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ウシ廃棄物として処理が問題になる一方で、堆肥燃料建材などとして利用され、宗教行事にも用いられる。
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[[File:CowDefecating.jpg|thumb|right|250px|[[ウシ]]と牛糞]]
#redirect [[ウシ]]
'''牛糞'''(ぎゅうふん)は[[ウシ]]の[[糞]]。[[廃棄物]]として処理が問題になる一方で、[[堆肥]]や[[燃料]]、[[建材]]などとして利用され、[[宗教]]行事にも用いられる。

== 排泄量と成分 ==
=== 排泄量 ===
[[ウシ]]の排泄量は、[[飼料]]の摂取量や種類、環境や乳量によって異なる事が知られている<ref name="naganishi_2008_785">{{Harvnb|永西修|山崎信|朝井洋|絹田俊和|2008|p=785}}</ref>。[[日本]]国内の研究機関で延べ535頭の[[乳牛]]を対象にした調査によると、2頭以上の子牛を出産した乾物摂取量22[[キログラム|kg]]/日、乳量34kg/日のウシは糞量が52kg/日、乾乳期で乾物摂取量10kg/日のウシでは糞量が20kg/日となっている<ref name="naganishi_2008_785"/>。なお、[[尿]]の量はそれぞれ15kg/日、12kg/日である<ref name="naganishi_2008_785"/>。また、[[肉用牛]]の場合は糞尿を合わせた排泄量の基準値が、23 - 25kg/日とされる<ref name="naganishi_2008_786">{{Harvnb|永西修|山崎信|朝井洋|絹田俊和|2008|p=786}}</ref>。

なお乳牛の1日あたりの糞量については次の式が報告されており、{{仮リンク|中性デタージェント繊維|en|Neutral Detergent Fiber}}の含有量の低い飼料を与える事で、糞量を低減できる可能性が指摘されている<ref name="naganishi_2008_785"/>。

<math> X = -8.4753+1.8657\times D+0.4948\times NDF</math>

X:糞量(kg), D:乾物摂取量(kg), NDF:中性デタージェント繊維含有量(kg)

日本の場合は、[[2013年]]の1年間で乳牛と肉用牛からそれぞれ約2,442万[[トン]]、2,357万トンの糞尿が発生しており、同国全体の[[家畜]]排泄物8,295万トンのうち約58%を占めている<ref name="maff_haisesu">{{Cite web |url= http://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/t_mondai/02_kanri/|title= 家畜排せつ物の発生と管理の状況|publisher= [[農林水産省]]|accessdate= 2015-12-02}}</ref>。[[インド]]では、ウシや[[スイギュウ]]から年間5億6,200万トンの糞が排泄されている<ref name="endo_2015_57">{{Harvnb|遠藤仁|2015|p=57}}</ref>。

=== 成分 ===
牛糞に含まれる[[水分]]の比率は肉用牛の場合で80%と高く<ref name="naganishi_2008_786"/>、乳牛の糞を乾燥させた別の調査でも固形分以外の液体などが85%を占めている<ref name="ikuta_2014_4">{{Harvnb|生田健太郎|西森一浩|安田準|岡田啓司|2014|p=4}}</ref>。乾物中の約70%は可溶無窒化物と粗繊維などの[[炭水化物]]系物質であり、[[タンパク質]]や脂肪は少ない<ref name="ishida_1987_118">{{Harvnb|生田健太郎|石田元彦|福井憲二|長尾伸一郎|宮崎昭|1987|p=118}}</ref>。[[繊維]]分は飼料中の40 - 50%が糞として排泄されるが、非繊維性の炭水化物は80%以上が消化されており排泄比率は低い<ref name="ikuta_2014_4"/>。泌乳期の乳牛では飼料に含まれる[[窒素]]のうち29 - 50%が糞中に排泄され、1日あたりの同排泄量は133 - 172[[グラム|g]]となる<ref name="ikuta_2014_4"/>。

また、[[糠|ふすま]]や[[糠|米ぬか]]を飼料として与えた場合は、これらに含まれる[[リン]]の含有量が増加する<ref name="naganishi_2008_787">{{Harvnb|永西修|山崎信|朝井洋|絹田俊和|2008|p=787}}</ref>。リンは第一胃内の[[微生物]]の重要な栄養源となり[[消化]]を助けているが、[[濃厚飼料]]の多給などによって体内利用量を超えるリンを摂取すると、そのまま糞尿として排泄される<ref name="naganishi_2008_787"/>。また[[亜鉛]]や[[銅]]などの[[重金属]]は、ウシが経口摂取しても体内にはほぼ蓄積されず、糞尿中に排出される<ref name="naganishi_2008_787"/>。

== 自然界における牛糞 ==
[[File:Flies on turd.jpg|thumb|left|240px|[[ハエ]]と牛糞]]
{{seealso|糞虫}}
排泄された牛糞が放置されると、[[糞虫]]などの[[昆虫]]が飛来する。日中に牛糞が発生した場合は当日よりも翌日以降の方が多くの虫が集まり、[[草地]]の例では1日後に飛来した昆虫の個体数は当日の夕方までの個体数に比べて3 - 6倍に増加したという報告がある<ref name="segawa_1992_171">{{Harvnb|早川博文|山下伸夫|1997|p=171}}</ref>。これは、多くの糞虫が[[夜行性]]であるためと考えられている<ref name="segawa_1992_171"/>。また、発生個所が[[森林]]の場合は翌日から4日後にかけて緩やかに飛来数が増加し、集糞性[[甲虫類]]の[[ハネカクシ]]や[[シデムシ]]も多く集まる<ref name="segawa_1992_171"/><ref name="segawa_1992_170">{{Harvnb|早川博文|山下伸夫|1997|p=170}}</ref>。牛糞の周囲の環境によって、好日性ないし嫌日性の昆虫の集まりやすさなどに影響がある<ref name="segawa_1992_171"/>。

糞虫が自由に活動できる条件下で1kgの牛糞を草地に放置した実験では、1週間後に4分の1の牛糞が消失した<ref name="segawa_1997_39">{{Harvnb|瀧川幸司|佐藤充徳|柳麻子|浅岡壮平|1997|p=39}}</ref>。残存したものも糞虫のいない場合に比べて約半分の341gまで重量が減少し、糞虫による利用は牛糞の残存量に有意な影響を及ぼす<ref name="segawa_1997_39"/>。一方で、乾燥が一定以上進んで表面が固くなった牛糞は糞虫に利用されなくなり、その後は主に[[風化作用]]によって分解されていく<ref name="segawa_1997_39"/>。乾燥の進行は[[日照時間]]などの環境によって大きく左右される<ref name="segawa_1992_171"/>。なお、放牧地に牛糞が存在すると[[ウシ]]は主に臭気を嫌ってその周辺の草を食べなくなる<ref name="segawa_1997_40">{{Harvnb|瀧川幸司|佐藤充徳|柳麻子|浅岡壮平|1997|p=40}}</ref>。

また、牛糞を大量に地表に積み上げると、20cm以上の深さ範囲まで窒素濃度が上昇する<ref name="ichimae_2003_11">{{Harvnb|一前宣正|西尾孝佳|2003|p=11}}</ref>。[[降雨]]などによって5年ほどで窒素濃度は元に戻るが、この間は[[イヌビエ]]や[[シロザ]]など窒素耐性の高い植物が優先的に成長する<ref name="ichimae_2003_11"/>。

