シュルレアリスム

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シュルレアリスムフランス語: Surréalisme, シュルレアリスム)は、芸術の形態、主張の一つ。日本語で超現実主義と訳されている。シュルレアリスムの芸術家を「シュルレアリスト: surréaliste)」と呼ぶ。日本においては和製英語流にフランス語と英語の発音をつぎはぎして「シュールリアリズム」(英語の発音は[səríːəlìzm]「サリーアリズム」)、また日本語において省略して「シュール」と呼称する場合もある。

「シュール」は日本国内においてシュルレアリスム自体を意味する場合が多く、ジョークブラックジョーク)の一種として扱われることもある。

概要[編集]

現実を無視した世界を絵画や文学で描く芸術運動で、まるで夢の中を覘いているような独特の現実感と評される。略語の「シュール」は日本語では「非現実的」「現実離れ」の意味によく使われる。

芸術運動としてのシュルレアリスムのはじまりは、シュルレアリスム宣言が発せられた1924年であるが(なお、それ以前でも、アルフレート・クービン(Alfred Kubin)などシュルレアリスム的な作品は存在する)、その終わりには諸説ある。例えば、第二次世界大戦が終わった1945年までとする説、シュルレアリスム運動のリーダーであり「帝王」であったアンドレ・ブルトン (André Breton, 1896年-1966年)が他界した1966年までとする説があり、さらには、ブルトンの死以降も続いていたとする説もある。また、第二次世界大戦以降も続いていたという説の中には、大きく分けて、第二次世界大戦以前の運動に参加した者の戦後の活動のみをシュルレアリスムと認める説と、戦後に活動を開始した者も含める説の2つがある。後者の説については、いわゆる幻想絵画との境界線につき、さらにいろいろな説がある。

シュルレアリスムは、思想的にはジークムント・フロイト精神分析の強い影響下に、視覚的にはジョルジョ・デ・キリコ形而上絵画作品の影響下にあり、個人の意識よりも、無意識や集団の意識、偶然などを重視した。このことは、シュルレアリスムで取られるオートマティスム(自動筆記)やデペイズマンコラージュなど偶然性を利用し主観を排除した技法や手法と、深い関係にあると考えられることが多い。

シュルレアリスムを先導したのは詩人である。アンドレ・ブルトンはもちろんのこと、ルイ・アラゴンフィリップ・スーポーロベール・デスノスポール・エリュアール、ベンジャマン・ペレ、アントナン・アルトールネ・シャールルネ・マグリットジャック・プレヴェールレイモン・クノーなど一度はかじるものという時代の雰囲気だったといえる。

なお、ダダとシュルレアリスムの関係であるが、ダダに参加していた多くの作家がシュルレアリスムに移っているという事実からもうかがえるように、既成の秩序や常識等に対する反抗心という点においては、思想的に接続している。

日本におけるシュルレアリスムの詩人として有名な人物に瀧口修造がいる。瀧口は美術では池田龍雄、音楽では武満徹と親交をもっていたが、まだまだ日本のシュルレアリスムが語られる機会は少ない。

絵画・写真[編集]

シュルレアリスムに属する主たる画家としては、マックス・エルンストサルバドール・ダリルネ・マグリットイヴ・タンギーポール・デルヴォーエドガー・エンデ などがいる。ダリはルイス・ブニュエルのシュルレアリスムの代表的映画で、二人が実際に見た夢をモチーフにした『アンダルシアの犬』(1928年)にも参加している。ピカソも後にシュルレアリスムに傾倒している。

ダダにも参加しているシュルレアリスム写真家画家オブジェ作家として、実験映画も作っているマン・レイ(Man Ray, 1890年-1976年)も挙げられる。画家でもある写真家のアンリ・カルティエ=ブレッソンもこの頃シュルレアリスムの影響を受けているとも言われる(後には構成主義の影響も見られる)。ドイツ出身のハンス・ベルメールも自身の手による球体関節人形を撮影した写真集を1934年に発表し、ブルトンらパリのシュルレアリストに高い評価を得た。

