ユニコーン

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ドメニコ・ザンピエル(1581-1641)「処女と一角獣」(1604-5)、フレスコ画、ファルネーゼ宮、ローマ
ドメニコ・ザンピエル(1581-1641)「処女と一角獣」(1604-5)、フレスコ画、ファルネーゼ宮、ローマ

ユニコーン英語:Unicorn, ギリシア語:Μονόκερως, ラテン語:Unicornis)とは一角獣(いっかくじゅう)とも呼ばれる額の中央に一本の角が生えたに似た伝説生き物である。

目次

[編集] 概要

語源は「単一の」を示す接頭詞の“uni-”に(“corn”)を繋げたもの。別名にはモノケロスMonoceros)もあるが、ラテン語で同じような意味である。

ヨーロッパでは神聖な力と純潔の象徴とされ、神秘学的には様々な象徴として扱われる。知能が高く、鋭い感覚を持つため、まず捕らえることはできない。人間との接触を嫌うが、清らかな心を持つ処女の前にだけその姿を現し、その心を許すといわれている。の額に螺旋状に捻れた鋭く長いを持ち、ヤギひげと割れたひづめを持つ獣の姿で描かれることが多い。

このように、ユニコーンはキリスト教の寓話では美化されていることが多いが、実際の伝説では、普段は獰猛で好色。その鋭い角で、相手を刺し殺すこともある。更には野菜畑を踏み荒らし、作物を貪りながら、を落とすという下品な面もある。

また、中央アフリカの集落に伝わる伝説の一つにこのユニコーンが登場する。 この伝説では、前述の神聖さとは打って変わって、極めて凶悪な魔獣となっている。 その怒りを鎮める儀式の一つに、「生贄の処女をその角で犯し、そのまま角で刺し殺して喰らう」といったものまである。[要出典]

ユニコーンの原型は旧約聖書に登場するといわれる。またアリストテレスの著書『動物誌』、プリニウスの『博物誌』、紀元前5世紀の歴史家クテシアスの『インド誌』などの中でも言及されている。

コスマス・インディコプレウステース(6世紀)は「キリスト教地誌」(6世紀)第11巻第7章の中で、ユニコーンは窮地に追い込まれると、断崖から真っ逆さまに身を投げ、角を地面に突き立てて落下の衝撃を和らげて、逃げると述べる。この逃げ方は、オリックス、ジャコウ・ウシ、アルガリ(盤羊)に見られるものである。

セビリャイシドールス(560頃-636)が著した「語源集」(622-623)第12巻第2章第12-13節には、ユニコーンの強大な角の一突きはを殺すことが出来るとある。ユニコーンとが戦っている挿絵が「クイーン・メアリー詩篇集」(14世紀初頭 大英図書館蔵)に載っている。

[編集] ユニコーンの角

ユニコーンの角(アリコーン)には解毒作用があると考えられ、教皇パウルス3世は大枚をはたいてそれを求めたという。また、フランス宮廷では食物のの検証に用いられたと伝えられる。言い伝えに拠れば、ユニコーンの角は毒に触れると無毒化する効果があるとされたが、後に毒物の成分が含まれた食物に触れると、汗をかくとか色が変化するなどの諸説も生まれたようである。

しかしこれらは北海に生息するイッカク(ウニコール)の角(実際にはである)であった。これにより後々まで、ウニコールの名称で貴重な解毒薬や解熱剤・疱瘡の特効薬として珍重され、イッカククジラの角は多数売買された。しかし一部には、これらウニコールと偽って、セイウチの牙を売る商人も後を絶たなかったようだ。またその一部はオランダ経由で、江戸時代日本にも輸入されていた。

当時の医学書には、真面目にウニコールの薬効に関しての記述があった程である。特に疱瘡の治療薬という部分に関しては、ペストの流行により、非常に高価であったにも拘らず、飛ぶように売れたと云う記録も残っている。

これは元々、中国で毒の検知にサイの角を用いたのが伝播の過程で、一部の夢想家によって作り変えられた物である様であるが、実際問題として、当時用いられた毒物でも、性やアルカリ性の毒物の場合は、動物性タンパク質の変化により、黄変するなりして、毒の検知に役立ったと思われる。また中国ではサイの角の粉末を精力増強剤として扱っているが、興味深い事に、ウニコールが西欧から持ち込まれた際に、の角ともの角とも言われ、解毒や毒の検知に非常に珍重されたとの事である。

