プロメーテウス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
プロメテウスから転送)
移動先: 案内検索
Nicolas-Sébastien Adam 作 プロメーテウス像 1762年 (ルーブル美術館蔵)

プロメーテウス古希: Προμηθεύς, Promētheus)は、ギリシア神話に登場する男で、ティーターンの1神である。イーアペトスの子で、アトラースメノイティオスエピメーテウスと兄弟[1][2]デウカリオーンの父[3]ゼウスの反対を押し切り、天界の盗んで人類に与えた存在として知られる。また人間を創造したとも言われる[4]。日本では長音を省略してプロメテウスと表記されることもある。

その名は、pro(先に、前に)+ metheus(考える者)と分解でき、「先見の明を持つ者」「熟慮する者」の意である。他にも、ギリシャ語から「Προμη:促進する、昇進させる」「θεύςθεός:神、ゼウス」と解釈すると、人類に神の火を与えた事で「神に昇進させた者」との説も有る。

弟のエピメテウス(古希: Ἐπιμηθεύς, Epimētheus)は、epi(後で)+metheus(考える者)と分解でき、「後で後悔する者」「後知恵をする者」くらいの意である。

プロメテウスの火[ソースを編集]

プロメーテウスはゼウスの命令に背きながらも、人類が幸せになると信じて火を与えた。天地創造の力をも持つ「神の焔」を、未熟な存在である人類に渡す事は、神々の間では禁忌となっていた。人類は火を基盤とした文明技術など多くの恩恵を受けたが、同時にゼウスの予言通り、その火を使って武器を作り戦争を始めるに至った。現在に至るまで、火は人類の進化や文明の発達に大きな役割を果たしているが、ひとつ間違えれば、すべてを焼き尽くす恐ろしい火になってしまう。

このことからプロメテウスの火とは、原子力など、人間の力では制御できないほど強大でリスクの大きい科学技術の暗喩としてしばしば用いられる。1975年に書かれた『プロメテウス・クライシス』というアメリカの小説もある[注釈 1]

系譜[ソースを編集]

プロメーテウスはティーターン神族の子であるため、兄弟ともに広義のティーターンに含まれる。系譜については諸説ある。ヘーシオドスの『神統記』によるとイーアペトスとクリュメネーの子で、アトラースメノイティオスの弟であり、エピメーテウスの兄となっている[1]

しかしアポロドーロスの『ビブリオテーケー』によると母の名はアシアーであり[2]アイスキュロス悲劇縛られたプロメーテウス』では女神テミスである[5]アレクサンドリアの詩人エウポリオンは、ギガースの王エウリュメドーンが結婚前のヘーラーを犯し、プロメーテウス生んだという異説を伝えている[6]

妻に関してもクリュメネー[7]プロノエー[8]ヘーシオネー[9][10]、あるいはパンドーラーとも言われる[11]

神話[ソースを編集]

ゼウスが人間と神を区別しようと考えた際、彼はその役割を自分に任せて欲しいと懇願し了承を得た。プロメーテウスは大きなを殺して二つに分け、一方は肉と内臓を食べられない皮で包み(肉と内臓を胃袋で包み皮の上に置いたとも[12])、もう一方は骨の周りに脂身を巻きつけて美味しそうに見せた。そして彼はゼウスを呼ぶと、どちらかを神々の取り分として選ぶよう求めた。プロメーテウスはゼウスが美味しそうに見える脂身に巻かれた骨を選び、人間の取り分が美味しくて栄養のある肉や内臓になるように計画していた。ゼウスは騙されて脂身に包まれた骨を選んでしまい、怒って人類から火を取り上げた[13](ただし『神統記』ではゼウスはプロメーテウスの考えを見抜き、不死の神々にふさわしい腐る事のない骨を選んだことになっている[12])。この時から人間は、肉や内臓のように死ねばすぐに腐ってなくなってしまう運命を持つようになった。

プロメテウスの火[ソースを編集]

