化学物質過敏症

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化学物質過敏症(かがくぶっしつかびんしょう)は、非常に微量の薬物化学物質(主に揮発性有機化合物)の暴露によって健康被害が引き起こされるとする疾病概念。人体の薬物や化学物質に対する許容量を一定以上超えると引き起こされるとされており、個人差が大きいといわれる。化学物質の摂取許容量と同様に、発症原因および症状、その進行・回復速度や度合いも多種多様であるといわれる。 本態性環境不耐症とも呼ばれる[1]

薬物と化学物質の定義についてはそれぞれの項を参照

概要[編集]

1950年代にアメリカの医師セロン・G・ランドルフは、化学物質への暴露によって発生する過敏反応の可能性を提唱した。1980年代にマーク・カレンによって「MCSMultiple Chemical Sensitivity:多種化学物質過敏状態)」という概念が提唱された。これは、慢性または大量の化学物質に曝露された後、極めて微量の化学物質に過敏反応し、多岐にわたる症状を示す疾患であるとされた。その後、同様の概念を提唱する「臨床環境医」と呼ばれる医学研究者を主体に研究が行われてきた。日本では北里研究所病院がMCSの概念を導入し、「化学物質過敏症」として診断方法・治療法の検討が行われてきた。その後、北里研究所病院臨床環境医学センターが設立された。

化学物質過敏症の症状とされるものは多岐にわたり、粘膜刺激症状 (結膜炎鼻炎咽頭炎) 、皮膚炎気管支炎喘息、循環器症状 (動悸不整脈) 、消化器症状(胃腸症状) 下痢便秘悪心自律神経障害 (異常発汗) 、手足の冷え、易疲労性、精神症状 (不眠、不安、うつ状態、記憶困難、集中困難、価値観や認識の変化)、中枢神経障害 (痙攣)、頭痛、発熱、疲労感、末梢神経障害 運動障害、四肢末端の知覚障害等がある。

化学物質過敏症は、中毒アレルギーとは異なる概念の疾患であるとされる。また、住宅内の揮発性有機化合物(VOC)が原因の一つとされるシックハウス症候群とは化学物質による健康被害という点で混同される場合があるが、シックハウス症候群は単一の疾病を示す用語ではなく「住宅に由来する様々な健康傷害の総称」とされるため、両者は異なった概念であると考えられる。

厚生労働省は有識者からなる「室内空気質健康影響研究会」を2003年5月から10月にかけて3回にわたりを開催し、用語の検討や化学物質過敏症についての見解の整理を行っている[2]。その中では、特に「化学物質過敏症の呼称について」と題して日本国内での呼称について触れ、日本国内で化学物質過敏症と診断された症例の中には、既存のアレルギー等の疾病概念で病体の把握可能な患者が少なからず含まれており、化学物質の関与が明確ではないにも関わらず、臨床症状と検査所見の組み合わせのみから化学物質過敏症と診断される傾向があり、既存の疾病概念で説明可能な病態について「化学物質過敏症」という名称を用いることが、化学物質過敏症に対する科学的議論を行う際に妨げになっていることを指摘している。非アレルギー性の過敏状態としてのMCSについてその病態の存在自体を否定するものではないが、MCSに相当する用語として「化学物質過敏症」が適当であるとは言えず、既存病態との分別が可能な臨床検査法及び診断基準が開発され、研究が進展することを期待する、と結んでいる。

環境省が1997年度より研究班を設置して、二重盲検法による疫学調査を行っているが、2004年の報告[3]では原因化学物質の一つとされている微量ホルムアルデヒドの暴露と症状の間に関連は見られないという結果が出ている。この事から、いわゆる化学物質過敏症の症例には、化学物質以外(ダニカビ、心因等)の原因によるものが含まれると考察されているが、動物実験の結果から、微量の化学物質の曝露による未解明の病態の存在を否定できず、なお研究が必要であるとしている。

