「ウィンフィールドの遺産」の版間の差分
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*赤の供物 - 翌年に執筆された、シリーズ全体の前日譚。 |
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*悪魔と結びし者の魂 - [[ロバート・M・プライス]]による続編。他作者が付け加えた完結編。 |
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== 脚注 == |
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2020年12月20日 (日) 13:26時点における版
『ウィンフィールドの遺産』(ウィンフィールドのいさん、原題:英: The Winfield Heritance)は、アメリカ合衆国のホラー小説家リン・カーターによる短編ホラー小説。クトゥルフ神話の1つで、1981年にゼブラブックス版『ウィアード・テイルズ』3号に掲載された。カリフォルニア州サンティアゴ[1]のサンボーン太平洋古代遺物研究所にまつわる連作の一つ。後にシリーズ『超時間の恐怖』 (The Terror Out of Time)に位置付けられる、ゾス神話連作の一つである。『陳列室の恐怖』の続編であり、シリーズ最終作。
オーガスト・ダーレスが創造して『暗黒の儀式』で語り手を務めたウィンフィールド・フィリップスが、主人公兼語り手となっており、堕ちてバッドエンドを迎える。
カーターの設定好き固有名詞好きは健在で、本作独自の特徴としては、魔道書に限らない、作中作小説をコレクションとして登場させているという点がある[2][3][4]。ロバート・M・プライスは、書物を遺産として継承するという本作におけるテーマを、カーターがクトゥルフ神話の体系化において自ら果たしている役割と重ね合わせて魅力的に思っていたようだと解説している[5]
また「黄衣の王」の別名として、<時知らぬもの>イーティルが挙げられている。これら2つの名は、ロバート・W・チェンバースに由来する。しかし、イーティルの方は定着しなかったようであり、1980年代以降のTRPGを初出とする「ハスターの化身=黄衣の王」とする設定が一般化する[6]。
あらすじ
物語以前
- 昔:ハイラムが、ニューイングランドのウィンフィールド家を放逐され、カリフォルニアに移住する
- 1920年代:カリフォルニアのハッブルズ・フィールドの地下から、大量の人骨が発見される
- 1924年:『暗黒の儀式』
- 1927年:フィリップスとブライアンが親交を深める
- 1929年:『陳列室の恐怖』
ハイラム・ウィンフィールドは、生家に忌まれた黒魔術を用いて、大地の妖蛆ユッグと契約することで財を得る。また甥のウィンフィールド・フィリップスは、ボストンを訪れたおりに、同名のブライアン・ウィンフィールドと出会う。従兄弟と判明した2人は意気投合する。だがブライアンはトラブルに巻き込まれ、カリフォルニアに引っ越す。
1936年
1936年6月、老ハイラムが死去する。フィリップスは、従弟のブライアンから、ハイラム叔父の死を伝えられ、葬儀に出るためにカリフォルニアに向かう。その際にラファム博士は、7年前の事件の当事者であるホジキンスの消息を調べてくるよう頼む。出迎えたブライアンは、自分とフィリップスの2人が遺産相続人に指名されているという遺言を伝える。
ハイラムの屋敷で、フィリップスとブライアンは、ホラー小説の貴重なコレクションを見つける。さらに隠し部屋からは禁断の文献が出てきたことで、フィリップスは叔父が一族を放逐された理由を理解し、かつて見つかった大量の白骨死体と叔父の資金源のうす暗い関連性を察する。さらに、地下への通路も見つけ、そこに転がる大量の貴金属を見て、疑惑は確信に変わる。そこに突然何かが現れ、ブライアンは絶叫を発して黒い水たまりの中に消える。