== 農業利用 ==
=== 堆肥 ===
[[File:Compost Plant ロータリー式.jpg|thumb|left|240px|ロータリー式の堆肥製造装置]]
{{seealso|堆肥|堆肥化}}
[[ウシ]]の[[糞]]および[[尿]]に、[[藁|麦ワラ]]や[[オガクズ]]、[[ウッドチップ]]など植物性副資材を混ぜ、[[発酵]]させる事によって[[堆肥]]が得られる<ref name="lin_QA">{{Cite web |url= http://fami.lin.gr.jp/lint/faq/detail/?s=39|title= りんたらくと 畜産Q&A 堆肥ってどんなものなのですか?|publisher= 公益社団法人中央畜産会|accessdate= 2015-12-02}}</ref>。この際、十分な量の副資材を混ぜて水分の割合を60 - 70%程度まで下げるともに、積み上げた混合物の山を定期的に混ぜ返す事が重要になる<ref name="lin_QA"/>。水分が過剰であったり混ぜ返しを行わないと、[[好気性生物|好気性微生物]]に十分な[[酸素]]が供給されず分解が進まない<ref name="lin_QA"/>。このため[[堆肥化]]が阻害され悪臭も増加し、特に[[北海道]]の酪農地帯では[[乳牛]]の糞尿を十分に水分調整せずに堆肥化が不十分な例が見られる<ref name="lin_QA"/>。

発酵が順調に進行すると、酸素供給が順調な条件下では1日も経たずに内部の温度が70[[セルシウス度|°C]]まで上昇し、混ぜ返すと湯気が立ち上る<ref name="lin_QA"/><ref name="miura_1977_93">{{Harvnb|三浦保|伊沢敏彦|森本国夫|1977|p=93}}</ref>。発酵および熟成を十分に進めると黒色の堆肥が得られ、土壌に加える事で[[透水性]]や保水性、通気性、保肥力を改善する[[土壌改良]]の効果がある<ref name="lin_QA"/>。家畜糞から得られる堆肥としては、[[鶏糞]]や[[豚糞]]由来のものと比べて[[リン酸]]や[[窒素]]などの肥料成分が少ない<ref name="chiba_taihi">{{Cite web |url= https://www.pref.chiba.lg.jp/chikusan/taihiriyou/tokuchou.html|title= 『千葉県家畜ふん尿処理利用の手引き』より 畜種別堆肥の特徴|publisher= [[千葉県]]|accessdate= 2015-12-02}}</ref>。なお牛糞堆肥の中でも、水分が50%以上のものは養分が偏りは小さいものの全体的に少なく、50%以下のものは[[カリウム]]が他の家畜糞堆肥と同程度に高いという特徴がそれぞれある<ref name="chiba_taihi"/>。

牛糞堆肥は、施肥されて分解が進むと様々な[[有機酸]]を形成する<ref name="tomita_2012_1243">{{Harvnb|冨田健太郎|2012|p=1243}}</ref>。このため堆肥とともに[[リン酸]]を施肥すると、有機酸の[[キレート|キレート効果]]によって土壌[[コロイド]]へのリン酸固定が軽減されるため、植物への吸収量が高まる<ref name="tomita_2012_1243"/>。また、[[陽イオン交換容量|塩基交換容量]]の非常に高い[[腐植土|腐植]]となって土壌を改良する効果が期待でき、[[カリウム]]や[[カルシウム]]、[[マグネシウム]]などの植物への吸収量を高める<ref name="tomita_2012_1246">{{Harvnb|冨田健太郎|2012|p=1246}}</ref>。

=== マルチ資材 ===
[[タイ王国|タイ]]の[[イーサーン]]では、農業用の[[マルチング|マルチ資材]]として牛糞が最もよく用いられる<ref name="oda_2010_22">{{Harvnb|小田正人|中村乾|Praphasri CHONGPRADITNUM|2010|p=22}}</ref>。同地では{{仮リンク|ブラーマン種|en|Brahman (cattle)}}や在来種が[[粗飼料]]のみを食べて[[放牧]]されているため、牛糞は風乾した状態で簡単に[[粉|パウダー]]状になる<ref name="oda_2010_23">{{Harvnb|小田正人|中村乾|Praphasri CHONGPRADITNUM|2010|p=23}}</ref>。果菜類の栽培に使う場合は、[[株]]の周囲に[[直径]]20[[センチメートル|cm]]ほどの窪みを形成し、約400[[ミリリットル|ml]]の牛糞をきっちりと敷き詰める<ref name="oda_2010_23"/>。これによって[[肥料|肥効]]が得られるとともに土壌の保水性が向上する、と現地の農家は考えている<ref name="oda_2010_23"/>。

[[スイカ]]や[[キュウリ]]など[[ウリ科]]の作物には牛糞マルチは行わないが、[[トウガラシ]]や[[トマト]]などの[[ナス科]]および[[マメ科]]の作物には牛糞マルチを施す<ref name="oda_2010_23"/>。これは、牛糞から溶出する成分がウリ科の植物に[[根腐れ]]を起こす事などが経験的に知られているためである<ref name="oda_2010_23"/>。牛糞の肥料効果については、このような短期間に水に溶出する成分と、長期間にわたって[[分解]]される成分の2種類があると考えられる<ref name="oda_2010_23"/>。前者は主に[[カリウム]]であり、[[窒素]]や[[リン]]は少量のため影響はほとんどない<ref name="oda_2010_29">{{Harvnb|小田正人|中村乾|Praphasri CHONGPRADITNUM|2010|p=29}}</ref>。また、厚さ1cmの牛糞マルチは水の[[蒸発]]速度を5分の1に抑制する効果があり、本来は毎日行う灌水が5日に1回で済むようになる<ref name="oda_2010_29">{{Harvnb|小田正人|中村乾|Praphasri CHONGPRADITNUM|2010|p=29}}</ref>。蒸発速度は牛糞層の厚みの[[平方根]]に[[反比例]]し、4cmでは灌水が10日に1回で足りるようになる<ref name="oda_2010_29"/>。

== 燃料 ==
[[File:Dung cooking fire. Pushkar India.JPG|thumb|right|220px|[[インド]]{{仮リンク|プシュカル|en|Pushkar}}で乾燥した牛糞を燃やす]]
===南アジア===
{{Main|牛糞ケーキ}}
[[インド]]など[[南アジア]]では、[[コブウシ]]や[[スイギュウ]]の糞を[[円盤]]状にして天日乾燥させ、自家用の[[燃料]]などにする風習が広範囲で見られる<ref name="endo_2015_54"/>。これは[[牛糞ケーキ]]と呼ばれ、[[直径]]5 - 30cmで厚さ2.5 - 9cmのものが作られ、[[円柱]]や[[直方体]]の形に積み上げて保管される<ref name="konasukawa_2015_61">{{Harvnb|小茄子川歩|2015|p=61}}</ref><ref name="endo_2015_55">{{Harvnb|遠藤仁|2015|p=55}}</ref><ref name="endo_2015_56"/>。牛糞ケーキは[[薪]]のように遠方の[[森林]]まで行かずに簡便に入手でき、環境への負担も少ない<ref name="endo_2015_56"/>。[[ガス燃料]]や[[電気]]が十分に普及していない南アジアの農村部では、重要な燃料となっている<ref name="endo_2015_56"/>。[[インド]]では年間5億6,200万[[トン]]の牛糞が発生し、その37%にあたる2億800万トンが燃料として使用されている<ref name="konasukawa_2015_62">{{Harvnb|小茄子川歩|2015|p=62}}</ref>。[[1980年代]]の調査では、乾燥糞燃料は同国の民生用燃料の21%を占めている<ref name="bathini_2011_719">{{Harvnb|バティニ・マドシリ|渡辺征夫|2015|p=719}}</ref>。