厚生労働省は、カルテや診療報酬明細書(レセプト)に記載するための病名リストに、2009年10月1日から化学物質過敏症を登録した。

2010年には、有機溶剤を扱う業種で勤務し、化学物質過敏症による眼球運動障害を患った男性が、労災と認定されている[4]。また,ガスボンベの再生作業に従事したことにより化学物質過敏症を発症したとの主張につき,労災認定では否定され,取消訴訟の第一審でも行政の判断が支持されていたが,控訴審において業務起因性が肯定された例がある[5]

化学物質過敏症に関する議論[編集]

肯定的見解
化学物質の人体に及ぼす影響については未だ解明が進んでいないが、一部の専門家の間では、近年激増の傾向にある自律神経失調症うつなどを含めた現代病は、化学物質の曝露が原因である、という意見がある[6]。また、化学物質過敏症は様々な症状を呈するため、適切な診断が下されない場合がある。具体的には、眼に症状が現れている場合では、アレルギー性結膜炎及びドライアイなどの診断が、呼吸器系の症状では風邪や喘息が、その他では自律神経系異常に関連する疾患または精神科領域の疾患として診断されてしまう可能性がある[7][8]。なお、化学物質過敏症は煙草受動喫煙により生じる受動喫煙症の悪化で生じたり[9]、あるいは新築あるいは改築した住宅で発症するシックハウス症候群の悪化により生じる場合もある[10][11]。不定愁訴、咳喘息、気管支炎、ドライアイ、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎、自律神経系の病、脳や神経系の病、うつ病などの様々な病名の診断がなされ手術や投薬を重ねても改善されなかった、および逆に悪化した症例で、化学物質過敏症としての診断と治療によった後、病状の現状維持または改善及び社会復帰に結びついた例があるとの主張がある[12][13]。また、functional MRIによる脳画像解析を用いた客観的診断手法についての研究がある[14]
懐疑的見解
化学物質過敏症とされる症状については科学的・疫学的な立証を経たものは少ない。微量の化学物質が多彩な症状を引き起こしているとする客観的な証拠がなく、においや先入観により引き起こされていると考えられる[15]ことなどから、「化学物質過敏症」という名称自体が適当でないとする意見があり、主要な学会からはその診断名称を拒否されている[16][17][18]。また、化学物質過敏症は身体表現性障害の診断基準を満たし、心因性とする意見があり[19]、患者本人が精神疾患であることを認めず身体疾患であることに固執したり、種々の自律神経機能検査で異常を呈することもそれが原因と考える事もできる[20]。身体疾患であることに固執するあまり、この考えを信じる人々によって化学物質過敏症に懐疑的な人々が襲撃されるまでに至っている[21]。むろん、全体として化学物質過敏症の存在可能性は否定し尽くされた訳ではないが、包括的に「化学物質過敏症」として症状を一般化させ患者の恐怖を煽る手法については、疑似科学、およびそれを利用した商法の一種であるとの指摘もなされることがある[22]。また、化学物質過敏症と診断された患者に対して、認知行動療法抗うつ剤による精神医学的な治療[23]、あるいは祈りなどが功を奏した例[24]が報告されている。定義、診断方法等の検証が十分とはいえない部分があり、海外では化学物質過敏症を特定の疾患と認めることに否定的な意見が大勢であり、心身症と考える意見が強いとされる[25]

相談・外来診療[編集]

化学物質過敏症を専門に扱う化学物質過敏症外来などを設ける医療機関もある。

シックハウス症候群については保健所に相談窓口がある。また、室内空気の揮発性有機化合物 (VOC) の測定なども有料で行う。

関連項目[編集]

脚注[編集]

