貴婦人と一角獣

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『貴婦人と一角獣』連作、パリ中世美術館での展示室

貴婦人と一角獣(きふじんといっかくじゅう、フランス語 : La Dame à la licorne)はフランスにあるタペストリー(つづれ織り)の6枚からなる連作である。制作年や場所は不明だが、パリで下絵が描かれ、15世紀末(1484年から1500年頃)のフランドルで織られたものとみられている。

このタペストリーのテーマは不明だったが、現在では六つの感覚を示したものとされる。「味覚」、「聴覚」、「視覚」、「嗅覚」、「触覚」、そして「我が唯一つの望み」(A mon seul désir)である。「我が唯一つの望み」は謎に包まれているが、普通「」や「理解」と解釈されることが多い。

六つのタペストリーはそれぞれ若い貴婦人がユニコーンとともにいる場面が描かれ、ほかに獅子もともに描かれているものもある。背景は千花模様(ミル・フルール、複雑な花や植物が一面にあしらわれた模様)が描かれ、赤い地に草花やウサギ・鳥などの小動物が一面に広がって小宇宙を形作っており、ミル・フルールによるタペストリーの代表的な作例となっている。

タペストリーの中に描かれた旗や、ユニコーンや獅子が身に着けている盾には、フランス王シャルル7世の宮廷の有力者だったジャン・ル・ヴィスト(Jean Le Viste)の紋章(三つの三日月)があり、彼がこのタペストリーを作らせた人物ではないかと見られている。ジャン・ル・ヴィストがリヨン出身であり、獅子の「lion」はリヨン「Lyon」から、一角獣は、足が速いためフランス語で「viste」(すばやい)とル・ヴィスト(Le Viste)の一致によるものと言われている。

このタペストリーは1841年、歴史記念物監督官で小説家でもあったプロスペル・メリメが現在のクルーズ県にあるブーサック城(Château de Boussac)で発見した。タペストリーは保存状態が悪く傷んでいたが、小説家ジョルジュ・サンドが『ジャンヌ』(1844年)の作中でこのタペストリーを賛美したことで世の関心を集めることとなった。1882年、この連作はクリュニー美術館(中世美術館)に移され、現在に至っている。

6枚のタペストリーについて[編集]

味覚 (Le goût[編集]

「味覚」(Le goût

このタペストリーでは、貴婦人は侍女から差し出される皿からキャンディを手に取っている。彼女の視線は、上に上げた左手に乗ったオウムに注がれている。向かって左側にいる獅子と向かって右側にいるユニコーンは、二頭とも後脚で立ち上がり、貴婦人をはさむように旗を掲げている。猿は足元にいてキャンディを食べている。

聴覚 (L'ouïe[編集]

「聴覚」(L'ouïe

このタペストリーで貴婦人は、トルコ製のじゅうたんを掛けたテーブルの上に載せられたポジティブオルガン(小型のパイプオルガン)を弾いている。侍女は机の反対側に立ちオルガンのふいごを動かしている。獅子とユニコーンは「味覚」と同じく貴婦人をはさむように旗を掲げているが、今度は二頭の体は外側を向いており、二頭の位置は逆である。

視覚 (La vue[編集]

「視覚」(La vue

このタペストリーでは、貴婦人は腰掛け、右手に手鏡を持っている。ユニコーンはおとなしく地面に伏せ、前脚を貴婦人のひざに乗せ、彼女の持つ鏡に映った自分の顔を見ている。左側にいる獅子は旗を掲げている。

嗅覚 (L'odorat[編集]

「嗅覚」(L'odorat

このタペストリーでは貴婦人は立ち上がり、輪を作っている。侍女は花が入った籠を貴婦人に向かってささげ持っている。獅子とユニコーンは貴婦人の両側で旗を掲げている。猿は貴婦人の後ろにある籠から花を取り出して匂いをかいでいる。

触覚 (Le toucher[編集]

「触覚」(Le toucher

このタペストリーでは、貴婦人は立って自ら旗を掲げており、片手はユニコーンの角に触れている。ユニコーンと獅子は彼女の掲げる旗を見上げている。

我が唯一つの望みに (À mon seul désir[編集]

「我が唯一つの望みに」(À mon seul désir

このタペストリーは他と比べて幅が広く、描かれた絵の様子も他と異なっている。他の5枚のタペストリーは描かれた仕草などから五感アレゴリーだとされているが、この一枚は謎が多く、他の5枚の前の情景を描いたものか後の情景を描いたものかすら定かではない。「我が唯一つの望みに」で身支度をした後、嗅覚・味覚・聴覚でユニコーンをおびき寄せ、視覚と触覚でユニコーンを捕まえるまでを描いているという見方もあれば、五感でユニコーンを引き寄せた後、「我が唯一つの望みに」で身を整えてテントに入るという見方もある。

絵の中央には深い青色のテントがあり、その頂には金色で「我が唯一つの望み」(A Mon Seul Désir)と書かれている。テントの入り口の前に立つ貴婦人は、これまでの5枚のタペストリーで身に着けていたネックレスを外しており、右にいる侍女が差し出した小箱にそのネックレスを納めている(またはここではじめてネックレスを取り出し首につけようとしている)。彼女の左側にはコインが入ったバッグが低い椅子に置かれている。獅子とユニコーンが貴婦人の両側で旗をささげ持っている。

この一枚のタペストリーはさまざまな解釈を引き出してきた。解釈の一つは、若い貴婦人がネックレスを小箱にしまっているのは、他の五感によって起こされた情熱を、自由意志によって放棄・断念することを示しているとする。別の解釈では、この場面は五感の後に来る「理解すること」という六番目の感覚を指しているという。また、処女性、これから結婚に入ることを示しているという解釈も存在する。

フィクション[編集]

以下、このタペストリーに関連する作品を挙げる。

小説[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]