ラベンダー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
ラヴァンデュラ属
ラベンダー
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: シソ目 Lamiales
: シソ科 Lamiaceae
: ラヴァンデュラ属 Lavandula

39種。代表種は

  • L. angustifolia
  • L. × intermedia
  • L. latifolia
  • L. stoechas

ラベンダーlavender)は、シソ科の背丈の低い常緑樹ラヴァンデュラ属lavandula)の通称である。または、Lavandula angustifolia (通称:ラベンダー、コモン・ラベンダー、イングリッシュ・ラベンダー、真正ラベンダー、narrow-leaved lavender。以下「コモン・ラベンダー」)を指す。ラヴァンデュラ属は39種が知られ、コモン・ラベンダーの近縁種や交雑種もラベンダーと呼ばれることがあるため、ラベンダーの名で販売される苗や精油がコモン・ラベンダーのものとは限らない[1]

属名の Lavandula は、「洗う」という意味のラテン語lavoやlavareに由来するといわれる。古代ローマ人達は浴用香料として、疲労や硬直した関節を和らげるために利用したという[2]

概説[編集]

ラヴァンデュラ属は、ピンク色の花を咲かせる様々な品種がある。中でも紫色の花が最もポピュラーである。花、葉、茎は細かい毛でおおわれており、その間に精油を出す腺がある[3]。伝統的にハーブとして薬用され、芳香植物としてその香りが活用されてきた。コモン・ラベンダーなどの精油は香料として用いられたり、医療やリラクセーションに利用されている。さまざまな品種があり、園芸用としても愛好されている。

ちなみに、ラベンダー色とは薄紫色を意味する。

主な種[編集]

コモン・ラベンダー

ヨーロッパ各地で盛んに品種改良が行われたことや、交雑種を生じやすい性質のために、品種名や学名はかなり混乱している。また植物学上の分類では同一品種であっても、産地により抽出される精油の成分組成や香り、生物活性(効能)が異なる事から、生産地名を加えて区分しているものもある。現在日本で見られるものは、イングリッシュ系、フレンチ系、ラバンジン系、その他に大別される[4]

  • イングリッシュ系:6~7月に、ふつう紫色の花を穂状にたくさん咲かせる。ギリシャ・ローマ時代からその芳香が活用された。日本の夏の高温多湿に弱い[1]
  • フレンチ系:霜や寒さに弱い品種が多いが、暑さには比較的強い。昔から薬用に使われてきた[1]。カンファー様の清涼感ある香り。イングリッシュ系より開花期が早い[4]
    • フレンチ・ラベンダー、スパニッシュ・ラベンダー(英:French lavender、Spanish lavender、学名:Lavandula stoechas
    • デンタータ・ラベンダー、フリンジド・ラベンダー、切葉ラベンダー(英:Topped lavender、学名:Lavandula dentata
  • ラバンジン系:Lavandula angustifoliaとLavandula latifoliaの交雑種。日本でも育てやすく、関東地方以西の気候に合う[1]
    • ラバンジン(英:Lavandin、Dutch lavender、学名:Lavandula x intermedia
  • その他
    • ファーン・ラベンダー、レース・ラベンダー、ムルチフィダ・ラベンダー(英:Fernleaf lavender、Egyptian lavender、学名:Lavandula multifida):プテロストエカス系

他多数の品種がある。

産地[編集]

原産地[編集]

コモン・ラベンダーの原産地は、地中海沿岸の海抜1000メートル以上の高地とされる[4]

栽培地[編集]

高温多湿は苦手であり、西岸海洋性気候亜寒帯湿潤気候の地域で多く栽培されている。

フランス、プロヴァンス、ソー村のラベンダー畑

世界的に有名なのはフランスプロヴァンスで、ラベンダー畑が多数あり、特にソー (ヴォクリューズ県)フランス語版(Sault[5])という村が有名で、ラヴェンダー農家が多数いて広大なラベンダー畑がいくつも広がる。ソー村の様々なラヴェンダー製品がフランス国内、ヨーロッパ、世界各地に届けられている。ソーでは毎年夏に1日ラベンダー祭が催され、ラベンダーを用いた様々な製品が通りに並び、普段は3000人ほどしか住民がいない村に2万人ほどの観光客が世界各地から訪れる。

