ギルガメシュ叙事詩

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
楔形文字でギルガメシュ叙事詩の一部が刻まれた粘土板

ギルガメシュ叙事詩』(ギルガメシュじょじし)は、古代メソポタミアの文学作品。

実在していた可能性のある古代メソポタミアの伝説的な王ギルガメシュをめぐる物語。

成立[編集]

主人公のギルガメシュは、紀元前2600年ごろ、シュメールの都市国家ウルクに実在したとされる王であるが、後に伝説化して物語の主人公にされたと考えられる。

最古の写本は、紀元前二千年紀初頭に作成されたシュメール語版ギルガメシュ諸伝承の写本。シュメール語版の編纂は紀元前三千年紀に遡る可能性が極めて高い。

研究[編集]

19世紀にアッシリア遺跡から発見された遺物の一つで、1853年にホルムズ・ラムサン(en)によって始めて発見され、大英博物館の修復員であるジョージ・スミス(en)が解読を進め、1872年に『聖書』と対比される大洪水の部分を見つけ有名になった。始めのうちは神話と見なされていたが、その文学性に注目が集まり次第に叙事詩とされるようになり、19世紀末には研究がさらに進み、「ギルガメシュ」と読めることを発見しアッシリアのギルガメシュであることを発表した。これ以後1900年の独訳を嚆矢に、各国語への翻訳が進み、各地の神話、民話との比較がされている。和訳は矢島文夫により完成し、1965年山本書店から刊行された。

内容[編集]

ウルクの王ギルガメシュは、ウルク王ルガルバンダと女神リマト・ニンスン英語版の間に生まれ、3分の2が神で3分の1が人間と言う人物であった。ギルガメシュは暴君であったため、神はその競争相手として粘土から野人のエンキドを造った(写本そのものが粘土板から作られていることにも注意)。

ギルガメシュがエンキドに娼婦(シャムハト w:Shamhat、女神イシュタルに仕える女神官兼神聖娼婦という版もあり、彼女の役割に付随するニュアンスが少々異なる)を遣わせると、エンキドはこの女と6夜7日を一緒に過ごし、力が弱くなったかわりに思慮を身につける。その後、ギルガメシュとエンキドは力比べをするが決着がつかず、やがて2人は友人となり、さまざまな冒険を繰り広げることとなる。

2人はメソポタミアにはないを求めて旅に出る。杉はフンババ(フワワ)という怪物により守られていたが、2人は神に背いてこれを殺し杉をウルクに持ち帰った。このギルガメシュの姿を見た美の女神イシュタルは求婚したが、ギルガメシュはイシュタルの気まぐれと移り気を指摘し、それを断った。怒った女神は「天の雄牛」をウルクに送り、この牛は大暴れし、人を殺した。ギルガメシュとエンキドは協力して天の雄牛を倒すが、怪物を殺したこととイシュタルへの侮辱に神は怒り、エンキドは神に作られた存在ゆえに神の意向に逆らえず死んでしまった。

ギルガメシュは大いに悲しむが、自分と同等の力を持つエンキドすら死んだことから自分もまた死すべき存在であることを悟り、死の恐怖に怯えるようになる。そこでギルガメシュは永遠の命を求める旅に出て、さまざまな冒険を繰り広げる。多くの冒険の最後に、神が起こした大洪水から箱舟を作って逃げることで永遠の命を手に入れたウトナピシュティム英語版(『アトラ・ハシース』)に会う。大洪水に関する長い説話ののちに、ウトナピシュティムから不死の薬草のありかを聞きだし、手に入れるが、蛇に食べられてしまう(これにより蛇は脱皮を繰り返すことによる永遠の命を得た)。ギルガメシュは失意のままウルクに戻った。

友情の大切さや、野人であったエンキドが教育により人間として成長する様、自然と人間の対立など、寓話としての色合いも強い。

構成[編集]

通称アッカド語

粘土版 1[編集]

ギルガメシュの紹介があり、彼はウルク王で、2/3が神、1/3が人間であった。神はエンキドゥをつくる。寺院娼婦シャムハットShamhat)とエンキドゥが出会う。 

粘土版 2[編集]

