ウクライナ料理

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ウクライナの紅ボルシチ

ウクライナ料理ウクライナ人の伝統的な食文化を代表する東欧料理の一つである。ボルシチヴァレーヌィクなど世界的にも有名な料理があり、ポーランドリトアニアルーマニアロシアユダヤなどの食文化にも大きな影響を与えた。

特徴[編集]

ウクライナのヴァレーヌィク

歴史[編集]

結婚式のコロヴァーイ

ウクライナ料理の伝統は、キーウ大公国9世紀13世紀)の料理文化に遡る。中世時代のウクライナ人穀物小麦ライ麦)や野菜キャベツ大根ネギ類・ニンニクなど)を栽培し、ガチョウ雷鳥)や動物山羊など)を畜産して、それを料理にしていた。また、野生動物の肉(オーロックス鹿など)と、川魚(類・チョウザメナマズカマスなど)とそのも食べられた。

古代以来ウクライナ人の主食パンであった。キエフ大公国時代の一般的なパンは、小麦粉やライ麦粉など作った酸味のある発酵パンであったが、その他に、ケーキカラーチコロヴァーイなどの種無しパンや、ポピーシード蜂蜜でこねた甘味のあるパンなど、様々なパンの種類が存在していた。

パンの他に雑穀のお粥カーシャ)も作られ、副食の役割を果たしていた。農家では脱穀した黍の実から作られるお粥が一般的であったが、貴族や豪商の家庭では「サラセンの黍」と呼ばれる輸入ので作られたものが好まれた。その他の副食には料理(エンドウレンズマメなど)や野菜料理(キャベツ・ビート・大根・ニンジンキュウリカボチャセイヨウワサビタマネギ・ニンニクなど)などがあった。

調味料には、在来品の香辛料ディルセロリヒメウイキョウアニスミントクルミ)と輸入品の香辛料(胡椒シナモン)、それから様々な類(植物油・サーロ牛乳バタースメタナ)と甘味料として野生蜂蜜が用いられた。デザートは果物リンゴセイヨウナシサクランボスモモスグリ・コケモモ・ラズベリークランベリーなど)、チーズクーチャ(小麦、ライ麦、あるいは米を蜂蜜とケシの実と合わせた料理)が中心となっており、飲み物は乳製品牛乳ケフィア)、穀物酒(クヴァースビール)、蜂蜜酒アルコールの果物酒などがあった。

中世ウクライナの料理は長い時間をかけて大きな天火で煮込まれることが一般的だった。煮込み料理の中でスープは最も人気のある料理であり、二つの種類に分かれていた。一つの種類は野菜と香辛料を合わせてつくった「香草の茹で物」(вариво із зіллямヴァールィヴォ)で、もう一つの種類は肉と魚でつくった「吸い物」(юхаユハー。のちにюшкаユーシュカ。出汁あるいはブイヨンに相当する)であった。中世末期に「香草の茹で物」に南方系のビートを入れるようになると、「茹で物」は「ボルシチ」(бърщъ) と呼ばれるようになった。

13世紀半ばにキーウ大公国がモンゴル帝国滅ぼされた後、ウクライナは様々な隣国によって支配されるようになった。それによってウクライナの料理文化は他国に知られるようになる一方、他国の料理文化がウクライナに流入し、ウクライナの料理を豊かにした。

食事中のコサック

14世紀以降にアジアから輸入されていた蕎麦は、ドニプロ・ウクライナで栽培されるようになった。それがきっかけにウクライナで蕎麦の団子フレチャーヌィク)、蕎麦のパン、蕎麦のお粥、蕎麦の餃子やケーキなどを作る風習が広まった。また、同年代に中央アジアからはスイカが入ってきて、南ウクライナで栽培されるようになった。

16世紀から19世紀にかけてアメリカ大陸からトウモロコシ・カボチャ・インゲンマメイチゴ唐辛子・ジャガイモ・ヒマワリ・トマトなどの輸入により、ウクライナ料理の様相は大きく変わった。特にジャガイモはスープ、前菜、肉料理に不可欠な材料となり、ヒマワリはもっとも重要な油脂作物となった。17世紀インドからもたらされたホウレンソウが夏のボルシチとして好まれる「緑のボルシチ」を作るために用いられるようになり、「異教徒のキュウリ」と呼ばれるナスは現代ウクライナ料理を代表する数多くの詰め料理に使用されるようになった。

食材[編集]

ウクライナのソリャンカ

ウクライナ料理は「熱」の料理と言ってもよい。食材を煮込み、炒り、焼き、茹で、熱した油に通し、様々な方法で加熱することで食材の風味を増し、豊富な調味料を組み合わせることで食材の風味を高めようとする。

