴァ兄弟をサイコロ賭博に招待し、そしてシャクニが詐術により振るサイコロによって、 ユディシュティラから彼が賭けた財産、領土、果ては兄弟や妻のドラウパディーまで全てを奪い取った。 ドラウパディーを勝ち取った際、ドゥルヨーダナは弟のドゥフシャーサナに、ドラウパディーを引き摺ってでも連れてくるよう命じ、 カルナはドラウパディーの服を剥ぎ取るように、とはやし立てた。[4] しかし、このことで、ドゥルヨーダナ一派はパーンダヴァ兄弟の怒りを買い、その運命に決定的な影を落とすことになった。

その後、ドリタラーシュトラの計らいによって、賭けられた全てのものがユディシュティラに返還されたが、 ドゥルヨーダナは、「敗者は12年間森に住んだあと、1年間正体を知られることなく隠れて暮さねばならない」という条件を挙げ、 再びユディシュティラをサイコロ賭博に誘い、シャクニの詐術によって彼を打ち負かし、パーンダヴァ兄弟を森へ追放した。

クルクシェートラ戦争[編集]

サイコロ賭博の約定通り、パーンダヴァ兄弟が13年間の追放を満了した後も、 ドゥルヨーダナはパーンダヴァ兄弟に領土を返還することを拒んだため、両者の間において戦争は決定的となった。この戦争がクルクシェートラ戦争英語版である。 この戦争において、ドゥルヨーダナは、11アクシャウヒニー(当時の軍隊の規模の単位)という、 ユディシュティラの7アクシャクヒニーに対し大きな規模の軍隊を擁して進軍した。

しかし、パーンダヴァ兄弟を守るクリシュナの働き掛けにより、ドゥルヨーダナ側の軍の勇士たちは次々と倒れていき、 第18日目にはドゥルヨーダナ自身も戦死することとなった。

ビーマとの最終決戦[編集]

ドゥルヨーダナがビーマに敗れるシーン

クルクシェートラ戦争18日目、ドゥルヨーダナは単身で湖に入り休んでいた時に、パーンダヴァ兄弟と遭遇した。 ユディシュティラはドゥルヨーダナに対し、「好きな武器、そして自分たちのうち誰か1人を選んで戦え。もし、ドゥルヨーダナが勝てば自分は敗北を認めるだろう」との約束をした。 ドゥルヨーダナは棍棒を選び、生涯憎んできたビーマを対戦相手に選んだ。 クリシュナは、「ドゥルヨーダナは棍棒術において比類なき戦士であるのだ。そのような彼に対して、君はあまりにも安易な約束をしてしまったものだ」としてユディシュティラを非難した。

案の定、ドゥルヨーダナはビーマを激しく追い込んでいた。 そこで、クリシュナは、かつてドゥルヨーダナがドラウパディーを侮辱した際に、ビーマがドゥルヨーダナの腿を砕くと誓ったことを彼に思い起こさせて、ビーマにドゥルヨーダナの腿を攻撃させて打ち負かした。 棍棒を用いた戦いにおいて、このように臍から下を狙うことは反則であったため、ドゥルヨーダナ自身や、そして彼とビーマにとり棍棒術の共通の師であるバララーマ英語版などが、このことを非難した。

しかし、クリシュナはドゥルヨーダナの行ってきた悪行を挙げ、非法に非法で報い正義を打ち立てることは正当であると主張した。 なおも、苦しい息のもとでドゥルヨーダナは自らが打ち立ててきた王族としての業績を挙げ、そして、戦士として勇敢に戦い死んでいくことを誇る旨を語った。 その際、天上の神々が妙なる音楽を奏でて、花を降らしドゥルヨーダナを称えた。[5]

カルナとの友情[編集]

ドゥルヨーダナと武術師範のドローナ

ある日、王子たちの武術師範であるドローナの指導のもとで、クルの王子たちが各々の習得した武術を披露するための御前試合が行われた。 パーンダヴァの三男アルジュナは見事な弓術を披露し喝采を浴びた。

しかし、そこにカルナが現れ「俺はアルジュナよりも見事な業をなすだろう」と語り、その場で素晴らしい業を披露した。彼は御者の息子の身分(実はパーンダヴァ兄弟の長兄)でありながらも、卓越した弓術を身につけていた。 そして彼は、雌雄を決するためにアルジュナに決闘を申し込んだ。 しかし、当時の決闘の規則では、王子であるアルジュナと戦う者もまた王族の身分でなければならなかったため、 御者の身分であるとされていたカルナはアルジュナに挑戦する資格がなかった。

ところで、ドゥルヨーダナは、敵対するパーンダヴァ兄弟の強力な弓取りアルジュナという脅威に対し、彼に匹敵する弓取りを見つけたとして、カルナの登場を殊の外喜んでいた。 そこで、ドゥルヨーダナは両者が決闘を行えるようにと、カルナをアンガ国の王位につけた。 また、その場にカルナの養父が訪れたことで、カルナが御者の身分であることが公に知れ渡ったので、カルナはビーマによって「卑しい御者の息子」と万座で辱められた。 そういったビーマに猛り立ち、ドゥルヨーダナは「英雄や河川の源流(出自)を問う意味はない。王族であることの証明に最も必要なものは力である」として、カルナを擁護した。 その過程で、カルナが返礼に何を望むかドゥルヨーダナに問うたところ、彼はカルナとの永遠の友情を望むと答えた。[6]

かくして、パーンダヴァに辱められ、ドゥルヨーダナに大恩を被ったカルナは、カウラヴァきっての勇士としてドゥルヨーダナの腹心となった。 カルナは、やがて自らの素性(実は王族の身分であり、パーンダヴァの長兄であること)を知ることとなったが、その後でさえ、約束通りにドゥルヨーダナに最期まで忠実に仕えた。

クルクシェートラ戦争第17日目にカルナがアルジュナに殺された際、ドゥルヨーダナはかつてない程に悲嘆に暮れた。

脚注[編集]

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  1. ^ 上村勝彦訳『原典訳 マハーバーラタ1』筑摩書房[ちくま学芸文庫]、2003年発行(388-390ページ)
  2. ^ 同書、414-415ページ
  3. ^ 同書、444-445ページ
  4. ^ 上村勝彦訳『原典訳 マハーバーラタ2』筑摩書房[ちくま学芸文庫]、2002年発行(404、411ページ)
  5. ^ C・ラージャーゴーパーラーチャリ『マハーバーラタ(下)』奈良毅、田中嫺玉訳、第三文明社[レグルス文庫]、1988年発行(730ページ)
  6. ^ 上村勝彦訳『原典訳 マハーバーラタ1』筑摩書房[ちくま学芸文庫]、2003年発行(434ページ)

参考文献[編集]

関連項目[編集]