シチメンチョウ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。Nnn (会話 | 投稿記録) による 2020年12月31日 (木) 04:10個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (→‎日本国)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

シチメンチョウ
シチメンチョウ
シチメンチョウ
保全状況評価
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
: キジ目 Galliformes
: キジ科 Phasianidae
亜科 : シチメンチョウ亜科
: シチメンチョウ属 Meleagris
: シチメンチョウ M. gallopavo
学名
Meleagris gallopavo Linnaeus1758
和名
シチメンチョウ
英名
Wild turkey
シチメンチョウの分布図

シチメンチョウ(七面鳥、Meleagris gallopavo)は、シチメンチョウ属に分類される鳥である。

シチメンチョウ属の模式種である。なおシチメンチョウ属には他にヒョウモンシチメンチョウが属するが、まれにこれを別属とし七面鳥をシチメンチョウ属唯一の種とすることがある。

形態

キジ目の最大種で全長122cm、体重は9kgに及ぶ。メスはオスのおよそ半分の全長60cm程度である。胴は構造色による光沢がある黒い羽毛で覆われていて、メスよりオスの方が光沢が強い。また、オスの胸部から平均 230 mm の毛の房が出ているが、メスの10-20%にも短いが毛の房がある場合がある[1]

頭部や頸部には羽毛がなく赤い皮膚が露出し、発達した肉垂がある。繁殖期になるとオスの皮膚は色が鮮やかになり、胸部が隆起する。和名の七面鳥の由来は頭部の首のところに裸出した皮膚が、興奮すると赤、青、紫などに変化するため、七つの顔(面)を持つ様に見えることに由来する。体温は40°Cで、32km/hで走る。

生態

アメリカ合衆国カナダ南部ならびにメキシコに分布し、開けた落葉樹針葉樹の混合林に生息する。食性は植物食傾向の強い雑食果実種子昆虫類両生類爬虫類等を食べる。

繁殖期にはオス1羽に対しメス数羽からなる小規模な群れを形成し生活する。同じ親から生まれた若鳥も群れを形成し生活するが、その後オスだけの群れを形成する。繁殖期になるとオスは尾羽を扇状に広げ、翼を下げて振るわせ頭部の肉垂を膨らませてある一定の場所で徘徊する。繁殖形態は卵生で、メスが地面を掘って落ち葉を敷いた巣に1回に8-15個の卵を産む。1羽が作った巣に他のメスが卵を産むこともある。メスのみが抱卵を行い、雛の世話もメスのみが行う。メスは日光により卵を産みたくなる体質である。単為生殖を行う場合もある[2][3]、しかし現象としては「無精卵なのに発生が進行する」ものであり、孵化できる個体はごく一部で大半は卵のまま死ぬ[4]

危険を感じると走って逃げるが、短距離であれば飛翔することもできる。オスのみが出す警戒声(アラームコール)は鳥類の中でも最も大きく歓声のような独特な声である。

人間との関係

シチメンチョウの肉
頭部周辺の名称 1. カランクル英語版, 2. スヌード, 3. 肉垂 Wattle (Dewlap), 4. Major caruncle, 5. Beard

食用とされることもあり、家禽としても飼育される。現在家禽として飼育されているのは尾羽の先端が白いメキシコの個体群に由来するものとされる。中央アメリカ先住民族によって家畜化され新大陸到達後、1519年にはスペイン王室に、1541年にはイギリスヘンリー8世に献上された。七面鳥の英語名のターキーturkey)は、日本でも食肉名として用いられる。味はニワトリより脂分が少なく、さっぱりとしている。トルコを意味する名前が北アメリカ原産の鳥につけられている理由は、トルコ経由で欧州に伝来したホロホロチョウとの混同によるもの。

米国を含め世界で飼育される七面鳥は、飛ぶことができず、巨体で歩くことが難しく、心疾患や脳卒中、関節炎を患い、自然妊娠ができない[5]

アメリカ合衆国

アメリカ合衆国とカナダでは詰め物をした七面鳥の丸焼きが特に感謝祭(Thanksgiving Day)でのごちそうであり、感謝祭のことを口語的にTurkey Day(七面鳥の日)とも呼ぶ。クリスマスの料理としても供される。シチメンチョウのハム(turkey ham)やベーコン(turkey bacon)は一年を通じて販売されており、豚肉に比べて脂身の少ないヘルシーな代替品と考えられている。

