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通り魔

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
秋葉原通り魔事件

通り魔(とおりま)とは、瞬間的に通り過ぎて、それに出会った人に災害を与えるという魔物(通り悪魔)。転じて通りすがりに人に不意に危害を加える者をいう[1]。通り魔による事件は通り魔事件と呼ばれる。

警察庁の定義で通り魔事件とは、人の自由に出入りできる場所において、確たる動機がなく、通りすがりに不特定の者に対し、凶器を使用するなどして殺傷等の危害を加える事件をいう[2]。 近年では、欧米各国で発生しているローンウルフによるテロ事件との区別がつきにくくなっているとされ、無差別殺傷事件などと呼ばれることも多い。

概要

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一般に「通り魔的犯行」とされるものには、以下の3種類がある[3]

  1. 人の多いところに出向いて犯罪を行う『単発犯
  2. 複数の被害者に手当たり次第に犯行を行う『スプリー犯
  3. 時間的に一連の犯行ではなく、散発的に行う『連続犯
単発犯
薬物などの影響や、幻覚妄想などの陽性症状、感情の平板化など陰性症状等の精神症状、脆弱な自我や反社会性など人格の問題などにより特徴づけられる。
スプリー犯
ストレス耐性の低さや肥大化した自己愛未熟な人格の問題、自我を守るための社会への怒りや恨み、防衛機制、刑事司法システムを利用した社会的自殺等に特徴づけられる。
連続犯
未熟な人格や反社会性等の人格の問題、生の実感の喪失、それにともない力を確認したいという感覚に特徴づけられる。若い女性を対象とする場合には性的な動機が背景にある場合が多い。また、加害者の行動にはしばしばマスコミの報道が影響を与え、他の事件の報道から犯行の方法や動機、社会の反響などを学ぶことがある。 

都市化と通り魔

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これに類する犯罪は、一般に都市など人が多い反面で人間関係が希薄な地域に限定されると考えられがちだが、過去の通り魔犯罪や連続殺傷事件などの例を見ても、都市化と必ずしも関連しない。

都市に於ける匿名性の増大は確かに現行犯逮捕以外での犯人特定に至りにくい側面を持つが、発生要因自体が都市化との関連性が無い以上、都市型犯罪ではないといえる。しかしそれを抜きにしても、自暴自棄になっている犯人が無差別かつ他人から目撃されるのも厭わずに犯行に及んでいるケース(スプリー犯)では、過去の事例に於いても人の集中しやすい都市部繁華街のほか、学校ショッピングモールなどといった施設において被害が拡大しやすい傾向が見られる。

しかしその一方で、長期化しやすい散発的な連続殺人の場合、郊外型犯罪に類されるケースが散見される。これらのケースでは、都市周辺部で人口密度が高すぎず低すぎず、犯人が被害者を「調達しやすい」という傾向が見られる。こちらは殺害することが目的であり、加えて犯人が特定層にのみ執着している場合も、そうでない場合でも、たまたま犯行への欲求を感じている犯人の目にとまった人物が被害に遭っている。

通り魔と凶器

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銃社会問題の深刻なアメリカなどではを使った犯行が見られる。銃規制により銃の使用割合が低い日本でも刃物を使った犯行が見られる。これらの事件の影響もあってそれら道具の所持に対する規制が強化される傾向もあるものの、不審尋問などの形で調べなければ所持が分かりにくいことや、またどこにでもある道具を使った場合には予防しきれるものではない。

また自動車を使って次々に人を撥ねたケースもあり、物品の規制による予防は困難である。ただし通り魔事件を発端として、所定の器物が規制対象となったケースもあり、アメリカではコロンバイン高校銃乱射事件以降に銃規制が強化されたなどの動向がみられる。日本ではダガー秋葉原通り魔事件を契機として、従来のナイフ(汎用の刃物)から、小型の武器武具の類)へと法的な扱いが改められ、規制対象となっている。