北海道、中富良野町のラベンダー畑

日本では北海道富良野地方のラベンダー畑が全国的に有名であり、上富良野町中富良野町ニセコ町のシンボルとしても指定される。栽培発祥地は、札幌市南区南沢であり、1942年に栽培が開始された。札幌市では、幌見峠頂上(宮の森地区)にあるラベンダー畑が有名であるが、規模は小さい。他にも、南沢にある東海大学札幌キャンパスでは、2002年よりラベンダーキャンパス化計画として栽培開始される。

利用[編集]

ラベンダーを使ったカップケーキ
乾燥させたラベンダーを束ねたもの。防虫に用いる。

ラヴァンデュラ属は、ポプリの材料、ハーブティー、料理の風味付け、化粧水などの美容、観賞用(鉢植え)等々に利用されてきた。また古くから、多くの薬効を持つハーブとして利用された。ラベンダーの芳香成分をアルコールに溶かしたラベンダー水は、ローズマリー水(ハンガリーウォーター)と共に、最古のアルコールベースの香水のひとつとされる[6]

古代ギリシャ・ローマでは、スパイク・ラベンダーなど地中海地方に自生するいくつかの品種が活用されたが、それらはほとんど区別されることはなかった。コモン・ラベンダーを初めて他と区別したのは、中世の修道女ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(ユリウス暦1098年 - 1179年)である。スパイク・ラベンダーは、最も高価な香料のひとつである甘松香英語版(スパイクナード)と混同され、重用された。ラベンダーの花は非常に高価で、古代ローマのプリニウスの時代には1ポンド当たり100デナリという高額であり、中世になっても貴重なものであった[2]

フランスなどでは、乾燥させた花を小さな布袋に入れた一種のサシェ(香り袋、匂い袋)があり、それを洋服箪笥に入れたり、ワードローブの中に下げておいたりして、香りを衣類に移したり防虫剤として利用する。あるいはサシェをベッドの枕の近くなどに置いて寝室に漂わせたり、枕のつめものの一部としてラベンダーを混ぜておいて、枕に頭を置くだけで中身が自然と揉まれて香りが漂うこと楽しむ。

花や葉は食用され、食欲増進のハーブとして料理の風味付けに用いられた。エリザベス1世はラベンダーのジャムを好み、砂糖漬けを肉料理やフルーツ・サラダの薬味として、菓子や頭痛薬として食した[2]チャールズ1世の妃ヘンリエッタ・マリアは、ラベンダーの花を刻んで粉砂糖と混ぜ、ローズウォーターでペースト状に練った砂糖菓子が大好物で、これをビスケットなどに塗って食べていたという[要出典]

現代では、コモン・ラベンダーやラバンジンの精油は、香料やアロマセラピーに用いられる。精油は、先端部分および花から、水蒸気蒸留で抽出される。ヨーロッパ薬局方には、コモン・ラベンダーの精油が収録されている。溶剤抽出法によるラベンダー・アブソリュートもある[7]。同じコモン・ラベンダーを用いても、抽出に用いる部位によって、精油の成分は大きく異なる。ラバンジンはコモン・ラベンダーより多くの精油を採ることができ、価格が安いため広く流通しているが、ラバンジンをコモン・ラベンダーとして販売する業者も存在する。ラバンジン油は、多少カンファー臭があり、コモン・ラベンダー油英語版とは成分組成も異なる[7]

効能[編集]

ラヴァンデュラ属は、ハーブの一種として用いられ、様々な効能が期待されている。古くから多くの病気に対する万能薬として利用されており[2]鎮痛や精神安定・防虫殺菌などに効果があるとされる[8]。しかし、種によって成分組成は異なり、香りだけでなく薬効も異なる。

揮発性の油であるコモン・ラベンダー油には、コモン・ラベンダーの水溶性成分などは含まれないため、ハーブとしての効能をそのまま精油に用いることはできない[9]。コモン・ラベンダーの精油はアロマテラピーでもっとも使われるもののひとつで、様々な効能があるといわれている。一般に言われるコモン・ラベンダー精油の効能には、近世のハーブ療法家・ニコラス・カルペパー英語版(1616 – 1654)がチンキやティーの形で治療に用いたスパイク・ラベンダーの効能が誤って引用されたものが少なくない。例えばスパイク・ラベンダーの水溶性成分には鎮痙作用があるが、これがコモン・ラベンダー精油の効能として転用されており、情報が混乱していることがわかる[7]

