般若経
般若経(はんにゃきょう、梵: Prajñāpāramitā sūtra, プラジュニャーパーラミター・スートラ)は、般若波羅蜜(般若波羅蜜多)を説く大乗仏教経典群の総称。
最も早く成立した最初の大乗仏教経典群とされ[1]、紀元前後に成立した『八千頌般若経』を最初期のものとする説が多いが[1]、その後数百年に渡って様々な「般若経」が編纂され、また増広が繰り返された。
中国では下記するように各時代ごとに経典が持ち込まれ翻訳がなされてきたが、唐の玄奘が西域から関連経典群を持ち帰って漢訳し、集大成したとされるのが『大般若波羅蜜多経』600余巻(660-663年)であり、これを指して般若経と言うことも多い[1]。
一般に空を説く経典とされているが、同時に呪術的な面も色濃く持っており、密教経典群への橋渡しとしての役割を無視することはできない。
主な般若経典
- アスタサーハスリカー・プラジュニャーパーラミター・スートラ)
- 紀元前後1世紀ころ成立し大乗仏教初期に編纂され後の仏教発展の基礎となったと考えられている。
- 現存サンスクリット本に対応する残存する漢訳は、『道行般若経』支婁迦讖訳(179年)、『(小品)摩訶般若波羅蜜経』鳩摩羅什訳(408年)、のほか計4本である。
- 『二万五千頌般若経』 (にまんごせんじゅはんにゃきょう、梵: Pañcaviṃśatisāhasrikā-prajñāpāramitā Sūtra
- パンチャヴィムシャティサーハスリカー・プラジュニャーパーラミター・スートラ)
- 『十万頌般若経』 (じゅうまんじゅはんにゃきょう、梵: Śatasāhasrikā-prajñāpāramitā Sūtra
- ヴァジュラッチェーディカー・プラジュニャーパーラミター・スートラ)
- プラジュニャーパーラミター・フリダヤ)
- 『大般若波羅蜜多経』 (だいはんにゃはらみったきょう、大般若経)
- 唐の玄奘が西域から関連経典を持ち帰って漢訳し、集大成したとされる。16会600巻。
- 『第一会』(第1-400巻)は、、『十万頌般若経』の類本とされるが、その対応は明確でない。
- 『第二会』(第401巻-第478巻)は、『二万五千頌般若経』に相当する。
- 『第四会』(第538巻-第555巻)及び『第五会』(第556巻-第565巻)は、『八千頌般若経』に相当する。
- 『第九会 能断金剛分』(第577巻)は、『金剛般若経』に相当する。
- 『第十会 般若理趣分』(第578巻)は、真言宗で重用する『理趣経』即ち『大楽金剛不空真実三摩耶経 般若波羅蜜多理趣品』不空訳(720年 - 774年)と比較的近いサンスクリット本の翻訳とされている。
- 『第十六会 般若波羅蜜多分』(第593巻-第600巻)は、登場する菩薩の名に因んで『善勇猛般若経』(ぜんゆうみょうはんにゃきょう)として知られる。
邦訳
- 坂本幸男/中村元/長尾雅人『大般若波羅蜜多経』(1970年 <國譯一切經印度撰述部 般若部 1-6巻 大東出版社 ISBN 978-4-500-00020-3
- 椎尾辨匡 『國譯訳摩訶般若波羅密經』(1918年 國譯大藏經 經部 2~3巻 解題・原文 国民文庫刊行会、原文は弘教藏より収録、1974年第一書房から復刊)
- 長尾雅人、戸崎宏正訳注 『金剛般若経/善勇猛般若経』 <大乗仏典 般若部経典1> (中央公論社、新版中公文庫) 2) ISBN 978-4-8042-0243-3、 3) ISBN 978-4-8042-0244-0
- 梶山雄一、丹治昭義訳注 『八千頌般若経』 <大乗仏典 般若部経典2.3>(同上) ISBN 978-4122038837
- 平井俊榮(元駒澤大学学長)訳注 <仏教経典選>『般若経 般若心経 金剛般若経 大品般若経(5品のみ)』(1986年 筑摩書房、2009年ちくま学芸文庫収録)-大正蔵からの訳注文献 ISBN 978-4-480-09247-2
- 中村元、紀野一義訳注 『般若心経/金剛般若経』(岩波文庫 のちワイド版)
- 中村元訳・解説 『現代語訳大乗仏典1 般若経典』 (東京書籍 新版2003年) ISBN 978-4487732814