通り魔事件の特徴

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法務総合研究所の報告によると、通り魔事件は以下の特徴を持つことが多い[4]

加害者

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  • 主に20代から40代の男[5]
    • 2013年法務総合研究所による調査では、無差別殺傷事件での調査対象者52人のうち「男性が51人、女性が1人」(つまり、実行犯の性別は98%が男性)で、20歳〜39歳の男が59%であった[4]
  • 親族や友人・交際相手との人間関係が希薄で、社会的に孤立している[4]
  • 無職あるいは不安定な就労状況にあり、経済的に困窮している[4]
  • 住所不定など、長期的に安定した住居を得ていない[4]

これらの特徴はローンウルフによるテロリストにも当てはまる。また、「無敵の人」とも重なることが多い。

犯行の動機

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  • 「自己の境遇への不満」が最も多く、次いで「特定の者への不満」が多い[4]
  • その他、「自殺死刑願望」や「刑務所への逃避」、「殺人への欲求および興味」などがある[4]

被害者

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  • 男女比は同程度であるが、一般殺人と比べると、女性と子供の割合が高い[4]

つまり、反撃するだけの体力が無い人物が襲われやすいといえる。

主な通り魔事件

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本項では、日本国内で起きた通り魔事件についてのみ記述する。なお太字で示した被疑者裁判の結果、死刑判決を宣告された者である。

2000年以前

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発生日 発生現場 被疑者(年齢は犯行当時) 被害詳細 備考・参照記事
1920年 東京都淀橋警察署管内 不明 15人殺傷(4人即死) 家族を日本刀で殺害した後、通行人を襲撃したもの[6]
1925年6月 東京都田無警察署管内 不明 14人殺傷(3人即死) 精神病者が薪割りで通行人を襲撃したもの
1959年1月27日 東京都荒川区 15~16歳程度の少年 1人死亡/9人負傷 参照:荒川連続自転車通り魔殺傷事件
1980年8月19日 東京都新宿区新宿駅西口バスターミナル 38歳男 6人死亡/14人負傷 参照:新宿西口バス放火事件
1981年6月17日 東京都江東区森下二丁目の路上 覚醒剤中毒の29歳男 4人死亡/2人負傷 参照:深川通り魔殺人事件
1982年2月7日 大阪府大阪市西成区山王 覚醒剤中毒の47歳男 4人死亡/3人負傷 参照:西成区覚醒剤中毒者7人殺傷事件
1985年9月2日 北海道札幌市 42歳男 1人死亡 参照:札幌もみじ台通り魔殺人事件
1985年9月19日 山口県下関市 37歳男 4人死亡/6人負傷 参照:日本刀10人殺傷通り魔事件
1990年2月17日 長野県松本市 21歳男 3人死亡/1人負傷 参照:松本市ゲートボール場殺人事件
1996年7月6日 福岡県北九州市小倉駅構内 21歳男 15人負傷 参照:小倉通り魔事件
1997年2月10日3月16日 兵庫県神戸市須磨区の路上 14歳少年 1人死亡/2人負傷 参照:神戸連続児童殺傷事件
1998年1月8日 大阪府堺市の路上 シンナー中毒の19歳少年 1人死亡/2人負傷 参照:堺市通り魔事件
1999年9月8日 東京都豊島区東池袋 23歳男 2人死亡/6人負傷 参照:池袋通り魔殺人事件
1999年9月29日 山口県下関市の下関駅構内 35歳男 5人死亡/10人負傷 参照:下関通り魔殺人事件