コモン・ラベンダーや交雑種などラヴァンデュラ属の精油は、皮膚への感作性[10]を除けば、比較的安全性の高い精油である。ただし、精油や精油を用いた化粧品による接触性皮膚炎アレルギー反応の報告があり、日本人のラベンダー精油の陽性率(パッチテストによる)は、1997年に劇的に増加している。これは、近年のアロマブームの影響だと考えられている。ラバンジン精油で偽和(合成成分の添加など)が横行しており、これが広く利用された影響で、ラヴァンデュラ属の精油に対する感作が上昇しているようである[7]

芳香成分[編集]

ラベンダー色[編集]

BYR color wheel.svg この項目ではを扱っています。
閲覧環境によっては、色が適切に表示されていない場合があります。

HTMLカラーコード[編集]

  • HTML のカラーコードでは、#DFA0D2 の色指定で lavender を表現できる。

    lavender

  • また、#FFF0F5 の色指定で lavenderblush を表現できる。

    lavenderblush

シンボリズム[編集]

ラベンダー色は同性愛者を象徴する色でもある。ピンク・トライアングルを参照。

日本人とラベンダー[編集]

昔から、フランスを旅したり滞在したことのある日本人はラベンダーのことを知っていた。フランスではラベンダーの香り袋やラベンダーオイルを用いた製品が頻繁に見られるからである。が、日本がまだあまり豊かでなかった時代、1960年代まではヨーロッパを旅する機会のない日本の一般大衆はラベンダーのことをほとんど知らなかった。

筒井康隆の小説『時をかける少女』やその映像化作品である『タイム・トラベラー』および1983年の原田知世主演・大林宣彦監督の映画『時をかける少女』に、物語の鍵となるものとして登場したことで、それらの作品(特に1983年の映画)』に接した人は、海外経験がなくても、その名前と香りに特徴がある点を知った[11]

一方で日本が経済的に豊かになるにつれ海外旅行をする人が増え、ヨーロッパでラベンダー関連製品の香りを自身で体験し、興味を持つ人が増えた。一度嗅ぐと忘れられないような香りだからである。また、北海道でも栽培がおこなわれるようになったことで、さらに知られるようになり、北海道中富良野のファームがラベンダー製品を出荷するだけでなく畑を観光資源として活用し夏の北海道旅行で立ち寄る場所の一種の「定番」とさせたことで、非常に多くの日本人が親しむようになった。

出典[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ a b c d 日本放送出版協会 編集 『ハーブ&野菜 NHK趣味の園芸 新園芸相談』 日本放送出版協会、1992年
  2. ^ a b c d A.W.ハットフィールド 著 『ハーブのたのしみ』 山中雅也・山形悦子 訳、八坂書房、1993年
  3. ^ レスリー・ブレムネス 著 『ハーブ事典 ハーブを知りつくすA to Z』 樋口あやこ 訳、文化出版社、1999年
  4. ^ a b c 萩尾エリ子 『ハーブ―シンプル&ナチュラル』 池田書店、1998年
  5. ^ フランス語ではauは「オ」と発音する。この地名では「l」「t」は読まない。
  6. ^ 諸江辰男 著 『香りの来た道』 光風社出版、1986年
  7. ^ a b c d マリア・リス・バルチン 著 『アロマセラピーサイエンス』 田邉和子 松村康生 監訳、フレグランスジャーナル社、2011年
  8. ^ Salvatore Battaglia著 The Complete Guide to Aromatherapy 2nd ed. 218ページ 出版:The International Centre of Holistic Aromatherapy
  9. ^ チンキには水溶性・脂溶性成分が、ティーには水溶性成分が含まれる。精油に水溶性成分は含まれない。
  10. ^ 生体を抗原に対して感じやすい状態にすること。
  11. ^ 〔社説・春秋〕 いまでも熱心なファンが多い。薄暗い実験室。”. 日本経済新聞 (2014年7月16日). 2014年10月27日閲覧。

関連項目[編集]


外部リンク[編集]