スイバ

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スイバ
スイバ
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 Core eudicots
: ナデシコ目 Caryophyllales
: タデ科 Polygonaceae
: スイバ属 Rumex
: スイバ R. acetosa
学名
Rumex acetosa
L.
和名
スイバ
英名
Common Sorrel

スイバ(蓚、酸い葉、学名:Rumex acetosa)はタデ科多年草。道端などに生えて、草丈は60センチメートル前後で、高いもので1メートルになる。茎葉はところどころで赤みを帯び、下部は矢じり形の根から生える葉がつき、上部は茎を抱くかたちの葉がつく。初夏から夏にかけて、赤みを帯びた淡緑の花を花穂になってつける。薬用にもできる食草で、ヨーロッパではソレルともよばれる野菜。食べると酸っぱい味がするので日本地方名でスカンポともよばれるが、同別名をもつイタドリとは別の植物である。

名称

和名スイバの由来は、茎や葉を口に入れて噛むと酸っぱいことから「酸(す)い葉」の意で名付けられた[1][2]ギシギシという地方名もあるが、ギシギシという標準和名を持つ植物は同じスイバ属(ルメックス属)の別種にもある。このほかにも地方によって、茎をポンと折って食べると酸っぱいことからスカンポ[1][3]スカンボ[4]スイッパ[1][2]、スイコ[2]、ショッパグサ[2]、ネコノショッカラ(の塩辛)[2]、スイスイグサ[2]など、さまざまな別名でも呼ばれることもあり、その方言名の数は200を越えるといわれている[2]。ただし、スカンポはイタドリの方言名としても用いられることが多い[5]

ヨーロッパ、特にフランスでは、英名 common sorrel からソレルとも呼ばれ、野菜として食べられる[4][6]学名からルメクスとよばれる園芸品種も出回っている[7]

花言葉は、「愛情」[7]「情愛」[8]「親愛の情」[8]「博愛」[8]などがある。

特徴

北半球温帯に広く分布し[2]、日本では北海道から九州まで分布する[3]。やや湿った場所を好み、日当たりの良い野原田畑、道端、あぜ道、土手、空き地など人里近くに、小規模な集団をつくってふつうに自生する[1][3][9]

太くて短い根茎がある[9]。冬の間は、葉は矢じり型でロゼット状に地面に広がっており、赤紫色を帯びるものが多い[3][5][10]。春になって温かくなると、赤みを帯びていた葉は緑色に変化する[5]。やがてが伸びると、草丈は30 - 100センチメートル (cm) で[3][5]、ふつう60 cm前後になる[11]。茎は円柱形で赤紫色を帯び、直立する[9]根生葉は5 - 10 cmの長い柄があり[11]、披針状長楕円形で長さは10 cm[3][9]。上部につくは、短い柄があるか無柄で互生[12]、広披針形で付け根は矢尻型になり、基部は鞘状で茎を抱く[3][9]

期は初夏からにかけて(5 - 8月)[7]雌雄異株で、雄株は黄色っぽい淡紫色の小花、雌株は淡紅紫色の小花を穂状に咲いて目立つ[1][12]。茎の先に総状花序を円錐状に出して、直径3ミリメートル (mm) ほどの小花がたくさんつく[3]。雄株にある雄花は風で花粉を運ぶ風媒花で、大きな雄しべがぶら下がっていて、風に揺れながら花粉を飛ばす[13]。一方、雌株の雌花に見られる房状のものは柱頭[12]、花粉を受け止めるために細く分かれている縮れた感じの雌しべを花の外に出している[13]。食用にもされる若葉のころには、雄なのか雌なのか、株を見分けることはできない[14]

花が終わると、雌株には団扇を連想させる小さな果実を多数つける[2]。果実の団扇のような翼状のものは、内萼片(ないがくへん)が大きくなったものである[12]。果実はピンク色を帯びていて、3個の翼状の萼がつく[11]

1923年木原均小野知夫によって、X染色体Y染色体を持つことが報告された。これは種子植物性染色体があることを初めて示した発見の一つである[4]。スイバの性決定は、ショウジョウバエなどと同じく、X染色体と常染色体の比によって決定されている[13]

庭などでたくさん簡単に育成できる[1]

類似種に、小型で高さが20 - 50 cmほどになるヒメスイバ[3]高山植物タカネスイバなどがある[2]。花は同じタデ科のギシギシによく似ていが、茎や葉は赤みを帯びていることや[5]、根生葉は長い柄を持ち、葉身の基部が矢じり形であることがスイバの特徴になっている[7]。ヒメスイバは根生葉の基部が左右に張り出した矛形になるので区別できる[7]

利用

ポーランドのスイバのスープ

地上部の茎葉には、シュウ酸シュウ酸カリウムを含み、酸味の元になっている[1][5]。スイバを噛むと酸っぱいため、昔は子どもたちのおやつになった[4]

このほか、脂肪アスコルビン酸なども含んでいる[1]。シュウ酸やシュウ酸カリウムを大量に摂取すると、胃腸炎、出血性の下痢、腎炎などを起こす恐れがある[1]。根には、アントラキノン体であるクリソファノールエモジンクリソファノールアンスロンのほか、タンニンなどを含み、緩下作用がある[1]。近年の研究では、スイバにはを制御する効果があることがわかってきたと言われている[11]

