古エッダ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

古エッダを今に伝える写本の一つ『AM 748 I 4to』。
古エッダを今に伝える写本の一つ『AM 748 I 4to』。

古エッダこエッダen:Elder Edda)とは、9世紀から13世紀にかけて作られたとされている、古ノルド語で書かれた歌謡集(群)である。主に北欧神話北欧英雄伝説について語っている。一般に「古エッダ」と呼ばれているものは『王の写本』をその大本としている。

本来「エッダ」とはスノッリ・ストゥルルソンの『エッダ』(スノッリのエッダ、新エッダ)のことを指していたが、その中で言及されている古い詩の形式や、後に再発見されたそのような形式の詩を指す言葉としても用いられるようになったため、この2つを特に区別するために「古エッダ」と呼ばれるようになった。

『エッダ』が「散文のエッダ」と呼ばれるのに対して、古エッダは「詩のエッダ」「韻文のエッダ」(Ljóðaedda, en:Poetic Edda) と呼ばれることもある。また下記の経緯により「セームンドのエッダ」(Sæmundaredda) と呼ばれていたこともある。

目次

[編集] 王の写本

現存する最古の「古エッダ」の写本は、1643年アイスランドスカールホルト司教ブリュニョールヴル・スヴェインスソン (Brynjólfur Sveinsson) によって発見されたものである。この写本は1662年に彼により時のデンマーク王に贈られ、コペンハーゲンデンマーク王立図書館英語版)に所蔵されたため、『王の写本』と呼ばれている。写本は1971年にアイスランドへ返還された。

この『王の写本』には、スノッリの『エッダ』に引用という形で残されていた詩や、北欧神話を物語る詩が数多く含まれており、スノッリが自身の『エッダ』を著す際にその元とした本であろうと考えられ、「古エッダ」と呼ばれるようになった。しかし現在では、実際は『エッダ』より遅く1270年頃に編纂されたものではないかと考えられている。

古エッダは、ブリュニョールヴルがこれを12世紀の僧セームンドル・シグフースソンSæmundr Sigfússon fróði、博識なセームンドルとも)の作だと考えていたことに倣い、また『スノッリのエッダ』に対応して、「セームンドルのエッダ」と呼ばれていたこともあった。しかし、このセームンドルが「古エッダ」の作者であるという説は、現在では否定されている[1]

スウェーデンの学者グスタヴ・リンドブラド (Gustav Lindblad) は、この『王の写本』収録のエッダ詩が実は注意深く配列されているものであることを指摘し、また各詩の導入部に置かれている散文は『王の写本』の編者が詩の内容に注意を払っていたことを示唆し、収録されている詩群は1200年頃から集められ始められたのではないかという仮説を唱えた[2]

[編集] エッダ詩

古エッダに収録されているような形式の詩をエッダ詩古ノルド語: Eddukvæði)という。エッダ詩では通常古譚律fornyrðislag フォルニルジスラグ、古韻律、語り韻律)と歌謡律ljóðaháttr リョーザハーットル、唱え韻律)が用いられ、また稀に談話律en:málaháttr マーラハーットル)が用いられる。古韻律では詩は8行(2つの短行が4組)からなり、各組の2短行はそれぞれ頭韻で結ばれる。また各行は4か5の音節を持ち、そのうち2音節に強勢が置かれる。歌謡律では詩は6行(古韻律の2組目と4組目がそれぞれ1つの短行に変わる)からなり、同じく頭韻が置かれる。ケニングも用いられるが、通常スカルド詩ほど多くは用いられず、また複雑でもない。

またスカルド詩とは対照的に、エッダ詩はほとんどが作者不詳のものである。

単に古代北欧の詩のうちスカルド詩ではないものを総称してエッダ詩と呼んでいることもある。

[編集] 小エッダ

AM 748 I 4to』『フラート島本』といった写本や、『ヘルヴォルとヘイズレク王のサガ』『勇士殺しのアースムンドのサガ』といったサガなど、『王の写本』以外の文献の中に残されていたエッダ詩は「小エッダ」(Edda Minora エッダ・ミノラ)と呼ばれ、編者によっては古エッダに含めることがある[3]。この名前は、ホイスラー (Andreas Heusler) とラーニッシュ (Wilhelm Ranisch) によって1903年に編纂された書籍『Eddica minora』に由来する[4]

[編集] 古エッダの一覧

ルーンを刻むオージン。1893年にスウェーデンで出版された Fredrik Sander 版『詩のエッダ』の挿絵より。
ルーンを刻むオージン1893年スウェーデンで出版された Fredrik Sander 版『詩のエッダ』の挿絵より。

エッダ詩は主に神話詩 (Goðakvæði) と英雄詩 (Hetjukvæði) に分別され、さらに『王の写本』収録の英雄詩はヘルギに関するものとニブルングに関するものに分けられることもある。

[編集] 王の写本

[編集] 神話詩

[編集] 英雄詩

ヘルギの艦隊。Fredrik Sander 版『詩のエッダ』より。
ヘルギの艦隊。Fredrik Sander 版『詩のエッダ』より。
シグルズル。Fredrik Sander 版『詩のエッダ』より。
シグルズル。Fredrik Sander 版『詩のエッダ』より。

[編集] 小エッダ

リーグルと名乗って人間界を訪れるヘイムダッル。Fredrik Sander 版『詩のエッダ』より。
リーグルと名乗って人間界を訪れるヘイムダッル。Fredrik Sander 版『詩のエッダ』より。

以下の5篇の詩は、通例古エッダに含まれて語られる。

また、以下のような「古き時代のサガ」(fornaldarssögur) などに残されていた詩も、古エッダに含まれることがある。

[編集] 脚注

[ヘルプ]
  1. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p. 285
  2. ^ 「エッダ詩」p.122
  3. ^ 「原典資料」p.108
  4. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.286 および「エッダ詩」pp.130-131

[編集] 参考文献

  • 『エッダ 古代北欧歌謡集』 V. G. ネッケル他、谷口幸男訳、新潮社、1973年。ISBN 4-10-313701-0
  • ジョン・マッキネル(伊藤盡訳) (2007年 10月). “原典資料”. ユリイカ 第39巻 (第12号): pp.107-120.
  • テリー・グンネル(伊藤盡訳) (2007年 10月). “エッダ詩”. ユリイカ 第39巻 (第12号): pp.121-137.
  • 森信嘉 『スカルド詩人のサガ コルマクのサガ/ハルフレズのサガ』 東海大学出版会、2005年。ISBN 978-4486016960
  • ペーテル・ハルベリ 『北欧の文学 古代・中世編』 岡崎晋訳、鷹書房、1990年。ISBN 978-4803403732

[編集] 日本語訳

  • 『エッダ 古代北欧歌謡集』 V. G. ネッケル他、谷口幸男訳、新潮社、1973年。ISBN 4-10-313701-0 - 『王の写本』収録の全てのエッダ詩と、その他6篇のエッダ詩を収録している。
  • 『エッダ グレティルのサガ』 松谷健二訳、筑摩書房〈中世文学集 3〉、1986年。ISBN 978-4480020772 - 古エッダの抄録。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

ウィキソース
ウィキソース古エッダの英語訳があります。