シュルレアリスム絵画には大きく二つの画風がある。

  1. 自動筆記やデペイズマン、コラージュなどを使い、自意識が介在できない状況下で絵画を描くことで、無意識の世界を表現しようとした画家たち。彼らの絵画は具象的な形態がなくさまざまな記号的イメージにあふれ、抽象画に近づいてゆくことになる。マックス・エルンスト、ジョアン・ミロアンドレ・マッソンら。
  2. 不条理な世界、事物のありえない組み合わせなどを写実的に描いた画家たち。や無意識下でしか起こりえない奇妙な世界が描かれたが、彼らの絵の中に出てくる人物や風景はあくまで具象的であった。サルバドール・ダリ、ルネ・マグリットら。

無意識を偶然性の強い手法で造形化するというエルンストらの実験的な手法は美術関係者に大きな影響を与え、後に抽象表現主義などに受け継がれた。一方、奇妙な世界を写実的に描くダリやマグリットらは、見るものに強い混乱を起こす内容と、対照的に親しみやすい写実的な画風から一躍人気作家となった。特にダリはアメリカで大人気を博し、後にかつてのシュルレアリスム関係者から『ドルの亡者』と非難されるに至った。

一般的にシュルレアリスムの中で知名度の高いものは後者であり、後に続くイラストレーターや広告美術によって多くの模倣が行われているほか、「シュール」という言葉の表すものの起源となっているとも考えられる。

ドイツにおいては、シュルレアリスムは、芸術都市ミュンヘンを中心に展開されたが、ナチスはこれを頽廃芸術として嫌い、弾圧を受けることになる。

シュルレアリスム絵画の系譜[編集]

運命の三女神 フランシスコ・デ・ゴヤ 1819-1823
Pablo de Valladolid ディエゴ・ベラスケス 1632-1635
快楽の園』地獄の部分 16世紀 ヒエロニムス・ボス
第五の封印 エル・グレコ 1608-1614
バベルの塔 Pieter Bruegel 1563

プラド美術館では、シュルレアリスム絵画と抽象主義絵画のルーツをベラスケスエル・グレコゴヤなど、スペインの宮廷画家に求めている。ベラスケスはすでに17世紀に、背景を大胆に省略した肖像画を数多く残している。肖像画の背景は肖像人物の地位や経済力を表す重要なアイテムで、画家の嗜好で省略できるものではない。背景の省略は当時のスペイン人の気質による一種の表現主義的な描画だが、当時の人々にとっては十分に超現実的な視覚表現であった。左のベラスケスによる肖像画では床と壁の境界まで省略され、人物はあたかも宙に浮かぶがの如くである。(フランスでこのような表現が見られるのは、19世紀末から始まるジャポニスム以降である。)

右のゴヤの絵は「運命の三女神」という伝統的な神話のモチーフによっている[1]が、それと説明しないと分からないほど伝統的な絵画表現からかけ離れた絵となっている。ぽっかりと宙に浮かぶ、さして美しくもない人物群の表現は、それまでの神話絵画と一線を画し、確かにシュルレアリスム的なインスピレーションを与える。これが描かれた年代は19世紀初頭で、パリではロココや新古典主義の流行が続いており、印象派など影も形も無い時代である。

シュルレアリスムの巨匠ダリ、抽象主義のピカソ、ミロも共にスペイン出身であり、スペイン絵画におけるこれらのシュルレアリスムと抽象主義の系譜は、フランスを中心とした写実主義印象派抽象画とは異なる流れとして捉えることができる。

もう一つのシュルレアリスムの源流としてフランドル、ドイツを中心とした流れがある。16世紀のベルギーの画家ヒエロニムス・ボスは、カトリックの説く天国や地獄を具象的に描いた。農民をユーモラスに描いたことで知られるピーテル・ブリューゲルらブリューゲル一族も、神話や死後の世界を具象的に描いた。これらは当然シュルレアリスムではないが、現実には無い光景を具象的に強調して描き出す画風は、同じゲルマン系の画家であるマグリットやポール・デルヴォーに色濃く見ることができる。

19世紀後半になると、アカデミズムへの反発運動として、パリを中心に従来の作画技法や画面構成を刷新した印象派が起こるが、その一方で古典的技法を継承しつつも新しいモチーフに挑む象徴主義新古典主義が生まれる。これらの画風がシュルレアリスムに影響したこと、あるいはシュルレアリスムそのもの、またあるいはその一部であったことは絵を見れば説明無用だろう。1924年のシュルレアリスム宣言は単にシュルレアリスム的表現の再発見をしたに過ぎない。写実主義から現代絵画の潮流の起点として印象派だけが強調されがちだが、シュルレアリスムの静かで力強い系譜を知れば、印象派が決してその中心ではないことが分かるだろう。