牛糞ケーキの作製は女性の仕事とされ円盤状に成形して乾燥させる<ref name="endo_2015_55"/>。地域によっては[[コムギ]]や[[トウモロコシ]]の[[茎]]などの作物残渣や[[水]]と混合し、[[火力]]や燃焼時間を調整する<ref name="endo_2015_55"/>。保管の際は数段積み上げて[[泥]]と糞の混合物で外壁を作り、場合によっては植物や[[ビニールシート]]で覆い、[[雨季]]も燃料として使用できるように対策が講じられている<ref name="endo_2015_55"/>。

牛糞ケーキの[[発熱量]]は12 - 13[[ジュール|MJ]]/[[キログラム|kg]]とされ、これは[[薪]]の発熱量の60 - 80%程度に相当する<ref name="bathini_2011_720">{{Harvnb|バティニ・マドシリ|渡辺征夫|2015|p=720}}</ref>。[[かまど]]などの環境や牛糞ケーキの状態によって燃焼特性は大きく異なり、燃焼時間は30分 - 9時間、ケーキ自身の[[温度]]は最高200 - 360[[セルシウス度|°C]]になる<ref name="endo_2015_55"/><ref name="endo_2015_56">{{Harvnb|遠藤仁|2015|p=56}}</ref>。また、[[鞴]]を備えた炉中で燃焼させると、炉内の温度は1,338°Cにも達する<ref name="endo_2015_56"/>。なお、{{仮リンク|ベンガル・デルタ|en|Ganges Delta}}など[[土壌]]や[[地下水]]が[[ヒ素]]で汚染されている地域では、ウシの体内で[[生物濃縮]]されたヒ素が牛糞ケーキの煙に含まれるなど、健康面の悪影響が指摘されている<ref name="endo_2015_56"/>。

<gallery>
File:A Pile of Dung Cakes.JPG|[[パンジャーブ州 (インド)|パンジャーブ州]]{{仮リンク|モーガー県|en|Moga, Punjab}}の牛糞ケーキの山
File:(A) cow dung cooking fuel cakes being produced at Chunar, Uttar Pradesh India.jpg|[[ウッタル・プラデーシュ州]][[チュナール]]の牛糞ケーキ
File:Making Dung Fuel Near Agra India.jpg|[[ウッタル・プラデーシュ州]][[アーグラ]]郊外で、牛糞ケーキを作る人々
File:Drying cow dung.jpg|[[タミル・ナードゥ州]][[ティルッパランクンダム]]で牛糞を乾燥させる女性
</gallery>

=== モンゴル ===
[[モンゴル]]では乾燥した牛糞をアルガル(aryal)と呼ぶが、さらに[[春夏秋冬]]ごとに異なる名称がある<ref name="pao_2015_35">{{Harvnb|包海岩|2015|p=35}}</ref>。
*ハラ・アルガル(黒い乾燥牛糞):[[春]]の牛糞。主に前年の[[干し草]]を食べるため牛糞は非常に[[火力]]が強い上、崩れにくく持ち運びにも適している<ref name="pao_2015_36">{{Harvnb|包海岩|2015|p=36}}</ref>。
*サリソン・アルガル(皮のように薄い乾燥牛糞):[[初夏]]の牛糞。この時期は牛糞は希薄で、排泄後は[[フンコロガシ]]に侵食されるため乾燥すると薄くなる<ref name="pao_2015_36"/>。[[雨季]]のため雨水にさらされ、火力は年間で最も弱い<ref name="pao_2015_36"/>。
*シラ・アルガル(黄色い乾燥牛糞):[[秋]]の牛糞。草の[[種子]]や[[マメ科]]の植物残渣を食べるため、牛糞は油分を多く含んで黄色くなり、火力も強い<ref name="pao_2015_36"/>。
*フルドグス(凍結糞):[[冬]]の牛糞。冬季は主に枯草を食べるため、春と同様に牛糞は黒い<ref name="pao_2015_36"/>。なお、草原が[[雪]]に覆われている時は[[飼料]]として[[トウモロコシ]]なども与えられるため、糞にこれらの種子が含まれると[[カササギ]]や[[スズメ]]の餌となる<ref name="pao_2015_36"/>。

このほか、以下のような呼称もある
*フヘ・アルガル(青い乾燥牛糞):1年以上経ってよく乾燥した青黒い牛糞<ref name="pao_2015_36"/>。
*ウムグ・アルガル:フルドグスが[[解凍]]してから乾燥した牛糞。柔らかく着火しやすいが、もろく崩れやすい<ref name="pao_2015_36"/>。

=== バイオガス ===
[[File:Cow (4398591300).jpg|thumb|right|240px|[[バイオガス]]製造に糞を利用されるウシ]]
{{Main|バイオガス}}
[[ウシ]]の糞尿を嫌気的条件に置いて[[発酵]]させ、[[メタン|メタンガス]]を発生させた上で残った糞尿を液肥として利用する方法が提案されている<ref name="matsunaka_1999_523"/>。発酵の初期では、[[通性嫌気性生物|通性]]ないし偏性[[嫌気性生物|嫌気性細菌]]が生産した[[加水分解酵素]]によって、糞尿に含まれる[[タンパク質]]や[[リグニン]]、[[炭水化物]]などが[[加水分解]]されて[[低分子]]となる<ref name="matsunaka_1999_523"/>。この低分子は[[酪酸]]や[[プロピオン酸]]、[[酢酸]]、[[ギ酸]]などの[[低級脂肪酸]]まで分解され、同時に[[アミノ酸]]も分解されて[[硫化水素]]や[[アンモニア]]が生成される<ref name="matsunaka_1999_523"/>。最終的には、偏性嫌気性細菌が酪酸やギ酸を消費して[[メタン]]を生成するため、糞尿液の悪臭が軽減される<ref name="matsunaka_1999_523"/>。また、特に高温で発酵を進める事で、病原性細菌も減少する事が報告されている<ref name="matsunaka_1999_523"/>。

== 宗教における牛糞 ==
=== インド ===
[[File:Shiva offering.jpg|thumb|left|200px|[[シヴァ]]に捧げられる牛糞。インドでは祭において牛糞で神や山、人などの像を作る<ref name="koiso_2015_44"/>。]]
[[インド]]で盛んな[[ヒンドゥー教]]において[[コブウシ]]は神聖視され、その牛糞は祭り火などに用いられる<ref name="koiso_2015_43"/>。[[スイギュウ]]の糞は[[燃料]]などの実利的な用途に使用されるが、儀礼には使用されない<ref name="koiso_2015_44"/>。また、牛糞はヒンドゥー教の普及以前から信仰の場面に用いられ、[[紀元前30世紀|紀元前30]] - [[紀元前20世紀|前20世紀]]頃に集積した牛糞を儀礼的に燃やした跡である{{仮リンク|アッシュマウンド|en|Neolithic ashmounds}}は、インド南部に見られる<ref name="koiso_2015_43"/>。[[紀元前6世紀|紀元前6]] - [[紀元前6世紀|5世紀]]に書かれた[[ブラーフマナ|シャタパタ・ブラーフマナ]]には、「祭祀のための火壇に浄化のために牛糞が塗布された」という記述がある<ref name="koiso_2015_43">{{Harvnb|小磯学|2015|p=43}}</ref>。