獣肉としては豚肉が主たるものであり、牛肉はあまり好まれない。豚肉、ラード、サワークリーム(スメタナ)をよく使うことは有名で、ウクライナ人はしばしば「サーロ喰らい」と嘲って呼ばれることもある。鯉など淡水魚も好まれ、野菜を多く使うことから、スラヴ料理と縁が薄い日本人にも比較的馴染みやすい。卵、小麦粉も菓子などを中心にふんだんに使われる。小麦に次いで使われるのは蕎麦で、蕎麦のカーシャは広く愛されていた。

野菜類の中では、ビートが人気でおよそ30種類あるという。ボルシチには欠かせない野菜である(日本の「ボルシチ」と称する料理のようにビートの代わりにトマトを加えるのは、ウクライナではトマトスープとみなされるであろう)。続いて古代ルーシ人同様に豆類も好まれる。外来の野菜ながらトマト、ジャガイモ、カボチャ、トウモロコシも大きな役割を果たしている。キノコは大変好まれ、キノコ狩りは主要なレジャーの一つでもある。

サクランボ、スモモ、スグリなどは果物としてだけではなく、菓子材料や調味料としても使われる。ドライフルーツとして使うことも多く、ウクライナ人にとっての故郷の味である。

ニンニク、ポピーシード、ディル、キャラウェイなどもその巧みな味付けに活躍する。砂糖と蜂蜜はふんだんに使われ、砂糖をたっぷりと加えたジャムは菓子だけではなく紅茶の甘み付けに欠かせない。酢と、炒ったヒマワリの種から絞った独特の風味のある油は、前菜を味わい深くするために用いられる。

調理器具[編集]

コサック風の焼肉

多彩な加熱方法を用いるウクライナ料理には様々な調理器具が用いられる。フライパンや鍋はもちろん、日本人にはなじみのないものも多い。

  • カザンキー
  • フレチカ
  • ミースカ
  • チャーシュカ
  • マキートゥラ

代表的な料理[編集]

サーロでできた巻き寿司と黒パン
クロウヤンカ。血のソーセージ

スープ料理[編集]

  • ボルシチテーブルビートブリャク)を中心とした紫色の野菜スープ。ロシアポーランドリトアニアユダヤ人などの料理に影響をあたえ、世界的に認められているウクライナの代表的料理の一つ。ウクライナのそれぞれの地域によって作り方が異なる。ウクライナ中部では50種類以上のレシピが存在する(「赤のボルシチ」・「緑のボルシチ」、「ヘーチマンのボルシチ」、「冷たいボルシチ」、「茸のボルシチ」など)。
  • ソリャンカ漬物香辛料を中心としたオレンジ色のスープ。意訳すると、「塩辛い吸い物」または「田舎の吸い物」。ロシアのシチーという酸っぱいスープと、ウクライナのボルシチを融合したもの。
  • ユーシュカ出汁で作った魚スープ。ユハー、ウハーとも

肉料理[編集]

  • コトレータ:チキンキーウ。ウクライナのカツレツ。ハーブバターを鶏肉で巻き、パン粉をつけて揚げたもの。

パン料理[編集]

その他[編集]

  • カーシャ:Kašaは穀物類のことで、ウクライナ料理としてはお粥を指す。
  • サーロ脂身塩漬け
  • ペリメニ:Pil'meniはダンプリングの一種。見た目はトルテッリーニに似ており、薄い生地に、細かく挽いた肉や野菜を包んで茹でたもの。甘い具材は入らない。
  • そば粉:ウクライナは蕎麦の生産が世界第3位の国で、ロシア・ウクライナ・東ヨーロッパの料理にはカーシャ(そばの粥)をはじめ蕎麦粉を使った料理が多い。

[編集]

  • パンは物事の要 - Хліб — усьому голова
  • パン抜きのご飯はご飯ではない - Без хліба — нема обіду
  • パンと水さえあれば、餓死することない  - Хліб та вода — то нема голода

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • 『ポーランド・ウクライナ・バルト史』伊東孝之井内敏夫中井和夫編、山川出版社〈世界各国史; 20〉、東京、1998年(日本語)。NDLBibID: 000002751344ISBN 4-634-41500-3
  • 黒川祐次物語ウクライナの歴史 : ヨーロッパ最後の大国中央公論新社中公新書; 1655〉、東京、2002年(日本語)。NDLBibID: 000003673751ISBN 4-121-01655-6
  • (ウクライナ語) Українські страви. -Київ: Державне видавництво технічної літератури УРСР, 1961.
  • (ウクライナ語) Абельмас Н.В. Українська кухня: Улюблені страви на святковому столі. -Київ, 2007.
  • (英語) Best of Ukrainian Cuisine (Hippocrene International Cookbook Series). 1998.

外部リンク[編集]