2000年代

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発生日 発生現場 被疑者(年齢は犯行当時) 被害詳細 備考・参照記事
2000年9月5日2002年7月18日 東京都北区板橋区 29歳男 2人死亡 参照:東京連続通り魔殺人事件
2001年4月30日 東京都台東区浅草の路上 知的障害者の29歳男 1人死亡 参照:レッサーパンダ帽男殺人事件
2001年6月8日 大阪府池田市大阪教育大学附属池田小学校校内 37歳男 児童8人死亡/児童,教諭15人負傷 参照:附属池田小事件
2002年6月23日 愛知県岡崎市福岡町の路上 17歳少年 1人死亡 参照:岡崎通り魔殺人事件
2003年3月21日29日 神奈川県足柄上郡大井町金子・松田町松田 40歳男 1人死亡(松田町)/2人負傷(大井町) ほぼ同時期に発生した名古屋の通り魔事件とともに社会に衝撃を与えた[7]
2003年3月30日4月1日 愛知県名古屋市北区千種区 38歳女 1人死亡/1人負傷 参照:名古屋市連続通り魔殺傷事件
2005年2月4日 愛知県安城市の商業施設 34歳男 幼児1人死亡/2人負傷 参照:安城市幼児殺傷事件
2005年12月6日 香川県高松市 精神障害者の36歳男 1人死亡 参照:香川町会社役員刺殺事件
2006年9月23日 神奈川県川崎市宮前区梶ヶ谷のトンネル内 37歳男 1人死亡 参照:川崎トンネル内女性殺人事件
2007年1月15日 京都府京都市左京区岩倉幡枝町の歩道 20~30歳ぐらいの男 1人死亡 参照:京都精華大学生通り魔殺人事件
2008年3月19日23日 茨城県土浦市 24歳男 2人死亡/7人負傷 参照:土浦連続殺傷事件
2008年3月25日4月14日 福岡県福岡市 25歳男 1人死亡/1人負傷 参照:福岡連続殺傷事件
2008年6月8日 東京都千代田区秋葉原駅近く 25歳男 7人死亡/10人負傷 参照:秋葉原通り魔事件
2008年7月22日 東京都八王子市京王八王子駅駅ビル内 33歳男 1人死亡/1人負傷 参照:八王子通り魔事件

2010年代

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発生日 発生現場 被疑者(年齢は犯行当時) 被害詳細 備考・参照記事
2010年6月22日 広島県広島市南区安芸郡府中町マツダ本社工場 同社の元期間従業員の42歳男 1人死亡/11人負傷 参照:マツダ本社工場連続殺傷事件
2010年12月17日 茨城県取手市取手駅 27歳男 14人負傷 参照:取手駅通り魔事件
2011年11月18日12月1日 埼玉県三郷市千葉県松戸市 16歳少年 2人負傷 参照:三郷・松戸連続通り魔事件
2012年6月10日 大阪府大阪市中央区心斎橋 36歳男 2人死亡 参照:大阪心斎橋通り魔殺人事件
2012年10月20日 福岡県福岡市博多区博多駅構内 26歳男 3人負傷 博多駅通り魔事件「切られた、逃げろ」 無言の凶行に響く怒声
2013年3月14日 広島県江田島市カキ加工工場 30歳男(中国人 2人死亡/6人負傷 参照:江田島中国人研修生8人殺傷事件
2013年3月19日 東京都江東区の東陽町駅 49歳男 4人負傷 東陽町駅前で通り魔、通行人が幟で撃退!
2013年5月22日 大阪府大阪市生野区 31歳男(韓国人 2人負傷 参照:大阪市生野区通り魔事件
2014年3月3日 千葉県柏市 24歳男 1人死亡/1人負傷 参照:柏市連続通り魔殺傷事件
2014年10月15日 埼玉県入間市の路上 20歳男 1人死亡 入間市の路上で女子大生が刺殺 出頭した容疑者「誰でもよかった」
2015年7月12日 愛知県日進市梅森町の路上 17歳少年 1人死亡 強盗殺人の疑いで男子高校生逮捕 愛知・日進、殺害認める供述
2015年9月14日16日 埼玉県熊谷市 30歳男(ペルー人 6人死亡 参照:熊谷連続殺人事件
2016年6月21日 北海道釧路市イオンモール釧路昭和 33歳男 1人死亡/3人負傷 釧路のイオンモールで通り魔 60代女性死亡、3人重軽傷 逮捕の男「死刑になってもいい」
2016年6月30日 茨城県龍ケ崎市佐貫町 16歳少年 1人死亡 16歳少年は42歳女性を声もかけずに後ろからメッタ刺しにした…物静かな高校2年生はなぜ凶行に及んだのか?
2016年7月26日 神奈川県相模原市緑区の障害者施設 26歳男 19人死亡/26人負傷 参照:相模原障害者施設殺傷事件
2017年3月13日 神奈川県大磯町大磯城山公園 32歳男 1人死亡 「最初に見た人を殺そうと思った」 容疑者、無差別襲撃か 大磯城山公園
2018年5月17日 愛知県名古屋市中区ネットカフェ 22歳男 1人死亡 漫画喫茶殺人 宿泊するつもりで入店か、名古屋
2018年6月9日 東海道新幹線のぞみ265号車内 22歳男 1人死亡/2人負傷 参照:2018年東海道新幹線車内殺傷事件
2019年1月1日 東京都渋谷区原宿竹下通り 21歳男 8人負傷 猛スピードで100メートル以上、ブレーキ痕も確認されず 原宿・竹下通り暴走
2019年5月28日 神奈川県川崎市多摩区登戸駅付近のスクールバス 51歳男 2人死亡/18人負傷 参照:川崎市登戸通り魔事件