さらに、律法経である『[[ダルマ・スートラ|パウダーヤナ・ダルマ・スートラ]]』においては、牛の[[牛乳|乳]]や酸乳、糞、尿などが聖なる存在であり浄化作用を持つ、と初めて明確に記述されている<ref name="koiso_2015_43"/>。また『[[マヌ法典]]』には、家と地面の浄化には牛糞を塗布すべしという記載がある<ref name="koiso_2015_44">{{Harvnb|小磯学|2015|p=44}}</ref>。このような考えをもとに、[[アーユルヴェーダ]]の観点から[[現代]]でも[[洗顔料]]や[[歯磨剤]]、[[石鹸]]などの原料に牛糞を用いている<ref name="koiso_2015_44"/>。また、[[食器]]の洗浄にも牛糞を使う事がある<ref name="koiso_2015_44"/>。牛糞を焼いた灰は{{仮リンク|ヴィブーティ|en|Vibhuti}}と呼ばれ、[[額]]や全身に塗布するほか、魔除けの[[お守り|護符]]ともされる<ref name="koiso_2015_45"/>。また牛糞ケーキの山には、[[邪視|邪視信仰]]に基づいて棒に差した[[サンダル]]が飾られる事も多い<ref name="konasukawa_2015_61"/>。

儀式においては、3 - 5歳の剃髪式で切った[[頭髪]]は[[黒魔術]]に利用されないよう牛糞で包み、牛小屋に埋めるか川に流す<ref name="koiso_2015_44"/>。また、女性は[[初潮]]や[[出産]]の後に水に溶かした牛糞を体や[[衣服]]、[[毛布]]などに塗り、衣服などはそのまま埋めて破棄する<ref name="koiso_2015_44"/>。[[ベンガル地方]]では、[[宗教における罪|宗教的]]ないし[[犯罪|社会的]]な罪をおかした場合に、乾燥した牛糞を食べて[[穢れ]]を払う事がある<ref name="koiso_2015_44"/>。

[[File:Sidewalk Seller.jpg|thumb|right|200px|[[ホーリー祭]]期間に[[牛糞ケーキ]]などを路上で販売する女性]]
牛糞で[[神像]]などを作って供える祭祀としては、以下のようなものがある<ref name="koiso_2015_45">{{Harvnb|小磯学|2015|p=45}}</ref>。また、{{仮リンク|ポンガル|en|Thai Pongal}}においては牛糞の祭り火で不要なものを焼いて大掃除を行う<ref name="koiso_2015_45"/>。[[ホーリー祭]]では[[牛糞ケーキ]]を積み上げ、中に入れた[[ホリカ]]の像を焼いてその灰を体に塗る<ref name="koiso_2015_45"/>ほか、[[電線]]に小型の牛糞ケーキを巻き付けて燃やす<ref name="konasukawa_2015_61"/>。
*[[ディーワーリー]]内の{{仮リンク|バリ・プラティパダー|en|Balipratipada}}:10 - 11月、[[カルナータカ州]]や[[タミル・ナードゥ州]]を中心とする
*ディーワーリー内の{{仮リンク|ゴーヴァルダン・プージャー|en|Govardhan Puja}}:10 - 11月、インド北部を中心とする
*ポンガル:1 - 2月、特にタミル・ナードゥ州など
*ホーリー祭:2 - 3月、インド全土

タミル・ナードゥ州[[イーロードゥ県]]にはゴーレ・ハッバと呼ばれる祭があり、ディーワーリーの5日目に村人同士で牛糞を投げ合う<ref name="konasukawa_2015_61"/>。[[アーンドラ・プラデーシュ州]]{{仮リンク|クルヌール県|en|Kurnool district}}では、{{仮リンク|ウガディ|en|Ugadi}}の一環として[[春分]]の到来を祝うピタガラ・サマラムにおいて、同じく村人が牛糞を投げあう<ref name="konasukawa_2015_61"/>。[[ウッタル・プラデーシュ州]]{{仮リンク|ファッルカーバード県|en|Farrukhabad district}}では、[[雨季]]に降雨がない時に女性らが[[インドラ]]に祈ったのち、互いに牛糞を投げ合って[[雨乞い]]をする風習がある<ref name="konasukawa_2015_61"/>。

=== その他 ===
[[ケニア]]の[[キプシギス族]]の社会においては、[[ウシ]]は儀礼的価値の中心に位置する<ref name="koma_1985_4">{{Harvnb|小馬徹|1985|p=4}}</ref>。家屋の戸口のすぐ東側に設けられる[[祭壇]]の基部には牛糞が置かれ、牛糞 - 天 - [[一神教|唯一神]]アシス - [[雲]] - [[雨]] - [[草]] - 牛 - 牛糞 という回路を介して、世界の「上」と「下」がコミュニケートされる、と考えられている<ref name="koma_1985_4"/>。

== 建材利用 ==
半乾燥地である[[インド]]北西部では、村落部の多くで家屋の[[壁]]や[[床]]を土で構築し、一部では[[土間]]の強化のため[[ウシ]]の糞尿を加える<ref name="endo_2015_53">{{Harvnb|遠藤仁|2015|p=53}}</ref>。[[グジャラート州]][[カッチ県]]では、[[赤土]]に対して1:1の比率で[[コブウシ]]の糞を加え、少量の水を加えて練り合わせる<ref name="endo_2015_54">{{Harvnb|遠藤仁|2015|p=54}}</ref>。これを土間に均一に塗った上からコブウシの尿をかけ、半日ほどかけて乾燥させると完成となる<ref name="endo_2015_54"/>。牛糞に含まれる[[腸内細菌]]や未消化の[[食物繊維]]によって、[[埃]]の立たない丈夫な床になると考えられている<ref name="endo_2015_54"/>。糞尿を混ぜない場合は1ヶ月で土間が崩れるが、混ぜた場合は1年ほど維持できるという<ref name="endo_2015_54"/>。

同地では[[かまど]]も同様に赤土と牛糞を原料とし、これに水と灰を加える<ref name="endo_2015_54"/>。かまどは火を入れて使うため[[焼結]]し、数年間は使用できる<ref name="endo_2015_54"/>。これらの作業には女性のみが従事する<ref name="endo_2015_54"/>。

この他、[[モンゴル]]では排泄されたばかりの柔らかい牛糞を、[[ヤナギ]]の枝で組んだ[[柵]]や壁に塗布する<ref name="pao_2015_36"/>。また、家畜小屋の穴を塞ぐのにも使い、寒気から[[家畜]]を保護する<ref name="pao_2015_36"/>。[[エルサルバドル]]では、[[粘性]]を増すために[[粘土]]に牛糞を加えて[[スペイン瓦]]を生産している<ref name="kajiwara_2011_48">{{Harvnb|梶原義実|2011|p=48}}</ref>。牛糞は[[篩|ふるい]]にかけて細かくし、粘土に対して約8:2の比率で加えて土練りを行う<ref name="kajiwara_2011_48"/>。

== 環境への負荷と法的規制 ==
=== 日本 ===
[[酪農|酪農場]]においては糞尿を[[土壌]]に加えることにより、土 - 飼料 - 乳牛という[[窒素]]などの[[養分]]のサイクルが成立しているが、飼養規模の拡大などにともない農場の面積に対して糞尿の量が増大してきた<ref name="matsunaka_1999_523">{{Harvnb|松中照夫|1999|p=523}}</ref>。[[農地|農耕地]]に施与して環境に悪影響をおよぼさない[[窒素]]の上限量は年間250[[キログラム|kg]]/[[ヘクタール|ha]]程度と言われているが、[[1993年]]の[[日本]]における調査では、[[都道府県]]別の農耕地面積から算出した窒素負荷量が、宮崎県の606kg/haを筆頭に[[鹿児島県]]と[[徳島県]]、[[愛知県]]の計4県でこの上限値を超えていた<ref name="sakamoto_1999_65">{{Harvnb|坂本定禧|佐藤豊信|横溝功|1999|p=65}}</ref>。また、牛糞は[[鶏糞]]などと比べて[[堆肥化]]される割合が低く、広域的な流通も困難という問題点があった<ref name="sakamoto_1999_65"/>。