料理

日本では野生のものの春先の新芽を摘んで、山菜として茹でてから水にさらし、お浸し和え物煮物に調理して食べる[6][11]。独特の酸味は、茹でたものをすり潰して砂糖を加え、さっぱり風味のジャムに利用できる[9]。伸び始めた若い茎はそのまま食べることができるが、シュウ酸を多く含んでいることから、過食すると下痢や嘔吐などを催す場合があるため多食は避けた方が良い[1][6][7]

ヨーロッパでは古くから葉菜として利用され、野菜としての栽培品種はソレルやオゼイユと呼ばれる[14]。利用法は主にスープの実、サラダ、肉料理の副菜や付け合わせ[11]、スイバを単体で調理するだけでなく、ホウレンソウやその他の葉菜類と混ぜて用いることもある。例えばフランス料理ではポタージュオムレツベニエピュレ、料理に添えるソースアイルランド料理ではスイバのパイギリシア料理では煮込み料理やピタ(ブレク風のパイ)、ブルガリア料理ではチョルバルーマニア料理ではサルマーレウクライナ料理ではスイバのボルシチロシア料理では緑のシチーの素材として好んで用いられる。

薬用

古代エジプトでは、食用のほかに薬草としても使われた[10]。また、古代ギリシャ古代ローマでは利尿作用がある薬草として[10]、特に胆石を下す効用があるとして利用された。この葉のハーブティーは、昔より解熱効果があるとして知られている。現在でも、うがい薬、火傷の手当などに使われている。ただしシュウ酸を多く含むので、大量に食べると中毒の恐れがある[15]

秋に地上部の茎葉が枯れ始めたころに、根茎や根を掘り上げて水洗いしたものを、3 - 5ミリメートル (mm) ほどの厚さで輪切りにしたものが生薬になり、酸模根(さんもこん)とよんでいる[1]。昔から、根は砕いて疥癬などの皮膚病の治療薬として用いられてきた[6]

民間療法として、便秘には、酸模根1日量15グラムを約600 ccで半量になるまでとろ火で煮詰めた煎じ汁、食間3回に分けて服用する利用方が知られている[1]。昔から、魚の中毒にはスイバの生葉汁を約10 - 15 cc程度のむと良いとされていて[1]、水虫、たむしなどにもスイバの生葉汁で湿布しておくのがよいとされている[1]

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 田中孝治 1995, p. 89.
  2. ^ a b c d e f g h i j 飯泉優 2002, p. 76.
  3. ^ a b c d e f g h i 菱山忠三郎 2014, p. 49.
  4. ^ a b c d 稲垣栄洋 2018, p. 133.
  5. ^ a b c d e f 田中修 2007, p. 164.
  6. ^ a b c d 奥田重俊監修 講談社編 1996, p. 17.
  7. ^ a b c d e f 主婦と生活社編 2007, p. 41.
  8. ^ a b c 稲垣栄洋 2018, p. 132.
  9. ^ a b c d e f 高橋秀男監修 田中つとむ・松原渓著 2003, p. 15.
  10. ^ a b c 山下智道 2018, p. 110.
  11. ^ a b c d e f 川原勝征 2015, p. 53.
  12. ^ a b c d 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著 2010, p. 194.
  13. ^ a b c 稲垣栄洋 2010, p. 84.
  14. ^ a b 稲垣栄洋 2010, p. 85.
  15. ^ 北野佐久子『基本ハーブの事典』東京堂出版、2005年、84 - 85頁。

参考文献

  • 飯泉優『草木帖 —植物たちとの交友録』山と溪谷社、2002年6月1日、76頁。ISBN 4-635-42017-5 
  • 稲垣栄洋『残しておきたいふるさとの野草』地人書館、2010年4月10日、82 - 85頁。ISBN 978-4-8052-0822-9 
  • 稲垣栄洋『ワイド判 散歩が楽しくなる 雑草手帳』東京書籍、2018年5月22日、132 - 133頁。ISBN 978-4-487-81131-1 
  • 奥田重俊監修 講談社編『新装版 山野草を食べる本』講談社、1996年2月10日、17頁。ISBN 4-06-207959-3 
  • 小野知夫 著「高等植物の性決定と分化」、駒井卓木原均 編『最近の生物学』 第4巻、培風館、1951年、30 - 47頁。 
  • 川原勝征『食べる野草と薬草』南方新社、2015年11月10日、53頁。ISBN 978-4-86124-327-1 
  • 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著『花と葉で見わける野草』小学館、2010年4月10日、194頁。ISBN 978-4-09-208303-5 
  • 主婦と生活社編『野山で見つける草花ガイド』主婦と生活社、2007年5月1日、41頁。ISBN 978-4-391-13425-4 
  • 高橋秀男監修 田中つとむ・松原渓著『日本の山菜』学習研究社〈フィールドベスト図鑑13〉、2003年4月1日、15頁。ISBN 4-05-401881-5 
  • 田中修『雑草のはなし』中央公論新社〈中公新書〉、2007年3月25日。ISBN 978-4-12-101890-8 
  • 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、89頁。ISBN 4-06-195372-9 
  • 菱山忠三郎『「この花の名前、なんだっけ?」というときに役立つ本』主婦の友社、2014年10月31日、49頁。ISBN 978-4-07-298005-7 
  • 山下智道『野草と暮らす365日』山と溪谷社、2018年7月1日、110頁。ISBN 978-4-635-58039-7 

関連項目