シャムハットはエンキドゥに人間の食物を与える。エンキドゥはウルクを訪れる。ギルガメシュの結婚式場での争いの後、エンキドゥとギルガメシュは友だちになる。ギルガメシュは名誉を得るために、杉の森に住む半神フンババを倒すことをエンキドゥに誘う。 

粘土版 3[編集]

ギルガメシュは母である女神ニンスンNinsun)を訪問。ニンスンは太陽神シャマシュに2人の保護を祈る。ニンスンはエンキドゥを養子にする。2人の出発。

粘土版 4[編集]

2人は数日間かけて杉の森に向かう。ギルガメシュは5つの恐ろしい夢を見るが、エンキドゥはそれらを吉兆と告げる。2人は山に近づいて行き、フンババのうなり声を聞く。

粘土版 5[編集]

2人は杉の森に入る。フンババは2人を脅し、ギルガメシュの内蔵を鳥に食べさせることを誓う。戦いが始まると、山は揺れて空は暗くなる。太陽神シャマシュは13の風を吹かせ、フンババを捕える。ギルガメシュはフンババを助けようとするが、エンキドゥは殺すことを勧める。フンババは2人に呪いをかけ、ギルガメシュはフンババの首を打って殺す。2人は杉を伐って船を造り、ユーフラテス川を杉の大木とフンババの首を持って帰還。

粘土版 6[編集]

イシュタルは以前の恋敵に復讐するために、父神アヌ(Anu)に聖牛グガランナGugalanna)を送ることを求めるがアヌは拒否。イシュタルは生者より多数の死者を蘇らせると脅し、アヌはイシュタルの要求を聞き、グガランナを送る。グガランナはイシュタルに導かれ、ウルクを破壊。ユーフラテス川の水位が下がる。ギルガメシュとエンキドゥはグガランナを倒し、心臓を太陽神シャマシュに捧げる。ウルクは歓喜する。エンキドゥは不吉な夢を見る。

粘土版 7[編集]

エンキドゥの夢では、シャマシュの反対にも関わらず、神々は2人のうち1人のエンキドゥを、聖牛グガランナとフンババを倒したために殺すことを決めていた。2番目の夢では、冥界にいる。 現実のエンキドゥの体調は悪化し、12日後に死亡。

粘土版 8[編集]

ギルガメシュはエンキドゥを追悼。

粘土版 9[編集]

ギルガメシュは、大洪水の生存者で神によって妻とともに不死を与えられていたウトナピシュティム(「遠方」の意)に出会い、永遠の生命を求めるため旅立つ。   ギルガメシュは夜、山でライオンの一群に出会い、寝る。夜中目を覚ましたギルガメシュは、ライオンを殺しその皮を身にまとう。 ギルガメシュは地の果てでマシュ山(Mount Mashu)の双子山に着く。ギルガメシュは門を守る2人のサソリ人間が彼が半神であることが分かった後に門を通過し、太陽の道を進む。ギルガメシュは、宝石で満ちた木々がある楽園に到着。

粘土版 10[編集]

ギルガメシュは、酒屋の女将シドゥリ(Siduri)に旅の目的を話す。シドゥリは、人間はいずれは死ぬものと諭したがギルガメシュの決意は固く、彼女は渡船業者ウルシャナビ(Urshanabi)をギルガメシュが海を渡るために紹介する。ギルガメシュの船がウトナピシュティムの島に着くと、ウトナピシュティムはギルガメシュの旅の目的を聞く。

粘土版 11[編集]

ギルガメシュはウトナピシュティムにどのように不死を手に入れたかを尋ねる。  

洪水物語[編集]

ウトナピシュティムは、神々が洪水を起したときの話をする。エア神の説明により、ウトナピシュティムは船をつくり、自分と自分の家族、船大工、全ての動物を乗船させる。 6日間の嵐の後に人間は粘土になる。ウトナピシュティムの船はニシル山の頂上に着地。その7日後、ウトナピシュティムは、鳩、ツバメ、カラスを放つ。ウトナピシュティムは船を開け、乗船者を解放した後、神に生け贄を捧げる。  エンリル神はウトナピシュティムに永遠の命を与え、ウトナピシュティムは2つの川の合流地点に住む。