[編集] 王家の紋章

スコットランド王家の象徴にもなっており、グレートブリテン王国成立以後、現在のイギリス王家の大紋章には、ユニコーンがシニスターに、イングランド王家の紋章にも用いられているレパード(獅子)がデキスターにサポーターとして描かれている。

[編集] 旧約聖書

旧約聖書にもかつてはユニコーンが存在していた。以下にユニコーンが載っていた頃の聖書の一つである5世紀のウルガタ聖書からユニコーンが出てくる箇所を列挙する。(( )内の数字は現在の聖書における詩篇の篇数を示す)

  • 神は彼らをエジプトから導き出された、その勇敢さは一角獣のようだ--『民数記』第23章第22節
  • 彼の威厳は初子の雄牛のようであり、その角は一角獣のようだ。それで彼は国中の民を突き刺し、その全てを地の果てにまで及ぶ--『申命記』第33章第17節
  • 一角獣はあなたに仕え、あなたの飼い葉桶のそばに留まるだろうか。あなたは一角獣に手綱をつけて、畝を作らせることが出来るだろうか、あるいはあなたに従って谷を耕すだろうか。その力が強いからと言って、あなたはこれに頼むだろうか、またあなたのために働かせるのか。あなたはこれに頼って、あなたの穀物を打ち場に運び帰らせるだろうか--『ヨブ記』第39章第9-12節
  • 獅子の口から我が身を救いたまえ、一角獣の角から弱き我が身を護りたまえ--『詩篇』第21(22)章第22(21)節
  • 主のみ声は香柏を折り砕き、主はレバノンの香柏を折り砕かれる。主はレバノンを子牛のように躍らせ、シリオンを若い一角獣のように躍らせる--『詩篇』第28(29)章第5-6節
  • しかし、あなたは私の角を一角獣の角のように高く上げ、新しい音を授けられました--『詩篇』第91(92)章第11(10)節
  • 主の剣は血で満ち、脂肪で肥え、子羊と山羊の血、雄羊の腎臓の脂肪で肥えている。主がボズラで犠牲の獣をほふり、エドムの地で大いに殺されたからである。一角獣は彼らと共にほふり場に下り、子牛は力ある雄牛と共に下る--『イザヤ書』第34章第6-7節
オーロックス(Bos primigenius)
オーロックス(Bos primigenius)

現代の聖書では「一角獣」の箇所が「野牛」と訳されているため「一角獣」という訳語は見つからない。しかし当時はこのように「野牛」ではなくはっきりと「一角獣」と記されていた。紀元前3世紀中葉にエジプト王プトレマイオス2世(前308-246)の命によってアレクサンドリア近郊のファロス島に送られた72人のユダヤ人学者達は、72日間で原本のヘブライ語旧約聖書をギリシア語に翻訳し、ギリシア語版旧約聖書『七十人訳聖書(セプトゥアギンタ)』を作った。この時ユダヤ人学者達は原文のヘブライ語の「レ・エム」(רְאֵם, rěēm, 野牛)という単語に「モノケロス」(μονόκερως, monokerõs, 一角獣)、すなわち「一角獣」という訳語を当てた。古代ヘブライ語聖書の中で、レ・エムは「力」を象徴する隠喩として述べられている。ヘブライ伝承でレ・エムは狂暴な、飼いならすことの出来ない、壮大な力を持った機敏な動物で強力な角を持っているという。これに相当するのがオーロックス(Bos primigenius)である。この見解はアッシリア語の「リム」(rimu)から裏付けられる。リムは、力の隠喩として使われ、力強く、獰猛な、大きな角を持つ野牛である。この動物は古代メソポタミア美術の中で、横顔で描かれ、あたかも一本の角を持った牛に見える。しかしこの頃「レ・エム」の語に相当する野生の野牛、オーロックスは既に絶滅していて、誰も実物を見ることは出来なかった。こうして、この『七十人訳聖書』から、ユニコーンは聖書の中に入った。ラテン語訳聖書『ウルガタ聖書』(405頃完成?)はこれを引き継いだ。382年の教皇ダマスス(在位366-384)の命により、当時の大学者聖ヒエロニムス(342?-420)が中心となって完成させた。従来のラテン語訳聖書の大改訂版である。彼は「一角獣」を表すのに三つの単語を並列的に使った。すなわちギリシア語の「モノケロス」(monoceros, 一角獣)、「リノケロス」(rinoceros, 鼻の上に角を持つ者、、中世のラテン語訳聖書ではhが付いたり付かなかったりする)、そしてラテン語の「ウニコルニス」(unicornis, 一角獣)を無作為に用いた。この使用は何百年もの間、慣習的なものであり続けた。ルター(1483-1546)も『七十人訳聖書』や『ウルガタ聖書』と同様に訳した。イギリス国王ジェームズⅠ世(在位1603-25)の命によって、五十数人の聖職者や学者からなる翻訳委員が、1607年から11年の間に完成させた英訳聖書『欽定訳聖書(ジェームズ王の翻訳聖書)』(1611)では、「ユニコーン」(unicorn, 一角獣)という訳語が使われた。実際にはサイカモシカに比定され、キュビエはその存在を否定した。