死の島(1883) Arnold Böcklin[1827–1901]
ベルリン美術館
眼=気球(1878) Odilon Redon[1840–1916]
ニューヨーク近代美術館

その他シュルレアリスムの画家[編集]

シュルレアリスムと評価される写真作品を制作した作家[編集]

シュルレアリスムの写真作品を制作した作家の範囲を概観するため、次に掲げる参考文献に掲載されている図版の作家名を列挙する。(作家名のあとのカッコ内は生没年、各行の最後に記載した年数は作品の制作年)

参考文献:La photographie surréaliste (Photo Poche 116)

  • 1. Félix Nadar (1820-1910) Intérieur du Géant, 1863
  • 2. Eugène Atget (1857-1927) vers 1898-1900
  • 3. Anonyme, sans date
  • 4. Man Ray (1890-1976) 1922
  • 5. Man Ray (1890-1976) 1922
  • 6. Man Ray (1890-1976) 1922
  • 7. Jean Moral (1906-1999) 1925
  • 8. Maurice Tabard (1897-1984) 1931
  • 9. Jean Painlevé (1902-1989) assisté d'Eli Lotar (1905-1969) 1929
  • 10. Eli Lotar (1905-1969) 1929
  • 11. Roger Parry/Fabien Loris, 1930
  • 12. Roger Parry (1905-1977) 1930
  • 13. Heinz Hajek-Halke (1898-1983) 1930
  • 14. Jacques-André Boiffard (1902-1961) 1930
  • 15. Brassaï, Gyula Halász (dit) (1899-1984) 1934
  • 16. Max Ernst (1891-1976) 1931
  • 17. Herbert Bayer (1900-1985) 1932
  • 18. Aurel Bauh (1900-1964) 1931
  • 19. Roger Parry (1905-1977) 1932
  • 20. Brassaï, Gyula Halász (dit) (1899-1984) 1932
  • 21. Jindrich Styrsky (1899-1942) 1933
  • 22. Salvador Dalí (1904-1989) 1933
  • 23. Brassaï, Gyula Halász (dit) (1899-1984) sans date
  • 24. Georges Hugnet (1906-1974) 1936
  • 25. André Kertész (1894-1985) 1933
  • 26. Jindrich Styrsky (1899-1942) vers 1945
  • 27. André Steiner (1901-1978) 1934
  • 28. André Steiner (1901-1978) 1934
  • 29. Hans Bellmer (1902-1975) 1934
  • 30. Jacques-André Boiffard (1902-1961) sans date



  • 31. E. L. T. Mesens (1903-1971) 1926
  • 32. Dora Maar (1907-1997) 1935
  • 33. Hans Bellmer (1902-1975) 1935-1938
  • 34. Herbert Bayer (1900-1985) 1936
  • 35. Brassaï, Gyula Halász (dit) (1899-1984) 作品制作年の記載なし(sans dateとも書いていない)
  • 36. Henri Cartier-Bresson (1908-2004) 1934
  • 37. Erwin Blumenfeld (生没年記載なし) vers 1936
  • 38. Claude Cahun (1894-1954) 1936
  • 39. Hans Bellmer (1902-1975) 1938-1949
  • 40. Nush Eluard (1906-1946) vers 1936
  • 41. Dora Maar (1907-1997) 1936
  • 42. Dora Maar (1907-1997) vers 1936
  • 43. René Magritte (1898-1967) 1937
  • 44. Raoul Ubac (1910-1985) 1937
  • 45. Wols (1913-1951) 作品制作年の記載なし(sans dateとも書いていない)
  • 46. Raoul Ubac (1910-1985) 1937
  • 47. Karel Teige (1900-1951) 1942
  • 48. Raoul Ubac (1910-1985) sans date
  • 49. Georges Hugnet (1906-1974) 1936
  • 50. Grete Stern (1904-1999) 1949
  • 51. Christian Schad (生没年記載なし) 1919
  • 52. Meret Oppenheim (生没年記載なし) 1952
  • 53. Pierre Molinier (1900-1976) vers 1970
  • 54. Joan Fontcuberta (né en 1955) 1987
  • 55. Joel-Peter Witkin (né en 1939) 1990
  • 56. Joan Fontcuberta (né en 1955) 2004
  • 57. Sandy Skoglund (né en 1946) 1989
  • 58. Lucien Lorelle (1894-1968) sans date
  • 59. Lee Miller (1908-1977) 1930
  • 60. Joan Fontcuberta (né en 1955) 1987



