指圧

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指圧(しあつ)とは、疾病の予防並びに治療を目的に、母指を中心として四指並びに手掌のみを使用し、全身に定められたツボと呼ばれる指圧点を押圧しその圧反射により生体機能に作用させ、本来人間の身体に備わっている自然治癒力の働きを促進させると謳っている日本独特の民間療法手技療法である。

概要[編集]

指圧の定義は、昭和32年(1957年)12月、当時の厚生省(現厚生労働省医務局医事課より発行された『指圧の理論と実技』という教本の中に明記されており、その全文は次の通りである。

指圧法とは、徒手で母指、手掌等を用い体表の一定部位を押圧して生体の変調を矯正し、健康の維持増進をはかり、または特定の疾病治癒に寄与する施術である

また、カナダ指圧協会Canadian Shiatsu Societyによるその英訳文は以下の通りである。

Shiatsu technique refers to the use of fingers and the palm of one's hands to apply pressure to particular sections on the surface of the body for the purpose of correcting the imbalances of the body, and for maintaining and promoting health. It is also a method contributing to the healing of specific illnesses.

欧米では代替医療に分類される。

エビデンス[編集]

指圧は何らかの疾患の治療に有効であるという科学的エビデンスは存在しない。[1][2]

2006年、英国en:Thames Valley Universityの指圧協会にて大規模なシステマティックレビューが実施された。[3] レビューでは、研究では一般的にコントロールや盲検法が欠けており、指圧についてエビデンスは量的質的に不十分である(insufficient)ことが分かった。

関連法規[編集]

日本では、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律昭和22年12月20日公布)において、あん摩マッサージ指圧師免許もしくは医師免許(共に国家資格)がなければ指圧業として行う事は出来ない、又は金銭、金品の授受がなくとも継続的に行うことは出来ず、刑事罰対象及び法律違反になる、違反者は50万円以下の罰金である。

広告などで指圧と表記する際には一定の注意が必要である。施術を受けようとする消費者が国家資格保持者とそれ以外の者(いわゆる無資格者・民間資格者)とを混同しないためである。この問題に関しては保健所が窓口となっている。ちなみに、無資格者による指圧業については近年、厚生労働省や国会でもあん摩マッサージ指圧師法の改正に向けた準備の質疑応答や議論がなされている。

足つぼマッサージ[編集]

名称はマッサージであるが、その手技は明確に「指圧」そのものである。一般人が理解しやすい名称としてよく使われている。例としては中国式足つぼや台湾式足つぼや英国式リフレクソロジー等である。

歴史[編集]

指圧の原点は手当てにはじまる。日本では、有史以来様々な手当て即ち手技療法が営まれてきた。明治以降になりアメリカの3大手技と呼ばれるカイロプラクティックオステオパシースポンジロセラピーが次々に流入し、日本に古来から伝わる様々な手技に加え、伝統中国医学が伝来した按摩や導引按蹻、活法なども融合された結果、一時は300種以上の多種多様な手技が療術として混在していたが、大正9年(1920年)頃には既に現在の指圧療法の原型となる指圧が浪越徳治郎によって確立されていたとされている。太平洋戦争の敗戦後、連合国軍最高司令官総司令部の指導によりほとんどの療術が禁止されたが、昭和30年(1955年)8月に「あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法」のあん摩があん摩(マッサージ、指圧を含む)と変更され、指圧が法律上で初めて認められた。しかしながらその法律の名称があくまで独立した手技として認められていなかったため、「指圧はあんまに非ず」のスローガンの下、日本指圧協会、東京指圧師会などの指圧師団体が立ち上がり、昭和39年(1964年)6月、遂に「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師等に関する法律」と並立名称に変更された(昭和45年(1970年)に柔道整復師法が単独法になったためあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律となる)。