2020年代

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発生日 発生現場 被疑者(年齢は犯行当時) 被害詳細 備考・参照記事
2020年5月31日 福島県三春町 50歳男 2人死亡 参照:三春町ひき逃げ殺人事件
2020年7月27日 愛知県豊橋市 27歳男 1人死亡/2人負傷 草刈り作業員に車突っ込み3人死傷 豊橋、殺人未遂容疑で男逮捕
2020年8月28日 福岡県福岡市の商業施設 15歳少年 1人死亡 参照:福岡商業施設女性刺殺事件
2021年8月6日 小田急小田原線の車両内 36歳男 10人負傷 参照:小田急線刺傷事件
2021年10月4日 川崎市多摩区の路上 40歳男 3人負傷 「殺してあげたかった」川崎・多摩区の3人刺傷で男供述
2021年10月15日 東京都台東区上野駅 45歳男 2人負傷 JR上野駅構内で2人刺されけが 45歳容疑者を殺人未遂容疑で逮捕
2021年10月31日 京王電鉄京王線の車両内 24歳男 17人負傷 参照:京王線刺傷事件
2022年1月15日 東京大学本郷キャンパス 17歳少年 3人負傷 参照:東京大学前刺傷事件

脚注

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  1. ^ 小学館・大辞泉「通り魔」
  2. ^ 昭和57年版犯罪白書 第1編/第3章/第1節/2 通り魔犯罪”. 2019年5月28日閲覧。
  3. ^ 「新たな行動計画策定に関する有識者ヒアリング」渡邉和美(科学警察研究所捜査支援研究室長) (PDF)
  4. ^ a b c d e f g h 無差別殺傷事犯に関する研究”. 法務省. 2019年9月2日閲覧。
  5. ^ 連続殺人と、大量殺人、通り魔事件その犯罪心理の違い、心の傷
  6. ^ 深夜、猟銃と日本刀で荒れ回る『東京日日新聞』(昭和13年5月22日夕刊)『昭和ニュース辞典第6巻 昭和12年-昭和13年』p232 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年
  7. ^ 神奈川新聞』2003年12月21日朝刊A版社会面22頁「回顧'03かながわ 取材ノートから 8 松田・大井町連続通り魔 やりきれない思い」(神奈川新聞社 渡辺渉)

参考書籍

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  • 福島章犯罪心理学入門』666号(初版)、中央公論社中公新書〉、1982年10月22日。ISBN 978-4121006660NCID BN0056212XNDLJP:12287987https://www.chuko.co.jp/shinsho/1982/10/100666.html 

関連項目

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外部リンク

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