フィリップスは警察に通報するも、支離滅裂な狂人の証言とみなされるのみであった。主を失ったブライアンのアパートに身を寄せたフィリップスは、悪夢にうなされる。夢に現れるそいつは、<赤の供物>(生贄=ブライアン)を捧げたのだから報酬を受け取れと囁き、フィリップスは自分は従弟を突き落としてなどいないと必死で抗弁する。ついに屈して堕ちたフィリップスは、もうミスカトニック大学に戻ることはないと述べて陳述書を記し、これを見た人物にラファム博士に郵送してほしいと付け加える。
主な登場人物
- ハイラム・ストークリイ(ウィンフィールド)
- 叔父。ニューイングランドのウィンフィールド家を放逐され、カリフォルニアで財を成した。屋敷の相続人に甥2人を指名する。
- ウィンフィールド・フィリップス
- 主人公。母方がウィンフィールド家、父方がフィリップス家。1936年に29歳。
- アーカムミスカトニック大学のラファム博士の助手。ハイラム叔父とは面識がなかったが、相続人に指名されていた。
- ブライアン・ウィンフィールド
- リチャード叔父の息子。フィリップスの従弟で、5歳年少。
- サンティアゴの獣医。ハーバードの医学生時代にフィリップスと親しくなった。
- ウォード・フィリップス師
- 『暗黒の儀式』の過去パートの人物。ウィンフィールド・フィリップスの父方の先祖。アーカムの牧師。
- ハロルド・ハドリー・コープランド教授
- 過去作の人物。ハイラムから禁断の文献を購入しており、それらを含む研究資料がサンボーン研究所へと遺贈されている。
- セネカ・ラファム博士
- ミスカトニック大学の職員。フィリップスの上司であり、『暗黒の儀式』『陳列室の恐怖』を経験している。
用語
- 「ハッブルズ・フィールド」
- かつては活気ある町であったが、十数年前に大量の人骨が発見されたことで悪評が高まり、失業者が増えて廃れた。
- インディアンのヒパウェイ族は、エ=チョク=タ(妖蛆の地)という名で呼ぶ。
- ヒパウェイ族
- 架空のインディアン部族。ヨーロッパ人たちが来る前にカリフォルニアを治めていた。20世紀時点では山中に居住地がある。ハッブルズ・フィールドの地域を嫌い、近寄らない。
- 森瀬繚は、モチーフをオジブワ族と推定している[7]。実在のオジブワ族は、ウェンディゴの悪霊伝説を伝えることで知られており、クトゥルフ神話においてはイタカと結び付けられる。
- ユッグ
- <大地の妖蛆>の異名をもつ、白蛆の種族。イソグサとゾス=オムモグに仕える。長はウブ。『ユッギャ賛歌』という文献がある。封印されている邪神を解放するために、人間を買収して手先につけようとする。
- シリーズの『時代より』『奈落の底のもの』にも登場する。
収録
- 『クトゥルーの子供たち』KADOKAWAエンターブレイン、立花圭一ほか訳
関連作品
- 赤の供物 - 翌年に執筆された、シリーズ全体の前日譚。
- 悪魔と結びし者の魂 - ロバート・M・プライスによる続編。他作者が付け加えた完結編。
脚注
- ^ 架空の地名で、実在のサンディエゴとは異なる。
- ^ リチャード・アプトン・ピックマンの絵画、エドガー・ゴードン(ブロック:闇の魔神)、エドワード・ダービイ(ラヴクラフト:戸口にあらわれたもの)、ジャスティン・ジョフリイ(ハワード:黒の碑)、マイケル・ヘイワード(カットナー:侵入者)、アマデウス・カーソンの未発表原稿(カットナー:セイレムの恐怖)ハルピン・チャーマーズ(ロング:ティンダロスの猟犬)、アリエル・プレスコット(カーターの未訳作品)、ランドルフ・カーター(ラヴクラフト)、フィリップ・ハワード(ロング:喰らうものども)、ロバート・ブレイクの生原稿(闇をさまようもの)、など。
- ^ 作中時が1936年であることが影響している。ロバート・ブレイクが死んだ『闇をさまようもの』は1935年の出来事である。
- ^ KADOKAWAエンターブレイン『クトゥルーの子供たち』解題【ウィンフィールドの遺産】428-429ページにも解説がある。
- ^ KADOKAWAエンターブレイン『クトゥルーの子供たち』解題【ウィンフィールドの遺産】426ページ。
- ^ KADOKAWAエンターブレイン『クトゥルーの子供たち』訳注【ウィンフィールドの遺産】306ページ。
- ^ KADOKAWAエンターブレイン『クトゥルーの子供たち』訳注【ウィンフィールドの遺産】303ページ。