はじめて指圧という名称そのものが使われた年代については多少の異説はあるものの、現在の指圧療法を体系付け確立したのは昭和15年に現在の日本指圧専門学校浪越学園の前身である指圧学院を設立した浪越徳治郎である。浪越徳治郎は、わずか7歳の時に多発性関節リウマチで苦しむ母を救いたい一心から、母指と手掌による押圧中心の手技を独自に会得し、最初は圧迫療法、後に指圧療法と名付けた。その後マリリン・モンローモハメド・アリ吉田茂首相をはじめとした歴代の総理大臣A級戦犯を裁いた東京裁判ジョセフ・キーナン首席検事など、国内外の著名人を治療したことにより、日本はもとより全世界に指圧(SHIATSU)を普及させた。また、彼の設立した日本指圧専門学校は、中国伝来の経絡理論を初めて指圧に取り入れて経絡指圧を確立した井沢正をはじめ、海外では禅指圧(Zen Shiatsu)と呼ばれて欧米を中心に普及している増永式の増永静人、念仏を取り入れて精神統一を図るタオ指圧(Tao Shiatsu)の遠藤喨及、指圧のツボを経絡経穴に当てはめ解剖学生理学的に解明したツボ指圧(TSUBO SHIATSU)Tsubo Shiatsu池永清など国の内外で活躍する多くの卒業生が輩出している。
現在、指圧は英語名でもそのままSHIATSUと訳され、日本の独特の手技療法として世界中に普及しつつある。

指圧の格言[編集]

浪越徳次郎は指圧について語っている。「指圧の心は母心」押せば命の泉湧くと評価している。

指圧の神髄[編集]

指圧の特色は、指と手掌のみを使って施術するところにあり、その神髄は診断即治療といわれている。これは、優れた感覚器である手掌と親指を使って施術することにより、体表のコリの位置や状態からその症状を見極めそのまま治療につながるという意味で、指圧療法独自の妙味とされる。つまり、指圧療法が、現代医学東洋医学即ち鍼灸漢方生薬の中国医療と決定的に違うのは、この診断即治療の神髄により事前の診断がなくとも手指のみによる施術によって症状の緩和が期待出来る処にある。

原則[編集]

押圧する際の原則として垂直の原則、持続の原則、集中の原則がある。

  • 垂直の原則

皮膚面に対して垂直に加圧していくことで皮膚面を擦過することによる圧痛をださず、無駄な力の分散を防ぐ。

  • 持続の原則

一定強度に押圧した圧を緩めずにそのまま一定時間持続する。押圧の持続により圧が深部まで届き、圧の持続時間により興奮目的や鎮静目的など目的を変化させることが出来る。

  • 集中の原則

術者が精神を集中させて行う。それにより不注意による事故を防ぐ。また、患者の意識や状態を集中して感じ取ることで適切な治療を行うことが出来る。

作用効果[編集]

指圧することに帰結される効用として、指圧による刺激によって、皮膚機能の活発化、筋組織の柔軟化、体液循環の促進、内分泌の調節、骨格の矯正、消化器系の正常化などの効果が起こるとされている。しかし、これらの効用がどのような作用によって実際に上記であげたような効用を発生するのかは未解明な部分が多い。

サイモン・シンの見解[編集]

ジャーナリストサイモン・シンは、指圧には他のマッサージと同じように患者にリラックスをもたらしてくれるが原因があきらかな疾病の治療を保障するものではない、とし、患者の骨の強度も個々により異なり、中高年で骨粗鬆症に罹患している患者が施術により骨折するなどの事例が出ている、と言う。他に、首や頭部への指圧マッサージが原因の網膜と大脳の塞栓症の報告も存在する。

シンによれば、指圧師は患者に対し、ある一定の期間を設けて複数回の通院を勧めるが、施術を受けて次の通院までに日数がある場合に症状が緩和する場合が多々ある。指圧師から適度な休憩と生活の改善を患者に対し助言し、それを実行した場合は症状がさらに改善するという。これは自然治癒が原因によるものだとし、指圧による治療は疾病に対する直接的な治療効果は全く無いか、殆ど無いのどちらかだ、と著書で述べている[4]

また彼は「生命への重篤な危険は無いが症状に改善がみられない場合、できるだけ早い段階での通常医療への切り替えが望ましい」と主張した。

出典[編集]

  1. ^ Shiatsu : Cancer Research UK : CancerHelp UK” (2011年1月4日). 2011年1月4日閲覧。
  2. ^ Ernst & Singh (2008). Trick or Treatment? Alternative Medicine on Trial. p. 326. 
  3. ^ Robinson, N., Donaldson, J. and Lorenc, A. (2006). Shiatsu: A Review of Evidence. London: Thames Valley University http://www.shiatsusociety.org/public/downloads_public/Shiatsu%20Systematic%20Evidence%20Review%20Complete.pdf
  4. ^ サイモン・シン『代替医療のトリック』新潮社

参考文献・参考資料[編集]

関連項目[編集]

性質
資格
異なるもの