アナト
アナト (‘nt [‘anatu]) は、ウガリット神話の愛と戦いの女神。嵐と慈雨の神バアルの妹とも妻とも言われる。
数々の戦いで多くの敵を殺した非常に好戦的な女神であり、ある時には腰まで血の海で浸されるほど多くの人間を殺してまわり、死者の頭や手を自分の腰に着けたという。その一方で処女 (btlt) の称号でも呼ばれており、バアルの姉妹の中で一番美しいとされ、兄バアルへの従順さと熱愛でも知られる二面性のある女神である。
こうした二面性のある性格から、同じく愛と戦いの女神であるメソポタミア神話のイナンナ/イシュタルと起源を同じくすると考えられており、同じくバアルの陪神であり、語源的にその名をイシュタルと同じくするアスタルトと同一視する説もある。
兄であるバアルを熱愛し、彼が「自分には専用の神殿が無い」と嘆いた際には、最高神イルのもとに赴き、頭蓋を叩き割ると恫喝までして神殿を要求している。実際にはこれは失敗しており、後にイルの妻アーシラトに贈り物をして、神殿建設の願いを叶える。
バアルがヤム・ナハルを倒した事を讃える晩餐会を開いたアナトは発作的に殺戮の衝動に駆られ、王宮の戸を閉めて人々を殺害した事がある。ちなみに、一説にはヤム・ナハルを倒したのはアナトであるとされる。
またバアルがモートに殺された際には、バアルの死体を見つけて嘆き悲しんだ彼女はナイフを使わずに彼の肉を食べ、盃を使わずに彼の血を飲んだ。さらにバアルを殺したモートを切り刻み、箕でふるい、これを焼き、臼でひき、畑に撒くという壮絶な復讐を果たした。モートの死体を畑に撒いたことによりバアルは復活し、その7年後にモートも復活した。
ある時アナトはハルナイムの王ダニルウが工芸神コシャル・ハシスに頼んで、息子アクハトの為に特別に作らせた弓を手に入れようと考えた。彼女はアクハトに金や銀、不死の命とその弓を交換しようと持ちかけるが、アクハトは頑としてこれを拒んだ。これに怒るアナトはイルの下へ行き、アクハトに復讐する事を告げた。イルはこれを咎めるが彼女は聞かず、自身に仕える戦士・ヤトパンを鷲に変えて他の鷲達と共に送り込み、アクハトを殺させた。すると、アクハトの死と共に地上に乾季が訪れた。その後の詳細は不明だが、アナトはこれを後悔してアクハトを蘇生させたと思われる。
キプロスでは同じ戦いの女神であり、名前のよく似たアテナ (Ἀνάθ, Ἀθηνᾶ) と同一視された。
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