ウシの糞尿は、畜産農家が[[工芸作物|飼料作物]]向けに自家利用するケースが多いが、堆肥化せずに生で使用したり、前述のように耕地の窒素負荷量の上限を超えてしまう事もあった<ref name="sakamoto_1999_66">{{Harvnb|坂本定禧|佐藤豊信|横溝功|1999|p=66}}</ref>。なお、糞尿処理物を農耕地に施与する際の悪影響としては、[[悪臭]]が最も懸念されている<ref name="matsunaka_1999_527">{{Harvnb|松中照夫|1999|p=527}}</ref>。[[水質汚濁防止法]]によって、閉鎖性海域および指定湖沼の集水域にあり牛舎房の総面積が200m&sup2;以上の事業所に対しては、排水に含まれる無機態窒素は120mg/L、[[リン]]は16mg/L以内にそれぞれ収めるよう規制がなされている<ref name="rural_2010_147"/>。糞尿の農地使用については規制がない状態が続いていたが、[[1999年]]に[[家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律]](家畜排泄物法)が施行され、対象となる一定規模以上([[ウシ]]の場合は、飼育頭数10頭以上)の農家の99.98%で、[[2012年]]までに[[コンクリート]]など不浸透性材料で床を築造した家畜糞用の管理施設などが整備された<ref name="maff_haisetsu-raw">{{Cite web |url= http://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/t_mondai/04_zyokyo/index.html|title= 家畜排せつ物法管理基準と施行状況|publisher= 農林水産省|accessdate= 2015-12-02}}</ref>。

=== アメリカ合衆国 ===
[[アメリカ合衆国]]においては、[[2003年]]から{{仮リンク|高密度家畜飼養経営体|en|Concentrated Animal Feeding Operation}}(CAFO)を対象に、家畜糞尿による環境への負荷を軽減する事が義務付けられている<ref name="rural_2010_147">{{Cite web |url= http://lib.ruralnet.or.jp/nisio/?p=1429|title=
西尾道徳の環境保全型農業レポート No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況|author= 西尾道徳|publisher= [[農山漁村文化協会]]ルーラル電子図書館|date= 2010-03-10|accessdate= 2015-12-17}}</ref>。これ以前は畜産経営体は{{仮リンク|クリーンウォーター法|en|Clean Water Act}}の適用外だったが、CAFOには表流水の汚染を避ける対策が義務付けられた<ref name="rural_2010_147"/>。

同国では[[ラグーン]]に家畜糞尿を貯めてから、[[飼料]]生産[[農地]]に散布される事が多い<ref name="rural_2010_147"/>。この際、以下のような義務が生じる<ref name="rural_2010_147"/>。
*[[大雨]]でもラグーンから糞尿が漏出しないように対策する
*表流水から30m以内に糞尿を散布しない
*[[化学肥料]]および糞尿から作物要求量を超える養分を農地に施用しないよう、管理計画を作成して記録する
*作物要求量を超える糞尿は、他人に譲渡したり農地還元以外の方法で処理ないし利用する

アメリカでは、搾乳牛1頭の標準的な糞尿生産量を年間約25[[トン]]、うち窒素150kg、[[リン]]25 kg、[[カリウム]]16kgと規定している<ref name="rural_2010_147"/>。酪農経営体が栽培するケースが多い[[トウモロコシ]]の窒素吸収量は年間140kg/haほどであり、搾乳牛1頭に対して約1haのトウモロコシ農地が必要となる<ref name="rural_2010_147"/>。同国の牛乳生産は西部で拡大しており、[[カリフォルニア州]]や[[アイダホ州]]、[[ニューメキシコ州]]といった主要生産地域に加え、[[ワシントン州]]や[[アリゾナ州]]、[[テキサス州]]でも牛乳生産量は多い<ref name="rural_2010_147"/>。一方で、西部には作物を自家生産しない酪農経営体も多いため、過剰な糞尿の排出先が必要となっている<ref name="rural_2010_147"/>。なお、リンの施用量を基準内に収められるだけの農地を所有するCAFOは全国的にも少なく、特に牛の飼育頭数が1,000頭を超えるCAFOでは、[[2000年]]の時点で1.8%の事業者しか十分な農地を升有していない<ref name="rural_2010_147"/>。

=== ヨーロッパ ===
[[欧州連合|EU諸国]]では、窒素施与量や水系からの距離について、下表のような法規制を定めている<ref name="haga_2010_410">{{Harvnb|羽賀清典|2010|p=410}}</ref>。一般的に自家用農地が十分に広いため、液状処理を行って自家用農地に施用することが基本となっている<ref name="haga_2010_410"/>。

{| class="wikitable"
|+ EU諸国の法規制
| rowspan="2" align="center" style="background:#f0f0f0;"|''''''
| colspan="2" align="center" style="background:#f0f0f0;"|'''[[イギリス]]'''
| rowspan="2" align="center" style="background:#f0f0f0;"|'''[[オランダ]]'''
| rowspan="2" align="center" style="background:#f0f0f0;"|'''[[デンマーク]]'''
| rowspan="2" align="center" style="background:#f0f0f0;"|'''[[ドイツ]]'''
| rowspan="2" align="center" style="background:#f0f0f0;"|'''[[フランス]]'''
|-
| align="center" |草地
| align="center" |畑地
|-
|糞尿由来の窒素施与上限量(kg/ha)
| align="center" |250
| align="center" |10
| align="center" |170
| align="center" |140
| align="center" |170
| align="center" |170
|-
|糞尿の施与禁止期間||9月 - 10月||8月 - 10月||最長:9月 - 1月||収穫後 - 1月||11月 - 1月||7月 - 1月
|-
|施与地から水系までの必要距離(m)
| colspan="2" align="center" |10
| align="center" |5
| align="center" |15
| align="center" colspan="2" |(表面流去防止)
|-
|}

== 脚注 ==
{{commons category|Cattle feces}}
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
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|author = 包海岩
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|journal = 沙漠研究
|volume = 25
|issue = 2
|pages = 33-41
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|naid =
|doi = 10.14976/jals.25.2_33
|ref = harv }}
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|author = 小磯学
|title = ヒンドゥー教における牛の神聖視と糞の利用
|url = https://www.jstage.jst.go.jp/article/jals/25/2/43_51/_pdf
|year = 2015
|journal = 沙漠研究
|volume = 25
|issue = 2
|pages = 43-51
|publisher = 日本沙漠学会
|naid =
|doi = 10.14976/jals.25.2_43
|ref = harv }}
*{{Cite journal |和書
|author = 遠藤仁
|title = インド北西部における家畜糞利用の現状と課題
|url = https://www.jstage.jst.go.jp/article/jals/25/2/53_58/_pdf
|year = 2015
|journal = 沙漠研究
|volume = 25
|issue = 2
|pages = 53-58
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|naid =
|doi = 10.14976/jals.25.2_53
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|author2 = 西森一浩|
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|naid = 40003101289
|doi = 10.11357/jsam1937.39.93
|ref = harv }}
{{デフォルトソート:きゆうふん}}
[[Category:牛]]
[[Category:畜産]]
[[Category:老廃物]]

2015年12月18日 (金) 13:13時点における版

ウシと牛糞

牛糞(ぎゅうふん)はウシ廃棄物として処理が問題になる一方で、堆肥燃料建材などとして利用され、宗教行事にも用いられる。

排泄量と成分

排泄量

ウシの排泄量は、飼料の摂取量や種類、環境や乳量によって異なる事が知られている[1]日本国内の研究機関で延べ535頭の乳牛を対象にした調査によると、2頭以上の子牛を出産した乾物摂取量22kg/日、乳量34kg/日のウシは糞量が52kg/日、乾乳期で乾物摂取量10kg/日のウシでは糞量が20kg/日となっている[1]。なお、尿の量はそれぞれ15kg/日、12kg/日である[1]。また、肉用牛の場合は糞尿を合わせた排泄量の基準値が、23 - 25kg/日とされる[2]