ゼウスはさらに人類から火を取り上げたが、プロメーテウスは、自然界の猛威や寒さに怯える人類を哀れみ、人類は火があれば、暖をとることもでき、調理も出来ると考え、ヘーパイストスの作業場の炉の中にオオウイキョウを入れて点火し(太陽の戦車の車輪から火を採ったともいわれる[13])、それを地上に持って来て人類に「」を渡した。火を使えるようになった人類は、そこから生まれる文明をも手に入れた一方、製鉄の発展などにより兵器を用いた争いの原因ともなった。

その行いに怒ったゼウスは、権力の神クラトスと暴力の神ビアーに命じてプロメーテウスをカウカーソス山の山頂に張り付けにさせ、生きながらにして毎日肝臓を鷲についばまれる責め苦を強いた。プロメーテウスは不死であるため、彼の肝臓は夜中に再生し、のちにヘーラクレースにより解放されるまで拷問が行われていた。その刑期は三万年だった(ただし刑期については諸説ある)[14]

「ゼウスがテティスと結婚すると父より優れた子が生まれ、ウーラノスクロノスに、クロノスがゼウスに追われたように、ゼウスも追われることとなる」という情報を知っており、それを教える事を交換条件として解放されたという説もあるが、逆にプロメーテウスは横暴なゼウスに屈しないがために、たとえそれが交換条件になろうとも教えなかったと言われている。

不死の者がプロメーテウスのために不死を捨てると申し出ない限り解放されない筈だったが、毒矢に当たって苦しむが不死故に死ねずにいたケイローンが不死を放棄したためヘーラクレースによって解放された[15]。また、プロメーテウスの不死は、ケイローンがゼウスに頼んでプロメーテウスに譲ったものともされるが、これはヘーラクレースによる解放後とされており、時期が合わない[16]

後日譚[ソースを編集]

プロメーテウスが人間に火を与えた神話の後日譚がパンドーラーの神話で描かれている。

系図[ソースを編集]

ウーラノス
 
ガイア
 
オーケアノス
 
テーテュース
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
イーアペトス
 
 
 
 
 
アシアー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
プロメーテウス
 
エピメーテウス
 
パンドーラー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
デウカリオーン
 
 
 
ピュラー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ヘレーン
 
オルセーイス
 
 
 
アムピクテュオーン
 
 
 
プロートゲネイア
 
ゼウス
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ドーロス
 
クスートス
 
クレウーサ
 
アイオロス
 
エナレテー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
イオーン
 
アカイオス
 
 
 
カリュケー
 
アエトリオス
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
エンデュミオーン
 


注釈・出典[ソースを編集]

注釈[ソースを編集]

  1. ^ トーマス・N.スコーシア、フランク・M.ロビンソン著『プロメテウス・クライシス』(原題:"The Prometheus Crisis") 。 井坂清の翻訳で徳間書店から1976年に出版されている。

出典[ソースを編集]

  1. ^ a b ヘーシオドス『神統記』507行-511行。
  2. ^ a b アポロドーロス、1巻2・3。
  3. ^ アポロドーロス、1巻7・2。
  4. ^ アポロドーロス、1巻7・1。
  5. ^ アイスキュロス『縛られたプロメーテウス』210行。
  6. ^ 『イーリアス』14巻295行への古註(カール・ケレーニイ『プロメテウス』p.61、99)。
  7. ^ オデュッセイア』10巻2行への古註。
  8. ^ ヘーシオドス断片5(『オデュッセイア』10巻2行への古註)。
  9. ^ アクーシラーオス断片33(『オデュッセイア』10巻2行への古註)。
  10. ^ アイスキュロス縛られたプロメテウス』560。
  11. ^ ヘーシオドス断片3。『名婦列伝』1巻(ロドスのアポローニオスアルゴナウティカ』3巻1086行への古註)。
  12. ^ a b 『ヘシオドス 全作品』126頁。
  13. ^ a b フェリックス・ギラン 『ギリシア神話』 青土社 新装版1991年、36頁。
  14. ^ 里中満智子 『マンガ ギリシア神話1 神々と世界の誕生』 中央公論新社 1999年、160,163頁。
  15. ^ 芝崎みゆき 『古代ギリシアがんちく図鑑』 バジリコ、56頁。
  16. ^ 『ギリシア・ローマ神話辞典』225頁。

参考文献[ソースを編集]

関連項目[ソースを編集]