ハイ・ストリートの教会
『ハイ・ストリートの教会』(ハイ・ストリートのきょうかい、原題:英: The Church in High Street)は、イギリスのホラー小説家ラムジー・キャンベルによる短編小説。クトゥルフ神話「第二世代」作家であるキャンベルの作品で、クトゥルフ神話の1つ。
ラムジー・キャンベルのデビュー作品である。1962年にアーカム・ハウスのオーガスト・ダーレスが編集した単行本『ダーク・マインド、ダーク・ハート』[注 1]に収録された。
ダーレスは、当時高校生のキャンベルに着目しており、期待の新人の短編を一本、単行本のために採用して、デビューさせた。もともとは『墳墓の群』というタイトルであったが、改題されて、ダーレスが必要と判断した箇所には手が加わっている。そのためキャンベルは、本作を自分とダーレスの合作であると回想している[1]。
キャンベルによるイギリスのヨグ=ソトース譚であり、別作品『恐怖の橋』で言及のあるテンプヒルの話である。後にアンソロジー『インスマス年代記』に収録されるが、インスマスでも深きものどもの話でもないという変わり種の一編となっている。
教会地下に出現したゼリー状の存在は、TRPGでは「墓に群れるもの Tomb-Herd」と名付けられている。[2][3]
あらすじ
妖術伝承を研究しているアルバート・ヤングは、調査のためにテンプヒルに引っ越す。テンプヒルのハイ・ストリートの廃教会では、ヨグ=ソトースを崇拝する闇の儀式が行われていたことを、隣人のクロウジャーから教わる。テンプヒルとは、「神殿の丘(テンプル・ヒル)」が転訛した地名であるという。見に行ったヤングは、逆に信者たちに見つかる。クロウジャーは邪教徒たちに引き込まれ、ヤングに警告する。ヤングは再び教会に行き、怪異を目撃する。ヤングは身の危険を感じて町を出ようとするも、道がループして教会に戻ってきてしまうという現象に遭遇する。
ロンドンに住むダッドは、職を失い無一文となったことで、数ヶ月前に友人ヤングが秘書を求めていたことを思い出し、テンプヒルに彼を訪ねに行く。さびれたテンプヒルでヤングの家を見つけるも、人の気配はなかった。ダッドが隣人クロウジャーに尋ねると、クロウジャーは「口外しないという誓いを立てていたが、喋らなければならなくなった」と前置きして、ヤングの顛末を語る。曰く、ヤングは外から来たものに襲来われて姿を消し、彼の家は既にやつらのエリアになっていると言う。クロウジャーは、口外した自分の元にもやつらがやって来るだろうと付け加えるが、ダッドには理解できず、逆に彼の正気を疑う。
ダッドはヤングの家に入り、書斎を調べる。クトゥルフ神話についての資料のほか、日記と、ダッドに助けを求める書きかけの手紙が残されていた。ダッドは、ヤングが教会に行って閉じ込められているのではないかと思い、教会に向かう。教会内は、月光なのだろうか「虹色の輝き」があり、夜にもかかわらず懐中電灯は不要であった。ダッドは祭壇で地下へと続く階段を見つけ、降りた先で、緑色に輝く球体や異界の光景を幻視する。続いて「白いゼリー状の13の物体」を目撃して気を失い、目覚めると即地上に逃げ帰る。また地下で車のキーを紛失してしまっていたことで、もはや車も捨て、徒歩で町の外に出ようとする。だが、歩いても歩いても教会に戻ってきてしまい、恐怖に発狂しかけたところで、交通事故に遭う。
ダッドはカムサイドの病院で目を覚ます。テンプヒルを抜けてカムサイドに向かう車に撥ねられたことで、幸運にも呪われた町から連れ出してもらうことができたということを理解する。テンプヒルに残してきた自動車を回収するために人を向かわせるも、車は無くなっており、それどころかダッドを目撃した人物すら見つからなかった。ヤングの家はがらんどうで、クロウジャーも消えており、隣家の主人はずっと空き家であると証言する。周囲の皆はダッドに、幻覚を患っていたのだと説明し、ダッド自身も納得しかける。だがダッドは、テンプヒルのことを思い出すだけで恐怖しながらも、衝動的にあの土地へと引き寄せられていることを自覚する。やがてダッドは失踪し、手記が発見される。
主な登場人物
- リチャード・ダッド - 語り手。職を求めて、テンプヒルに住むヤングに会いに行く。
- アルバート・ヤング - 妖術譚の研究家。著書を書くためにテンプヒルに移住した。
- ジョン・クロウジャー - ヤングの隣人。邪教団に口止めされている。
関連作品
- 恐怖の橋 - キャンベルの神話作品。テンプヒル出身の人物が登場する。
収録
脚注
注釈
- ^ 単行本ごと2007年に『漆黒の霊魂』のタイトルで邦訳出版された。