なお乳牛の1日あたりの糞量については次の式が報告されており、中性デタージェント繊維英語版の含有量の低い飼料を与える事で、糞量を低減できる可能性が指摘されている[1]

X:糞量(kg), D:乾物摂取量(kg), NDF:中性デタージェント繊維含有量(kg)

日本の場合は、2013年の1年間で乳牛と肉用牛からそれぞれ約2,442万トン、2,357万トンの糞尿が発生しており、同国全体の家畜排泄物8,295万トンのうち約58%を占めている[3]インドでは、ウシやスイギュウから年間5億6,200万トンの糞が排泄されている[4]

成分

牛糞に含まれる水分の比率は肉用牛の場合で80%と高く[2]、乳牛の糞を乾燥させた別の調査でも固形分以外の液体などが85%を占めている[5]。乾物中の約70%は可溶無窒化物と粗繊維などの炭水化物系物質であり、タンパク質や脂肪は少ない[6]繊維分は飼料中の40 - 50%が糞として排泄されるが、非繊維性の炭水化物は80%以上が消化されており排泄比率は低い[5]。泌乳期の乳牛では飼料に含まれる窒素のうち29 - 50%が糞中に排泄され、1日あたりの同排泄量は133 - 172gとなる[5]

また、ふすま米ぬかを飼料として与えた場合は、これらに含まれるリンの含有量が増加する[7]。リンは第一胃内の微生物の重要な栄養源となり消化を助けているが、濃厚飼料の多給などによって体内利用量を超えるリンを摂取すると、そのまま糞尿として排泄される[7]。また亜鉛などの重金属は、ウシが経口摂取しても体内にはほぼ蓄積されず、糞尿中に排出される[7]

自然界における牛糞

ハエと牛糞

排泄された牛糞が放置されると、糞虫などの昆虫が飛来する。日中に牛糞が発生した場合は当日よりも翌日以降の方が多くの虫が集まり、草地の例では1日後に飛来した昆虫の個体数は当日の夕方までの個体数に比べて3 - 6倍に増加したという報告がある[8]。これは、多くの糞虫が夜行性であるためと考えられている[8]。また、発生個所が森林の場合は翌日から4日後にかけて緩やかに飛来数が増加し、集糞性甲虫類ハネカクシシデムシも多く集まる[8][9]。牛糞の周囲の環境によって、好日性ないし嫌日性の昆虫の集まりやすさなどに影響がある[8]

糞虫が自由に活動できる条件下で1kgの牛糞を草地に放置した実験では、1週間後に4分の1の牛糞が消失した[10]。残存したものも糞虫のいない場合に比べて約半分の341gまで重量が減少し、糞虫による利用は牛糞の残存量に有意な影響を及ぼす[10]。一方で、乾燥が一定以上進んで表面が固くなった牛糞は糞虫に利用されなくなり、その後は主に風化作用によって分解されていく[10]。乾燥の進行は日照時間などの環境によって大きく左右される[8]。なお、放牧地に牛糞が存在するとウシは主に臭気を嫌ってその周辺の草を食べなくなる[11]

また、牛糞を大量に地表に積み上げると、20cm以上の深さ範囲まで窒素濃度が上昇する[12]降雨などによって5年ほどで窒素濃度は元に戻るが、この間はイヌビエシロザなど窒素耐性の高い植物が優先的に成長する[12]

農業利用

堆肥

ロータリー式の堆肥製造装置

ウシおよび尿に、麦ワラオガクズウッドチップなど植物性副資材を混ぜ、発酵させる事によって堆肥が得られる[13]。この際、十分な量の副資材を混ぜて水分の割合を60 - 70%程度まで下げるともに、積み上げた混合物の山を定期的に混ぜ返す事が重要になる[13]。水分が過剰であったり混ぜ返しを行わないと、好気性微生物に十分な酸素が供給されず分解が進まない[13]。このため堆肥化が阻害され悪臭も増加し、特に北海道の酪農地帯では乳牛の糞尿を十分に水分調整せずに堆肥化が不十分な例が見られる[13]

発酵が順調に進行すると、酸素供給が順調な条件下では1日も経たずに内部の温度が70°Cまで上昇し、混ぜ返すと湯気が立ち上る[13][14]。発酵および熟成を十分に進めると黒色の堆肥が得られ、土壌に加える事で透水性や保水性、通気性、保肥力を改善する土壌改良の効果がある[13]。家畜糞から得られる堆肥としては、鶏糞豚糞由来のものと比べてリン酸窒素などの肥料成分が少ない[15]。なお牛糞堆肥の中でも、水分が50%以上のものは養分が偏りは小さいものの全体的に少なく、50%以下のものはカリウムが他の家畜糞堆肥と同程度に高いという特徴がそれぞれある[15]

牛糞堆肥は、施肥されて分解が進むと様々な有機酸を形成する[16]。このため堆肥とともにリン酸を施肥すると、有機酸のキレート効果によって土壌コロイドへのリン酸固定が軽減されるため、植物への吸収量が高まる[16]。また、塩基交換容量の非常に高い腐植となって土壌を改良する効果が期待でき、カリウムカルシウムマグネシウムなどの植物への吸収量を高める[17]

マルチ資材

タイイーサーンでは、農業用のマルチ資材として牛糞が最もよく用いられる[18]。同地ではブラーマン種や在来種が粗飼料のみを食べて放牧されているため、牛糞は風乾した状態で簡単にパウダー状になる[19]。果菜類の栽培に使う場合は、の周囲に直径20cmほどの窪みを形成し、約400mlの牛糞をきっちりと敷き詰める[19]。これによって肥効が得られるとともに土壌の保水性が向上する、と現地の農家は考えている[19]

スイカキュウリなどウリ科の作物には牛糞マルチは行わないが、トウガラシトマトなどのナス科およびマメ科の作物には牛糞マルチを施す[19]。これは、牛糞から溶出する成分がウリ科の植物に根腐れを起こす事などが経験的に知られているためである[19]。牛糞の肥料効果については、このような短期間に水に溶出する成分と、長期間にわたって分解される成分の2種類があると考えられる[19]。前者は主にカリウムであり、窒素リンは少量のため影響はほとんどない[20]。また、厚さ1cmの牛糞マルチは水の蒸発速度を5分の1に抑制する効果があり、本来は毎日行う灌水が5日に1回で済むようになる[20]。蒸発速度は牛糞層の厚みの平方根反比例し、4cmでは灌水が10日に1回で足りるようになる[20]

燃料

インドプシュカルで乾燥した牛糞を燃やす

南アジア

インドなど南アジアでは、コブウシスイギュウの糞を円盤状にして天日乾燥させ、自家用の燃料などにする風習が広範囲で見られる[21]。これは牛糞ケーキと呼ばれ、直径5 - 30cmで厚さ2.5 - 9cmのものが作られ、円柱直方体の形に積み上げて保管される[22][23][24]。牛糞ケーキはのように遠方の森林まで行かずに簡便に入手でき、環境への負担も少ない[24]ガス燃料電気が十分に普及していない南アジアの農村部では、重要な燃料となっている[24]インドでは年間5億6,200万トンの牛糞が発生し、その37%にあたる2億800万トンが燃料として使用されている[25]1980年代の調査では、乾燥糞燃料は同国の民生用燃料の21%を占めている[26]

牛糞ケーキの作製は女性の仕事とされ円盤状に成形して乾燥させる[23]。地域によってはコムギトウモロコシなどの作物残渣やと混合し、火力や燃焼時間を調整する[23]。保管の際は数段積み上げてと糞の混合物で外壁を作り、場合によっては植物やビニールシートで覆い、雨季も燃料として使用できるように対策が講じられている[23]