ウトナピシュティムが話し終え、不死になるには6日6晩の間眠ってはいけないと告げると、ギルガメシュは眠る。ウトナピシュティムは、ギルガメシュとウルシャナビをウルクへ帰還させる。

ウトナピシュティムと彼の妻はギルガメシュのお土産として、海の底で若返る効用がある植物があることを教え、ギルガメシュは足に石の重りを付けて海底を歩きその植物を手に入れる。帰還途中、蛇がその植物を取って行く。ギルガメシュと船頭ウルシャナビはウルクへ到着。

粘土版 12[編集]

粘土版 1-11 とは独立。

天地が創造されてしばらく経ったある時、ユーフラテス川のほとりにの木が生えていた。これが南風により倒れ、川の氾濫によって流され、これを見つけたイシュタルによって椅子と寝台にする目的で聖なる園に植えられる。ところがその木に蛇やズーリリトが棲みつき、これを聞いたギルガメシュにより蛇は撃ち殺され、ズーとその子供達は山へと、リリトは砂漠へと逃げていった。ギルガメシュの家来たちによって木は切り倒され、イシュタルはその礼に木の根元から太鼓と撥を作り、ギルガメシュはこれを受け取る。ところが、詳細は不明だが若い娘たちの叫び声が原因となって太鼓と撥は大地の割れ目から地下に落ちてしまった。そこでエンキドゥが冥界に向かうこととなり、ギルガメシュはあらゆる注意事項をエンキドゥに言い聞かせるが伝わらず、エンキドゥはタブーを破って冥界に囚われてしまう。ギルガメシュはエンリルに助けを求めるが取り合わず、エアに助けを求めると彼は承諾した。最後は冥界にいるエンキドゥが、エア神と太陽神シャマシュの助けによって(すなわち)のみ地上に戻る。その後はエンキドゥにより冥界の様子が語られる。

影響[編集]

考古学者や文献学者の中には『旧約聖書』にこの物語の影響があると考える者もおり、特にノアの方舟のくだりは、ウトナピシュティムの洪水の神話が元になっているとしている。

このほかの旧約聖書の内容や、ギリシャ神話にも、この物語が原型と考えられているものがある。古代以後、忘れられていたが、最初の粘土板写本が発見された1872年以後の文学作品にも大きな影響を与えた。

書籍[編集]

和訳書[編集]

絵本[編集]

  • ルドミラ・ゼーマン著 松野正子訳 『ギルガメシュ王ものがたり』 岩波書店、1993
  • ルドミラ・ゼーマン著 松野正子訳 『ギルガメシュ王のたたかい』 岩波書店、1994
  • ルドミラ・ゼーマン著 松野正子訳 『ギルガメシュ王さいごの旅』 岩波書店、1995

音楽作品[編集]

合唱曲[編集]

  • 青島広志作曲 : ア・カペラ男声合唱とナレーターのための「ギルガメシュ叙事詩」(1982年 - 1983年作曲)[1][2][3]

管弦楽曲[編集]

テレビゲーム[編集]

ナムコ(現:バンダイナムコゲームス)から発売された1986年のアーケードゲーム「ドルアーガの塔」を第1作とするテレビゲームのシリーズ。世界観やキャラクターの名称、造詣等にバビロニア神話やギルガメシュ叙事詩の影響が色濃い。

脚注[編集]

  1. ^ 歌の部分は矢島文夫の訳詩(筑摩世界文学大系Ⅰ 古代オリエント集)に、語りの部分は山室静の著書(児童世界文学全集 世界神話物語集)に基づいた作品。
  2. ^ 1982年に「出発の巻」が、1983年に「帰郷の巻」が、それぞれ関西学院グリークラブにより初演されたが、当時はそれぞれ「前編」「後編」と題されていた。
  3. ^ 1992年に、合唱/関西学院グリークラブ 指揮/北村協一 ナレーション/青島広志にて、東芝EMIよりCDが発売されている。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]