精油

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白檀(サンダルウッド)の精油

精油(せいゆ)、エッセンシャルオイル英語 essential oil)は、植物に含まれ、揮発性の芳香物質を含む有機化合物である。「オイル/油」という字が付くが、油脂とは別の物質である。可溶化リポイドで、水に溶けにくく、アルコール油脂などに溶ける性質(親油性脂溶性)を持つ。現在、約250~300種類の精油が存在する[要出典]

「精油」として販売される商品は、100%天然物質であり、合成物質を一切含まず、アルコール希釈などは行なわれない。しかし現在は、合成物質の添加などの偽和が横行している。精油は狭義では、水蒸気蒸留法により抽出されたもののみを指し、他の抽出法で抽出した精油は含まれない。大量の植物からわずかしか採れない貴重なもので、アロマオイルポプリオイルなどと混同されることもままあるが、人工香料を使用して大量生産されるそれらとは別物である。

精油の製造に用いられる水蒸気蒸留法についての最古の記録は、アンダルス(現スペイン・アンダルシア地方)の偉大な科学者で、医師・薬剤師・植物学者・科学者であったイブン・アルバイタール(1188年 - 1248年)の『薬と栄養全書』(Kitab al-Jami fi al-Adwiya al-Mufrada)であるといわれる。[1]

植物における精油とその働き[編集]

一般に精油は植物の特殊な分泌腺で合成され、その近くの油細胞に蓄えられている。精油は植物にとって様々な有用な作用を及ぼす。香りの誘因効果により昆虫受粉種子の運搬を託す。また精油の苦みなどの忌避効果によって害虫やカビ真菌)などの有害な菌から植物を守ることもある。他の植物の発芽や成長を抑える働きのある精油もある。また精油が汗のように蒸散することにより自らを冷却し太陽熱からその植物を守ることもある。

細菌やウイルス、虫などに対する作用[編集]

  • 殺菌作用:バクテリアなどの細菌を殺す作用
  • 抗菌作用:細菌の増殖を抑える作用
  • 抗真菌作用:真菌カビ)の増殖を抑える作用
  • 抗ウイルス作用:ウイルスの増殖を抑える作用
  • 殺虫・虫除け作用:を殺したり、除けたりする作用

成分[編集]

植物に含まれる揮発性の有機化合物を精油(エッセンシャル・オイル、essential oil)という。一般的な植物油脂は不揮発性でグリセリン脂肪酸エステルを主成分としているのに対し、精油はテルペン芳香族化合物など(アルコールアルデヒドシトラールケトンエステルフェノール炭化水素)を主成分としている。低沸点の香気成分を豊富に含むことが多い。人体にとっては植物ホルモンを含む強い生理活性作用物質である。

用途[編集]

特有の芳香を持つものが多く天然香料として使用される。また、アラビア・ヨーロッパでは伝統的に精油を用いた治療が行われ、現在ではアロマテラピーまたはアロマセラピーと呼ばれる[2]

品質[編集]

分析[編集]

旋光性比重屈折率などの物理的な分析、ガスクロマトグラフィー質量分析赤外分光法などの科学的分析がある。また、人が実際に香りを嗅ぐ官能試験も行われる[3]

規格[編集]

精油製品は、ヨーロッパにおける信頼性の高いの規格として、フランス規格化協会(Association Française de Normalisation、略称AFNOR)による規格があり、いくつかの精油については標準的化学組成を示したモノグラフを発行している[2]。電気分野を除く工業分野の国際的な標準を策定する国際標準化機構(International Organization for Standardization、略称: ISO)でも精油の国際的な規格が定められており、これはフランス規格化協会の基準を受け入れている[3]。TC54という委員会が包装、状態、保管、サンプリング、旋光度の測定、組成などを評価している。精油の組成成分類の各量が基準に合わない場合、または天然精油に存在しない成分があった場合に、基準に合わない精油と見なされる[3]。ただし、基準に合致しても、100%天然であると保証されるわけではない。

また芳香材料研究所(RIFM)、国際芳香協会(IFRA)、イギリス薬局方(BP)などの規格もある。しかし、イギリス薬局方の規格は、アロマテラピーの実態には合っていない[2]

グレード[編集]

精油製品には次の3つのグレードがある[2]

  • インダストリアルグレード:産業用に使用され、合成香料が含まれる。
  • 100%ピュア&ナチュラルグレード:合成香料は含まれないが、残留農薬についての保証はない。
  • オーガニックグレード:有機栽培された香料植物から採取され、残留農薬は含まれない。アロマテラピーで利用される。ヨーロッパでは、フランスの国際有機認定機関ECOCERTによる認証がある。

医療に用いる高品質精油が、「医療グレード」という通称で呼ばれることもある。

精油の偽和とその危険性[編集]

精油の流通量は生産量を大きく上回っており、天然の精油に、別の安価な精油や合成物質を加え、様々な溶剤で偽和する偽装行為が広く行われている。例えば、フランスにおける真正ラベンダーの生産量は、1967年の87トンから1998年には12トンと減少しているが、この期間でラベンダー油の世界需要は100倍に増加している[3]。生産量と流通量の差分は、偽和によって水増しされた精油によって賄われている。精油は、原料として香料植物を大量に必要とすることから、安価に販売することは非常に困難である。アロマテラピーに偽和された精油が用いられた場合、アレルギー反応や湿疹、やけど症状などを引き起こす恐れがあり、治療効果は期待できないだけでなく、非常に危険である[3]