牛糞ケーキの発熱量は12 - 13MJ/kgとされ、これはの発熱量の60 - 80%程度に相当する[27]かまどなどの環境や牛糞ケーキの状態によって燃焼特性は大きく異なり、燃焼時間は30分 - 9時間、ケーキ自身の温度は最高200 - 360°Cになる[23][24]。また、を備えた炉中で燃焼させると、炉内の温度は1,338°Cにも達する[24]。なお、ベンガル・デルタ英語版など土壌地下水ヒ素で汚染されている地域では、ウシの体内で生物濃縮されたヒ素が牛糞ケーキの煙に含まれるなど、健康面の悪影響が指摘されている[24]

モンゴル

モンゴルでは乾燥した牛糞をアルガル(aryal)と呼ぶが、さらに春夏秋冬ごとに異なる名称がある[28]

  • ハラ・アルガル(黒い乾燥牛糞):の牛糞。主に前年の干し草を食べるため牛糞は非常に火力が強い上、崩れにくく持ち運びにも適している[29]
  • サリソン・アルガル(皮のように薄い乾燥牛糞):初夏の牛糞。この時期は牛糞は希薄で、排泄後はフンコロガシに侵食されるため乾燥すると薄くなる[29]雨季のため雨水にさらされ、火力は年間で最も弱い[29]
  • シラ・アルガル(黄色い乾燥牛糞):の牛糞。草の種子マメ科の植物残渣を食べるため、牛糞は油分を多く含んで黄色くなり、火力も強い[29]
  • フルドグス(凍結糞):の牛糞。冬季は主に枯草を食べるため、春と同様に牛糞は黒い[29]。なお、草原がに覆われている時は飼料としてトウモロコシなども与えられるため、糞にこれらの種子が含まれるとカササギスズメの餌となる[29]

このほか、以下のような呼称もある

  • フヘ・アルガル(青い乾燥牛糞):1年以上経ってよく乾燥した青黒い牛糞[29]
  • ウムグ・アルガル:フルドグスが解凍してから乾燥した牛糞。柔らかく着火しやすいが、もろく崩れやすい[29]

バイオガス

バイオガス製造に糞を利用されるウシ

ウシの糞尿を嫌気的条件に置いて発酵させ、メタンガスを発生させた上で残った糞尿を液肥として利用する方法が提案されている[30]。発酵の初期では、通性ないし偏性嫌気性細菌が生産した加水分解酵素によって、糞尿に含まれるタンパク質リグニン炭水化物などが加水分解されて低分子となる[30]。この低分子は酪酸プロピオン酸酢酸ギ酸などの低級脂肪酸まで分解され、同時にアミノ酸も分解されて硫化水素アンモニアが生成される[30]。最終的には、偏性嫌気性細菌が酪酸やギ酸を消費してメタンを生成するため、糞尿液の悪臭が軽減される[30]。また、特に高温で発酵を進める事で、病原性細菌も減少する事が報告されている[30]

宗教における牛糞

インド

シヴァに捧げられる牛糞。インドでは祭において牛糞で神や山、人などの像を作る[31]

インドで盛んなヒンドゥー教においてコブウシは神聖視され、その牛糞は祭り火などに用いられる[32]スイギュウの糞は燃料などの実利的な用途に使用されるが、儀礼には使用されない[31]。また、牛糞はヒンドゥー教の普及以前から信仰の場面に用いられ、紀元前30 - 前20世紀頃に集積した牛糞を儀礼的に燃やした跡であるアッシュマウンド英語版は、インド南部に見られる[32]紀元前6 - 5世紀に書かれたシャタパタ・ブラーフマナには、「祭祀のための火壇に浄化のために牛糞が塗布された」という記述がある[32]

さらに、律法経である『パウダーヤナ・ダルマ・スートラ』においては、牛のや酸乳、糞、尿などが聖なる存在であり浄化作用を持つ、と初めて明確に記述されている[32]。また『マヌ法典』には、家と地面の浄化には牛糞を塗布すべしという記載がある[31]。このような考えをもとに、アーユルヴェーダの観点から現代でも洗顔料歯磨剤石鹸などの原料に牛糞を用いている[31]。また、食器の洗浄にも牛糞を使う事がある[31]。牛糞を焼いた灰はヴィブーティ英語版と呼ばれ、や全身に塗布するほか、魔除けの護符ともされる[33]。また牛糞ケーキの山には、邪視信仰に基づいて棒に差したサンダルが飾られる事も多い[22]

儀式においては、3 - 5歳の剃髪式で切った頭髪黒魔術に利用されないよう牛糞で包み、牛小屋に埋めるか川に流す[31]。また、女性は初潮出産の後に水に溶かした牛糞を体や衣服毛布などに塗り、衣服などはそのまま埋めて破棄する[31]ベンガル地方では、宗教的ないし社会的な罪をおかした場合に、乾燥した牛糞を食べて穢れを払う事がある[31]

ホーリー祭期間に牛糞ケーキなどを路上で販売する女性

牛糞で神像などを作って供える祭祀としては、以下のようなものがある[33]。また、ポンガル英語版においては牛糞の祭り火で不要なものを焼いて大掃除を行う[33]ホーリー祭では牛糞ケーキを積み上げ、中に入れたホリカの像を焼いてその灰を体に塗る[33]ほか、電線に小型の牛糞ケーキを巻き付けて燃やす[22]

タミル・ナードゥ州イーロードゥ県にはゴーレ・ハッバと呼ばれる祭があり、ディーワーリーの5日目に村人同士で牛糞を投げ合う[22]アーンドラ・プラデーシュ州クルヌール県英語版では、ウガディ英語版の一環として春分の到来を祝うピタガラ・サマラムにおいて、同じく村人が牛糞を投げあう[22]ウッタル・プラデーシュ州ファッルカーバード県英語版では、雨季に降雨がない時に女性らがインドラに祈ったのち、互いに牛糞を投げ合って雨乞いをする風習がある[22]

その他

ケニアキプシギス族の社会においては、ウシは儀礼的価値の中心に位置する[34]。家屋の戸口のすぐ東側に設けられる祭壇の基部には牛糞が置かれ、牛糞 - 天 - 唯一神アシス - - - - 牛 - 牛糞 という回路を介して、世界の「上」と「下」がコミュニケートされる、と考えられている[34]

建材利用

半乾燥地であるインド北西部では、村落部の多くで家屋のを土で構築し、一部では土間の強化のためウシの糞尿を加える[35]グジャラート州カッチ県では、赤土に対して1:1の比率でコブウシの糞を加え、少量の水を加えて練り合わせる[21]。これを土間に均一に塗った上からコブウシの尿をかけ、半日ほどかけて乾燥させると完成となる[21]。牛糞に含まれる腸内細菌や未消化の食物繊維によって、の立たない丈夫な床になると考えられている[21]。糞尿を混ぜない場合は1ヶ月で土間が崩れるが、混ぜた場合は1年ほど維持できるという[21]

同地ではかまども同様に赤土と牛糞を原料とし、これに水と灰を加える[21]。かまどは火を入れて使うため焼結し、数年間は使用できる[21]。これらの作業には女性のみが従事する[21]

この他、モンゴルでは排泄されたばかりの柔らかい牛糞を、ヤナギの枝で組んだや壁に塗布する[29]。また、家畜小屋の穴を塞ぐのにも使い、寒気から家畜を保護する[29]エルサルバドルでは、粘性を増すために粘土に牛糞を加えてスペイン瓦を生産している[36]。牛糞はふるいにかけて細かくし、粘土に対して約8:2の比率で加えて土練りを行う[36]

