虐殺器官

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
虐殺器官
著者 伊藤計劃
発行日 2007年6月
発行元 早川書房
ジャンル SF
日本の旗 日本
言語 日本語
ページ数 282
コード ISBN 9784152088314
ISBN 9784150309848(文庫版)
テンプレートを表示

虐殺器官』(ぎゃくさつきかん、Genocidal Organ)は、伊藤計劃のデビュー作品、長編SF小説。2006年、第7回小松左京賞最終候補。2007年発表。「ベストSF2007」国内篇第1位。「ゼロ年代SFベスト」国内篇第1位。2010年文庫版刊行(ハヤカワ文庫)

2015年にフジテレビノイタミナムービー」第2弾「伊藤計劃プロジェクト」として『ハーモニー』と共に劇場版アニメ化されることが発表されている[1]


あらすじ[編集]

サラエボが核爆発によってクレーターとなった世界。後進国で内戦と民族衝突、虐殺の嵐が吹き荒れる中、先進諸国は厳格な管理体制を構築しテロの脅威に対抗していた。アメリカ情報軍のクラヴィス・シェパード大尉は、それらの虐殺に潜む米国人ジョン・ポールの影に気付く。なぜジョン・ポールの行く先々で大量殺戮が起きるのか、人々を狂わす虐殺の器官とは何なのか?

登場人物[編集]

クラヴィス・シェパード
アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊大尉。数々の特殊任務を経ていくうちに、ジョン・ポールと交錯する。父の銃自殺、そして交通事故により脳死状態に陥った母の生命維持装置を止めた過去を持つ。映画と文学に明るく、母親から「ことばにフェティッシュがある」と評されたこともある。
ジョン・ポール
数々の虐殺の影にあり、幾度となく暗殺対象となるもその都度逃亡を果たす謎のアメリカ人男性。元MITの言語学者。ルツィアとは不倫関係にあったが、妻子をサラエボの核爆発で喪いその関係は終わる。J・G・バラードの小説をよく読んでいた。
ルツィア・シュクロウプ
ジョン・ポールの愛人とされる女性。プラハでチェコ語の教師をしている。MITにて言語学を学び、そこでジョン・ポールと知り合った。ジョン・ポールの追跡任務に就いたクラヴィスの接近を受ける。
ウィリアムズ
クラヴィスの相棒であるi分遣隊隊員。クラヴィスとは任務以外でも交友関係にある。ゴシップ話とモンティ・パイソンのコントが好きで、常に軽口を絶やさない。妻子がいる。本作のスピンオフ作品「The Indifference Engine」にも登場。
ルーシャス
チェコのクラブのオーナーで、ジョン・ポールに協力する団体「計数されざる者」のメンバー。スパイ活動をするクラヴィスを確保するが、突入したi分遣隊に射殺もしくは確保される。
彼の名前「ルーシャス」は、本作のプロトタイプ『HeavenScape』(小島秀夫のゲーム『スナッチャー』の二次創作小説、未完)における主人公の名前である。
ロックウェル
アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊指揮官。階級は大佐デルタフォースの出身者で、過去にはイーグルクロー作戦に従事していた。
リーランド
i分遣隊隊員。クラヴィスの部下。
アレックス
i分遣隊隊員。聖書を好む。ウィリアムズ、リーランドと違い、クラヴィスに対して敬語で話す。東欧での任務から二年後、突如ガス自殺する。

用語[編集]

アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊
アメリカ全軍特殊部隊において唯一、要人暗殺を実行している部隊。特殊作戦コマンドの指揮下にある。特殊作戦任務のみならず諜報活動などの作戦にも投入され、クラヴィス曰く「スパイと特殊部隊のハイブリッド」。
作品世界においてはアメリカ軍は9.11テロの影響で陸軍、海軍、空軍、海兵隊に情報軍(インフォメーションズ)が追加された五軍で構成されている。
サラエボ
劇中ではイスラム原理主義者の手製核爆弾により消滅した町。国家に対するテロの脅威度を増大させ、資本主義先進諸国の厳重な情報管理体制構築を引き起こした。また世界中で「核兵器は実戦に投入可能で効果的な兵器」という意識が持たれ始め、後にインド・パキスタン核戦争の遠因ともなった。
PMF
民間軍事請負企業。本作では「ユージーン&クルップス社」(通称Eの字)という企業が主にそれに当たる。劇中では米軍を中心とする国家軍の対処能力を超えて対テロ戦争や後進国での内戦・虐殺が激化したため、PMFが国連平和維持活動を請け負うなど国際的な軍事プレゼンスにおいて大きな役割を担っている。一般的な傭兵の派遣のみならず情報収集、物資の輸送・供給、重要犯罪者の逮捕、紛争地域における土木工事など多様に細分化された「業務」があり、それぞれ別々の企業が行っている。
ID
個人情報認証のこと。サラエボの核爆発テロによって先進諸国では人々が網膜や指紋といった個人情報のデータが情報セキュリティ会社によって登録され、管理する体制が敷かれている。また、作中のゲリラ勢力も旧式のID技術を兵士の管理に使用しており、i分遣隊は東欧の作戦でこれを利用することによって敵の本部に潜入していった。
オルタナ(副現実)
コンタクトレンズのように角膜に貼り付けるウェアラブルコンピュータ。視覚上に様々な情報を映し出すことが出来るため「現実を覆う副現実(オルタネイティブ・リアル)」と呼ばれ、その略称「オルタナ」が一般的な名称。コンタクトタイプが一般的だが、i分遣隊では戦闘中の激しい動きで目から外れることを防ぐためナノマシン技術を用いた点滴タイプのオルタナを使用している。
痛覚マスキング
劇中でDARPAが開発した軍事用の麻酔技術の一種。脳内の痛覚を司る部野を限定的に遮断することで「痛覚を認識しながら痛いと感じない」状態を作り出し、戦闘中に負傷しても冷静に行動出来る。完全に痛覚を消す麻酔とは異なり、「痛い」というクオリアだけを遮断するため身体が負傷した際にはそれに気付いて手当などの処置を行える。劇中ではある程度普及した技術でありPMFの特殊部隊員にもこの処置が行われていた。
戦闘適応感情調整
先進国の軍隊が、兵士に行うカウンセリングと薬物投与を組み合わせた感情操作。戦場で兵士が行動を起こす際に心理的障害が起こる可能性をなくしたり、軽減するために行う。
USA(ユナイテッド・スクープ・アソシエイション)
米国の情報関係者たちが使用するネットワーク。SNSインテリぺディアなどを組み合わせた物のようで、クラヴィスは「覗き魔たちの慣れ合いの場」と評している。USAは愛称で、正式名は「国家防衛情報共有空間」。
SNDGA(ソーシャル・ネットワーク・ダイレクテッド・グラフ・アナリシス)
NSANCTC、DARPAなどが共同で開発・運用している情報追跡システム。日本語名は「社会網有向グラフ解析」で、「全地球的ケビン・ベーコン・ゲーム」とも例えられる。各地のエシュロンなどから得られた情報を元に、グラフ理論を用いてその地域の社会的ネットワークの流れを観測するもので、紛争やテロの中心となっている人物の特定などに使用されている。
少年兵
ゲリラ勢力などに拉致され、戦わされている子供達。戦闘の他、少女の兵士の場合は幹部との性的行為を強要されている。少年兵達は大人の兵士のように負傷した仲間を助けることをせず、また麻薬によって感覚を麻痺させられているため、猛然と突進を仕掛けてくる。劇中ではi分遣隊と「ヒンドゥー・インディア共和国暫定陸軍」というゲリラ勢力の少年兵達との戦闘が描かれた。
フライングシーウィード
i分遣隊が所有する侵入航空機。元々は戦略爆撃機であったが、i分遣隊の機体は爆弾槽の代わりに侵入鞘のカーゴベイを有している。ステルス性を意識した一種の全翼機で、モノリスにも例えられる長辺が約100mの巨大な長方形のような姿をしており、その独特の形状から「空飛ぶ海苔」と呼ばれている。エンジンは翼の両端に内蔵されており、姿勢制御はソフトウェアによって制御される無数の柔毛状の小型フラップによって行われる。この他、緊急対処用のスマート爆弾数発や、ミニガンを装備した無人ヘリ(有人飛行も可能)を搭載している。
侵入鞘(イントルード・ポッド)
i分遣隊が使用する降下装備で、HALOに代わって使用されている。ステルス性を意識した棒状のポッドで、人工筋肉で構成されている。空中では安定翼を用いて姿勢を制御し、着陸時にはドラグシュートや人工筋肉で構成された四本の着陸脚を使用する。使用後は廃棄モードによって、人工筋肉などの生体組織の細胞を壊死させ分解される。通常型の他に、機銃三基と街路制圧用UAVで武装した物や、人工筋肉を用いた潜水航行機能を有する水中作戦仕様の物も存在する。
環境適応迷彩
周りの風景に合わせて、兵士の身体を見えづらくする光学迷彩装備。PMFの特殊部隊員が使用している。
SWD(シリー・ウォーク・デバイス)
捕虜の後頭部に貼り付けることによって、本人の意思とは無関係に相手の身体を動かすことのできるシール状のデバイス。正式名称は本編未登場で、「バカ歩きデバイス」という意味の通称名のみが登場する。同種の装備として、相手を気絶させる「ノックアウトシール」も存在する。
ペインデバイス
軍用に開発されたナノマシンの一種。人の体内に入ると指先などの末梢系の毛細血管に貯まり、外部からの操作で痛みを生じさせる。
人工筋肉
作中にて兵器や機械などで使用されている素材。劇中ではi分遣隊を降下する侵入鞘などに使用されているが、一般家庭には普及していない。実際には「人工」筋肉ではなく、鯨やイルカの筋肉を遺伝子操作したものが使用されている。主にヴィクトリア湖で養殖されており、「ヴィクトリア湖沿岸産業者連盟」という国家が利権を握っている。
鳥脚ポーター
人工筋肉を用いた二足歩行機械。主にオフィスなどで広く普及している他、産業目的の貨物輸送用の物も存在する。クラヴィス曰く「人間の下半身だけが生き生きと歩いているよう」。
肉旅客機(ミートプレーン)
主翼などに人工筋肉を用いた短距離離着陸ジェット旅客機。名称はクラヴィスによる呼称であり、正式の物ではない。飛行中は姿勢制御の為に、主翼の人工筋肉を常に駆動させている。また、ジャンボジェットクラスの大型機でありながら、主翼の翼面を前方に向けて制動をかける事による短距離離着陸が可能であり、衝撃緩衝モードを備えた高分子素材製シートの効果も合わさって、着陸時のG負荷も極めて少ない。

日本国外での刊行[編集]

韓国語訳
2010年2月に韓国・テウォンC.I.の日本SF翻訳レーベルNT Libraryから韓国語版が刊行された。

脚注[編集]

[ヘルプ]

参考文献[編集]

  • 「世界内戦」とわずかな希望――伊藤計劃『虐殺器官』へ向き合うために(岡和田晃
「S-Fマガジン」2010年5月号‐第5回日本SF評論賞優秀賞受賞作。本格的な『虐殺器官』論。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]