ミーミル

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19世紀の『詩のエッダ』の翻訳本の挿絵より。オーディンが斬首されたミーミルの胴を見つける。

ミーミル古ノルド語: Mímirミミルミーミ)は、北欧神話オーディンの相談役となった賢者。オーディンの伯父にあたる[1]巨人といわれている。

神話[編集]

スノッリ・ストゥルルソンが書いた『ユングリング家のサガ』によると、アース神族ヴァン神族との戦争が終わり和睦した際、アース側からの人質としてヘーニルとともにヴァナヘイムへ送られた。ヴァン神族はヘーニルを首領にしたが、彼が期待したような人物でないことが判明すると、ミーミルの首を切断してアース神族の元へ送り返した[2]

その後、オーディンが首が腐敗することのないように薬草を擦り込み[3]、魔法の力で生き返らせ、大切なことは必ずこの首に相談したと伝えられている[2]ラグナロクが到来した際も、オーディンは真っ先に首の助言を仰いだ[4][5]

スノッリのエッダ』の『ギュルヴィたぶらかし』15章で、彼が非常に賢いのは、彼が守っているミーミルの泉の水をギャラルホルンで飲んだためだといわれている。ミーミルは水を飲む代償としてオーディンの眼球を抵当に入れるよう求めた[6]

ミーミルは霜の巨人と考えられるが、研究者によって(あるいは詩を書いた人によって)は、ミーミルは水にまつわる自然現象の象徴でありいわば「水の巨人」であって、彼が守っているミーミルの泉から首だけを突き出していたと解釈する人もいる[7]

またシーグルズル・ノルダルは、オーディンが縊死者に質問をすると生前は特別賢かったわけではない彼らがさまざまな消息を話したという伝説があること、アイスランドには死んだばかりの男性や子供の頭がさまざまな消息を知っているという伝説があることなどから、これらがミーミルの斬首と結びついて、現在知られているような「ミーミルの首」の物語となったと推測している[7]

ミミング[編集]

サクソ・グラマティクスが著した歴史書『デンマーク人の事績』には、森の神(サテュロス[注釈 1])のミミング[9](ミミングス[10]とも。Miming)が登場する[11]山室静はこのミミングをミミルではないかと考えている[12]。ミミングは唯一バルデルス(バルドル)を倒せる剣を守っていた。また手に入れた者に富をもたらす腕輪[注釈 2]も所有していた。あるとき、バルデルスを倒す決意をしたホテルス(ヘズ)が、乳兄妹のナンナの父ゲヴァルスに教えられ、その剣を求めてミミングの元を訪れた。ミミングはホテルスに捕らえられ、剣と腕輪を奪われた[11]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 菅原邦城によれば、北欧ではドヴェルグにあたる[8]
  2. ^ 谷口幸男は、ミミングのこの腕輪と、バルドルの持つ、同じ重さの腕輪を生み出す腕輪ドラウプニルとの類似を指摘している[13]

出典[編集]

  1. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.21。
  2. ^ a b 『北欧の神話』pp.27-28。
  3. ^ 菅原、p.53。
  4. ^ 『北欧の神話』p.202。
  5. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.276。
  6. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.236。
  7. ^ a b 『巫女の予言 エッダ詩校訂本』pp.223-227。
  8. ^ 菅原、p212。
  9. ^ 『デンマーク人の事績』で確認した日本語表記。
  10. ^ 『北欧神話』(菅原)で確認した日本語表記。
  11. ^ a b 『デンマーク人の事績』pp.96-97(第三の書)。
  12. ^ 『北欧の神話』p.142。
  13. ^ 『デンマーク人の事績』p.427(訳注「第三の書」(3))。

参考文献[編集]

関連項目[編集]