環境への負荷と法的規制

日本

酪農場においては糞尿を土壌に加えることにより、土 - 飼料 - 乳牛という窒素などの養分のサイクルが成立しているが、飼養規模の拡大などにともない農場の面積に対して糞尿の量が増大してきた[30]農耕地に施与して環境に悪影響をおよぼさない窒素の上限量は年間250kg/ha程度と言われているが、1993年日本における調査では、都道府県別の農耕地面積から算出した窒素負荷量が、宮崎県の606kg/haを筆頭に鹿児島県徳島県愛知県の計4県でこの上限値を超えていた[37]。また、牛糞は鶏糞などと比べて堆肥化される割合が低く、広域的な流通も困難という問題点があった[37]

ウシの糞尿は、畜産農家が飼料作物向けに自家利用するケースが多いが、堆肥化せずに生で使用したり、前述のように耕地の窒素負荷量の上限を超えてしまう事もあった[38]。なお、糞尿処理物を農耕地に施与する際の悪影響としては、悪臭が最も懸念されている[39]水質汚濁防止法によって、閉鎖性海域および指定湖沼の集水域にあり牛舎房の総面積が200m²以上の事業所に対しては、排水に含まれる無機態窒素は120mg/L、リンは16mg/L以内にそれぞれ収めるよう規制がなされている[40]。糞尿の農地使用については規制がない状態が続いていたが、1999年家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律(家畜排泄物法)が施行され、対象となる一定規模以上(ウシの場合は、飼育頭数10頭以上)の農家の99.98%で、2012年までにコンクリートなど不浸透性材料で床を築造した家畜糞用の管理施設などが整備された[41]

アメリカ合衆国

アメリカ合衆国においては、2003年から高密度家畜飼養経営体英語版(CAFO)を対象に、家畜糞尿による環境への負荷を軽減する事が義務付けられている[40]。これ以前は畜産経営体はクリーンウォーター法英語版の適用外だったが、CAFOには表流水の汚染を避ける対策が義務付けられた[40]

同国ではラグーンに家畜糞尿を貯めてから、飼料生産農地に散布される事が多い[40]。この際、以下のような義務が生じる[40]

  • 大雨でもラグーンから糞尿が漏出しないように対策する
  • 表流水から30m以内に糞尿を散布しない
  • 化学肥料および糞尿から作物要求量を超える養分を農地に施用しないよう、管理計画を作成して記録する
  • 作物要求量を超える糞尿は、他人に譲渡したり農地還元以外の方法で処理ないし利用する

アメリカでは、搾乳牛1頭の標準的な糞尿生産量を年間約25トン、うち窒素150kg、リン25 kg、カリウム16kgと規定している[40]。酪農経営体が栽培するケースが多いトウモロコシの窒素吸収量は年間140kg/haほどであり、搾乳牛1頭に対して約1haのトウモロコシ農地が必要となる[40]。同国の牛乳生産は西部で拡大しており、カリフォルニア州アイダホ州ニューメキシコ州といった主要生産地域に加え、ワシントン州アリゾナ州テキサス州でも牛乳生産量は多い[40]。一方で、西部には作物を自家生産しない酪農経営体も多いため、過剰な糞尿の排出先が必要となっている[40]。なお、リンの施用量を基準内に収められるだけの農地を所有するCAFOは全国的にも少なく、特に牛の飼育頭数が1,000頭を超えるCAFOでは、2000年の時点で1.8%の事業者しか十分な農地を升有していない[40]

ヨーロッパ

EU諸国では、窒素施与量や水系からの距離について、下表のような法規制を定めている[42]。一般的に自家用農地が十分に広いため、液状処理を行って自家用農地に施用することが基本となっている[42]

EU諸国の法規制
' イギリス オランダ デンマーク ドイツ フランス
草地 畑地
糞尿由来の窒素施与上限量(kg/ha) 250 10 170 140 170 170
糞尿の施与禁止期間 9月 - 10月 8月 - 10月 最長:9月 - 1月 収穫後 - 1月 11月 - 1月 7月 - 1月
施与地から水系までの必要距離(m) 10 5 15 (表面流去防止)

脚注

  1. ^ a b c d 永西修 et al. 2008, p. 785
  2. ^ a b 永西修 et al. 2008, p. 786
  3. ^ 家畜排せつ物の発生と管理の状況”. 農林水産省. 2015年12月2日閲覧。
  4. ^ 遠藤仁 2015, p. 57
  5. ^ a b c 生田健太郎 et al. 2014, p. 4
  6. ^ 生田健太郎 et al. 1987, p. 118
  7. ^ a b c 永西修 et al. 2008, p. 787
  8. ^ a b c d e 早川博文 & 山下伸夫 1997, p. 171
  9. ^ 早川博文 & 山下伸夫 1997, p. 170
  10. ^ a b c 瀧川幸司 et al. 1997, p. 39
  11. ^ 瀧川幸司 et al. 1997, p. 40
  12. ^ a b 一前宣正 & 西尾孝佳 2003, p. 11
  13. ^ a b c d e f りんたらくと 畜産Q&A 堆肥ってどんなものなのですか?”. 公益社団法人中央畜産会. 2015年12月2日閲覧。
  14. ^ 三浦保, 伊沢敏彦 & 森本国夫 1977, p. 93
  15. ^ a b 『千葉県家畜ふん尿処理利用の手引き』より 畜種別堆肥の特徴”. 千葉県. 2015年12月2日閲覧。
  16. ^ a b 冨田健太郎 2012, p. 1243
  17. ^ 冨田健太郎 2012, p. 1246
  18. ^ 小田正人, 中村乾 & Praphasri CHONGPRADITNUM 2010, p. 22
  19. ^ a b c d e f 小田正人, 中村乾 & Praphasri CHONGPRADITNUM 2010, p. 23
  20. ^ a b c 小田正人, 中村乾 & Praphasri CHONGPRADITNUM 2010, p. 29
  21. ^ a b c d e f g h 遠藤仁 2015, p. 54
  22. ^ a b c d e f 小茄子川歩 2015, p. 61
  23. ^ a b c d e 遠藤仁 2015, p. 55
  24. ^ a b c d e f 遠藤仁 2015, p. 56
  25. ^ 小茄子川歩 2015, p. 62
  26. ^ バティニ・マドシリ & 渡辺征夫 2015, p. 719
  27. ^ バティニ・マドシリ & 渡辺征夫 2015, p. 720
  28. ^ 包海岩 2015, p. 35
  29. ^ a b c d e f g h i j 包海岩 2015, p. 36
  30. ^ a b c d e f 松中照夫 1999, p. 523
  31. ^ a b c d e f g h 小磯学 2015, p. 44
  32. ^ a b c d 小磯学 2015, p. 43
  33. ^ a b c d 小磯学 2015, p. 45
  34. ^ a b 小馬徹 1985, p. 4
  35. ^ 遠藤仁 2015, p. 53
  36. ^ a b 梶原義実 2011, p. 48
  37. ^ a b 坂本定禧, 佐藤豊信 & 横溝功 1999, p. 65
  38. ^ 坂本定禧, 佐藤豊信 & 横溝功 1999, p. 66
  39. ^ 松中照夫 1999, p. 527
  40. ^ a b c d e f g h i j 西尾道徳 (2010年3月10日). “西尾道徳の環境保全型農業レポート No.147 アメリカの家畜ふん尿の状況”. 農山漁村文化協会ルーラル電子図書館. 2015年12月17日閲覧。
  41. ^ 家畜排せつ物法管理基準と施行状況”. 農林水産省. 2015年12月2日閲覧。
  42. ^ a b 羽賀清典 2010, p. 410

参考文献