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  1. ^ 化学物質過敏症(かがくぶっしつかびんしょう) Yahoo!百科事典
  2. ^ 厚生労働省のプレスリリース「『室内空気質健康影響研究会報告書:〜シックハウス症候群に関する医学的知見の整理〜』の公表について」(2004年2月27日)
  3. ^ 環境省のプレスリリース「本態性多種化学物質過敏状態の調査研究報告書」(2004年2月13日)
  4. ^ 化学物質過敏症:後遺症が初の労災認定 眼球運動障害で 毎日新聞 2010年2月16日
  5. ^ 広島高裁岡山支部 平成23年3月21日 労働判例1036号50頁
  6. ^ 朝日新聞 1998年11月30日 夕刊 1社 「過敏症 めまい・熱…毎日が拷問(見えない汚染 化学物質:1)」
  7. ^ 読売新聞 1996年06月12日 東京夕刊 夕科学 12頁 「対策急がれる室内汚染 残留性高い有毒物質 入居11日で外気の6.9倍」
  8. ^ 読売新聞 2008年11月20日 東京朝刊 都民 33頁 「化学物質過敏症 つらさ訴え行進 頭痛、ぜんそく…症状多様=東京」
  9. ^ 朝日新聞 2005年05月31日 朝刊 生活1 「人の煙、吸いたくない 診断基準に基づき職場改善も 【大阪】」
  10. ^ 朝日新聞 2003年12月11日 朝刊 山形1「シックハウスで損賠求める 新築住宅巡り山形の会社員夫妻 /山形」
  11. ^ 朝日新聞 2004年03月27日 夕刊 1社会 「中庭教室、20歳の春 化学物質過敏症、妹弟に続き兄入学【大阪】」
  12. ^ 朝日新聞 2004年09月15日 朝刊 群馬2 「シックビル(忍びよる空気異変 現場からの証言:上) /群馬」
  13. ^ 朝日新聞 2009年11月19日 朝刊 福島全県・2地方 「“療養施設”に安心感 脱化学物質過敏症、南会津に注目 /福島県」
  14. ^ 三木猛生、角田正史、相澤好治「fMRIを用いた微量化学物質曝露時の脳画像解析の検討」LRI Annual Report 2006 Japan Chemical Industry Association ;79(第15回日本臨床環境医学会総会、仙台、2006年7月)
  15. ^ Das-Munshi J, Rubin GJ, Wessely S. Multiple chemical sensitivities: A systematic review of provocation studies. J Allergy Clin Immunol. 2006 Dec;118(6):1257-64. Epub 2006 Sep 25.
  16. ^ Gots RE. Multiple chemical sensitivities--public policy [Editorial]. J Toxicol Clin Toxicol 1995;33:111-3.
  17. ^ American Medical Association Council on Scientific Affairs. Clinical ecology. JAMA 1992;268:3465-7.
  18. ^ Michael K. Magill, and Anthony Suruda, Multiple Chemical Sensitivity Syndrome, American Family Physician, September 1, 1998.
  19. ^ Staudenmayer H, Binkley KE, Leznoff A, Phillips S. Idiopathic environmental intolerance: Part 2: A causation analysis applying Bradford Hill's criteria to the psychogenic theory. Toxicol Rev. 2003;22(4):247-61.
  20. ^ 羽白誠, 「化学物質過敏症はこころが関係している 」, Vis Dermatol (6)2:188-190
  21. ^ Report of multiple chemical sensitivities (MCS) workshop, Lessof M, Human and Experimental Toxicology 16 : 233-234 (1997)
  22. ^ Quackery(いかさま医療)の監視団体であるQuackwatchのMultiple Chemical Sensitivity:A Spurious Diagnosis(多発化学物質過敏症 疑わしい診断)
  23. ^ Andiné P, Rönnbäck L, Järvholm B. Successful use of a selective serotonin reuptake inhibitor in a patient with multiple chemical sensitivities. Acta Psychiatr Scand. 1997 Jul;96(1):82-3
  24. ^ Gibson PR, Elms AN, Ruding LA. Perceived treatment efficacy for conventional and alternative therapies reported by persons with multiple chemical sensitivity. Environ Health Perspect. 2003 Sep;111(12):1498-504
  25. ^ 幸野健,シックハウス症候群と化学物質過敏症の科学論,医薬の門巻3号 Page313-315(2007)
  26. ^ eic.or.jp

外部リンク[編集]

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