「すべてのヤンキーの父」で知られるベンジャミン・フランクリンはアメリカ合衆国の国鳥として最後までハクトウワシに反対し、シチメンチョウを推していた。娘宛の手紙にて[6]ハクトウワシは死んだ魚を漁る、他の鳥から獲物を横取りするなどの不品行で横着な鳥で道徳的観念からふさわしくないとこき下ろし、野生のシチメンチョウこそ生粋のアメリカ人を象徴するにふさわしい勇気と正義感を兼ね備えた鳥だとした。ただ文面からは冗談、皮肉であるとも受けとれ、本気で推薦していたのかは定かではない。

家禽を撃つことは容易い事から、アメリカの慣用句として「ターキー・シュート(七面鳥撃ち)」がある。

七面鳥の「恩赦」

感謝祭前日、ホワイトハウスにて現職大統領が七面鳥を放鳥して「恩赦」を与える行事が行われる。感謝祭用にジョン・F・ケネディ大統領へ「Good Eatin', Mr. President(美味しく食べてね、大統領)」と首からメッセージを下げた七面鳥が贈られたものの、彼はその七面鳥を食べなかったことが始まりとされる[7]。2014年の例では放免されたシチメンチョウは、バージニア州の農場で余生を送ることとなった[8]

イギリス

イギリスではローストした七面鳥がクリスマス料理のごちそうとされる。ロンドンでは、台所から発生する七面鳥の油が50mプール2杯分にも及ぶと推定されており、下水管に大きな負担を与えている[9]チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』の最後の章で、改心した主人公が彼の書記に買い与えるのが七面鳥である。1960年に発生した3ヶ月で10万羽の大量死事件がきっかけとなりアフラトキシンが発見された。

日本国

アメリカ合衆国やイギリスのようなクリスマスに七面鳥肉を食する文化が日本に移入したが、入手の困難性から鶏肉に代用されることが多く、七面鳥が前面に露出することは稀である。クリスマス料理としてもチキンが主流という状態である。 主な生産地は高知県、石川県、北海道で年間3000羽ほどである。

画像

品種

ブロードブレステッドホワイト種

ブロードブレステッドホワイト種(Broad Breasted White)

食肉用に家禽化されたシチメンチョウの中で最も広く飼育されている品種である。野生種や既存のシチメンチョウの品種に比べて胸骨が短いため人の補助なしでは繁殖できず、繁殖は体外受精によっておこなわれている。改良の結果大胸筋が肥大しているため胸肉が多く取れ羽毛が白く枝肉になったときに目立たないことから、食肉用の大規模なシチメンチョウ飼育場で盛んに飼育されるようになった。

参考文献

  • 『原色ワイド図鑑4 鳥』、学習研究社、1984年、102頁。
  • 『動物大百科7 鳥類I』、平凡社、1986年、145-148、154頁。
  • 『小学館の図鑑NEO 鳥』、小学館、2002年、162頁。

脚注

  1. ^ 種の起原(上) 著者: チャールズ・ダーウィン/訳:堀伸夫・堀大才 雌雄淘汰の章
  2. ^ 河野友宏, 尾畑やよい, 小川英彦「哺乳類におけるゲノムインプリンティングによる単為発生阻止」『蛋白質核酸酵素』第49巻第13号、共立出版、2004年10月、2123-2130頁、ISSN 00399450NAID 40006427123 
  3. ^ 佐藤磐根「七面鳥の単為発生胚の形態形成能(発生)」『動物学雑誌』第69巻第1号、東京動物學會、1960年、14頁、NAID 110003363147 
  4. ^ 東京ズーネット[公式]のTweet 2017年12月23日19:33
  5. ^ シェリー・F・コーブ『菜食への疑問に答える13章』新評論、2017年、241頁。 
  6. ^ American Heraldry Society | MMM / The Arms of the United States: Benjamin Franklin and the Turkey”. Americanheraldry.org (2007年5月18日). 2012年12月10日閲覧。
  7. ^ 「感謝祭の七面鳥にオバマ大統領が『恩赦』、余生はディズニーランドで」 AFP BB NEWS 2009年11月26日
  8. ^ “オバマ氏「大統領令」発表、「恩赦」の対象は…”. 読売新聞社. (2014年11月27日). http://www.yomiuri.co.jp/world/20141127-OYT1T50058.html?from=yrank_ycont 2014年11月28日閲覧。 
  9. ^ “ロンドン地下世界、「ファットバーグ」と闘う人びと”. AFPBBNews (フランス通信社). (2014年12月18日). http://www.afpbb.com/articles/-/3034472 2014年12月19日閲覧。 

外部リンク