光学迷彩

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光学迷彩(こうがくめいさい、英語: optical camouflageactive camouflage)は、視覚的(光学的)に対象を透明化する技術で、その原理にはいくつかのバリエーションがある。当初SF作品等に登場する未来技術であったが、近年の科学技術の進歩によって、かなり現実味を帯びてきている。2000年代に入り、完全には透明にはならないものの、メタマテリアルなどの新素材を用いることによって、一定の迷彩が実現されており、科学者たちによって可能性が模索されている技術である。軍事利用だけでなく、コンピュータ支援外科メタバースユビキタスコンピューティングの分野でも研究が進められている。

ペルチェ素子を使って戦車を乗用車や動物のように見せかけ、赤外線を利用する探査装置や誘導兵器からカモフラージュする、熱迷彩技術も開発されている。

光学迷彩のアイデア[編集]

映像投影型(カメレオン型)
カメラで撮影した映像を、シリコン被覆などをほどこした物体にプロジェクターで投影したり、フィルム状の光学LEDで覆った物体に表示して、カメレオンのように周囲に溶け込ませるというもの。これはカメラとコンピューターを併用することで、可能性としては一番現実的である。戦車の迷彩機能として有効で、イギリス軍が2012年に配備すると発表した光学迷彩の装甲を搭載した戦車はこのタイプである。映像を投影可能な素材でできた手袋を使うと、外科医が手術する自分の手で患部を目隠しせずに、あたかも透視するかのように手術を進めることができる。これはコンピュータ支援外科の分野で研究が進んでいる。立体映像で全体を包み込むというアイデアもあるが、いまだに全方位から見て破たんが生じない立体映像の表示技術が確立されていないので、様々な問題がある。
なお光ファイバーを織り込んで周囲の風景を衣類に投影するパッシブ・カメレオン型は実用化されており、米軍やイギリス軍に正式採用されている他、一般にも1着100$程度と安価に市販されている。パッシブ型は精密な投影は苦手だが、砂漠や草原地帯では非常に有効であり、また電力を必要とせず軽量である事から、多くの軍事組織の標準装備に採用されている。
光の透過・回折型(迂回型)
光を完全に透過・回折させる(過去のSF作品などに登場するガジェットでは、特殊な素材や構造を持つ繊維などによって、使用者の周辺の光を透過させるといった説明が行われる例などがある。またいわゆる透明人間などは、これの究極的な姿と言える)。しかし、この方法の場合、相手から見えないだけでなく、こちらから相手を見ることもできない。電磁メタマテリアルと呼ばれる、光に対して負の屈折率を持つ新素材を用いることで、物体の表面で光を迂回させて、反対側に突き抜けさせることで、あたかも光が透過するかのような状態を実現できる可能性が示唆され、軍事・医療分野で積極的に開発が進められている。
空間歪曲型
空間歪曲などによって光自体の進路を変えてしまう(空間そのものを歪める必要があるので、現在の物理理論では実用の際は巨大なエネルギー(質量)を必要とし、一番現実性が低い方法)。ただし、物質を使って回折させる手法は空間歪曲と数学的に等価な表現であるため(Transformation Opticsと呼ばれる座標変換理論を参照)、前述の回折型とも解釈できる。
電磁波吸収型
可視光を含む電磁波を吸収してしまう素材を用いる。一部のSF作品などでこう解説される事があるが、現実には黒く見えるだけなので、根本的に間違っている。ただし原理上、レーダー等には有効な場合もある。

光学的迷彩技術の研究[編集]

「光学迷彩」という用語そのものは本来、作品中に登場する架空の技術を表すものだが、[要出典]現実世界においても東京大学などにおいて同様の技術の研究が行われている。アメリカ軍も、光学的な迷彩技術の研究をマサチューセッツ工科大学に依頼している。

光学的な迷彩の対象となる物体に、再帰性反射材(微細なガラスビーズ等によって、光が入射した方向に反射する素材)を塗布し、物体の背後の映像を外部よりプロジェクタで投影することで、ある程度の実現を見ている。

光学迷彩はまだ難しい技術だが、「手術中の医師の手袋に患部を投影し、患部がいつでも目視できるようにする(医師の手が患部の上にかぶさり、患部が見えなくなるのを防ぐ)」といった、コンピュータ支援外科など限定的な用途での研究はかなり進んでいる。

各国の研究
  • デューク大学などの米英のグループは、特殊な金属繊維を使って光を反射せず、後方へ迂回させるという研究を行っている。これが実現すれば理論上はあたかも物体が透明になったかのように見えるという。
  • 富山大学はこだて未来大学、英セント・アンドルーズ大学の3人の研究者は「左手系メタマテリアル」を使って周波数限定ながら電磁波による完全な透過効果が得られる物体の作成に成功し、理論上は可視光線域での実現が行なえるとした[1]
  • イギリス軍では、早ければ2012年にも、光学迷彩を搭載した主力戦車を実戦配備するという[2]
  • 米・カリフォルニア大学バークレー校でも開発に成功したことを2008年8月11日に明らかにした[3]
  • 英・セント・アンドルーズ大学の研究チームは New Journal of Physics 11月号に「可視光線の領域」で光を曲げることができる物質の作成に成功したとする論文を発表した[4]
  • メルセデス・ベンツは、車体側面をシート状の光学LEDで覆い反対側の景色を撮影してリアルタイムで表示することで、簡易光学迷彩を実現した車、メルセデスF-Cellモデルを用いたCMを流し、Invisible Mercedesと話題になった[5]

フィクションにおける「光学迷彩」[編集]

自然界・民話・伝承
自身の衣類や機体等の色や模様を、背景に合わせリアルタイムに変更することにより視覚的に偽装する、またはを透過・偏向させ視覚できなくするといった概念自体は洋の東西を問わず古くから存在しており、その例として前者は動物のカメレオンイカタコ等の擬態、後者は民話伝承に残る「ハーデースの隠れ兜」や「天狗の隠れ蓑」等があげられる。
文芸等創作物
比較的近年の作品に登場するものとして、フィリップ・K・ディックのSF作品に登場する「ジャンプスーツ」や、ウィリアム・ギブスンの作品中に登場する「擬態ポリカーボン」など、また戦艦サイズでは『スタートレック』に登場する宇宙戦艦用の遮蔽装置や、映画『アイ・スパイ』でテロリストとの取引に利用される戦闘機に施した視覚的ステルス、ゲーム「メタルギアソリッド」シリーズに登場するステルス迷彩、等の例があげられる。映画『プレデター』では、作中に登場する宇宙人種族プレデターが地球を凌ぐ科学技術として光学迷彩を使用し、これにより追い詰められ、抵抗し戦う地球人たちのドラマが主題の一つとなっている。また映画『007 ダイ・アナザー・デイ』ではボンドカーが光学迷彩装備で登場する。この前後から軍事的現実性に市民権を得始めたといえる。
他にも、ドラえもんが取り出す道具の中にも幾つかの(しかも全く別個の用途とそれに見合った仕掛けを持つ)アイテムとして登場している。例えば、「透明マント」などは、魔法・科学(前者は『ハリー・ポッター』、後者は『ドラえもん』)の両面の物語で登場する。
これらの「隠れ蓑」的技術に対し、日本では長らく定まった呼称が存在していなかった(英語ではcamouflageやcloakingと言われる)

脚注[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]