香りの分類[編集]

アロマテラピーや香水の世界では、植物の種類や抽出部位により、精油を次の7種類に分ける考え方もある。

  1. ハーブ系 (ハーブの花や葉から抽出)
    クラリセージ月桃バジルペパーミントマジョラムなど
  2. 柑橘系( 柑橘系の果物や、それに似た香りのハーブから抽出)
    オレンジ・スイート、グレープフルーツベルガモットレモンレモングラスレモンバーベナなど
  3. フローラル系 (主に花から抽出)
    ジャスミンゼラニウムネロリラベンダーローズオットーなど
  4. オリエンタル系 (異国情緒が漂うエキゾチックな香り) 
    イランイランサンダルウッドパチュリベチバーなど
  5. 樹脂系(天然樹脂系) (香木の樹脂から抽出)
    エレミフランキンセンスベンゾインミルラなど
  6. スパイス系 (料理のスパイスとして使われる香辛料から抽出)
    カルダモンクローブシナモンリーフジンジャーブラックペッパーなど
  7. 樹木系 (樹木の樹皮や枝、葉などから抽出)
    サイプレスシダーウッドジュニパーベリー、ティートリーパインプチグレインユーカリなど

精油が採れる植物[編集]

精油原料となる植物は多岐にわたる。オレンジのように花、葉、果実から異なる精油が得られるような植物もある。以下に主な採油植物とその部位を示す。

精油を採る方法[編集]

精油は主に水蒸気蒸留法によって抽出される。一般的にはハーブ葉の質量に対し0.01%~0.2%程度しか含有せず、かつ、全量抽出するには6回から10回程度繰り返し同じ葉を蒸留しなければ得られない大変に貴重なものである(1.0kg=1000gの葉に対し1.0g=1.0cc=1.0ml程度の精油全量に対し、1回蒸留で0.1ml)。よって大量生産は考えにくく、安価なものにはできにくい。

水蒸気蒸留法(水蒸気で蒸して芳香成分を得る)
広範な沸点分布を持つ精油成分を一度に留出させるには、水蒸気蒸留が適している。原理については水蒸気蒸留を参照。狭義の精油としては水蒸気蒸留で得られたもののみを指す(他の方法利用のものは「精油」と呼ばないという意)。100℃以上の熱がかかるので、熱による変質が起こる精油の採油方法としては適切でない。
水蒸気の冷却後に得られる、精油とは分離された水の中には水溶性の芳香物質が微量に含まれていて「芳香蒸留水/ハイドロゾル」と言われる。これは一般的にフローラルウォーターなどと呼ばれる。
油脂吸着法(油脂に芳香成分を吸わせる)
脱臭した動物油脂などに植物を添加して精油を吸着させたのち、エタノールで精油のみを油脂から抽出する古典的な方法。古代エジプトの時代から行われていた熱を加える温浸法(マセラシオン)と、ルネサンス期に開発された室温で行う冷浸法(アンフルラージュ)がある。精油を吸着した油脂はポマードといい、そこからエタノールで抽出された精油はエキストラクト(エキス)、さらにそこからエタノールを蒸発させて除去したものはアブソリュート(Abs.)と呼ばれる。冷浸法では熱による変質の無い非常に高品質な精油が得られるが、時間と手間が掛かりすぎるため現在ではほとんど行われていない。
冷浸法(アンフルラージュ)
ジャスミンやバラなど、主に花から精油を抽出する場合に使われる方法。動物性脂肪や植物油を塗ったトレーに花びらを並べて載せ、花びらに含まれる精油をトレーのオイルに吸収させる。その後、トレーに塗った動物性脂肪・植物油から精油を分離し純化させる。
アブソリュート(Abs.) 
油脂吸着法、揮発性有機溶剤抽出法、超臨界流体抽出法などで段階的な過程を経て最終的に得られた精油をアブソリュート(Abs.)と呼ぶ。狭義には揮発性有機溶剤抽出法で得られた精油を指す。
有機溶剤抽出法(芳香成分を有機溶剤に溶かしだして得る)
手間暇のかかる油脂吸着法にとって代わった方法。植物を有機溶剤(溶媒石油エーテルヘキサンベンゼンなど)に浸し芳香物質を溶かし出した後、有機溶剤を気化させると芳香物質を含む半固形状の物質(ワックスコンクリート)が残る。これをエチルアルコールに溶かし、-20℃~-30℃で冷却すると芳香成分とワックス成分が分離する。その後アルコールを除去して精油を得る。
水蒸気蒸留法と比べてたくさんの精油を抽出することができるという利点がある。また、水蒸気蒸留法のような熱の影響を受けないため、ローズやジャスミンなどの微妙な花の香りを得るには良い方法である。この方法で取りだした精油もアブソリュート(Abs.)と呼ばれる。
しかし人体に有害である有機溶剤が少し残る場合もあり、この方法で取りだした「アブソリュート(Abs.)」を「精油」を区別する考え方もある。
※油脂吸着法と有機溶剤抽出法で得られる(狭義の)エキストラクト、アブソリュート、コンクリート、オレオレジン、レジノイド、ティンクチャーは(広義の)エキストラクト(エキス)と総称される。
ティンクチャー(チンキ)
植物(バニラやローズなど)を単にエタノールやウオッカなどに浸し芳香物質を溶かし出した後、そのままアルコール成分を除去しないものもあり、これはティンクチャー(チンキ)と呼ばれる。精油成分が溶けている液体である。
食品用途のもの(薄めてハーブティーとして飲んだりする)はオレオレジン、化粧品用途のもの(化粧水やシャンプーなどに混ぜたりする)はレジノイドと呼ばれる。この方法で取り出した精油は油脂吸着法同様アブソリュート(Abs.)と呼ばれる。
超臨界流体抽出法(液化ガスなどを超臨界状態にして芳香成分を溶かし出して得る)
1970年後期に開発された方法。まず主に二酸化炭素などに高い圧力をかけ超臨界状態(超臨界流体)にする。この中に植物を入れておき芳香成分をその中に拡散・浸透させる。その後圧力を抜き流体を気化させると芳香成分だけ残る。この方法で取りだした精油もアブソリュート(Abs.)と呼ばれる。熱による成分の変質が無く、また有機溶剤抽出法のように有機溶剤が残るおそれが無いことから安全性が高い精油が得られるというメリットがある。しかし装置が高価なためあまり一般的でない。二酸化炭素を使いこの方法で抽出した精油を特にCO2エキストラクトまたはCO2と呼ぶことがある。
圧搾法(物理的に圧力を加えて絞り出す)
柑橘類は果皮の表面にある油胞に精油を含有しているので、果皮に圧力を加えて油胞を潰すことで精油を得ることができる。果皮を絞るスクイーズ法と果皮をおろしがねのようなもので擦るエキュエル法がある。現在では機械化されている。果汁と一緒に絞り精油を分離する方法もある。L-リモネンなどのテルペン類は熱による香調の劣化が激しいので、圧力をかけるときに発生するわずかな熱から香気成分を守るために、その際に冷却しながら圧搾処理することがある。冷却圧搾で得られた精油は特にコールド・プレスと呼ばれる。
熱による変質を受けにくいので自然のままの香気を保てる一方、他の精油製造法に比べて不純物が混ざる可能性が高く、精油の品質の劣化が早いことが欠点である。