原文のヘブライ語聖書では、一度だけ額に一本の角の生えた動物が出てくる。予言者ダニエルが自分がスサの城砦に誘拐される幻想について語る『ダニエル書』第8章である。しかし、この無敵の一角獣も現在では「野牛」と訳されてしまっている。ダニエルはベルシャザル第3年にウライ川のほとりで二本の角のある雄羊を幻視する。

私が目を上げて見ると、見よ、一頭の雄羊が川(ウライ川)の前に立っているのが見えた。それには二本の角が生えており、二本とも長いが、片方はもう片方より長く、長い方は後から伸びたものであった。私は、その雄羊が西に、北に、南に突き進むのを見た。いかなる獣もこの雄羊には太刀打ち出来ず、その手から救い出せる者もいなかった。そして、この獣は自分の欲することをなし、大いに高ぶった。--『ダニエル書』第8章第3-4節

そこへ西から一頭の雄山羊がやって来た。

そして、私がずっと思い巡らしていると、見よ、一頭の雄山羊が西の方から全地の表を飛び渡って来たが、その肢は土を踏まなかった。これは目の間に堂々たる一本の角を持っていた。そしてこの雄山羊は、二本の角を持つ雄羊の所までやって来た。雄山羊は猛烈な怒りを抱いて雄羊に向かって走って来た。そして私は雄山羊と雄羊がぶつかり合うのを見た。雄山羊は雄羊に対して激しい敵意を示し、これを打ち倒して、二本の角を折ったが、雄羊は立ち打つことが出来なかった。こうして雄羊を地に投げ倒し、踏みつけたが、その手から救い出せる者はいなかった。そして、その雄山羊は大いに高ぶった。しかしこの雄山羊が最強になったとき、その大いなる角は折れ、四本の堂々たる角が生え、天の四方の風に向かった。--『ダニエル書』第8章第5-8節

この幻視はこの後、ある声によって予言者ダニエルに、「ギリシアの王」すなわちアレクサンドロス大王によるメディア王国ペルシア帝国の破滅を意味するものと告げられる。つまり強大な角を持つ雄山羊の最初の一本の角はアレクサンドロス大王を表し、その後に生えた四本の角はアレクサンドロスの後継者を名乗るディアドコイの王達を表している。但し、これは後になってから行われた予言でダニエル書はここで予見された出来事が起こった後で書かれたものである。

[編集] 伝承

ケルトにもともとユニコーンの伝承があったとされることもあるが、実際には存在しないようである。しかし近い地域においてイッカクの角(正確には顎の骨、牙)がユニコーンの角とされていたりもした。

従ってユニコーンの伝承は、周辺地域における角を持つ動物(サイ、野牛?、イッカクなど)の逸話がヨーロッパに伝わって一つに統合された結果であると考えることができる。

[編集] ユニコーンを題材にした作品

[編集] 参考文献

  • リュディガー・ロベルト・ベーア 『一角獣』 和泉雅人訳、河出書房新社、1996年。
  • トレイシー・シュヴァリエ 『貴婦人と一角獣』 木下哲夫訳、白水社、2005年。
  • Odell Shepard, The Lore of the Unicorn, London: Merchant Book Company Limited, 1996.
  • 種村孝弘 『一角獣物語』 大和書房、1985年。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

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