  • 表紙 Maurice Cloche (1907-1990) 1928


日本におけるシュルレアリスム[編集]

日本におけるシュルレアリスムの画家としては、古賀春江 (こが はるえ、1895年 - 1933年)、福沢一郎 (ふくざわ いちろう、1898年 - 1992年)、北脇昇 (きたわき のぼる、1901年 - 1951年)、靉光(あいみつ、1907年 - 1946年)などがいる。写真家では、山本悍右(やまもと かんすけ、1914年 - 1987年)などがいる。

詩人では西脇順三郎瀧口修造北園克衛友部正人友川かずきなど。作家では安部公房が優れた作品を残している。

漫画界では、つげ義春ねじ式1968年月刊『ガロ』6月増刊号に発表)によって初めてシュルレアリスム的表現の可能性が切り開かれ、漫画界のみならず多くの知識人芸術家などに多大な影響を与えるとともに全共闘世代の圧倒的支持を得た。

日本におけるシュルレアリスムは、ダダとは基本的に連続性がない。日本においてダダに属するとされる作家(MAVOに属する作家等)のほとんどがシュルレアリスムに移ってきておらず、逆に、日本のシュルレアリストのほとんどがダダイストとして活動していないのである。

バズワードとしてのシュルレアリスム[編集]

1990年代末期頃から、日本のメディアやバズワードにおいて「シュール」であるということは、超現実主義の意味から逸脱して「ナンセンス」「不条理」であるという意味で使われるようになった。 あくまで「シュールな」「シュールだ」というように略称でのみ使われ、その場合は本来のシュルレアリスムからは独立した別の概念として扱われることがもっぱらであるが、これは応用である。


シュールレアリスム研究[編集]

・近年の日本においてシュールレアリスム研究及び大学におけるシュールレアリスムの講義並びに実技(自由連想法を用いたディスカッションを含む)を行っている人物として多田夏雄 が挙げられる。著書としてシュールレアリスム論(文星芸術大学紀要)。

・シュールレアリスム研究家 黒沢義輝は戦前の日本におけるシュールレアリスム研究の第一人者である。

技法など[編集]

脚注[編集]

  1. ^ プラド美術館鑑賞案内 ゴヤ(黒い絵) バレリヤ・ボザール

関連文献[編集]

  • 鈴木雅雄、林道郎『シュルレアリスム美術を語るために』(水声社、2011)ISBN 9784891768348
  • 酒井健『シュルレアリスム : 終わりなき革命』(中央公論新社〈中公新書〉、 2011)ISBN 9784121020949
  • 谷川渥『シュルレアリスムのアメリカ』(みすず書房、2009)ISBN 9784622074090
  • 速水豊『シュルレアリスム絵画と日本 : イメージの受容と創造』(日本放送出版協会、2009)ISBN 9784140911358
  • 鈴木雅雄『シュルレアリスム、あるいは痙攣する複数性』(平凡社、2007)ISBN 9784582702743
  • 巌谷國士『シュルレアリスムとは何か』(筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、2002)ISBN 4480086781
  • アンドレ・ブルトン(巖谷國士訳)『ナジャ』(岩波書店〈岩波文庫〉、2003)ISBN 4003259025
  • アンドレ・ブルトン(巖谷國士ほか訳)『魔術的芸術 普及版』(河出書房新社、2002)ISBN 4309265669
  • アンドレ・ブルトン(生田耕作訳)『超現実主義宣言』(中央公論新社〈中公文庫〉、1999)ISBN 412203499X
  • 『水声通信:20 思想史のなかのシュルレアリスム 』(水声社、2007年)
  • 『水声通信:23 シュルレアリスム美術をどう語るか』(水声社、2008年)
  • 『水声通信:25 シュルレアリスム美術はいかにして可能か』(水声社、2008年)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]