特定バス
特定バス(とくていバス)とは、日本の国土交通省が定める旅客自動車運送事業のうち、特定の顧客の需要に応じ、特定範囲の旅客を特定の場所へ運送するバス事業であり、「特定」とはこのことを意味する。道路運送法における正式名称は特定旅客自動車運送事業であり、一般に特定バス事業と呼ばれる。
特定バスによる輸送を特定輸送といい、これは乗合バスや貸切バスとは異なり、顧客とバス事業者が直接かつ継続的に長期間の契約を結ぶ「契約輸送」という運行方式を指す[1][2]。そのため、特定バスには自家用バス(白ナンバー)による送迎バスは含まれない。
代表的な運行形態は、企業の従業員送迎バスや、学校や幼稚園のスクールバス等である[3]。また福祉輸送分野では、古くから特別支援学校や福祉施設への送迎バスという形で特定バスが利用されてきたが、介護保険制度の整備に伴い、介護サービス施設への要介護者の送迎のための特定バス利用も増えている。福祉特定輸送からコミュニティバス受託や乗合バス事業へ参入したバス事業者も存在する。
制度の概要
日本の法令上、旅客自動車運送事業は、一般旅客自動車運送事業と特定旅客自動車運送事業に大別される。さらに一般旅客自動車運送事業は、一般乗合旅客自動車運送事業(乗合バス)、一般貸切旅客自動車運送事業(貸切バス)、一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー・ハイヤー)に区分される。
特定旅客自動車運送事業と一般旅客自動車運送事業には、顧客が固定(特定)されているか、不特定多数の旅客を対象とする(一般)かという大きな相違点がある。特定旅客自動車運送事業の顧客を「運送需要者」または単に「需要者」と呼ぶが、特定バス事業においてはこの運送需要者をあらかじめ特定して許可を申請する必要がある。
一般旅客自動車運送事業である乗合バス・貸切バスとは、以下のような相違点が挙げられる。
- 運送需要者(顧客)は、原則として単数の者に特定される。例えば工場の送迎バスであればその企業、スクールバスであれば学校法人など[4]。
- 運送できる取扱客(乗客)は、契約上の一定範囲に限定される。例えば企業の送迎バスであれば従業員および会社関係者、スクールバスでは学校の生徒および教職員に限るなど。
- これに対し、乗合バス事業では不特定多数の乗客を対象とする。貸切バス事業では契約により不特定多数の乗客(個人および団体)を顧客とすることが可能となる。
- 運送する場所は、営業区域を定めて設定する。国土交通省では、特定バスの営業区域は同一の都道府県内あるいは市区町村内が想定されるとしており、乗合バスや貸切バスのように複数都道府県にまたがる広い営業区域は想定しないとしている。また営業区域内であれば固定した経路を定める必要はないとしている[5]。
- これに対し、乗合バス事業では自社の営業エリア内で路線(系統)を設定する。貸切バスでは営業区域の定めはあるが、複数の都道府県にわたる広域の移動も可能となる。
- 許可申請に必要な車両数は、一般旅客自動車運送事業(乗合バス・貸切バス、タクシー)の場合は最低必要な台数(複数台、台数は地域により異なる)が定められているが、特定旅客自動車運送事業の場合は審査基準上は台数の定めがなく、法令上は1台からでも申請および運行が可能となる。実際には車両故障に備えて予備車を用意することが多いが、一般旅客自動車運送事業に比べて参入障壁が低くされている。
ただし、一般旅客自動車運送事業と同様に運行管理者を置くことは義務付けられている。例えば定員11名以上の特定バスを運行する場合は、最低でも運行管理者、整備管理者、乗務員の各1名が必要とされる。なおその場合も、運行管理者が整備管理者を兼任することは可能だが、乗務員を兼任することはできない。
乗合バスとの競合防止
特定バスの運行に際しては、許可の申請にあたり「公衆の利便が著しく阻害されることとなるおそれ」のある経路設定を行わないこととされており、その判断は管轄の運輸局または運輸支局等が下すこととなる。具体的には、特定バスが既存の乗合バス(一般路線バス)とほぼ同経路を運行し、乗合バス事業者の経営に影響を及ぼすことで、地域のバス利用者の利便性が低下するといったケースがこれにあたると想定されるため、事前に当該部署へ相談することが望ましいと国土交通省では回答している[5]。
これは「クリーム・スキミング」と呼ばれるもので、ユニバーサルサービスの対義語にあたる。公共交通機関や都市インフラ等の公共性の高い分野において、事業者が収益性の高い特定の地域や顧客のみにサービスを提供し、収益性の低い分野を切り捨てる「いいとこ取り」の行為をこのように呼ぶ。乗合バス事業者同士においても、都市中心部等の収益性の高い路線のみを運行して赤字路線を切り捨てたり、新規事業者が収益性の高い路線のみに低運賃で参入するなどといったケースがこのように呼ばれる。
同様に特定バスにおいても、例えば既存の一般路線バスが通勤・通学の足として機能しているところに、企業や学校といった安定した乗客が見込まれる区間で特定バスを運行することで、地域の乗合バス事業者に経営的打撃を与える事態を防ぐためこのような規定が設けられており、特定バスの許可申請に条件を付して事前に調整を行うこととされている[5]。
特定バスとして運行されるものの例
いずれも乗客は施設関係者・特定の利用者のみに限られ、一般乗客は乗車不可のもの。ただし貸切バスによりこれらの輸送を行うことも可能なため、これらの輸送であるから特定バス(特定輸送)であるとは限らない。
- 企業の従業員送迎バス(工業団地内を巡回するものを含む)[5]
- 学校・幼稚園等のスクールバス
- 福祉施設・介護サービス施設等の福祉送迎バス
- 管理者が運送需要者となるマンション居住者専用の無料送迎バス[5]
- テレビ局などのロケバス
特定バスではないものの例
- 乗客から運賃を収受するバス輸送(乗合バス)
- 不特定多数を無償で輸送するバス輸送(無料送迎バスの一部)- 貸切バスによって行われることもある。
- 市町村住民専用のコミュニティバス、廃止代替バス(有償・無償を含む)
- 高齢者・障害者等、交通弱者専用の乗合タクシー(デマンド型交通)
特定バス事業者の例
特定バス専業事業者、または特定バス事業を主要事業の一つとして行う事業者。
- 西武総合企画 - 特定バス専業事業者
- 京王自動車 - 子会社の京王自動車バスサービスが運行
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特定バスからコミュニティバス・乗合バスへ参入した事業者
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脚注
- ^ 特定バス(西武総合企画) 西武バス公式サイト、2022年5月3日閲覧。
- ^ 特定輸送とは[特定バスとは](西武総合企画) 西武バス公式サイト、2022年5月3日閲覧。
- ^ 特定バスのご案内 大和観光自動車、2022年5月3日閲覧。
- ^ “特定旅客自動車運送事業の許可要件の明確化について” (PDF). 国土交通省 (2004年3月16日). 2022年5月3日閲覧。
- ^ a b c d e “特定旅客自動車運送事業に関するQ&A” (PDF). 国土交通省. 2022年5月3日閲覧。
関連項目
外部リンク
- 特定旅客自動車運送事業について - 国土交通省