賞香期限[編集]

製品化された精油は、開封後約1年が目安となるものが多い。柑橘系(ベルガモット・レモンなど)は約半年とされる。香木系(サンダルウッドやパチュリーなど)のように歳を経るごとに質が良くなるものもある。しかし、期限内であっても濁ってきたり香りが変わってきたりしたら使用しないほうがよい。

主な精油[編集]

五十音順 (項目末尾のカッコ内は 科/抽出部位/その精油の一般的な抽出方法)

国産の精油
柚子ヒバ月桃紫蘇カボス薄荷日向夏へべす清見などの他に国産ラベンダーの精油もある。
ケモタイプ/ct.
学名は同じでも収穫年や産地・栽培方法などの生育環境などの違いにより成分の構成比率が著しく異なり、香りや作用に大きな差が生じる精油がある。これらを「ケモタイプ(科学種)/ct. 」として別の精油として扱う。タイム、カユプテ、ティートリー、ローズマリーなどにケモタイプが確認されている。

出典[編集]

  1. ^ Houtsma, M.Th. (1993). E. J. Brill's First Encyclopaedia of Islam, 1913–1936. 4. Brill. pp. 1011–. ISBN 9004097902. 
  2. ^ a b c d 今西二郎 著 『補完・代替医療 メディカル・アロマセラピー』 金芳堂、2006年
  3. ^ a b c d e 高山林太郎 著 『ルーツ of アロマテラピー』 現代書林、2002年

参考文献[編集]

精油や精油を用いた治療であるアロマテラピーの研究は日々進んでいるが、日本語の最新情報は極めて少ない。正確な情報を得るには、外国語の最新の論文・専門雑誌・専門書を当たることが望ましい。過去に評価の高かった専門書も、古いものには間違った情報(更新された情報)があるため注意が必要である。

  • 『お部屋でできるアロマテラピー40』 吉田隆子著 同文書院
  • 『アロマテラビーハンドブック』 香りの総合学院GRASSE監修 池田書店
  • 『アロマテラビー検定テキスト 2005年5月改訂版 1』 社団法人 日本アロマ環境協会 ISBN 4-931533-04-3
  • 『生活の木・エッセンシャルオイルリスト』パンフレット 株式会社生活の木
  • 『これ一冊できちんとわかるアロマテラピー』 梅原亜也子 著 ㈱毎日コミュニケーションズ ISBN 978-4-8399-3447-7
  • 『アロマティックライフ』 日下部知世子 著 ㈱グラフ社 ISBN 978-4-7662-1167-2

関連項目[編集]